悪女と聖女の国直し~とある王国の滅亡物語~

水竜寺葵

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二章 双子の王子との出会い

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 ユリシアとリィーナが出会ってから三日がったある日の朝の事。

「ユリシア様、本当にお料理が上手になりましたね」

「そうかしら」

リィーナと一緒に朝食を作っていると聖女がそう言って褒める。それに淡々とした口調で令嬢が尋ねた。

「そうですよ。ユリシア様が初めてお料理した時に、お野菜さんに包丁を突き立てたのにはびっくりしました」

「お料理なんて使用人の仕事でしょう……まさかこのわたくしが自らお料理をすることになるなんて思ってもみませんでしたわ」

思い出し笑いしながら話すリィーナへとユリシアは答える。

「本当にユリシア様って身分が高い人なんですね」

「ねぇ、リィーナ様」

「はい?」

くすりと笑う聖女へと令嬢はそっと声をかける。それに不思議そうに返事をするとユリシアの顔を見詰めた。

「ここに来た晩に話した事だけれど、本当に協力してくれますの」

そう尋ねる令嬢へとリィーナが思い出すように瞳を閉ざす。

これは二人が出会った夜の事。シャナに嵌められ追放されたユリシアとリィーナはグエルと偽物の聖女について話をしていた。

「実は、ユリシア様にまだ話していないことがありまして、私が聖女としてザイバール王国に入った時、グエル王子に俺の側にいてくれって言われていたんです」

「そう、あの男。わたくしにも同じことをおっしゃっていましたわ。女性に頓着がないお方ですこと……」

テーブルをはさみ向かい合って座り語る聖女の言葉に令嬢が表情の読めない顔で呟く。

「それで、ユリシア様。怒らないで聞いてくださいね。実は貴女と婚約する前は、私がグエル王子の婚約者だったんです」

「今更でしてよ。わたくし、知っていましたもの」

不安そうな顔で事実を暴露するリィーナへと、冷静な態度でユリシアは話す。

「そうだったんですか?」

「グエル王子の婚約者になる前から彼の方の情報を集めていましたもの。欲に溺れる無能な遊び人。そう陰で噂されていましてよ。ですから、事実を知りたかったんですの」

驚いて目を瞬く聖女へと令嬢が淡々とした口調で語る。

「情報を集めれば集める程、その噂が事実であると知りましたわ。ですが、グエルからの愛しているというお言葉を信じておりましたの。正式に婚約者に選ばれ高価な指輪までプレゼントしてくださって……わたくし、この人がどんなに無能だと陰で罵られていても、一生ついて行こう。隣で支えて行こうと決めておりましたのよ」

「あ、それで急に私への態度が変わったんですね。婚約を破棄するが、私の聖女としての力は俺にとって必要だからって言われて聖女として王宮に残る事になったんです」

ユリシアの話を聞いて納得したリィーナが言う。

「でも、シャナという女が現れ、グエルは変わってしまいましたわ」

あの時のグエルの冷たい眼差しを思い出し令嬢は静かに瞬きをする。

「このような屈辱をわたくしに味合せたグエルとシャナが憎らしくてたまりませんわ。それで、リィーナ様。貴女に尋ねたい事がありますの」

「?」

決意を固めた瞳で見詰められリィーナは不思議そうに首を傾げた。

「貴女もシャナに嵌められ、グエルに国から追い出されましたわ。わたくし達とても境遇が似ていると思いませんこと」

「そう言われてみれば、そうですね」

ユリシアの話に聖女が小さく頷き答える。

「そこで、わたくしを陥れたあの二人への復讐に、貴女も協力していただけないかしら」

「それって、やり返すってことですか?」

令嬢の言葉にリィーナは真面目な顔で尋ねた。

「やり返すですって? いいえ、そのような甘い事ではありませんことよ。徹底的に陥れて、わたくし達の受けた屈辱の何十倍もの苦しみを一生味合せる事ですわ」

「神に仕える者として、人を陥れたりすることはいけない事だとは分っています。ですが、悪い人達には神の裁きを与えないとですよね。はい、私もユリシア様の復讐に協力いたします」

「ありがとう存じます」

二人はお互い固い握手を交わす。こうして自分達を陥れた者達への復讐を決意したのである。

過去の事を思い起こしていたリィーナは瞳を開けるとにこりと笑った。

「勿論です。私達二人でグエル王子とシャナさんに復讐してやりましょう」

「考えが変わっていなくて良かったわ。それから……リィーナ様」

「はい?」

聖女の言葉に小さく頷いたユリシアはじっとリィーナの瞳を見詰める。それに不思議そうな顔で彼女が呟く。

「復讐を誓った同士ですもの、『ユリシア様』と呼ぶのは止めて頂きたいの」

「でも、ユリシア様はご身分の高い人ですよね?」

令嬢の言葉にリィーナが戸惑い尋ねる。

「あら、貴女だって聖女様ならご身分は高いはずよ」

「あ、考えた事もありませんでした。そっか、確かに聖女は国の権力を左右する力を持っているんですもんね」

ユリシアの話に聖女が「そう言えば」といった顔で小さく頷き納得する。

「だから、わたくしの事はユリシアさんと呼んで頂けないかしら」

「分かりました。ユリシアさん。では、私の事もリィーナと呼んで下さい。ふふっ。これで私達本当のお友達ですね」

「お友達……」

令嬢のお願いにリィーナが嬉しそうに微笑む。友達という単語にユリシアは戸惑う。

(今まで、わたくしにお友達と呼べるものがいたでしょうか。誰もがわたくしの権力に縋り、胡麻をする者や、うわべだけのおべっかでお付き合いをしている者。あるいはわたくしの事を好く思わず侮辱する者や陰口をたたく者ばかりだったわ)

そう考えると目の前で微笑む聖女を眩しそうに見詰める。

(今、初めて心から信頼できる友を得られようとしているのかもしれないのね)

利用しようと思っていた。だが、彼女の裏表のない性格や家事仕事も何もできない自分に料理を教えてくれたりと、一生懸命な姿を見ていていつの間にか心が変わっていたことに気付く。

「そうね、お友達かもしれなくてね」

「ふふっ。ユリシアさんと友達になれて私今とっても嬉しいです」

不敵に微笑むユリシアへとリィーナが嬉しそうにはにかむ。

こうして二人の間に絆が生まれた瞬間であった。

それからさらに数日過ぎた頃。

「この辺りは魔物も多く、土地も枯れていて苦労している……はずだったな」

「あぁ、それがつい最近どういう訳か土地が豊かになり魔物もあまり寄り付かなくなったと」

同じ顔だが瞳の色だけが違う二人の男性が話し合っていた。

「この村になにか神がかり的な奇跡でも起こらない限り急に変わるなんて可笑しいと思わないかな」

「だから調べに来たんだろう。と言っても理由が分からない以上は調べようもないが」

身なりの整った男性の言葉に隣に立つラフな格好の青年が溜息を吐き出した。

「暫くこの村を散策してみよう」

「そうだな」

二人の話はまとまったようで、村の中へと入っていった。

「ユリシアさん、そこです」

「お嬢様がんばれ~」

「ここね」

のんびりとした声でリィーナが言うと村人達からも声援があがる。

鍬を片手に振り上げたユリシアだったが、それはひょろひょろと空を彷徨い、後ろに倒れ込む。

「ユリシアさん大丈夫ですか?」

「やはり、わたくしには無駄な時間のようですわね」

慌てて駆け寄る聖女に令嬢が溜息交じりに答えた。

「そんなことありませんよ。最初と比べたら鍬を振り上げられるだけの力はついていますし、練習すればきっとできるようになりますよ」

「そもそもわたくしに農作業などはじめから無意味なのですわ。おとなしく豆の皮むきだけやりましてよ」

「「……」」

ほのぼのとした雰囲気に二人の男性は目を丸くして呆ける。

「あら、お客様かしら」

「あ、本当ですね。こんにちは~」

二人に気付いたユリシアが目を向けると、リィーナも笑顔で手を振って招く。

「どうする?」

「どうするって言われてもな……かわいい子達が招いてくれているんだし、こりゃ行くしかないだろう」

二人は小声で話し合うとにこりと微笑みユリシア達に近づく。

「こんにちは、素敵なお嬢様方。見たところ村人のようには思えないが、二人は如何してここに?」

「あら、貴方方もご身分の高い方のようですが、こんな辺鄙な土地にどのような御用でいらしたのかしら」

ラフな格好の男性の言葉にユリシアは目を細めて尋ねる。

「これは失礼。お二人に事情を聴く前にまずはこちらが怪しいものではないということをきちんと説明しなくてはいけませんでしたね。僕達はここ最近この辺りの土地が急に豊かになり、魔物も近づかなくなったと聞いてそれを調査しに来たのです」

「で、来てみたら君達がいたってわけ。ここ最近この辺りの変化はもしかして君達が関わっているんじゃないのかな?」

二人の言葉に令嬢は黙秘する。しかしここで空気を読まない人物が一人。

「あ、そうですよ。それ私の力が働いているからです」

「君の力?」

リィーナの言葉にラフな格好の男性が目を瞬き尋ねる。

「実は私達、国を追われたんです。だからこの村に着て、それで親切にしてくださっているし、お世話になっている皆さんにお礼がしたくてこの辺りの土地を加護しているんです」

(……そんな力が使えるのは神に仕える聖女のみ。と、言うことはこの子はただ者ではないな。それに黙って立っているあの美女。立ち居振る舞いからして一般人ではない。貴族の娘かあるいは皇族か。どちらにしてもこの二人何か事情があるんだな)

聖女の言葉にラフな格好の男性が内心で呟き二人を見詰める。

「国を追われてって、お二人のようなか弱い女性が。そんな大変な思いを……」

「兄上、この二人をこのままここに置いておくのは不憫ではないかな」

話を聞いて心底心配してくれる男性へともう一人の青年が声をかける。

「そうだね。お二人を僕達の国で保護いたします」

「これは、ご親切にどうもありがとう存じます。わたくしはユリシアと申します」

「私はリィーナです」

スカートの裾を持ち綺麗にお辞儀するユリシアと、変わらず優しい微笑を湛えるリィーナが自己紹介をした。

「!? ユリシアさんか。僕の名前と似ているね。僕の名前はユリウスって言うんだ」

「まぁ、本当に。響きが似ていますわね」

ユリウスと名乗った男性の言葉に令嬢が不敵に微笑み答える。

「リィーナさんか、可憐なあなたにピッタリな名前だね。僕は双子の弟のエディって言うんだ」

「有り難う御座います。エディさんて言うんですね。かっこいいお名前です」

エディと名乗った男性に聖女が満面の笑顔を浮かべて話す。

これが双子の王子との出会いであった。こうしてユリシアとリィーナは保護され村を出る事となる。

「兄上、あの二人ただものではない。リィーナは恐らく聖女。そしてユリシアは皇族か高位貴族のご令嬢に間違いない」

「エディ。それは本当かい?」

「あぁ、聖女の力ならば、この辺り一帯の土地の変化も頷ける。そして、ユリシアからは高貴な女性の立ち居振る舞いを感じた」

「そうか……僕も二人はただの村娘ではないと思っていたけれど、国を追われた事と何か関係があるのかもしれない。今はまだ警戒されているみたいだけれど、心を開いてくれた時にきっと話してくれると思う」

「そうだな」

ユリシアとリィーナとは別の馬車へと乗り込んだ後でユリウスとエディがそんな話をしていたことを二人は知らない。
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