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ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~
八章 近寄りがたい騎士レイヴィン
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何時もと変わらないライゼン通り。ベティーは祖母に頼まれておつかいをしていた。
「ふふっ。今日はおばあちゃんの好きな、ミルクパンが買えたからきっと喜ぶわ。……あら?」
籠の中に入るパンを見ながら呟いていた彼女は、河川敷に佇む一人の男を見つける。
「あれって、王国騎士のレイヴィンさんよね」
なぜこんな所にいるのだろうと思い近寄って行く。
「こんにちは、レイヴィンさん。こんなところで何をして……」
「……」
手を振りながら声を掛けようとしたその言動は途中で止まる。何故なら彼の瞳がとても悲しそうだったからだ。
「レイヴィンさん……何かあったの?」
「!? ……俺に何か用ですか」
控え目に声をかけると、ベティーの存在に今まで気づいていなかったような表情で驚いたが、すぐに冷たい瞳で見やり尋ねる。
「別に用事はないけれど、それよりこんな所に佇んで、一体如何したのよ?」
「貴女には関係のない事です。俺は仕事がありますので失礼します」
彼女の心配を振り切るように、淡泊に放つとレイヴィンが立ち去っていく。
「なによ、こっちは心配して聞いてるのに! ……だけど、さっきのレイヴィンさんの目。とっても悲しそうだったな。これは何かあるわね」
彼がいなくなった空間で、ベティーは頬を膨らませ怒ったが、先ほどのレイヴィンの様子が気になり調べてやると意気込む。
「もしかしたらこれでレイヴィンさんの事が分かるかもしれないし。そうしたらローズ様との関係も聞き出せるかも。よし、やるわよ!」
彼女は独り言を零すと、それから彼の後を追いかけて行った。
「河川敷の次はゲートの前か。街の外にでも行くつもりなの?」
河川敷で暫く佇んでいたレイヴィンが、次に向かったのは、街の入り口であるゲート。
「……」
「あの思いつめた顔、もしかしてレイヴィンさんこの街を出て行く気じゃ?」
彼の表情にベティーはまさかと思い慌てて後を追う。
「……ここは大丈夫そうだな」
「森の中に入っていったわ。やっぱりこの国から遠くに行く気なんだ」
草原を見回し特に異常がないことを確認すると、森の中へと足を進めるレイヴィン。
その姿を追いかけながら彼女は呟く。
「如何しよう。誰かを呼んでくるべき? でもそうしているうちにレイヴィンさんがどこかに行ってしまうかも……っ」
引き返して誰か連れて来るか考えたが、そうしている間に彼は森の中へと消えてしまう。
慌てて後を追いかけた。
「……ここも、異常はない。やはり奴を見かけたという情報は、ただの噂だったのか?」
「レイヴィンさんあんな深刻な表情して……っ、レイヴィンさん!」
顎に手を宛がい何事か考えるレイヴィンへと、ベティーは駆け寄り彼の腰に抱きつき動きを封じる。
「!? ……何のまねです」
「お願い、この国から出て行かないで! レイヴィンさんはそりゃ、近寄りがたくて皆に恐がられているかもしれないけれど、でもローズ様の側には貴方が必要なのよ。だから出て行かないで」
驚いた表情を一瞬で無へと戻すと、冷たく尋ねるレイヴィンに、彼女は捲し立てて喋った。
「は…………もしかして、俺がこの街を出て行くと勘違いしていますか」
「違うの?」
怪訝そうにしたのも一瞬で、暫く黙り込むとそう尋ねる。そんな彼へとベティーは腰に抱きついたままの態勢で見上げて尋ねた。
「俺は、ここ最近この森の中で、見たこともない魔物を目撃した。という情報を得て調査していただけだ」
「へ?」
淡泊に放たれたレイヴィンの言葉に、彼女は変な声をあげて呆ける。
「しかしただの噂に過ぎなかったようだ。俺は帰ります。離れてくれませんかね」
「ご、ごめんなさい」
彼の言葉にベティーは慌てて離れると恥ずかしそうに俯く。
「……貴女も外は魔物がいて危険です。街まで送りますのでついてきてください」
「はい」
数歩先へと歩いていたレイヴィンが、背後にいる彼女へとふり返りそう告げた。
それに返事をして小走りで彼の横へと並ぶ。
(……レイヴィンさん近寄りがたいけれど、こうやって私の身を案じてくれたりするし、本当はとっても優しい人なんじゃないのかな)
無言で歩くレイヴィンをちらりと見ながらベティーは内心で呟く。
「……!?」
「どうしたの?」
その時、彼が勢い良く背後へと顔を向けた。それに驚き彼女は尋ねる。
「……いえ、ただの動物でした。帰りましょう」
「は、はい」
暫く木立の間を見詰めていたレイヴィンだったが、そう答えると促す。
ベティーは返事をして歩き出す。しかし先ほどまでと違い彼が放つ空気が変わったように思えた。
(レイヴィンさん、何を見たんだろう?)
不思議に思い内心で呟く。
ベティーには分からなかったが、のちの未来で全てが解決する最初の出来事であった。が、それはまた別の物語である。
「ふふっ。今日はおばあちゃんの好きな、ミルクパンが買えたからきっと喜ぶわ。……あら?」
籠の中に入るパンを見ながら呟いていた彼女は、河川敷に佇む一人の男を見つける。
「あれって、王国騎士のレイヴィンさんよね」
なぜこんな所にいるのだろうと思い近寄って行く。
「こんにちは、レイヴィンさん。こんなところで何をして……」
「……」
手を振りながら声を掛けようとしたその言動は途中で止まる。何故なら彼の瞳がとても悲しそうだったからだ。
「レイヴィンさん……何かあったの?」
「!? ……俺に何か用ですか」
控え目に声をかけると、ベティーの存在に今まで気づいていなかったような表情で驚いたが、すぐに冷たい瞳で見やり尋ねる。
「別に用事はないけれど、それよりこんな所に佇んで、一体如何したのよ?」
「貴女には関係のない事です。俺は仕事がありますので失礼します」
彼女の心配を振り切るように、淡泊に放つとレイヴィンが立ち去っていく。
「なによ、こっちは心配して聞いてるのに! ……だけど、さっきのレイヴィンさんの目。とっても悲しそうだったな。これは何かあるわね」
彼がいなくなった空間で、ベティーは頬を膨らませ怒ったが、先ほどのレイヴィンの様子が気になり調べてやると意気込む。
「もしかしたらこれでレイヴィンさんの事が分かるかもしれないし。そうしたらローズ様との関係も聞き出せるかも。よし、やるわよ!」
彼女は独り言を零すと、それから彼の後を追いかけて行った。
「河川敷の次はゲートの前か。街の外にでも行くつもりなの?」
河川敷で暫く佇んでいたレイヴィンが、次に向かったのは、街の入り口であるゲート。
「……」
「あの思いつめた顔、もしかしてレイヴィンさんこの街を出て行く気じゃ?」
彼の表情にベティーはまさかと思い慌てて後を追う。
「……ここは大丈夫そうだな」
「森の中に入っていったわ。やっぱりこの国から遠くに行く気なんだ」
草原を見回し特に異常がないことを確認すると、森の中へと足を進めるレイヴィン。
その姿を追いかけながら彼女は呟く。
「如何しよう。誰かを呼んでくるべき? でもそうしているうちにレイヴィンさんがどこかに行ってしまうかも……っ」
引き返して誰か連れて来るか考えたが、そうしている間に彼は森の中へと消えてしまう。
慌てて後を追いかけた。
「……ここも、異常はない。やはり奴を見かけたという情報は、ただの噂だったのか?」
「レイヴィンさんあんな深刻な表情して……っ、レイヴィンさん!」
顎に手を宛がい何事か考えるレイヴィンへと、ベティーは駆け寄り彼の腰に抱きつき動きを封じる。
「!? ……何のまねです」
「お願い、この国から出て行かないで! レイヴィンさんはそりゃ、近寄りがたくて皆に恐がられているかもしれないけれど、でもローズ様の側には貴方が必要なのよ。だから出て行かないで」
驚いた表情を一瞬で無へと戻すと、冷たく尋ねるレイヴィンに、彼女は捲し立てて喋った。
「は…………もしかして、俺がこの街を出て行くと勘違いしていますか」
「違うの?」
怪訝そうにしたのも一瞬で、暫く黙り込むとそう尋ねる。そんな彼へとベティーは腰に抱きついたままの態勢で見上げて尋ねた。
「俺は、ここ最近この森の中で、見たこともない魔物を目撃した。という情報を得て調査していただけだ」
「へ?」
淡泊に放たれたレイヴィンの言葉に、彼女は変な声をあげて呆ける。
「しかしただの噂に過ぎなかったようだ。俺は帰ります。離れてくれませんかね」
「ご、ごめんなさい」
彼の言葉にベティーは慌てて離れると恥ずかしそうに俯く。
「……貴女も外は魔物がいて危険です。街まで送りますのでついてきてください」
「はい」
数歩先へと歩いていたレイヴィンが、背後にいる彼女へとふり返りそう告げた。
それに返事をして小走りで彼の横へと並ぶ。
(……レイヴィンさん近寄りがたいけれど、こうやって私の身を案じてくれたりするし、本当はとっても優しい人なんじゃないのかな)
無言で歩くレイヴィンをちらりと見ながらベティーは内心で呟く。
「……!?」
「どうしたの?」
その時、彼が勢い良く背後へと顔を向けた。それに驚き彼女は尋ねる。
「……いえ、ただの動物でした。帰りましょう」
「は、はい」
暫く木立の間を見詰めていたレイヴィンだったが、そう答えると促す。
ベティーは返事をして歩き出す。しかし先ほどまでと違い彼が放つ空気が変わったように思えた。
(レイヴィンさん、何を見たんだろう?)
不思議に思い内心で呟く。
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