┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 13

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「おはようございます、ハマル様。入浴をされるのですか?」

 顔を洗うついでにシャワーも浴びてしまおうか。仕事用に着回している衣服をあさっていると、唐突に声をかけられた。
 気配も足音もなかった。心臓が跳ね、一瞬だけ呼吸が乱れる。すぐに冷静を装ったが、心臓と連携して肩が動いたかもしれない。
 つまった呼吸をため息に似せて吐き出してからハマルは振り返った。

「お前、まだいたのか」

 真うしろにズベンが立っている。かなり近い。手を持ち上げたら接触してしまうほどに。

「はい。一宿一飯の恩を返さずに辞すのは執事の名折れ。風上にも置けませんから」

 薄い笑みを浮かべた彼は、普段通りの執事姿だ。クリーニングに出した服が戻ってきたのか、それとも予備でも持ち歩いているのか。まさか一度帰宅し、着替えてわざわざ戻ってきたわけではあるまい。

「恩、とか、そういうのは不要だ。礼を返し返されても困る」

 寝室を出て風呂場へと向かう。部屋の中では最奥に位置する寝室とは真逆に、風呂場は玄関にほど近い場所にあった。行き来するには必ずリビングを通る必要がある。
 昨日に続き、半歩うしろをついてくるこの腐れ縁を追い出すにもちょうどいい。冷たい床を迷いなく歩いていたハマルは、あと少しというところで足を止めるはめになった。

「そういうわけには参りません。ようやくご主人様に多大な慈悲を分け与えていただけたのですから」

「は?」

 ズベンの目にからかいの色はない。ハマルをまっすぐに見つめる視線には形容しがたい熱がこもっている。

「お前を雇った覚えも主人になった覚えもないが」

「ええ。今後貴方がご自身の意思で私の主になってくださらないことは承知しております」

 一層深く唇をつり上げている。笑みをかたどっているのに、笑顔とは思えない薄ら寒い表情。

「ですから、先に既成事実を作ってしまおうと思いまして」

 壁にかかった姿見。鏡面越しに見る伸ばされた腕。

「貴方は自分で思っている以上に優しく、お人好しで、誠実だ。たとえそれが人の手で強引に作られたものだとしても、一度認めてしまえば捨ておけない。あらがえない」

 指先が腹にまとわりついた。片手は裾をめくり上げて心臓のあたりを撫でさすり、もう片手はベルトがないせいで腰まわりがゆるい下衣にもぐりこみ、輪郭を辿る。──ゾク。背筋が粟立って止まない。

「何人たりとも暴くことを許されない心の奥底、固く閉ざされたやわらかな扉の向こう側。そこに私を受け入れるだけでいいのです。私は貴方の忠実なるしもべ。貴方を苦しめる障害を取り除き、必ずや望みを捧げましょう」

 ささやきを吐息とともに吹きこまれる。鏡に映る抱きこまれて密着した姿は、まるで恋人たちのように甘ったるい。

「私を受け入れたあかつきには、手始めに貴方の体を隅々まで愛撫して差し上げます。なめらかな肌を泡で覆って、凝り固まった身を優しく揉みしだいて」

 首から上だけを振り返らせているハマルにせまるズベンの顔。グラデーションがかかって美しい多彩色の双眸に視界を占領される。

「ああ、湯に浸からせるだけでは生ぬるい! 物足りなくなるほどにこの手で、舌で、私自身を持って心をもとろけさせる至福の一時をごらんにいれましょう」

 ズベンの言葉が麻薬のように染みこんでいく。脳がジンと痺れて、言葉の意味を解そうとする思考を鈍らせた。

「お望みとあらば、永遠に」

 すべてをかなぐり捨てて目の前の男にゆだねてしまえばいい。そう、そそのかされていた。
 ハマルは重い両腕を持ち上げた。唇を震わせる。近すぎて焦点が定まらない誘惑者を見つめ、そして──。





「帰れ」

 間近だった玄関の扉を開き、背負い投げの要領で背後の腐れ縁を放り出した。もぐりこまれる前にすばやく閉め、鍵と、普段は滅多にかけないチェーンロックまで施す。その場に第三者がいたら思わず拍手喝采するような手際のよさだった。
 ドンドンドンドン、激しく扉を叩く音が響く。

「ひどい! あんまりです! ただ貴方に尽くしたいだけの健気な私になんという冷たい仕打ち!」

「うるさい、だれが健気だ! 寝言は寝てから言え! それに俺はなんでもかんでも手を出されて世話されるのが一番嫌いだと言っただろう! 近所迷惑だ、さっさと帰れ!」

 別れた彼女に未練をたっぷりと引きずっている彼氏のように、みっともなくすがりついている方が執事の名折れじゃないのか。次々と並べ立てられる言葉の数々には何度目かも覚えていないあきれが浮かぶ。
 一々聞いていたらきりがないので、ハマルはさっさとズベンを見捨てることにした。脱衣所に入り、豪快に服を脱ぐ。むだに時間を消費してしまった……。


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