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湖城での療養 十二
しおりを挟む血の気がざっと引き、臓腑がひやりと冷たくなる。機嫌を損ねてしまった。やはり罪人となった身分では……。
「他人行儀はなりませんよ。私達の仲なのですから」
どんどん悪い方へと沈んでいくキリエの思考に歯止めをかけたのは国王の言葉だった。
「え?」
目を丸くする。そうするとますますしかめっ面になっていく、が。
「こういう時は『ただいま』と言うべきでしょう。あなたは私達サプフィールの民にとって、家族同然なのですからね」
表情とは真逆に、かけられる言葉は偽りなきあたたかさに満ちていた。嫌悪からくる声音では絶対に表現できない。
「ほら、キリエちゃん。『ただいま』は?」
「……キリエ、言ってやれ。こうなった母上はしつこいし、いつまでも解放されないぞ」
そっとアルシュの手が背中をさすった。
……いい、のだろうか。キリエは葛藤した。すでに王子の身分をなくした自分が、この国の最高権力者に対してこの言葉を使っても。
彼らの言葉に応じたい気持ちと、無礼かもしれないという怖れ。相反する二つの感情に板挟みになる。もし、その言葉を口にして不敬罪を言い渡され、罪人として牢に繋がれたり処刑されてしまったら?
キリエはそっと拳を握りしめた。気持ちを、言葉を疑う。それ自体が彼らへの侮蔑ではないか。それに、疑うくらいなら一生日の目を見れない人生を送った方がいい。
「…………た、」
「た?」
「………………………………ただ、いま…………戻りました……」
勇気を振り絞った声は、極端に小さかった。ぽつりとしていて、もしかしたら聞こえにくかったかもしれない。
しかししっかりと国王の耳に届いていたようで。
「おかえりなさい、キリエちゃん。あなたが帰ってくるのを、ずっと心待ちにしていましたよ」
そっと頭部を抱かれ、髪を撫でられる。亡き母のように優しい手。
鼻の奥がツンと痛み、目に熱がこみ上げるのを、歯を食いしばって堪えた。
いい意味で予想を裏切られた。心身を支配し、凍てつかせている氷塊の一つが溶けていく。
その名残が涙となって現れようとしていたが、さすがに一国の王の前で泣くのはよろしくない。一応、キリエにもまだ矜恃が残っている。
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