悪女と聖女の国直し~とある王国の滅亡物語~

水竜寺葵

文字の大きさ
3 / 9

一章 リィーナとの出会い

しおりを挟む
 囚人用の鉄格子がはめられた、窓もない馬車へと乗せられたユリシアは、閉鎖された空間でも凛とした表情を崩さずじっと耐える。

「出ろ!」

「そのようにご乱暴になさらなくとも、自ら出ましてよ」

兵士が乱暴に腕を掴み言い放つのを、すました顔で答え堂々とした態度で馬車から降りる。

農村の近くまで来たらしいが、見渡す限り草木一本も生えていない砂地帯が続いていた。

「ここからは自力で歩いて村を探すんだな」

「……お勤めご苦労様ですわね」

「はっ、皮肉りやがって」

兵士へとねぎらいのつもりで声をかけるが、それは皮肉に捉えられたようで、相手は言葉を吐き捨てる。

「あ~あ。ここから帰るのか大変だなぁ。あんたが問題さえ起こさなければ、俺もこんな仕事しなくて済んだって言うのによ」

「それでも、お国の為に確りと務めを果たしたのですもの、貴方は立派にお役目をなさりましたわ」

「腐っても元は次期王妃様か。言葉だけは立派だな」

「……」

何を言っても皮肉と捉えられてしまうと感じ、ユリシアはもう声をかけるのを止めようと決めた。

「そんじゃ、俺はもう帰る。あんたなんかに付き合う義理はないからな」

「ご機嫌よろしゅう。せいぜい魔物に襲われないようお気を付けてお戻りなさいませ」

兵士が言うとさっさと御者席へと乗り込み走り去る。その姿へと令嬢は言葉を投げつけた。

最後の最後まで次期王妃としての態度を崩さずに、自分に仕えていた者の身を案じて伝えた言葉は果たして彼の心に届いたのだろうか。

「さて、参りましょう」

永遠に続くように見える砂地帯の奥へと瞳を向けて、彼女はそっと呟く。

そうしてしばらく歩くと森の中へと入った。

「急に森に?」

その意外な現実に戸惑う。国境を越えた途端に緑あふれる森の中なのだからそう思っても仕方のない事だろう。疑問に思いながらもしばらく歩くと、舗装されていない土の道が見えてきて、そこを進むと目的地の村が現れる。

「草木一本も生えない貧し土地だと聞いていたのだけれど?」

聞いた話が本当なら寂れた貧しい農村のはずであった。

しかし見渡す限り果樹園には実がぎっしりと詰まった果物がぶら下がり、田畑には豊富に作物が育っていた。

「ここまでくる間に魔物の姿も見ていなくてね」

聖女の加護も届かない村。そこに来るまでの間魔物に襲われなかっただけでなく、この辺りにも姿は見られない。その様子に令嬢は考える。

「おじさん、どうですか? 私少しは様になってきましたか」

「あぁ、最初のころと比べたら鍬の扱いが身についてきたようだな」

「ふふ。皆さんの教えが良いからですよ」

「本当に、リィーナちゃんは働き者ねぇ」

驚いている令嬢の耳に人の声が聞こえてきてそちらを見やると、明らかに村人とは違いオーラを感じる少女が一人、楽しそうに笑いながら村人達と一緒に農作業をしていた。

「もし」

「あ、こんにちは!」

ユリシアは戸惑いながらも声をかけると、少女が眩しいばかりの笑顔で振り返る。

「私はリィーナです。貴女は?」

「……ユリシアよ」

柔和な微笑みを浮かべて、名前を教えてくれた少女が尋ねるので、令嬢も名乗った。

「貴女は如何してこの村に来たんですか? あ、もしかして視察ですかね」

「いいえ、わたくしは国を追い出されたの。そうしてここに送られたのですわ」

彼女の身なりを見た少女がそう推察すると、ユリシアはゆるりと首を振って答える。

「え、あ……もしかして貴女も、ですか?」

「貴女もとは、どういう意味でして?」

何かを察したらしいリィーナの言葉に、令嬢は不思議そうに問う。

「実は、私元々は聖女だったんです」

「聖女様?」

困った顔で語り出した彼女の言葉に、ユリシアは黙って聞く態勢へと入った。

それはユリシアが初めてシャナと出会い、罠にはめられた日の数日前まで遡る……。

聖女を決める大事な儀式の為、リィーナは現聖女として教会の礼拝堂へと向かった。

「これより神の祝福を受けし聖女であることを証明してもらう」

祭壇に立つグエルの言葉に、聖女だと名乗る少女が神の祝福を授かる儀式へと入っていった。

「ではシャナ殿こちらへ」

神父がシャナの名を呼ぶ。

(可笑しい。この聖杯からは神聖な気を感じない?)

聖杯からは何の気も感じず、リィーナは訝しく思い内心で呟く。

「……煌きよ、その意を示し給え」

「!?」

彼女が何事か呟き聖杯を持った途端、目を開けていられないほどの輝きに包まれる。それにリィーナは驚く。

「こ、これは?」

「凄い輝きだ! 間違いなく神の祝福を受けている」

その様子に神父もグエルも驚き固まる。

「では、本物の聖女ならば神の祝福の力を使えるはず。それを示してみよ」

「はい。神の祝福を……」

王子の言葉に一歩前へと進み出たシャナは大きく身振りをする。すると彼女の周りに光の粒子が現れ、それはとても神秘的な光景に見えた。

「まさしく本物の聖女だな」

「し、しかし……」

グエルの言葉に何事か言いたげに神父が声をあげるが一睨みされたため、リィーナの方へと近寄る。

「聖女様、今の段階ではグエル様を説き伏せる事は出来ません。申し訳ございませんが、暫くの間ご辛抱ください」

「……」

神父にはリィーナの方が本物の聖女であると分かっていたのだ。しかし、グエル王子を説き伏せる力はなく、仕方なく彼女を連れ出す。

それから数日たった日の事である。

「女神の祝福の力も持たない偽物の聖女リィーナよ。本物の聖女であるシャナがいるから、もうお前は用済みだ。さっさとこの国を出て行け」

「え?」

グエルが突然部屋へと入ってきたかと思うと、鋭い口調でそう言い放たれ驚いて目を丸める。

「私をこの国から出せば、神のご加護を授けられなくなってしまいます。それでもよろしいのですか?」

「ふん! 何が神のご加護だ。お前は今まで何もしてこなかったではないか。ただ宮殿で食べて寝て遊んで過ごしているだけのお前より、本物の聖女であるシャナの力が俺には必要だ」

「……」

確認するようにリィーナが言うと王子が鼻を鳴らして毒づく。それにもう何を言っても意味がないのだと悟り黙る。

「兵士よ。この無能な女を連れていけ」

「はっ!」

グエルの命令に脇に控えていた兵士が動き、彼女の腕を掴み連れ出す。

そうして話し合いも出来ないまま馬車に乗せられ、辺鄙な地へと送られることとなったのである。

『聖女様。貴女様をお守りできず申し訳ございません。貴女様に神の祝福があらんことを祈っております』

「神父様、最後の最後まで有難う御座います」

馬車に乗せられる際に手渡してくれた神父の手紙にはそう書かれており、その気づかいにリィーナは心から感謝する。

「降りろ!」

「……」

適当な場所で馬車から降ろされた彼女は周囲を見回す。荒れた大地に魔物の気配も沢山あり、とても治安がいいとは言えない。

リィーナを放り出した後、馬車はさっさと行ってしまったのでここが何処かもわからない。

「とりあえず、村か町を探しましょう」

明るい口調で手を叩き檄を飛ばすと、道なき道を歩いて行った。

暫くすると森の中へと入り、その近くに村があった為そこへと訪れた。

そうして村人達の優しさによりここで暮らしていく事となる。

「と、そうして私を受け入れてくださった皆さんの為に、この枯れた土地を豊かにし、魔物の脅威から守っているのです」

「そうですの。それで、ここまでくる間に魔物の姿が見当たらなかったわけね」

語り終えた聖女の言葉にユリシアは納得して頷く。

「それで、ユリシアさんは如何してこの村に送られたんですか?」

「わたくしも同じでしてよ。シャナに嵌められたの。あの女、聖女の地位に満足できずに、次期王妃の座まで狙ったって事ね」

リィーナの言葉に令嬢は説明する。

「と、言うことは、ユリシア様は王妃の座から引きずり降ろされて、あらぬ疑いをかけられ追放処分にされた……って事なんですね」

「えぇ、そうでしてよ」

その言葉で理解したらしい聖女へとユリシアは頷く。

「行く当てがないなら、私と一緒に暮らしませんか?」

「そうね、庶民の暮らしなど思いもつきませんもの、貴女に色々と教えて貰えると助かるわ」

良い事を思いついたといった顔でリィーナが言うと令嬢も頷きお願いする。

こうして出会った二人は一緒の家で暮らすこととなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました

九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」 悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。 公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。 「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」 ――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...