ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

水竜寺葵

文字の大きさ
10 / 36
ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

八章 近寄りがたい騎士レイヴィン

しおりを挟む
 何時もと変わらないライゼン通り。ベティーは祖母に頼まれておつかいをしていた。

「ふふっ。今日はおばあちゃんの好きな、ミルクパンが買えたからきっと喜ぶわ。……あら?」

籠の中に入るパンを見ながら呟いていた彼女は、河川敷に佇む一人の男を見つける。

「あれって、王国騎士のレイヴィンさんよね」

なぜこんな所にいるのだろうと思い近寄って行く。

「こんにちは、レイヴィンさん。こんなところで何をして……」

「……」

手を振りながら声を掛けようとしたその言動は途中で止まる。何故なら彼の瞳がとても悲しそうだったからだ。

「レイヴィンさん……何かあったの?」

「!? ……俺に何か用ですか」

控え目に声をかけると、ベティーの存在に今まで気づいていなかったような表情で驚いたが、すぐに冷たい瞳で見やり尋ねる。

「別に用事はないけれど、それよりこんな所に佇んで、一体如何したのよ?」

「貴女には関係のない事です。俺は仕事がありますので失礼します」

彼女の心配を振り切るように、淡泊に放つとレイヴィンが立ち去っていく。

「なによ、こっちは心配して聞いてるのに! ……だけど、さっきのレイヴィンさんの目。とっても悲しそうだったな。これは何かあるわね」

彼がいなくなった空間で、ベティーは頬を膨らませ怒ったが、先ほどのレイヴィンの様子が気になり調べてやると意気込む。

「もしかしたらこれでレイヴィンさんの事が分かるかもしれないし。そうしたらローズ様との関係も聞き出せるかも。よし、やるわよ!」

彼女は独り言を零すと、それから彼の後を追いかけて行った。

「河川敷の次はゲートの前か。街の外にでも行くつもりなの?」

河川敷で暫く佇んでいたレイヴィンが、次に向かったのは、街の入り口であるゲート。

「……」

「あの思いつめた顔、もしかしてレイヴィンさんこの街を出て行く気じゃ?」

彼の表情にベティーはまさかと思い慌てて後を追う。

「……ここは大丈夫そうだな」

「森の中に入っていったわ。やっぱりこの国から遠くに行く気なんだ」

草原を見回し特に異常がないことを確認すると、森の中へと足を進めるレイヴィン。

その姿を追いかけながら彼女は呟く。

「如何しよう。誰かを呼んでくるべき? でもそうしているうちにレイヴィンさんがどこかに行ってしまうかも……っ」

引き返して誰か連れて来るか考えたが、そうしている間に彼は森の中へと消えてしまう。

慌てて後を追いかけた。

「……ここも、異常はない。やはり奴を見かけたという情報は、ただの噂だったのか?」

「レイヴィンさんあんな深刻な表情して……っ、レイヴィンさん!」

顎に手を宛がい何事か考えるレイヴィンへと、ベティーは駆け寄り彼の腰に抱きつき動きを封じる。

「!? ……何のまねです」

「お願い、この国から出て行かないで! レイヴィンさんはそりゃ、近寄りがたくて皆に恐がられているかもしれないけれど、でもローズ様の側には貴方が必要なのよ。だから出て行かないで」

驚いた表情を一瞬で無へと戻すと、冷たく尋ねるレイヴィンに、彼女は捲し立てて喋った。

「は…………もしかして、俺がこの街を出て行くと勘違いしていますか」

「違うの?」

怪訝そうにしたのも一瞬で、暫く黙り込むとそう尋ねる。そんな彼へとベティーは腰に抱きついたままの態勢で見上げて尋ねた。

「俺は、ここ最近この森の中で、見たこともない魔物を目撃した。という情報を得て調査していただけだ」

「へ?」

淡泊に放たれたレイヴィンの言葉に、彼女は変な声をあげて呆ける。

「しかしただの噂に過ぎなかったようだ。俺は帰ります。離れてくれませんかね」

「ご、ごめんなさい」

彼の言葉にベティーは慌てて離れると恥ずかしそうに俯く。

「……貴女も外は魔物がいて危険です。街まで送りますのでついてきてください」

「はい」

数歩先へと歩いていたレイヴィンが、背後にいる彼女へとふり返りそう告げた。

それに返事をして小走りで彼の横へと並ぶ。

(……レイヴィンさん近寄りがたいけれど、こうやって私の身を案じてくれたりするし、本当はとっても優しい人なんじゃないのかな)

無言で歩くレイヴィンをちらりと見ながらベティーは内心で呟く。

「……!?」

「どうしたの?」

その時、彼が勢い良く背後へと顔を向けた。それに驚き彼女は尋ねる。

「……いえ、ただの動物でした。帰りましょう」

「は、はい」

暫く木立の間を見詰めていたレイヴィンだったが、そう答えると促す。

ベティーは返事をして歩き出す。しかし先ほどまでと違い彼が放つ空気が変わったように思えた。

(レイヴィンさん、何を見たんだろう?)

不思議に思い内心で呟く。

ベティーには分からなかったが、のちの未来で全てが解決する最初の出来事であった。が、それはまた別の物語である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界猫カフェでまったりスローライフ 〜根暗令嬢に憑依した動物看護師、癒しの猫パラダイスを築く〜

きよぴの
ファンタジー
​「もし、動物の言葉がわかれば、もっと彼らを救えるのに――」 ​動物病院で働く動物看護師、天野梓は、野良猫を庇って命を落とす。次に目覚めると、そこは生前読んでいた恋愛小説の世界。しかも、憑依したのは、主人公の引き立て役である「根暗で人嫌いの令嬢」アイリスだった。 ​他人の心の声が聞こえる能力を持ち、そのせいで人間不信に陥っていたアイリス。しかし、梓はその能力が、実は動物の心の声も聞ける力だと気づく。「これこそ、私が求めていた力だ!」 ​虐げる家族と婚約者に見切りをつけ、持ち前の能力と動物たちの力を借りて資金を貯めた梓は、ついに自由を手に入れる。新たな土地で、たくさんの猫たちに囲まれた癒しの空間、「猫カフェ『まどろみの木陰』」をオープンさせるのだった。

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

処理中です...