┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

文字の大きさ
14 / 40

それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 14

しおりを挟む


 入浴を終え、濡れた髪をタオルで雑にぬぐいながら風呂場に併設されている洗面所へと移動する。
 鏡の前に立ち、目の下にコンシーラーを塗布した。珍しくぐっすりと眠ったからか、隈が昨日よりも薄い。これなら厚塗りしなくてもよさそうだ。
 ちなみに目尻に入っている目張りは刺青のようなものであり、洗顔をしても落ちないようになっている。わざわざ紅を差さなくてもいいところが楽だ。
 髪の水気もあらかたタオルに吸わせたので、手指で梳いてから左の一房を編みこんだ。ゆるく交差する髪の毛の先、結んだ髪紐にスートジュエルを引っかける。いつも通りの髪型。
 脱衣所に置いてある洗濯機に、使用済みの濡れたタオルと脱ぎちらかしていた衣服をまとめてつっこんだ。面倒なので生地の選り分けはしない。洗剤は目分量で入れる。……大雑把すぎる? 問題ない。
 朝食はどうするか。常より冴えた思考を巡らせる。昨夜の味噌汁は残っているだろうか。
 ズベンが言った「一宿」が気になる。飛び抜けて美味しい味ではないはずなのに、彼は昔からハマルが作った料理をすべて食べたがる節があった。まるで他のだれにもくれてやらないとばかりに。
 まだ余っているならあたためる。米をひたして食べると楽だし手っ取り早い。が……。
 いや。即座に打ち消した。米を炊いていなかった。かわりになりそうな炭水化物……パンはあっただろうか。

「入浴、お疲れ様でした。朝食の準備はできておりますよ」

 リビングに足を踏み入れた瞬間、聞き覚えのありすぎる声が耳に入ってきた。ズベンだ。入浴前に追い出した腐れ縁が、我が物顔で食器を運んでいる。

「……お前」

 どうやって入った、などと訊くのは愚問だ。この万能執事は、やろうと思えば開錠も朝飯前である。無論、合鍵で開けるといった正規の方法ではない。
 ピッキングだ。証拠を残さず、こじ開けた形跡もつけず。チェーンロックも得意属性の重力を活かせば、外からでもたやすくはずすことができるだろう。

「帰れと言っただろう」

「ええ。お言葉に従って一度は帰らせていただきました」

 音を立てず、慣れた手つきで食器を並べる。

「その上で食材とともに再び馳せ参じた次第でございます。──よろしいでしょう?」

 唇に浮かべた薄い笑み。ローテーブルの上のセッティングは終わっていた。食欲をそそる香ばしい匂いが湯気とともに漂う。あとは着席を待つ、とばかりの整えられた光景。
 ハマルは口をつぐんだ。やられた。帰れ、とさんざん言い含めてはきたが、その後に来るなとは言っていない。そもそも、邪険に扱った者の家に手土産を持って来訪し直そうと思うだろうか? 少なくともハマルは思わない。こちらから願い下げだと切り捨てる。

「どうぞ、お席へ」

 優雅な手つきでソファーを示された。こうなったらなにを言っても居座るだろう。指示に従っておとなしく食事をし、家を出る際に別れた方が早そうだ。
 だが黙っている気もない。腰かけながら、ハマルは隣を叩いた。

「座るならお前もだ、ズベン」

「よろしいので?」

「よろしいもなにも、こんなにたくさんの量を俺一人で食べきれるわけがないだろう」

 カリカリに焼かれた表面にたっぷりとバターをぬったトースト。黄色い粒が見え隠れする乳白色のコーンスープ。スライスされたゆで卵にベーコン、トマトが散りばめられた新鮮なレタスのサラダ。たったそれだけのシンプルなメニューだが、ローテーブルのガラス板上に展開された量はどう見ても一人用ではない。

「余らせて捨てる気もない。もったいないしな。作ったお前が責任を持って半分以上食べろ」

「……かしこまりました。謹んでお受けいたします」

 ギシ、ソファーの座面が軋みながらわずかに傾いて沈んだ。

「それではいただきましょうか」

 さりげなく腰に回された腕は掴んで放った。密着されると食べにくいことこの上ない。
 インスタントの類が一切使われていない、手作りの味。そうとわかったのは、どれも舌触りや繊細な味が口に合いすぎたからだった。味つけがあまりにも好みに傾いている。
 しかしどれほど美味しくても胃の許容量には限度がある。結局三分の一も手がつけられないまま満腹を迎えてしまった。

「お気に召されたようで光栄でございます」

 サラダをつつくための箸を置くと、喉を鳴らす音が静かに聞こえた。

「しかし、昨日スピカ様のお店でも思いましたが……ハマル様は食が細すぎますね。これでは不届者に囲まれたら、その細い肢体をたやすく抑えられそうです。いささか不安になりますね」

「余計な心配をしていないで、お前も早く食べろ」

 なにがおもしろいのか、ズベンはただハマルが黙々と食事を進めている様子をじっと見つめていただけだった。カトラリーすら持っておらず、これではわざわざ隣に座らせた意味がない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...