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第6話 名前を与えるということ
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春を待たぬ冬の丘に、冷たい風が吹きすさんでいた。
畑の整備が始まり、村人たちは輪作に必要な区画を分けている。
狼騒動のあと、彼らの目は以前より落ち着いていた。
「嬢様の言うとおりにすれば、何とかなるかもしれん」
そんな空気が、村に少しずつ広がっていた。
マリエールは村を巡り歩き、ひとりの老婆から木の籠を受け取った。
「嬢様、これを」
籠の中には、深紅の小さな果実がぎっしり詰まっていた。
「森の奥にだけなる“アシェの実”です。酸っぱくて、みんなあまり食べませんけどね」
マリエールは一粒を口に含んだ。
はじけた瞬間、強い酸味のあとに清涼な甘みが広がる。
鼻腔を抜ける香りは、どこか高貴ですらあった。
「……これは、すごいわ」
ノラが首を傾げる。
「お嬢様、お口に合いましたか? でも、王都の商人は誰も買ってくれませんでしたよ。『こんな田舎の酸っぱい実、売れやしない』って」
マリエールは微笑んだ。
「ノラ、これはただの果実じゃない。価値を与えれば、“商品”になる」
◇ ◇ ◇
館へ戻ると、マリエールは帳面を広げた。
新しい頁に、大きく書く。
――「ブランド化」
「アシェの実に、名前を与えるのです。ただの酸っぱい実ではなく、“辺境でしか採れない特別な果実”だと」
トマスが眉をひそめた。
「名前を変えただけで、価値が生まれると?」
「ええ。人は物を食べるとき、味だけでなく“物語”を一緒に口にするのです。
たとえば――『極北の清らかな雪解け水で育った果実』と説明されたら、きっと欲しがるでしょう?」
ノラが目を丸くした。
「……たしかに、それだけで高そうに聞こえます!」
「それこそが“見せ方”。価値を編むことが、商いの第一歩です」
◇ ◇ ◇
翌日、マリエールは村人たちを集め、果実を手に掲げた。
「皆さん。この実は今日から“ルクスベリー”と名付けます」
「ルクス……?」
「ベリー?」
戸惑う声が広がる。
マリエールは微笑み、続けた。
「ラテンの言葉で“光”を意味します。冬の暗い森に赤く輝くこの実は、辺境の光そのもの。
――私たちの誇りにしましょう」
人々の表情がわずかに和らぐ。
「誇り……か」
「名前がつくと、不思議と特別に思えるな」
彼らの声に、マリエールは胸の奥が温かくなるのを感じた。
人は、物だけでなく、自分たちの暮らしに「名前」を与えられたとき、初めて顔を上げるのだ。
◇ ◇ ◇
夜。帳面に新たな文字が並ぶ。
――「第一のブランド:ルクスベリー」
――「次:保存方法、加工方法の検討」
――「包装の工夫」
ペン先を置いたとき、マリエールは小さく呟いた。
「……名前を与えることで、人も物も生まれ変わる」
窓の外で、鈴の花の影が月に揺れた。
その白は、まるで「新しい始まり」を告げる鐘の音のようだった。
畑の整備が始まり、村人たちは輪作に必要な区画を分けている。
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マリエールは微笑んだ。
「ノラ、これはただの果実じゃない。価値を与えれば、“商品”になる」
◇ ◇ ◇
館へ戻ると、マリエールは帳面を広げた。
新しい頁に、大きく書く。
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トマスが眉をひそめた。
「名前を変えただけで、価値が生まれると?」
「ええ。人は物を食べるとき、味だけでなく“物語”を一緒に口にするのです。
たとえば――『極北の清らかな雪解け水で育った果実』と説明されたら、きっと欲しがるでしょう?」
ノラが目を丸くした。
「……たしかに、それだけで高そうに聞こえます!」
「それこそが“見せ方”。価値を編むことが、商いの第一歩です」
◇ ◇ ◇
翌日、マリエールは村人たちを集め、果実を手に掲げた。
「皆さん。この実は今日から“ルクスベリー”と名付けます」
「ルクス……?」
「ベリー?」
戸惑う声が広がる。
マリエールは微笑み、続けた。
「ラテンの言葉で“光”を意味します。冬の暗い森に赤く輝くこの実は、辺境の光そのもの。
――私たちの誇りにしましょう」
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「誇り……か」
「名前がつくと、不思議と特別に思えるな」
彼らの声に、マリエールは胸の奥が温かくなるのを感じた。
人は、物だけでなく、自分たちの暮らしに「名前」を与えられたとき、初めて顔を上げるのだ。
◇ ◇ ◇
夜。帳面に新たな文字が並ぶ。
――「第一のブランド:ルクスベリー」
――「次:保存方法、加工方法の検討」
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ペン先を置いたとき、マリエールは小さく呟いた。
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窓の外で、鈴の花の影が月に揺れた。
その白は、まるで「新しい始まり」を告げる鐘の音のようだった。
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