ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

水竜寺葵

文字の大きさ
11 / 36
ライゼン通りの雑貨屋さん ~雑貨屋の娘とお客様~

九章 ローズとマルクスの話

しおりを挟む
 レイヴィンとの出来事があった翌日の事である。

「ベティー。聞いたわよ。レイヴィンと一緒に仲良く歩いて帰ってきたんですってね」

「へ? ローズ様いきなりどうしたのよ」

嬉しそうに笑いながらお店に入ってきたローズが言うと、ベティーは何の事だと不思議そうに尋ねた。

「あなた達仲良く森に行って帰ってきたんでしょう。レイヴィンとベティーがそんなに仲が良かったなんて知らなかったわ」

「えぇ!? ち、違うわよ。私は深刻そうな顔のレイヴィンさんを見て、もしかしたら街から出て行ってしまうのではないかと勘違いして、後を追いかけて行っただけで」

にこりと笑い話す彼女の言葉にベティーは慌てて答える。

「ふふっ。分かっているわよ。昨日のレイヴィン。何だか焦っている様子だったからね。森の中で見た事もない魔物を目撃したって情報を聞いて飛び出していってしまったから」

「見た事もない魔物? そう言えばレイヴィンさんも同じこと言っていたけれど、今から考えると……そ、それって大丈夫なの?」

腰に手を当てて話すローズへと彼女は不安になり尋ねた。

「問題ないわ。ただの噂だったみたいだし。それよりも、わたしは驚いているのよ。わたし達にさえ壁を作って距離を置いているレイヴィンが、貴女と並んで歩いて帰ってきたってことにね」

「それ、どういう事?」

彼女の話にベティーは首をかしげる。

「ほら、レイヴィンって普段人を寄せ付けないようにしているでしょ。だけど貴女を護衛しながら街まで戻ってきた。それって貴女の身に何かあったら心配だったからだと思うのよ」

「それ、私も同じこと思っていたの。一人で先に帰ってしまうかと思っていたのに、あのレイヴィンさんが私の身を案じて、時折休憩をはさみながら私を街まで送ってくれて。レイヴィンさんって本当はとっても優しい人なんじゃないのかな」

ローズが言うと、彼女も同意して話す。

「……レイヴィンはね。コゥディル王国に来る前はオルドラの王室に仕えていたの。だけど、あの性格でしょう。それで、このままではいけないと思ったオルドラの国王がこの国で保護してもらえないかって頼まれて、それで引き取られたの。ここでの暮らしの中でならきっとあの性格も変わってくれると信じてね」

「保護って、レイヴィンさんの過去に何があったの?」

瞳を伏せながら語る彼女の言葉に、ベティーは驚いて尋ねる。

「それはわたしの口からは話せないわ。でも、ベティーのことを心配して護りながら街まで戻った。その事実は変わらない。だから、彼にとって何かいい変化になってくれるといいのだけれど。ふふっ、ベティー。これからもレイヴィンと仲良くしてね」

「そんなこと言われても、でも。私もレイヴィンさんの事もっと知りたいと思う。だからこれからも仲良くしていけれたらいいな」

(レイヴィンさんと仲良くなれば、ローズ様の秘密がわかるかもしれないものね)

ローズのお願いに口ではそう言いながら内心では本音を呟く。

「ふふっ、有難う。それじゃあ、わたしは帰るわね。レイヴィンに見つかる前に」

彼女が言うとお店を出て行く。その後ろ姿を見送っていると再びと扉が開かれ誰かが入ってきた。

「ベティー聞いたよ。レイヴィンさんと一緒に並んで歩いていたんだって」

「マルクス。あんたもその話を聞いて来たの?」

勢いよく話すマルクスへとベティーは尋ねる。

「う、うん。だってあのレイヴィンさんだよ。僕達騎士団の間でも近寄りがたくて有名な人なんだ。そんなレイヴィンさんがベティーと仲良く並んで帰ってきたなんて。一体何をしたらそんなに仲良くなれるの?」

「何もしてないわよ。一人で街の外に出て行ってしまう姿を見かけて追いかけて行っただけ」

興奮した様子で話す彼へと、彼女は淡々とした口調で答えた。

「それで街の外まで行って、レイヴィンさんが連れて帰ってきてくれた。ってことかな?」

「そうよ」

不思議そうに尋ねるマルクスへと、ベティーは淡泊に返す。

「な、なんだ~。てっきりベティーとレイヴィンさんは、凄く仲が良くなっていたのかと思っちゃったよ」

「ていうかそんな噂が立っているの?」

「王宮中この話題で持ちきりだよ。あのレイヴィンさんが女の子と仲良く歩いていたって話だからね」

思っていたのと違ったのか彼が肩を落として残念がる様子に、彼女は冷や汗を流しながら尋ねる。それにマルクスが答えた。

「そ、そんな妙な噂が立っているの? やだわ。わたし達そんな仲じゃないのに」

「でも、ベティー。僕は少しだけ嬉しいんだ」

「?」

戸惑うベティーへと彼が微笑み話す。その言葉の意味が分からず目を丸めた。

「レイヴィンさんって、そりゃ非の打ちどころもないほど騎士としては完璧な人だ。私情を挟まないし、感情的にもならない。それって普通に考えたらなかなか難しい事なんだよ。それができるレイヴィンさんは本当に凄い人。だけど……」

マルクスが言うと瞳を伏せながら小さく苦笑する。

「それゆえに僕達は近寄りがたい雰囲気を感じて、あまり寄りつけなくてね。皆尊敬しているのにあの言動のせいで好意を持たれているのにそれに気づいてもらえないなんて、もったいないなって思う。なんて言うのかな、こう、人間らしさって言うのを感じないんだよ。それが異質で。少し怖いと思う。いつかどこか遠くに行ってしまうんじゃないのかって思ってね」

「そう、そうなのよ! だから私も昨日……」

彼の話にベティーは口走り慌てて言葉を噤む。自分が勘違いしてしまったことを、マルクスに知られたくなくて黙ったのだ。

「?」

「と、兎に角。レイヴィンさんのあの言動は私も気になっていたのよね」

不思議そうな顔の彼へと彼女は一呼吸おいてから話す。

「うん。だから僕は今すぐにとは言わない。いつか、僕達がレイヴィンさんの事をもっと知りたいと思っている事、そして仲良くしたいと思っていることに気づいてもらえたらなって思うんだ。それが、僕じゃなくて他の誰かによって気付く事だったとしてもね」

「そうね。私達でレイヴィンさんの心を開いて行きましょう」

マルクスの言葉ににこりと笑いベティーも同意する。

「うん。それじゃあ、僕は帰るね。王宮中で広まっている妙な噂も鎮めないといけないし」

「それは本当によろしくね」

彼の言葉に心からお願いする。そうしてマルクスが帰って行くと、一人きりになった空間で考える。

「ローズ様やマルクス。それだけじゃない。他にも沢山の人が、レイヴィンさんが本当はとても優しくていい人なんだって気付いている。それなのに、どうして壁を作るんだろう。過去に何があったんだろう。私達で彼の心を開く事ってできないのかなぁ」

腕を組み悩むも答えが出てこなくて溜息を零す。

「って、私何でこんなにレイヴィンさんの事考えてるのかしら。これじゃ噂が本当だったって思われちゃうじゃないの。やめよう」

馬鹿らしいといいたげに呟き頭を振って考えを振り払う。

「だけど、何時かその時が来たら……」

レイヴィンが心を開いてくれる時が来たら、と考えて微笑む。

「ようっし! レイヴィンさんとお友達計画よ。そうしてローズ様の秘密を暴いてやるわ」

意気込み拳を振り上げると熱く燃える心に微笑む。

ベティーがローズの秘密を知るのはそんなに遠い未来ではないのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~

雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。 突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。 多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。 死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。 「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」 んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!! でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!! これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。 な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

ハーレム系ギャルゲの捨てられヒロインに転生しましたが、わたしだけを愛してくれる夫と共に元婚約者を見返してやります!

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』の捨てられヒロインである侯爵令嬢、ベルメ・ルビロスに転生した主人公、ベルメ。転生したギャルゲーの主人公キャラである第一王子、アインアルドの第一夫人になるはずだったはずが、次々にヒロインが第一王子と結ばれて行き、夫人の順番がどんどん後ろになって、ついには婚約破棄されてしまう。  しかし、それは、一夫多妻制度が嫌なベルメによるための長期に渡る計画によるもの。  無事に望む通りに婚約破棄され、自由に生きようとした矢先、ベルメは元婚約者から、新たな婚約者候補をあてがわれてしまう。それは、社交も公務もしない、引きこもりの第八王子のオクトールだった。  『おさがり』と揶揄されるベルメと出自をアインアルドにけなされたオクトール、アインアルドに見下された二人は、アインアルドにやり返すことを決め、互いに手を取ることとなり――。 【この作品は、別名義で投稿していたものを改題・加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

処理中です...