太陽と海の子供

風太

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くも

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 ある子供が生まれました。
 
 彼の母は海で、父は太陽でした。

 彼は母に抱かれ、父からぬくもりをもらいすくすくと育ちました。

 しかし、彼は世界を知りません。

 いつも父である太陽から自らが照らしている世界のことを聞いて目を輝かせていました。

 やがて彼がひとりで立って歩けるようになると彼は自身の好奇心を抑えられず母に抱かれていたその腕から逃れ、ひとり、旅に出るのでした。

 
 ひとり旅するこの旅路はとても美しいものでした。

 風がささやき通りすぎ、草木はほほえみそよいでいて、生き物たちは生き生きと息づいています。

 「お父さんの言う通りだ…きらきらしてて心地いい!」

 しばらく進んでいくと大きな湖がおりました。

 この大きな湖を見ていた彼は湖が悲しげな表情をしているのに気づきました。

 どこか母のおもかげを感じた彼は湖を放っておくことはできませんでした。

 「どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」
 
 「ごめんなさい、私はそんな顔をしていたの?」

 それにこくりと頷くと湖は静かに話し出しました。

 「私はね、他のものよりも長生きのようでね。ずっとここを見てきたの。
 この緑がきれいなこの景色もずっと変わらないのよ。
 でもね、生き物や花や草たちの命は私よりずっと短いの。最初はね、仕方ないことなんだなと思って耐えられたんだけど…
 少し前にその子が生まれてからずっと一緒にいた大きな木が枯れて死んでしまって…」

 「ごめんなさいね、心配させてしまったかしら」
 
 しかし、その言葉を受けた彼は不思議そうな顔をしています。

 「ねぇ、“しぬ”ってなに?」

 彼は歩けるようになってまだ間もなく幼い子供なのです。湖をそこまで悲しませた“死ぬ”ということがわかりません。

 そして湖もそれに気づき彼に教えます。

 「そう、あなたはまだ幼いのね。
 “死ぬ”っていうのはね、生きている時間を終えて、この世界とお別れすること。それでもう二度と会えなくなってしまうことよ。」

 それを聞き彼は不安でたまらなくなってしまいました。しかし、涙は流さずその身体に不安を閉じ込めます。

 すると彼の身体は少しずつ少しずつ重くなっていくのでした。
 それでも彼は歩みを止めず旅を続けるのでした。
 
 彼の身体はどんどん重くなっていきましたがそれでも彼は歩みを止めませんでした。

 そんな彼の感情に引きずられているかのように歩を進めるごとに少しずつ寒く、そして青々と豊かだった木々の緑が枯れていき、そして景色に混じるように白く塗りつぶされていき、生き物の姿もどんどん減っていきました。

 とうとう彼はとても寒くて高い場所にたどり着きます。

 ただただ雪が降り積もり地面も真っ白に染まって、いつしか草木は姿を消していました。

 空まで雪の白にとけていくようで白で一面塗りつぶしたかのように他にはなにも見えないように見えました。

「こわいよ…だれかいませんか!」

 彼は精一杯叫びます。しかし返事は帰ってきませんでした。

 彼はさびしくなって何かないか一生懸命探します。

 すると、今より少し高いところに白以外の小さな他の色を見つけました。

 近づいて見てみるとそれは小さな茶色の毛皮の動物でした。

 彼は少し嬉しくなってそれに呼びかけました。

「ねぇねぇ、ここには他にだれかいないの?ぼくに教えて!」

 しかしその動物は横になったまま返事がありませんでした。

 「あれ?寝てるの?…おきて!おきて!」

 彼は繰り返し呼びかけましたがやはり返事はありませんでした。

 よく見るとその動物の毛皮は雪にまみれていてその細い足は凍りついていました。

 そうしてだんだんと静かに雪に飲まれていっていました。

 彼はそんな動物の姿を見て湖の言葉を思い出しました。

「“しぬ”ってこういうことなの…?」

彼はとてもとても悲しくなりそして怖くなりました。

その悲しみと恐怖心は彼の身体をさらに重くさせ、彼の身体はどんどん、どんどんと重くなっていきます。

そしてとうとう、不安と悲しみを抑えきれなくなった彼は泣き出してしまいます。

わんわん、わんわんと涙はあふれて止まりません

身体中を涙に変えてもあふれてあふれて止まらないのです。

涙は凍り、雪になってこの高い場所のてっぺんにパラパラきらきらと降り注いでいきます。

彼の身体は涙になり、雪になり、降り注いで、彼の身体はみるみるうちに小さくなってしぼんでいきました。
 
そうして身体の全てを失うと、青空がひろがっていき、懐かしい父のぬくもり、太陽の光が雪となった彼を照らしていきます。

「よく頑張ったな。さぁお母さんのもとにお帰り」

 父の暖かな温度に包まれて凍りついたその身はさらさらと溶けて水になっていきました。

 そうして彼は来たときよりもゆっくりと同じ道を通って母のもとへ帰ります。

「あら、おかえりなさい。心配したのよ…良かった」

 母はそう言って帰ってきた彼をぎゅっと抱きしめました。

 彼はその柔らかなぬくもりに包まれてすやすやと静かに眠りにつくのでした。
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