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親と子の対談 六
しおりを挟む「ああ、あれか……」
顔を手で覆っていたキリエの反応を思い出し、アルシュはため息をついた。
「あれは多分、情報過多で処理が追いついていなかっただけだと思うぞ」
キリエには、予想もしていなかった大きな情報や事態を前にすると、思考が停止してしまう変な癖がある。許婚云々の話のくだりも、おそらくすでに記憶から押し流されて、意識には留まっていないだろう。
「要らぬ遠慮をされないようにあらかじめ伝えておきますが、パパもママもあなたとキリエちゃんの恋愛は大歓迎です。いいえ、むしろ絶対にキリエちゃんを口説き落として娶りなさい。国王命令です」
「そんなものに権力を使うのはやめてくれ。キリエが誰を選ぶかは、キリエ自身が決めることだ」
この先キリエとの関係がどう転がるかはキリエの心次第だ。アルシュ自身の本音としては、キリエを伴侶に迎えるのはやぶさかではないが。
母の手から解放された。今度こそ退室してもよいだろう。
キリエを中庭に案内している侍女ソルシエールは、元々アルシュの世話役についていた者だ。信頼がないわけではないが、キリエに激しく傾倒していることと、今の情緒不安定なキリエから目を離したままにしておくのはかなりの不安がある。
心配になってきた。合流しようと席を立ったアルシュは、ふと浮かんだ些細な疑問を母にぶつけた。
「ところで母上、なぜ男性の姿に?」
頼まれでもしないかぎり、ほぼ男性体を取るアルシュとは真逆に、母は女性体でいることが多い。特に身内以外の者を相手にする時は、必ずといっていいほど女王としての貫禄を見せつける。
あら、と小首を傾げる仕草。
「心の底から傷ついて弱った男性は、包容力と母性にあふれた女性の優しい言動に弱いものですよ。女性のままキリエちゃんに接して、キリエちゃんが私に恋慕の念を抱いてしまったらどうするのですか? 困るのはアルシュ、あなたですよ」
「いや、それはないと思う……」
キリエが人妻、それも二回りも年上の熟女に横恋慕するような性癖を持っているとは考えたくない。
緩く首を振って否定してから、アルシュは今度こそ退室を果たした。はやくキリエに会って心労を癒されたい。
母とは異なり、裏を読み合う必要など一切ない幼馴染のやわらかでひかえめな笑顔を脳裏に描きながら、回廊に満ちた浅い水に足を浸した。
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