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第十五章 伝説の誕生

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 邪神と対峙した状況の中刹那が話した「一発で倒せる」という言葉の意味を聞こうと、彼女へと皆の視線は集まっていた。

【神子死ぬがいい!!】

「皆さん、邪神が仕掛けてきますよ」

「っ。神子様下がって」

「きゃ」

その時、しびれを切らしたのか様子を窺っていた邪神が再び赤黒い雷を降らせる。それにいち早く気づいた文彦が切羽詰まった声をあげた。

雷は狂うことなく神子目がけて飛んでくる。その様子に弥三郎が神子をかばうように押しのけた。衝撃により体勢を崩した彼女がよろけたところを誰かが受け止め支えてくれる。

「っ……間に合わない」

龍樹が結界を張ろうとするも間に合いそうもなく切羽詰まった顔をして呟く。その間無情にも弥三郎目がけて雷が落ちていった。

『……邪神君の思い通りになんかさせないって言ったでしょ』

「刹那さん?」

緑の煌きに弾かれ掻き消えた雷の様子に皆が驚く中、神子を抱き留めた体制のままの刹那が淡泊に話す。しかしその様子が先ほどまでと違い神子は不思議に思い彼女の顔を見詰めた。

『神子、レイ、信乃、優人。邪神を倒すには君達の力を一つにまとめて黄金に輝く弓矢を出現させればいいって言ったのを覚えてる?』

「はい。覚えておりますよ。ですが肝心なやり方はまだ教えてもらっておりません」

彼女の言葉に優人が返事をするといまこそ教えてもらえるんですよねといった顔で見やる。

『神子、右手を前に出して矢の姿を思い浮かべながら祈るんだ』

「は、はい……」

刹那が彼女から離れると指示を出す。それに返事をすると右手を突き出し矢の姿を思い浮かべながら目を閉じて祈る。

『信乃、レイ、優人、神子の手に重ねるように君達の手を乗せて。そして祈りを込めて神子に力を送るんだ』

「はい」

「分かった」

「分かりました」

次に信乃達へと指示を出すと彼女等は返事をして右手を神子の手の上へと乗せて目を閉ざし祈りを捧げる。

『……時を紡ぎ、時をつづる者よ。その力を神子に与えん。光よ集え……』

「「「「!?」」」」

刹那が呪文を唱えると緑色の煌きが現れ神子の右手の空間へと集結する。すると金と青と白と黄色の光が呼応するかのように渦を巻き始めそれは一本の光輝く黄金の矢へと変わった。目を閉じていても感じる光に4人が驚いて目を開けるとそれを見て更に驚愕する。

「すげえ……これが4人の……いや5人の力」

「神子さんすげえよ。やっぱりあんたはただの村娘なんかじゃない。ほんとにこの世界を救う神子さんだ」

伸介が驚きすぎて呆けた顔をしながら呟く。喜一も目を白黒させながら言うと神子を見詰める。

「刹那さんの言葉に皆さんの力が反応したように感じたのは気のせいでしょうか?」

「いいや、気のせいなんかじゃない。オレもそう見えた」

文彦が今見た光景が幻だったのではないかと思い誰にともなく尋ねた。それに亜人が自分も同じだと話す。

「それで、この矢をどうするのだ」

「そうだよ。この矢を打ち込むにしても結界がはられてるんじゃ通らないんじゃないの」

隼人のもっともな質問に弥三郎もそう問いかける。

「大丈夫、この矢なら結界なんて簡単に打ち砕けるさ」

「だが、いくら5人の力で強化された矢だとしても邪神の力を打ち砕くほどの力があるとは思えない」

「ぼくも栄人と同じ意見かな。力をつけた邪神の張った結界は神様である紅葉や蒼の力でさえ打ち砕くのに時間がかかった。それなのにこの矢だけで打ち砕けるとは思えない」

不敵に笑い大丈夫だと話す刹那に栄人と真人が思った事を伝えた。

『信託を受けし神子の揺るぎない決意と白銀の聖女の全てを包み込む優しさ、光の女神の誰にも負けない力強さと腕輪を継承せし者の説き力。そこに時の使者である僕の世界を紡ぎ世界を渡る者の力を合わせたんだ。暗き底なしの闇はたっとき栄光の光の前には敵わない。闇は光に包まれそしてかき消されることだろう。神子、その矢をつがえて邪神の心臓を射貫くんだ』

「はい」

刹那が説明を終えると神子を見て最後の指示を出す。それに彼女は力強い口調で答え矢をつがえ弓を絞る。

「……」

【貴様等の思い通りに等させるかぁああっ!!】

狙いを定める神子の様子に邪神がうなり最大の力で突っ込んできた。

「邪神は俺達が食い止める」

「神子様はその間に奴の心臓を狙え」

伸介が言うと神子の前に立ち構える。隼人も言うと刀を握り直して邪神を睨み付けた。

「神子様の邪魔なんかさせないよ」

「貴様の攻撃は全てこのオレ達が受け止める」

弥三郎と亜人が頷き合うとそう宣言して伸介と隼人の横に並んだ。

「これは世界を救うための聖戦なんだ。邪神、あんたを倒して世界も神子さんもどっちも救う。俺がそう決めたしそうするんだ。つまり……足止めは俺の役目ってこと」

「神子様の邪魔はさせない。ここは俺に任せろ。奴の攻撃は全てこの俺が叩き切る」

喜一が真面目な顔をして宣言するとサイコロを取り出し邪神へと投げつける。肝心な場面で幸運にも半が出て相手が放った攻撃を打ち消すことに成功した。

栄人も彼を手助けするように横に並ぶと迫りくる攻撃全てを刀で切り裂いていく。

「私がなんで光の女神って呼ばれてるか知ってる? 私が放った白い雷が通った後は私一人しか立ってはいないからなのよ。光の女神のまたの名は光の戦姫っていうの。覚えてなくたっていいわよ。だってここであんたは死ぬんだからね!」

「俺の通り名を知ってるか。レイが光の女神なら俺はなんて呼ばれてると思う? そう、俺こその雷神。一度暴れ出したら止まらなくなる。相手を討ち取るまではな」

レインがにこりと笑い言うと武器を振りかぶり雷の力で相手の攻撃を跳ね返す。アシュベルもにやりと笑うと狂ったようにロングソードで斬り続け邪神を足止めする。

「おいおいお前等、気合十分なのは結構だが、怪我して動けなくなるなよ。って事で回復も大事。きのえ

「カラス天狗の力を見くびるな。炎よ吹き荒れて彼の敵を討て」

紅葉がちょっと待てと言った感じで言うと怪我をするのも構わず邪神の進行を食い止める皆の傷を回復させた。そこに神経を集中させて呪文を唱えていた蒼の攻撃が邪神を飲み込むように吹き荒れる。

「皆さん。大丈夫ですか? この薬を使ってください」

文彦も誰かが怪我をするたびに薬箱を持って駆け寄り手当てをしてまわった。

「私も、皆の助けになるの。つちのえ

「お願いです、邪神の進行を食い止めて下さい」

「我が力よ白き光となりて降りそそげ」

信乃が唱えると皆の足元から五芒星が現れ見えない結界の力で防御力が上昇する。そこに腕輪に祈りをささげた優人の言葉に呼応するように七色の光が邪神へと向けて放たれた。それにより奴はいったん動きを封じられ憎々し気に彼を睨み付ける。

それを好機ととらえた龍樹が光輝く柱を出現させ光の牢獄で奴を封じ込めた。

【おのれ……これで終わるものか。我の力を全て注ぎ込んで貴様等を消し去ってやる】

「ケイト、ケイコ。神子様の助けをするんだ」

「任せてよ。あれを打ち消せばいいんでしょ」

「そんなの簡単だわ。レベルアップしたワタシ達の力を見せつけてやりましょう」

封じ込められた邪神は最後の悪あがきの様に力を集結させて黒々とした暗雲を立ち込めさせる。

それを見た真人がケイトとケイコへと指示を出す。二人は答えるとにやりと笑い天高く飛びあがり暗雲を打ち消さん勢いで高速でパンチを繰りだした。

『ケイト、ケイコ。後は僕に任せて。……緑石よ、今こそ力を発揮せん』

二人が頑張ってくれたおかげで暗雲は小さくなったがまだ効果は消えていない様子。それを見た刹那が言うと胸元で光る緑の石に手を添えて囁く。するとそれに答えるように緑の煌きが放たれ暗雲がかき消された。

『神子、今だ』

「はい。皆がつないでくれたこの機会を絶対に逃したりしない。……光の矢よ邪神を射貫け。はっ!」

【ギァアアアッ】

刹那の言葉に神子は返事をすると彼女とは思えない鋭い目つきで矢を放つ。それは狂うことなく5色の煌きをまといながら光りの尾を残し邪神の心臓へと突き刺さる。

そこから全てをかき消すほどのまばゆい光が広がってゆき邪神は矢とともに消滅していった。

こうして邪神は神子に射貫かれこの世からいなくなった。邪神により長く続いた聖女伝説は幕を閉じ新たな聖女伝説がこの世界の歴史に刻まれたのである。
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