灯り売り

風太

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灯り売り

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 お日さまの灯りも届かずいつになっても夜の明けない暗い街がありました。

 そんな街の暗さはいつしか、街の人々の心さえも暗く閉ざしてしまっていたのでした。

 ある時そんな街にランプ、電灯、ろうそく…とたくさんの灯りを背負った男がやって来ました。

「とても暗い街!こんな街には灯りが御入り用でしょう!」

 そう言って背負っていたランプを持ち街を回っていたるところに取りつけました。

 しかし、暗く閉ざされた人々の視線は冷ややかなものでした。

「勝手にランプなぞつけおって…こんなもの邪魔なだけだ」

「なにあの人…怖い」

「気持ち悪いんだよ…とっととどっか行ってくれ」

 しかし彼はそんな人々の視線などどこ吹く風といわんばかりの笑顔で街中をランプで飾りつけて行きます。

 ついに彼は街中をランプで飾りつけ暗闇に閉ざされた街は光輝く街へと変わったのでした。

 しかし、それでも人々の心は変わる気配を見せないのでした。

 そこで彼は、いちばん派手にランプを飾りつけた場所へ向かい高らかにこう謳います。

「お日さまの昇らぬこの街をもっと明るく照らして見せましょう!」

 そう言って飾りつけたランプの灯りを一度全て落とすと彼は自分の持っていたランプやろうそく、電灯、火…様々な灯りを使ったショーを始めました。

 ライトを手に持ち暗闇の中で光が舞うダンス、飾りつけたランプを自在に操り幻想的な世界を作り出すライトアップショー、暗闇の中に世界を写す投影パフォーマンス。あるいは光の中に影で物語を描く影絵劇。

 しかし人々はそんな彼を冷たい目で一瞥するとなにも見なかったという風に通りすぎるのでした。

 それでもめげずに彼はショーを続けます。時折失敗しその失敗でさえも目もくれない人々。そんな中でも彼は笑顔を崩すことはありませんでした。

 しばらくすると彼は大きな失敗をしてしまいます。それは松明ジャグリングの最中でした。
 手を滑らせて松明の火が彼の服に燃え移ってしまったのです。

「あっ熱いっ!皮膚が焼けるぅ!」

 灯りのプロフェッショナルである彼も流石の連続ショーには疲れがたまっていたのでしょうか…それとも単に彼の技術にあまるショーをしてしまったのでしょうか…。真偽のほどは定かではありませんがこれには流石の彼も大慌て。火を消すために傍らにおいていた水をはったバケツを自らの上にひっくり返します。

「うぅっ…さぶっ」
「…ぷふっ」

 そんな彼の一部始終を見ていた少女が彼を見てついに吹き出したのです!彼がこの街に来て初めて見たこの街の人の笑顔でした。
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