【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん

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第52話 空のむこうの風

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朝の光が牧場を包み、
霧がゆっくりと溶けていく。

その静けさの中で、
エアルが羽を震わせていた。
昨日よりも少しだけ大きく、
昨日よりも少しだけ力強く。

「……行くのか?」

僕の言葉に、エアルは首をかしげ、
小さく「ぴぃ」と鳴いた。

その瞳には、
まだ見ぬ空への憧れが宿っていた。

   ◇ ◇ ◇

リューが翼をひらいて隣に立つ。
「きゅぅ!」
それは“気をつけろ”という声にも、
“楽しんでこい”という声にも聞こえた。

ギンは尻尾を振りながら走り回り、
「おみやげ、ちゃんと持って帰ってこいよ!」
とでも言いたげに跳ねている。
モチョはエアルの足元を転がりながら、
やわらかい光を放って見送った。
フィーネはそっと鼻先でエアルの羽に触れ、
まるで“風の加護”を授けるように嘶いた。
レオルは高く舞い上がり、
その大きな翼で風を整えた。

――牧場全体が、旅立つ風を見送っていた。

   ◇ ◇ ◇

「無理はするなよ」
僕はそう言って、エアルの背を軽く撫でた。

指先に伝わる鼓動は、
小さいけれど確かで――
まるで、この世界の鼓動そのもののようだった。

「行っておいで、エアル」

エアルが一度だけ振り向いた。
その瞳がまっすぐ僕を見つめ、
「ぴぃ」と鳴いた。

次の瞬間、風が弾けた。

   ◇ ◇ ◇

虹の羽が空を切り裂く。
朝の光を背に、
エアルは牧場の柵を越えて飛び立った。

リューが追い風を送り、
ギンが走り、モチョが光を放つ。
フィーネの嘶きが重なり、
レオルの影がその上を覆った。

風が鳴り、花が揺れ、
草原が一面にきらめいた。

牧場全体が――まるで祈っているようだった。

   ◇ ◇ ◇

丘を越え、森の端まで。
エアルは何度も羽ばたき、
新しい空気を胸に吸い込んだ。

遠くには、知らない鳥の声。
流れる雲のすき間から覗く、広い世界。

「ぴぃ……」

その声には、
恐れよりも喜びが混じっていた。

風はやさしく、
まるで彼を導くように吹いていた。

   ◇ ◇ ◇

夕暮れ。
茜の空を染めながら、
エアルは牧場へと戻ってきた。

翼の端には、
小さな花びらが一枚、はさまっていた。

「それは……向こうの丘の花か」
僕がつぶやくと、
リューがうれしそうに鳴き、
ギンが駆け寄り、
モチョが光を灯した。
フィーネは静かに頷き、
レオルが遠くの空を見上げた。

――エアルは、初めて風のむこうを知った。
その帰り道には、
確かに“世界の息吹”が宿っていた。

   ◇ ◇ ◇

夜。
焚き火のそばで眠るエアルの羽が、
月明かりを受けて微かに輝いた。

その光は、明日の風のように優しかった。
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