34 / 44
湖城での療養 十八
しおりを挟む「こっちです、こっち!」
「ま、待って。もう少しゆっくり歩いても、いいかな?」
早く中庭に案内したいのだろう。途中で腕を取られ、ぐいぐい引っぱっていくソルシエールにキリエは苦笑いを浮かべた。
かつては歩き慣れていた場所とはいえ、他人のペース、それも自身の速度を上回る速さで引き回されるのは少々怖い。いきおい余って滑ってしまいそうだ。
当然、男のキリエの方がソルシエールより長身であるし重い。自分一人で転ぶだけならキリエだけが恥ずかしい思いと痛みを一時味わうだけだが、この体勢だと彼女まで巻きこんでしまう可能性がある。
己が原因で女性に怪我を負わせるなど言語道断だ。彼女が許しても、自分自身が許さない。
「わわっ、ごめんなさい! つい、はりきりすぎちゃって……!」
キリエの声音に隠された困惑に気づき、少女は慌てて速度を緩めた。ぱしゃぱしゃと跳ねるようだった水音が、水の中をなでるような静かでくぐもった音に落ち着く。
「ありがとう」
すぐに歩きやすい速度へ変えてくれたことに礼を言う。ソルシエールはキリエの腕を掴んだまま、空いたもう片手で顔を覆った。
「怒らない優しさとか困った表情が尊すぎる……」
「?」
呟かれた声は小さすぎて聞き取れなかった。
いえ、なんでもないです! 元気よく返し、やはりソルシエールが先陣をきる。
目的の中庭は、国王の部屋から少々離れた位置にある。アルシュの部屋からも遠い。
途中で段差を一段分降りたからか、足首のあたりまでしかなかった水嵩がふくらはぎの半ば近くまで届いていた。
キリエが着用している衣服はアルシュからの借り物だ。濡らすわけにはいかない。
慌てて裾を膝近くまで持ち上げる。一方のソルシエールは、躊躇なくくるぶしまである侍女服のスカートを水に浸らせていた。
「キリエ様。その服、アルシュ様のですよね。すぐに乾く仕様になっているので、濡らしても大丈夫ですよ? 白くて綺麗なおみ足が合法で見られるのは、私としては垂涎もののご褒美ですけど」
「借り物だからこそ、あまり汚したくなくてね……」
服の持ち主をたやすく見抜かれたことに驚きつつ、本音を告げる。
この服が自分の物であれば、濡れるのもいとわない。しかし借りている物となれば話は別だ。
水と住み、親しんできた幼馴染の衣類が、当然環境に適した服で。濡れることを前提とした造りであっても、やはり勝手に水路に浸すのは借りた者としての矜恃が許さないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。
Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。
女の子に間違われる地味男子――白雲凪。
俺に与えられた役目はひとつ。
彼女を、学校へ連れて行くこと。
騒動になれば退学。
体育祭までに通わせられなくても退学。
成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。
距離は近い。
でも、心は遠い。
甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。
それでも――
俺は彼女の手を引く。
退学リミット付き登校ミッションから始まる、
国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる