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ライゼン通りの雑貨屋さん3 ~雑貨屋の娘と訳ありのお客達~
一章 春の女神様と桜の小鉢
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花の香りに包まれたライゼン通り。雑貨屋の扉を開けて誰かお客がやって来た。
「いらっしゃいませ」
「ふふっ。可愛らしい雑貨が沢山ですね~」
笑顔で声をかけるベティーの前には春の香りをまとった一人の女性の姿があり、彼女は陽だまりのような微笑みを浮かべて店内を見る。
(どこかで見た顔のような気も……)
「あの~。私お皿を探しているんです」
「あ、はい。ではこちらは如何でしょうか?」
彼女が考え込んでいると女性に声をかけられ、ベティーは慌てて返事をした。
「少し店内を見させて頂いてもいいでしょうか~?」
「勿論です」
示した棚にあるお皿は探している物と違ったのか、女性がそう言ってくる。それに彼女は頷くと邪魔にならないよう店の端に移動した。
「あら、あら。どれも素敵ですね~。ふふ、こんなにも遠くの国のものまで」
「なんだかのんびりした人ね」
ゆっくりと動きじっくりと品物を見詰める様子に、ベティーは思ったことを呟く。
「あら、あら、あらら~。これはサクラの国の物ですね。ふふ、この小鉢は桜の形をしていてとっても可愛らしいです~」
「小鉢?」
棚に置いてあった桜の形の小鉢を手に取った女性の言葉に、彼女は何の事だといいたげに首をかしげる。
「小鉢はサクラの国ではどの家庭にも置いてあるとても小さなお皿の事です」
「そんな小さなお皿に入れる料理なんてあるの?」
女性の説明にベティーは不思議そうに尋ねた。
「ありますよ~。梅干しとか切り干し大根とか色々です」
「ウメボシ? キリボシダ? よく分からないけれど、サクラの国の料理かしら」
説明されてもよく分からなくて疑問符を浮かべながら彼女は尋ねる。
「ふふっ。そうですよ~。それではこれを頂いて行きます」
「はい、お会計はレジでお願いします」
小鉢を片手に微笑む女性の言葉にベティーは答えレジへと向かう。
「それでは、またお邪魔しますね~」
「あ、結局あの人の顔、何処で見たのか聞きそびれちゃったわ」
嬉しそうに店内を後にする女性の姿を見送りながら、彼女は独り言を零す。
その数日後、花祭りが盛大に開催されていた。
今日はパレードの日でライゼン通りもいつも以上に賑やかである。
「ベティーや。花祭りのパレードが始まるよ」
「今年もこれを見ないと始まらないものね。ふふ、今から楽しみ」
店先に出て行くジュディーの言葉に彼女は小さく笑いながら話す。
軽やかな音楽と共に妖精役の子どもが籠の中の花を撒きながら歩いてくる。
そうして中央には輿に乗った春の女神役の女性が微笑み、人々に花を渡していく。
「春の訪れを雑貨屋さんに」
「あっ!」
普段は通り過ぎるだけの女神が雑貨屋の前で花を差し出す。
その女性の顔にこの前小鉢を買った人と同一人物であると気付きベティーは驚く。
「有り難う御座います」
「有り難う御座います」
いつまでも受け取らない孫の様子にジュディーがそう言って花を手にする。
ベティーも慌てて後に続くようにお礼を述べた。
「どこかで会ったことがあると思っていたけれど、春の花の女神役のレイヤさんだったのね」
一人納得して微笑む。また春の女神様が雑貨屋に来てくれると良いなと思いながら、ベティーは通り過ぎていく輿を見送った。
「いらっしゃいませ」
「ふふっ。可愛らしい雑貨が沢山ですね~」
笑顔で声をかけるベティーの前には春の香りをまとった一人の女性の姿があり、彼女は陽だまりのような微笑みを浮かべて店内を見る。
(どこかで見た顔のような気も……)
「あの~。私お皿を探しているんです」
「あ、はい。ではこちらは如何でしょうか?」
彼女が考え込んでいると女性に声をかけられ、ベティーは慌てて返事をした。
「少し店内を見させて頂いてもいいでしょうか~?」
「勿論です」
示した棚にあるお皿は探している物と違ったのか、女性がそう言ってくる。それに彼女は頷くと邪魔にならないよう店の端に移動した。
「あら、あら。どれも素敵ですね~。ふふ、こんなにも遠くの国のものまで」
「なんだかのんびりした人ね」
ゆっくりと動きじっくりと品物を見詰める様子に、ベティーは思ったことを呟く。
「あら、あら、あらら~。これはサクラの国の物ですね。ふふ、この小鉢は桜の形をしていてとっても可愛らしいです~」
「小鉢?」
棚に置いてあった桜の形の小鉢を手に取った女性の言葉に、彼女は何の事だといいたげに首をかしげる。
「小鉢はサクラの国ではどの家庭にも置いてあるとても小さなお皿の事です」
「そんな小さなお皿に入れる料理なんてあるの?」
女性の説明にベティーは不思議そうに尋ねた。
「ありますよ~。梅干しとか切り干し大根とか色々です」
「ウメボシ? キリボシダ? よく分からないけれど、サクラの国の料理かしら」
説明されてもよく分からなくて疑問符を浮かべながら彼女は尋ねる。
「ふふっ。そうですよ~。それではこれを頂いて行きます」
「はい、お会計はレジでお願いします」
小鉢を片手に微笑む女性の言葉にベティーは答えレジへと向かう。
「それでは、またお邪魔しますね~」
「あ、結局あの人の顔、何処で見たのか聞きそびれちゃったわ」
嬉しそうに店内を後にする女性の姿を見送りながら、彼女は独り言を零す。
その数日後、花祭りが盛大に開催されていた。
今日はパレードの日でライゼン通りもいつも以上に賑やかである。
「ベティーや。花祭りのパレードが始まるよ」
「今年もこれを見ないと始まらないものね。ふふ、今から楽しみ」
店先に出て行くジュディーの言葉に彼女は小さく笑いながら話す。
軽やかな音楽と共に妖精役の子どもが籠の中の花を撒きながら歩いてくる。
そうして中央には輿に乗った春の女神役の女性が微笑み、人々に花を渡していく。
「春の訪れを雑貨屋さんに」
「あっ!」
普段は通り過ぎるだけの女神が雑貨屋の前で花を差し出す。
その女性の顔にこの前小鉢を買った人と同一人物であると気付きベティーは驚く。
「有り難う御座います」
「有り難う御座います」
いつまでも受け取らない孫の様子にジュディーがそう言って花を手にする。
ベティーも慌てて後に続くようにお礼を述べた。
「どこかで会ったことがあると思っていたけれど、春の花の女神役のレイヤさんだったのね」
一人納得して微笑む。また春の女神様が雑貨屋に来てくれると良いなと思いながら、ベティーは通り過ぎていく輿を見送った。
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