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親と子の対談 五
しおりを挟む「母上」
「案ずるな。すでにさぐらせている」
行動が早い。助かる、とアルシュは頭を下げた。賢王の名は伊達ではない。
男に関しては、現時点でこれ以上に打てる手はない。母が放った諜報の者が、正確な情報を持ち帰るまで待つのみだ。
「最後の質問だ」
背筋が凍るような鋭い眼差しがアルシュに定まる。
「──アルシュ。『光の乙女』の言葉通り、婚約中のキリエ王子と不貞に耽ってはいまいな?」
「それはキリエと、私に対する侮辱か?」
ぞわりと走る冷たい感覚に屈せず、負けじと睨みを返した。
愛しい婚約者に全幅の愛情を注ぎ、努力し続けたキリエを穿った見方で否定し、ばかばかしい妄言で踏みにじるような輩は、例え親でも許さない。幼馴染として、親友として。
ふ、と母の雰囲気がやわらいだ。
「よろしい。それでこそ、私の子です」
唇にたたえられた誇らしげな笑み。アルシュは目頭を指で揉んだ。
尋問は終わりのようだ。こういう時の母の相手は疲れる。
「引き継ぎは以上です。堅苦しい話はここまでにしましょうか」
「引き継ぎ」とはよく言ったものだ。
アルシュは母の持ち出した「引き継ぎ」という言葉が方便であるとすでに気づいている。
カルブンクルスに滞在する前に仕事は前倒しで片付けてあるし、両親に権利を預けたそれらの中に長期間引きずるような重い内容はない。
すべては一連の会話をキリエの耳に入れないためだ。当事者だから交えるべきだろうが、今のキリエには負担が大きすぎる。せめてエメのことを半分くらい振りきっていなければ、余計に苦しめる状況に追いこんでしまうだろう。
サプフィールの民として迎え入れたからには、いずれアルシュの仕事の一片にでも関わることになる。今は、何の気兼ねもなく傷ついた心を癒してほしい。
「なら……」
立ち上がりかけたアルシュの手が、母に掴まれた。
にっこりと満面の笑み。
「そ・れ・よ・り・も。せっかくどこぞのアバズレがキリエちゃんを振ってくれたのだから、全力でキリエちゃんを口説き落としなさいね」
「は?」
突然何を言い出すのか、この人は。
「せめて恋愛対象として意識されるくらいにはがんばりなさい。キリエちゃんたら、まったくあなたの事を意識していないみたいだし。せっかく『アルシュの許婚にする』という微笑ましい話まで振ったというのに」
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