┌(┌^o^)┐ の箱庭

シュンコウ

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それくらいで済んでよかったね@(まだ)健全 17

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 人なつっこいというか、出演者であればだれに対しても気安い監督は続いてハマルとも握手をかわそうとし、その背後に立つズベンに気づいてヒェッと空気が抜けるような悲鳴を上げた。

「ど、どちら様? ってあれ。もしかして、あのズベン・エル・ゲヌビくん?」

「はい、そうです。ご存知いただいているようで大変光栄です」

 名を当てられたズベンは折り目正しく腰を折った。男の困惑する雰囲気に仕方なく口を添える。

「監督、すまないがこいつを見学させても? 余計なことや収録の邪魔は一切させない」

「も、もちろん問題はないですぞ」

 考えるそぶりもなくこくこくと頷いた監督は、あっと機材がある方を指さした。

「でしたらこっちじゃなくて向こうの方がいいですな。機材に指一本触れないと約束できるなら、出演者の生の声をリアルタイムでお届けしますぞ」

「ぜひお願いします」

 食い気味にズベン。

「ハマル様の名にかけてお約束を厳守いたしますので」

「あははっ、なにかやらかしたらボクが弓矢の錆にしてあげるから監督は安心してていーよ!」

 じゃ、そろそろ時間だし行こ! 監督とズベンの背を押して左側に向かうルクバトの誘導術は流れるようだ。彼も監督側の業務、状況に応じた機材を扱う方である。
 見送る必要はない。ハマルもすぐに反対側へと足を踏み入れた。席は一つを除いて埋まっている。真ん中の空席。そこがハマルに与えられた指定席だ。
 ハマルの姿を認識した出演者たちから次々と挨拶が飛んでくる。一声だけを返し、椅子の座面に置かれた台本を手に取って腰かけた。
 足を組み、中身を確認する。薄っぺらい紙の束は毎回記載内容が違うので、潤滑にことを進めるためにも一度は目を通しておかなければならない。

「ハマルさん、今日もがんばろうね!」

 ハマルの無愛想さは有名だ。親しく声をかけてもほとんど取り合わないことをみなよく知っている。仲が深まりにくいと縁をつなぐこと自体をあきらめ、大多数が挨拶や業務に関わる質問以外を口にしなくなる。が、当然例外もいるもので。
 右側から一声かけてきた少年もそうだ。桃色のストレートヘアを揺らし、愛嬌のある笑顔で臆せずハマルに話しかける。

「ああ」

 生返事に近い雑な返答でもにこにことした表情は崩れない。台本について一言、二言とさらに言葉を重ねてくる。
 これが若さゆえのコミュ力、というものか。台本のページをめくりつつ、ルクバトや歌手としての仕事の時によく鉢合わせるパフォーマーの青年レグルスを脳裏に並べる。共通するのはおしゃべりでにぎやかというタイプ。時々疑問に思うのだが、話し下手で聞き手に徹する自分と話していて楽しいのだろうか。
 ザザ、天井の片隅に設置されたスピーカーから入力をオンにした時特有のノイズが走った。続いて明瞭な声が流れる。

『それでは収録を開始いたします。みなさま、準備はよろしいでしょうか?』

 いつもは監督がかける始まりの合図を、なぜかズベンが担当していた。聞き慣れない声に、出演者たちから困惑した空気が生まれる。
 だがそこはプロの集団。雰囲気がざわついたのはほんの数分で、いざ本番に入るまでにとまどいの声をあげて妨害する者は一人もいなかった。





 ここでのハマルの業務とは、音色を奏で、旋律に乗せて詞を紡ぐ歌唱ではない。まるで本物の生き物のように、しかし現実とは異なった表現が諸所に組みこまれた二次元のキャラクターたち。シナリオ通りに動く彼ら彼女らに声を、セリフを当てることでより一層の躍動感を与える、ご存知声優のお仕事である。
 ハマルが担当するのは視聴率がかなり高めのとあるラブコメアニメ。ラッキースケベに見舞われる主人公に振り回されるツンデレヒロインだ。
 なぜ女キャラのボイスにまごうことなき男である自分を抜擢した。呆れを抱いたのはこのアニメよりもずっと前、ルクバトが持ってきて一方的に押しつけていったはじめての声優業の時である。
 音域の限界値が高音を軽々と越し、だれよりも女性の声に近いという至極真っ当な理由ゆえ。女が一切いない世界ということもあって一応の納得はしたが、こうも毎回女性キャラクターのオファーが続くとやる気も低迷するばかりである。声業のプロであること、そして一度引き受けたからには棒読みや下手な演技はプライドが許さないので真面目に取り組みはするが。

『休憩にしましょう。みなさま、お疲れ様です』

 しゃべり続けていれば喉が渇く。渇いたままにしておくと喉を痛め、後々の進行に支障が出る。この場に関わるだれもがそれをしっかりと理解しているので、収録中ではきりがいいところで休憩が入るようになっていた。フロアを一階分借りきっているだけの小さなスタジオではあるが、声優たちを気遣えるよいスタッフが集まっているところは好評価だ。


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