1 / 1
くも
しおりを挟む
ある子供が生まれました。
彼の母は海で、父は太陽でした。
彼は母に抱かれ、父からぬくもりをもらいすくすくと育ちました。
しかし、彼は世界を知りません。
いつも父である太陽から自らが照らしている世界のことを聞いて目を輝かせていました。
やがて彼がひとりで立って歩けるようになると彼は自身の好奇心を抑えられず母に抱かれていたその腕から逃れ、ひとり、旅に出るのでした。
ひとり旅するこの旅路はとても美しいものでした。
風がささやき通りすぎ、草木はほほえみそよいでいて、生き物たちは生き生きと息づいています。
「お父さんの言う通りだ…きらきらしてて心地いい!」
しばらく進んでいくと大きな湖がおりました。
この大きな湖を見ていた彼は湖が悲しげな表情をしているのに気づきました。
どこか母のおもかげを感じた彼は湖を放っておくことはできませんでした。
「どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」
「ごめんなさい、私はそんな顔をしていたの?」
それにこくりと頷くと湖は静かに話し出しました。
「私はね、他のものよりも長生きのようでね。ずっとここを見てきたの。
この緑がきれいなこの景色もずっと変わらないのよ。
でもね、生き物や花や草たちの命は私よりずっと短いの。最初はね、仕方ないことなんだなと思って耐えられたんだけど…
少し前にその子が生まれてからずっと一緒にいた大きな木が枯れて死んでしまって…」
「ごめんなさいね、心配させてしまったかしら」
しかし、その言葉を受けた彼は不思議そうな顔をしています。
「ねぇ、“しぬ”ってなに?」
彼は歩けるようになってまだ間もなく幼い子供なのです。湖をそこまで悲しませた“死ぬ”ということがわかりません。
そして湖もそれに気づき彼に教えます。
「そう、あなたはまだ幼いのね。
“死ぬ”っていうのはね、生きている時間を終えて、この世界とお別れすること。それでもう二度と会えなくなってしまうことよ。」
それを聞き彼は不安でたまらなくなってしまいました。しかし、涙は流さずその身体に不安を閉じ込めます。
すると彼の身体は少しずつ少しずつ重くなっていくのでした。
それでも彼は歩みを止めず旅を続けるのでした。
彼の身体はどんどん重くなっていきましたがそれでも彼は歩みを止めませんでした。
そんな彼の感情に引きずられているかのように歩を進めるごとに少しずつ寒く、そして青々と豊かだった木々の緑が枯れていき、そして景色に混じるように白く塗りつぶされていき、生き物の姿もどんどん減っていきました。
とうとう彼はとても寒くて高い場所にたどり着きます。
ただただ雪が降り積もり地面も真っ白に染まって、いつしか草木は姿を消していました。
空まで雪の白にとけていくようで白で一面塗りつぶしたかのように他にはなにも見えないように見えました。
「こわいよ…だれかいませんか!」
彼は精一杯叫びます。しかし返事は帰ってきませんでした。
彼はさびしくなって何かないか一生懸命探します。
すると、今より少し高いところに白以外の小さな他の色を見つけました。
近づいて見てみるとそれは小さな茶色の毛皮の動物でした。
彼は少し嬉しくなってそれに呼びかけました。
「ねぇねぇ、ここには他にだれかいないの?ぼくに教えて!」
しかしその動物は横になったまま返事がありませんでした。
「あれ?寝てるの?…おきて!おきて!」
彼は繰り返し呼びかけましたがやはり返事はありませんでした。
よく見るとその動物の毛皮は雪にまみれていてその細い足は凍りついていました。
そうしてだんだんと静かに雪に飲まれていっていました。
彼はそんな動物の姿を見て湖の言葉を思い出しました。
「“しぬ”ってこういうことなの…?」
彼はとてもとても悲しくなりそして怖くなりました。
その悲しみと恐怖心は彼の身体をさらに重くさせ、彼の身体はどんどん、どんどんと重くなっていきます。
そしてとうとう、不安と悲しみを抑えきれなくなった彼は泣き出してしまいます。
わんわん、わんわんと涙はあふれて止まりません
身体中を涙に変えてもあふれてあふれて止まらないのです。
涙は凍り、雪になってこの高い場所のてっぺんにパラパラきらきらと降り注いでいきます。
彼の身体は涙になり、雪になり、降り注いで、彼の身体はみるみるうちに小さくなってしぼんでいきました。
そうして身体の全てを失うと、青空がひろがっていき、懐かしい父のぬくもり、太陽の光が雪となった彼を照らしていきます。
「よく頑張ったな。さぁお母さんのもとにお帰り」
父の暖かな温度に包まれて凍りついたその身はさらさらと溶けて水になっていきました。
そうして彼は来たときよりもゆっくりと同じ道を通って母のもとへ帰ります。
「あら、おかえりなさい。心配したのよ…良かった」
母はそう言って帰ってきた彼をぎゅっと抱きしめました。
彼はその柔らかなぬくもりに包まれてすやすやと静かに眠りにつくのでした。
彼の母は海で、父は太陽でした。
彼は母に抱かれ、父からぬくもりをもらいすくすくと育ちました。
しかし、彼は世界を知りません。
いつも父である太陽から自らが照らしている世界のことを聞いて目を輝かせていました。
やがて彼がひとりで立って歩けるようになると彼は自身の好奇心を抑えられず母に抱かれていたその腕から逃れ、ひとり、旅に出るのでした。
ひとり旅するこの旅路はとても美しいものでした。
風がささやき通りすぎ、草木はほほえみそよいでいて、生き物たちは生き生きと息づいています。
「お父さんの言う通りだ…きらきらしてて心地いい!」
しばらく進んでいくと大きな湖がおりました。
この大きな湖を見ていた彼は湖が悲しげな表情をしているのに気づきました。
どこか母のおもかげを感じた彼は湖を放っておくことはできませんでした。
「どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」
「ごめんなさい、私はそんな顔をしていたの?」
それにこくりと頷くと湖は静かに話し出しました。
「私はね、他のものよりも長生きのようでね。ずっとここを見てきたの。
この緑がきれいなこの景色もずっと変わらないのよ。
でもね、生き物や花や草たちの命は私よりずっと短いの。最初はね、仕方ないことなんだなと思って耐えられたんだけど…
少し前にその子が生まれてからずっと一緒にいた大きな木が枯れて死んでしまって…」
「ごめんなさいね、心配させてしまったかしら」
しかし、その言葉を受けた彼は不思議そうな顔をしています。
「ねぇ、“しぬ”ってなに?」
彼は歩けるようになってまだ間もなく幼い子供なのです。湖をそこまで悲しませた“死ぬ”ということがわかりません。
そして湖もそれに気づき彼に教えます。
「そう、あなたはまだ幼いのね。
“死ぬ”っていうのはね、生きている時間を終えて、この世界とお別れすること。それでもう二度と会えなくなってしまうことよ。」
それを聞き彼は不安でたまらなくなってしまいました。しかし、涙は流さずその身体に不安を閉じ込めます。
すると彼の身体は少しずつ少しずつ重くなっていくのでした。
それでも彼は歩みを止めず旅を続けるのでした。
彼の身体はどんどん重くなっていきましたがそれでも彼は歩みを止めませんでした。
そんな彼の感情に引きずられているかのように歩を進めるごとに少しずつ寒く、そして青々と豊かだった木々の緑が枯れていき、そして景色に混じるように白く塗りつぶされていき、生き物の姿もどんどん減っていきました。
とうとう彼はとても寒くて高い場所にたどり着きます。
ただただ雪が降り積もり地面も真っ白に染まって、いつしか草木は姿を消していました。
空まで雪の白にとけていくようで白で一面塗りつぶしたかのように他にはなにも見えないように見えました。
「こわいよ…だれかいませんか!」
彼は精一杯叫びます。しかし返事は帰ってきませんでした。
彼はさびしくなって何かないか一生懸命探します。
すると、今より少し高いところに白以外の小さな他の色を見つけました。
近づいて見てみるとそれは小さな茶色の毛皮の動物でした。
彼は少し嬉しくなってそれに呼びかけました。
「ねぇねぇ、ここには他にだれかいないの?ぼくに教えて!」
しかしその動物は横になったまま返事がありませんでした。
「あれ?寝てるの?…おきて!おきて!」
彼は繰り返し呼びかけましたがやはり返事はありませんでした。
よく見るとその動物の毛皮は雪にまみれていてその細い足は凍りついていました。
そうしてだんだんと静かに雪に飲まれていっていました。
彼はそんな動物の姿を見て湖の言葉を思い出しました。
「“しぬ”ってこういうことなの…?」
彼はとてもとても悲しくなりそして怖くなりました。
その悲しみと恐怖心は彼の身体をさらに重くさせ、彼の身体はどんどん、どんどんと重くなっていきます。
そしてとうとう、不安と悲しみを抑えきれなくなった彼は泣き出してしまいます。
わんわん、わんわんと涙はあふれて止まりません
身体中を涙に変えてもあふれてあふれて止まらないのです。
涙は凍り、雪になってこの高い場所のてっぺんにパラパラきらきらと降り注いでいきます。
彼の身体は涙になり、雪になり、降り注いで、彼の身体はみるみるうちに小さくなってしぼんでいきました。
そうして身体の全てを失うと、青空がひろがっていき、懐かしい父のぬくもり、太陽の光が雪となった彼を照らしていきます。
「よく頑張ったな。さぁお母さんのもとにお帰り」
父の暖かな温度に包まれて凍りついたその身はさらさらと溶けて水になっていきました。
そうして彼は来たときよりもゆっくりと同じ道を通って母のもとへ帰ります。
「あら、おかえりなさい。心配したのよ…良かった」
母はそう言って帰ってきた彼をぎゅっと抱きしめました。
彼はその柔らかなぬくもりに包まれてすやすやと静かに眠りにつくのでした。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
かつて聖女は悪女と呼ばれていた
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」
この聖女、悪女よりもタチが悪い!?
悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!!
聖女が華麗にざまぁします♪
※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨
※ 悪女視点と聖女視点があります。
※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
そうして、女の子は人形へ戻ってしまいました。
桗梛葉 (たなは)
児童書・童話
神様がある日人形を作りました。
それは女の子の人形で、あまりに上手にできていたので神様はその人形に命を与える事にしました。
でも笑わないその子はやっぱりお人形だと言われました。
そこで神様は心に1つの袋をあげたのです。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる