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第15話 初めての船出
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冬の朝。川辺の倉庫に人々が集まっていた。
倉庫といっても、まだ粗末な小屋にすぎない。だが、その前には木箱と樽が積まれ、辺境で採れた特産品が並んでいた。
「ルクスベリーの瓶詰め、二十箱」
「干し肉、十樽」
「羊毛の束、五十」
トマスが帳簿に記していく。
村人たちは一つひとつを慎重に荷舟へ積み込んだ。
「これが……辺境から王都へ渡る最初の荷」
マリエールは胸に手を当て、深く息を吸った。
(これが成功すれば、辺境の名は広がる。失敗すれば……すべてが嘲笑に終わる)
◇ ◇ ◇
村の人々は固唾を飲んで見守っていた。
「本当に届くのか?」
「川はまだ危ないんじゃ……」
不安は消えきらない。
そのとき、マリエールは声を張った。
「皆さん、思い出してください。泥に沈んだ道を直したのは誰?」
「……俺たちだ!」
「狼を追い払ったのは誰?」
「俺たちだ!」
「そう。私たちはもう“できない人々”ではありません。
だから――この船も必ず届きます」
沈黙のあと、ざわめきが起こり、やがて小さな拍手が広がった。
◇ ◇ ◇
舟はゆっくりと川を滑り出した。
導流堤が流れを穏やかにし、櫂を操る漕ぎ手の腕に合わせて進んでいく。
岸辺から見守る村人たちは、まるで自分の子を送り出すかのような眼差しを向けていた。
ノラが涙ぐみながらマリエールに言った。
「お嬢様……あの舟が王都に着いたら、きっと辺境は変わりますね」
「ええ。もう“忘れられた地”ではなくなるわ」
マリエールは静かに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
夜。館に戻ったマリエールは帳面を開き、震える手で書き記した。
――「初輸送、王都へ」
――「成功すれば市場拡大」
――「課題:舟の数、航路の安全、護衛の確保」
ペン先が止まる。
胸の奥にまだ不安は残る。
だが同時に、それ以上に強い想いがあった。
「……必要ないと言ったのは、彼ら。
なら私は、必要をこの手でつくる」
窓の外、遠い川の音が聞こえた気がした。
それは、辺境から未来へと流れる鼓動のようだった。
倉庫といっても、まだ粗末な小屋にすぎない。だが、その前には木箱と樽が積まれ、辺境で採れた特産品が並んでいた。
「ルクスベリーの瓶詰め、二十箱」
「干し肉、十樽」
「羊毛の束、五十」
トマスが帳簿に記していく。
村人たちは一つひとつを慎重に荷舟へ積み込んだ。
「これが……辺境から王都へ渡る最初の荷」
マリエールは胸に手を当て、深く息を吸った。
(これが成功すれば、辺境の名は広がる。失敗すれば……すべてが嘲笑に終わる)
◇ ◇ ◇
村の人々は固唾を飲んで見守っていた。
「本当に届くのか?」
「川はまだ危ないんじゃ……」
不安は消えきらない。
そのとき、マリエールは声を張った。
「皆さん、思い出してください。泥に沈んだ道を直したのは誰?」
「……俺たちだ!」
「狼を追い払ったのは誰?」
「俺たちだ!」
「そう。私たちはもう“できない人々”ではありません。
だから――この船も必ず届きます」
沈黙のあと、ざわめきが起こり、やがて小さな拍手が広がった。
◇ ◇ ◇
舟はゆっくりと川を滑り出した。
導流堤が流れを穏やかにし、櫂を操る漕ぎ手の腕に合わせて進んでいく。
岸辺から見守る村人たちは、まるで自分の子を送り出すかのような眼差しを向けていた。
ノラが涙ぐみながらマリエールに言った。
「お嬢様……あの舟が王都に着いたら、きっと辺境は変わりますね」
「ええ。もう“忘れられた地”ではなくなるわ」
マリエールは静かに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
夜。館に戻ったマリエールは帳面を開き、震える手で書き記した。
――「初輸送、王都へ」
――「成功すれば市場拡大」
――「課題:舟の数、航路の安全、護衛の確保」
ペン先が止まる。
胸の奥にまだ不安は残る。
だが同時に、それ以上に強い想いがあった。
「……必要ないと言ったのは、彼ら。
なら私は、必要をこの手でつくる」
窓の外、遠い川の音が聞こえた気がした。
それは、辺境から未来へと流れる鼓動のようだった。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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