ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

水竜寺葵

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ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

七章 不思議なお店妖精堂書店

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 ある日の休日の事。ミラと遊んだ帰り道での出来事である。

「あ~。楽しかった!」

「ホントね。あら?」

ライゼン通りまで戻ってきた時に、隣を歩くミラが何かに気付き足を止めた。

「如何したの?」

「こんな所にこんなお店あったかしら?」

不思議そうに尋ねるベティーへと、彼女が一軒のお店を見詰めて尋ねる。

「え? あ。本当だ。何々本と雑貨の店妖精堂書店……何ですって!? 雑貨屋を名乗るなんてミラ、乗り込むわよ!」

「えぇ、そうね。新しくできたばかりなのかも。覗いてみましょう」

彼女の言葉に溜息交じりにミラが答えると、二人はキノコの形のお店の中へと入っていった。

「こんにちは……」

「ふん、外見だけでなく中身までも可愛く仕上げているじゃないの」

控え目に声をあげるミラの隣で、店内を品定めするように見回しながらベティーは呟く。

「いらっしゃいませ~。あれれ、ミラにベティーじゃないの。久しぶり! ちょっと会わないうちに幼くなった? もしかして若返りの薬でも飲んだの?」

「「?」」

カウンターの上から声が聞こえそちらを見ると、親指ほどの大きさの妖精の女の子が一人立っていた。しかし言われた言葉の意味が分からず二人して目を瞬く。

「あの、私達初めて会うのだけれど、どなたかとお間違えでは?」

「え? あ、そうっか。このお店いろんな次元に繫がっているから、過去にも未来にも現れるんだよなぁ」

躊躇いがちなミラの発言に、一瞬不思議そうにした妖精ではあったが、そう独り言を零す。

「「?」」

「何でもないよ。わたしはこの妖精堂書店の店長のしおりだよ♪ このお店はね、わたしが世界中を旅して集めた宝物を、皆さんにも御裾分けしたいなって思って始めたお店なの。ここに置いてある商品はぜ~んぶ、世界にたった一つだけの宝物だよ。今出会った宝物は今買わないと次に来た時にはなくなっているかも?」

不思議そうにする二人へと、しおりと名乗った妖精がお店の説明をする。

「そうなんだ」

「少し店内を見させてもらうわよ」

「どうぞ、どうぞ♪」

ミラが納得する横でいまだに「雑貨屋を名乗るなんて」と思いながらベティーは挑発的に話す。それを気にした様子もなくしおりが笑顔で答えた。

「何処の国の言葉か分からないけれど、面白そうな本が沢山あるわね」

「それに雑貨も沢山ね。どれどれ……あら、このガラスの小瓶に入ったキラキラ輝く砂は何?」

本棚に収められた書を見ながらミラが言うと、その隣で棚の上に並んだ小瓶を見詰めてベティーは話す。

「それはビーズだよ」

「ビーズ?」

妖精の言葉に彼女は何の事だといいたげに首を傾げた。

「キラキラ輝くアクセサリーみたいなものかな?」

「如何して疑問形なのよ」

しおりが言いながら首をかしげる。それにベティーは尋ねた。

「わたしも仕組みはよく分からないから」

「はぁ~。まぁ、いいわ」

妖精が営むお店じゃ仕方ないと思い彼女は納得する。

「この本ってなんて書いてあるの?」

「それは宇宙せかい中を旅する使命を帯びた少女の最初の物語だよ。でもね、主人公は闇落ちしちゃうんだ」

本を見ていたミラの言葉にしおりが説明する。

「闇落ち?」

「要するに悪い人達に味方しちゃうの。だけど、勇者と光の使者がその闇の中から助け出して、彼女は使命に生き抜く決意と覚悟をするんだよ」

闇落ちの意味が分からないと首をかしげる彼女へと、妖精が本の内容を簡単に伝えた。

「へ~。面白そうね。だけど読めないんじゃねぇ……」

「大丈夫。この国の言葉に翻訳したバージョンも置いてあるよ。ほら」

本を手に取ったものの、何処の国の言葉か分からない文字の羅列に困るミラへと、しおりがそう言って翻訳された本の場所を教える。

「まぁ、本当だわ。それじゃあ私これを一冊買って行こうかしら」

「シリーズ物だけど大丈夫?」

彼女の言葉に妖精が大丈夫なのかといいたげに尋ねた。

「気に入ったらまた買いに来るわ」

「……」

笑顔で話すミラの言葉に、しおりが何故か暫く黙り込む。

「?」

「そっか。分かった。また待ってるね」

不思議そうに見詰める彼女へと、笑顔に戻った妖精が明るい声で答えた。

「今の間は何よ?」

「気にしない、気にしない。それよりベティーはそれを買うの?」

ベティーの問いかけにも、しおりがはぐらかすように話を変える。

「え、えぇ。ビーズとっても綺麗だから。仕方ないからこの小瓶を一つ買ってあげるわ」

「有難う~」

気に入ったなんて絶対口が裂けても言えない彼女の言葉に、妖精が何も追求せずに軽い口調でお礼を述べる。

「また運命の扉が巡り会う時にこのお店は現れるから。その時に遊びに来てね♪」

しおりに見送られながら二人はお店を出る。

「え?」

「あら?」

お店を出た途端そこにあったはずのキノコの家は無くなっており、二人して白昼夢でも見ていたかのような気持ちになった。

「今まであったはずのお店が何処にもないわ」

「そんな、まさか。夢だったの?」

ミラの言葉にベティーも不思議そうに尋ねる。

「でも、私達さっき買った品物は手に持っているわ」

「そうよね。どういう事なのかしら?」

二人して顔を見合わせ疑問符を浮かべ続けた。

「妖精堂書店。本当に不思議なお店ね」

「さっきしおりが言っていた『運命の扉が巡り会う時にこのお店は現れる』ってこういう事なのかも」

普通には辿り着けないお店。妖精堂書店。ベティーはミラと一緒ににやりと笑う。

「また、巡り会えると良いわね」

「そうね!」

この不思議な体験は二人だけの秘密にすることにしたのである。
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