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湖城での療養 十三
しおりを挟む「さて、あなたを呼んだ本題ですが」
椅子を勧められ、アルシュと二人並んで腰かけたあと。
手ずからポットの中身を注ぎながら国王が切り出す。カップに満ちていくのは、香ばしい匂いを漂わせる紅茶だ。
陛下にそんなことをさせるわけには、と慌ててキリエが変わろうとしたが、しかめっ面で却下された。彼がそんな表情をする時は、大体が拗ねているらしいことを知ってしまった。
「キリエの顔が見たいだけのわがままじゃなかったのか」
器からつまみ上げた角砂糖を数個放りこみ、かき混ぜながらアルシュがぽつりと呟く。角砂糖の投下場所は、キリエのカップだ。
キリエが甘党であると知っているアルシュは、同席の場だとごく自然にキリエの好みの甘さを作る。さすがに体裁が悪いので過去に何度も止めたのだが、結局現在に至るまでずるずると引き続いてしまっていた。アルシュ本人は無糖派で、あまり甘い物は好まない。
「アルシュは少し、お黙りなさい」
にっこり笑顔とは真逆、圧力を感じる言葉だった。慣れているらしいアルシュは、肩をすくめてはいはい、と軽く流しただけだったが。
「キリエちゃん。あなたの身に置かれた状況は、そこの愚子から聞いています。一途な想いを捧げていた婚約者に裏切られ、クレド王に罪を着せられて罪人に貶められた、と」
「……はい」
やはり彼の耳に入っていた。覚悟していたこととはいえ、実際に話を持ち出されると恐怖が過ぎる。
ちなみにクレドとはカルブンクルス現国王、キリエの兄の名前だ。
「まだるっこしいのはめんど……嫌いなのではっきりと告げておきますが、今のあなたの状況は非常に危ういものです。盟友国間にて取り交わされている外交条約の内容は、あなたもご存知でしょう」
「……罪人が他国に逃亡した場合、要求依頼に応じて速やかに引き渡す、というものですね?」
他国との貿易や外交は、祖国にいた時にキリエが責任者をつとめていた仕事の一つだった。業務内容に関わる事柄は、深浅関係なくしっかりと頭に叩きこんである。
「ええ。カルブンクルスにとって、あなたは国から逃亡した罪人。そこの愚子に拐かされたという事実は無関係と見做され、一切考慮されません」
国王の発言の先が読み取れ、キリエは目を伏せた。
いかにサプフィール国王自らがキリエを歓迎し、匿うと断言しても。カルブンクルスから身柄の引き渡しを要求されたら条約に従い、キリエを差し出さなければならない。そう言うことだ。
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