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プロローグ
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玉座の側には二人の人物が立っており、その前には一人の少女が佇んでいた。周囲にいる兵士達は皆固唾を飲みそのやりとりを見守る。
「悪女、ユリシア・シャルティー・ヴェイゼル!! 己の罪を悔い改めよ!!」
玉座の前に立つ皇太子グエル・レオンハイト・リトアナの鋭い言葉に、悪女と呼ばれた少女……ユリシアがすっと目を細めた。
(何故、わたくしがこのような屈辱を受けなくてはなりませんの)
彼女はそう呟くと皇太子の隣で不敵に微笑む聖女を睨んだ。
時は遡ること数日前の事である。新たな聖女が決まり挨拶に来るというのでユリシアは、エントランスの上に立ち、その娘が来るのを待っていた。
「お初にお目にかかります。ユリシア様。わたしが聖女シャナです」
「……」
階段の下までやって来た聖女と名乗る少女が粛々とお辞儀してにこりと微笑む。
しかしユリシアはその少女に違和感を覚えた。
(この者が聖女様? それにしては神聖な気を感じませんことね)
気のせいだと言い聞かせ、ふっと微笑む。
「御機嫌よう、聖女シャナ様ですわね。わたくしが皇太子グエル様の婚約者。ユリシア・シャルティー・ヴェイゼルです。さあ、こちらに来て、よくお顔を見せてくださいますこと?」
「はい。それでは失礼いたします」
令嬢の言葉に美しくお辞儀をすると階段を上り彼女の前までやって来た。
「ユリシア」
「グエル様」
そこにグエルが笑顔でユリシアへと声をかけた。彼女は嬉しくて振り返る。
「きゃあ~!!」
「「!?」」
その時シャナの悲鳴が響き渡った。令嬢が振り返った途端に足を踏み外し階段から転げ落ちたのである。
「シャナ!!」
(この者、わざと足を踏み外しまして?)
王子は慌てて彼女の側に駆け寄りその身体を抱きかかえる。ユリシアは驚いたがそれを表情には出さず、訝し気な思いに眉を寄せた。
「シャナ、シャナ。しっかりしろ」
「うっ……グエル様……」
聖女の身体をゆすり起こすと、うっすらと目を開けたシャナが呟く。
「っ、ユリシア!! まさか君がシャナを突き落とすなんて、一体彼女が何をしたというのだ」
グエルの位置から見たらそれはちょうどユリシアが彼女を突き落としたように感じた。その為鋭い口調で諫める。
「さようでございましょうか? 貴方はわたくしが突き落としたとそう思うのですか?」
「うっ、うっ……わたしはただご挨拶に伺っただけなのに、突き落とすなんて酷いですわ」
凛とした表情で答える令嬢へと瞳に涙を浮かべながらシャナが訴えた。
「わたくしは――」
「やはり、悪女の娘は悪女だな」
怒りを抑え言葉を伝えようとした時、グエルがそう吐き出し、聖女を抱きかかえ歩き出す。
「グエル様」
「君には失望した」
「っ!?」
ユリシアが呼び止めると彼がそう呟いて立ち去る。その冷たい眼差しに令嬢は息をのんだ。
「今まで、グエル様があのような冷たい目でわたくしを見たことがありましたかしら。いいえ、なかったわ。シャナ様……一体あの娘は何を考えていらっしゃるの?」
一人きりになった空間で呟くと両手を硬く握りしめる。これが全ての始まりだった。
それから暫く経ったある日、シャナのお披露目パーティーの席でユリシアはグエルとの亀裂が修復できないままでいた。
「はぁ……」
「ふふっ」
独りベランダに立ち深い溜息を吐く彼女の背後で、小瓶を取り出したシャナが数滴それをワイングラスへと落とす。
「ユリシア様」
「……」
一番聞きたくない人物の声を聞いて不機嫌になりながらも、そちらへと振り返る。
「わたしの事をさぞお怒りでしょう。あの時は、気が動転していて、変なことを口走ってしまいました。本当に申し訳ございません」
「そうですの。謝意は受け入れましてよ」
申し訳なさそうな顔で深々と頭を下げて謝る姿に、ユリシアは次期王妃としての態度で答える。
「あぁ、良かった。お許しいただけないかと思っておりました。さ、仲直りに一つ」
笑顔になった聖女が両手に持っていたワイングラスのうち片方を差し出して来た。
「仲直りのしるしに乾杯」
「乾杯」
グラスをかち合わせお互い一口飲む。すると急に血相を悪くしたシャナがその場に倒れ込む。
「きゃあ!? 聖女様!!」
パーティーに参加していた貴族の娘の悲鳴に周りも異変に気付きベランダへと駆け寄る。
「シャナ!?」
「グエル様。これは毒の症状です。ですが、すぐに解毒すれば問題ないでしょう」
グエルも騒ぎに気付き駆け寄る。偶々近くにいた医者がそう言うと彼女を抱きかかえ客室へと連れていく。グエルもユリシアも後について行った。
「一体、毒なんて誰が?」
「それは分りませんが、幸い致死量には達していないので、解毒薬を飲めばすぐに目を覚まします」
彼の言葉に医者がそう答える。
(シャナ様に毒を? そんな恐ろしいこと一体何方が…)
「ユリシア、まさか君が毒を盛ったのではないだろうな?」
考え事をしているとグエルに疑いをかけられ彼の顔を見やる。そこには半信半疑といった様子で伺うグエルの姿があった。
「恐ろしいことをおっしゃらないで下さいまし。何故、わたくしがそのような事をしないといけませんこと。わたくしだって驚いておりますのよ」
「そうか……」
「うっ……」
ユリシアの言葉に彼が答えようとした時、シャナが小さく身じろぎ呟きを零す。
「シャナ! 気が付いたんだな」
「グエル様」
喜ぶグエルに状況が分かっていない様子の聖女が不思議そうに目を瞬く。
「聖女様が飲んだワインに毒が盛られていたのです」
「わたしに毒を? そんな、一体誰が……」
医者の言葉に青ざめた顔で小刻みに震えるシャナ。
「本当に、ユリシア、君じゃないんだな?」
「わたくしは――」
「あぁ、グエル様。わたしはただユリシア様と仲直りがしたかっただけなのに、ワインに毒を盛って殺そうとするなんて。そんな、恐ろしいことをユリシア様が……そんなに私の事お嫌いだなんて。うぅ、うぅ。わたしはどうしたら……」
未だに疑うグエルへとユリシアは説明しようと口を開く。しかしそれを遮るように大きな声で聖女が言うと顔を覆い隠し嗚咽する。
「シャナ、大丈夫だ。君の事は俺が守る。……ユリシア、君の顔はもう見たくない。出て行け!」
涙するシャナの身体を優しく抱きしめ支えながら、グエルが鋭い眼差しでユリシアを睨みつける。
「グエル様……」
「聞こえなかったか、出て行けと言ったんだ」
言葉をかけることも許されない空気に令嬢は仕方なく部屋を出て行く。その時にシャナが不敵に微笑んだように見えた。
そうしてその翌日。話があると呼び出されたユリシアは玉座の前で立つグエルから追放処分の命令を出されたのである。
「君が、シャナにしてきた事を悔い改めよ。この国の土地に入る事すら許さない!」
「わたくしが悔い改めるですって? 免罪ですことよ。わたくしは何もしておりませんわ」
「今さら言い逃れできると思うな。俺がこの目で、君のしてきた行い全てを見てきたのだぞ」
凛とした顔で言い返すもその言葉すら聞いては貰えず、グエルにより一刀両断される。
「あぁ、ユリシア。まさかとは思っていたが、本当にそんな事を……父として情けない。お前はもう娘でも何でもない。今この場を持って親子の縁を切る」
「ユリシア、わたくしも今日限りで貴女との親子の縁を切りますわ。本当に悪い女。わたくし達にこのような思いをさせるだなんて。恥ずかしくて外も歩けませんことよ。あぁ、皇太子様。わたくし達とこの娘はもう何の関係も御座いませんの。ですから、どうかわたくし達の事をお許しくださいまし」
呼び出されていた両親からも冷たい瞳で見られユリシアの心は傷付いた。
「お父様、お母様……」
「父と呼ぶな、この卑劣な女め!」
「わたくしは母でありませんわ。この極悪女」
すがる思いで呟いた言葉に、両親は変わらず冷たい瞳で暴言を放つ。
「っ」
彼女は悟った。もうここには帰る場所はないのだと。そうして全てはシャナが始めから企んだ罠だったのだと。気付いた時にはもう何もかも失っていた。
「何をしている、この女を城から追い出せ」
「は、はい」
グエルの命令に騎士団長が返事をすると、呆然と突き立つ彼女の腕を掴み無理矢理歩かせる。そうしてユリシアは国を追放されて、グエルと両親が最後の情けだと言って一族が統治している貧しい農村へと送られるのであった。
「悪女、ユリシア・シャルティー・ヴェイゼル!! 己の罪を悔い改めよ!!」
玉座の前に立つ皇太子グエル・レオンハイト・リトアナの鋭い言葉に、悪女と呼ばれた少女……ユリシアがすっと目を細めた。
(何故、わたくしがこのような屈辱を受けなくてはなりませんの)
彼女はそう呟くと皇太子の隣で不敵に微笑む聖女を睨んだ。
時は遡ること数日前の事である。新たな聖女が決まり挨拶に来るというのでユリシアは、エントランスの上に立ち、その娘が来るのを待っていた。
「お初にお目にかかります。ユリシア様。わたしが聖女シャナです」
「……」
階段の下までやって来た聖女と名乗る少女が粛々とお辞儀してにこりと微笑む。
しかしユリシアはその少女に違和感を覚えた。
(この者が聖女様? それにしては神聖な気を感じませんことね)
気のせいだと言い聞かせ、ふっと微笑む。
「御機嫌よう、聖女シャナ様ですわね。わたくしが皇太子グエル様の婚約者。ユリシア・シャルティー・ヴェイゼルです。さあ、こちらに来て、よくお顔を見せてくださいますこと?」
「はい。それでは失礼いたします」
令嬢の言葉に美しくお辞儀をすると階段を上り彼女の前までやって来た。
「ユリシア」
「グエル様」
そこにグエルが笑顔でユリシアへと声をかけた。彼女は嬉しくて振り返る。
「きゃあ~!!」
「「!?」」
その時シャナの悲鳴が響き渡った。令嬢が振り返った途端に足を踏み外し階段から転げ落ちたのである。
「シャナ!!」
(この者、わざと足を踏み外しまして?)
王子は慌てて彼女の側に駆け寄りその身体を抱きかかえる。ユリシアは驚いたがそれを表情には出さず、訝し気な思いに眉を寄せた。
「シャナ、シャナ。しっかりしろ」
「うっ……グエル様……」
聖女の身体をゆすり起こすと、うっすらと目を開けたシャナが呟く。
「っ、ユリシア!! まさか君がシャナを突き落とすなんて、一体彼女が何をしたというのだ」
グエルの位置から見たらそれはちょうどユリシアが彼女を突き落としたように感じた。その為鋭い口調で諫める。
「さようでございましょうか? 貴方はわたくしが突き落としたとそう思うのですか?」
「うっ、うっ……わたしはただご挨拶に伺っただけなのに、突き落とすなんて酷いですわ」
凛とした表情で答える令嬢へと瞳に涙を浮かべながらシャナが訴えた。
「わたくしは――」
「やはり、悪女の娘は悪女だな」
怒りを抑え言葉を伝えようとした時、グエルがそう吐き出し、聖女を抱きかかえ歩き出す。
「グエル様」
「君には失望した」
「っ!?」
ユリシアが呼び止めると彼がそう呟いて立ち去る。その冷たい眼差しに令嬢は息をのんだ。
「今まで、グエル様があのような冷たい目でわたくしを見たことがありましたかしら。いいえ、なかったわ。シャナ様……一体あの娘は何を考えていらっしゃるの?」
一人きりになった空間で呟くと両手を硬く握りしめる。これが全ての始まりだった。
それから暫く経ったある日、シャナのお披露目パーティーの席でユリシアはグエルとの亀裂が修復できないままでいた。
「はぁ……」
「ふふっ」
独りベランダに立ち深い溜息を吐く彼女の背後で、小瓶を取り出したシャナが数滴それをワイングラスへと落とす。
「ユリシア様」
「……」
一番聞きたくない人物の声を聞いて不機嫌になりながらも、そちらへと振り返る。
「わたしの事をさぞお怒りでしょう。あの時は、気が動転していて、変なことを口走ってしまいました。本当に申し訳ございません」
「そうですの。謝意は受け入れましてよ」
申し訳なさそうな顔で深々と頭を下げて謝る姿に、ユリシアは次期王妃としての態度で答える。
「あぁ、良かった。お許しいただけないかと思っておりました。さ、仲直りに一つ」
笑顔になった聖女が両手に持っていたワイングラスのうち片方を差し出して来た。
「仲直りのしるしに乾杯」
「乾杯」
グラスをかち合わせお互い一口飲む。すると急に血相を悪くしたシャナがその場に倒れ込む。
「きゃあ!? 聖女様!!」
パーティーに参加していた貴族の娘の悲鳴に周りも異変に気付きベランダへと駆け寄る。
「シャナ!?」
「グエル様。これは毒の症状です。ですが、すぐに解毒すれば問題ないでしょう」
グエルも騒ぎに気付き駆け寄る。偶々近くにいた医者がそう言うと彼女を抱きかかえ客室へと連れていく。グエルもユリシアも後について行った。
「一体、毒なんて誰が?」
「それは分りませんが、幸い致死量には達していないので、解毒薬を飲めばすぐに目を覚まします」
彼の言葉に医者がそう答える。
(シャナ様に毒を? そんな恐ろしいこと一体何方が…)
「ユリシア、まさか君が毒を盛ったのではないだろうな?」
考え事をしているとグエルに疑いをかけられ彼の顔を見やる。そこには半信半疑といった様子で伺うグエルの姿があった。
「恐ろしいことをおっしゃらないで下さいまし。何故、わたくしがそのような事をしないといけませんこと。わたくしだって驚いておりますのよ」
「そうか……」
「うっ……」
ユリシアの言葉に彼が答えようとした時、シャナが小さく身じろぎ呟きを零す。
「シャナ! 気が付いたんだな」
「グエル様」
喜ぶグエルに状況が分かっていない様子の聖女が不思議そうに目を瞬く。
「聖女様が飲んだワインに毒が盛られていたのです」
「わたしに毒を? そんな、一体誰が……」
医者の言葉に青ざめた顔で小刻みに震えるシャナ。
「本当に、ユリシア、君じゃないんだな?」
「わたくしは――」
「あぁ、グエル様。わたしはただユリシア様と仲直りがしたかっただけなのに、ワインに毒を盛って殺そうとするなんて。そんな、恐ろしいことをユリシア様が……そんなに私の事お嫌いだなんて。うぅ、うぅ。わたしはどうしたら……」
未だに疑うグエルへとユリシアは説明しようと口を開く。しかしそれを遮るように大きな声で聖女が言うと顔を覆い隠し嗚咽する。
「シャナ、大丈夫だ。君の事は俺が守る。……ユリシア、君の顔はもう見たくない。出て行け!」
涙するシャナの身体を優しく抱きしめ支えながら、グエルが鋭い眼差しでユリシアを睨みつける。
「グエル様……」
「聞こえなかったか、出て行けと言ったんだ」
言葉をかけることも許されない空気に令嬢は仕方なく部屋を出て行く。その時にシャナが不敵に微笑んだように見えた。
そうしてその翌日。話があると呼び出されたユリシアは玉座の前で立つグエルから追放処分の命令を出されたのである。
「君が、シャナにしてきた事を悔い改めよ。この国の土地に入る事すら許さない!」
「わたくしが悔い改めるですって? 免罪ですことよ。わたくしは何もしておりませんわ」
「今さら言い逃れできると思うな。俺がこの目で、君のしてきた行い全てを見てきたのだぞ」
凛とした顔で言い返すもその言葉すら聞いては貰えず、グエルにより一刀両断される。
「あぁ、ユリシア。まさかとは思っていたが、本当にそんな事を……父として情けない。お前はもう娘でも何でもない。今この場を持って親子の縁を切る」
「ユリシア、わたくしも今日限りで貴女との親子の縁を切りますわ。本当に悪い女。わたくし達にこのような思いをさせるだなんて。恥ずかしくて外も歩けませんことよ。あぁ、皇太子様。わたくし達とこの娘はもう何の関係も御座いませんの。ですから、どうかわたくし達の事をお許しくださいまし」
呼び出されていた両親からも冷たい瞳で見られユリシアの心は傷付いた。
「お父様、お母様……」
「父と呼ぶな、この卑劣な女め!」
「わたくしは母でありませんわ。この極悪女」
すがる思いで呟いた言葉に、両親は変わらず冷たい瞳で暴言を放つ。
「っ」
彼女は悟った。もうここには帰る場所はないのだと。そうして全てはシャナが始めから企んだ罠だったのだと。気付いた時にはもう何もかも失っていた。
「何をしている、この女を城から追い出せ」
「は、はい」
グエルの命令に騎士団長が返事をすると、呆然と突き立つ彼女の腕を掴み無理矢理歩かせる。そうしてユリシアは国を追放されて、グエルと両親が最後の情けだと言って一族が統治している貧しい農村へと送られるのであった。
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