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湖城での療養 二十一
しおりを挟む「び、びっくりした……。アルシュか……」
「ふ。気配を殺して近寄ったつもりはないが」
キリエの肩に置いた手をそのままに身を寄せ、くすりと笑みを浮かべるアルシュ。腕に当たったやわらかな感触の正体に気づき、キリエはほのかに頬を赤らめた。
アルシュの体は起床後から着替えの合間の時のように女性体となっていた。身にまとう衣類は先ほどと変わらないのに、押し上げる胸の膨らみによる窮屈そうな様子は微塵もない。もともとゆったりとした衣装だが、いつどちらの性別に変化しても困らないように伸縮性に富んだ生地を使用しているのだろう。
サプフィール人ではないキリエには縁のない話だが、他人の目の前で性別を変えるのは恥ずかしいことであるらしい。親子きょうだいの間柄でも同様らしいので、国王の部屋を退室した後にでも変化したのだろう。
「それで? またエメのことでも思い出していたのか?」
アルシュの指が顔へと伸びた。ハンカチ越しに目元を撫でる。
「いや、これは……」
否定しようとして、言い淀んだ。
伴侶と幸せそうに過ごすアルシュを思い浮かべて嫉妬した、なんて。幼馴染として、親友として、盛大に世話になっている身として、抱いてはならない恩知らずな思いを抱えたことをどうして本人に言えよう。
自覚した暗い感情が後ろめたくてそっと目を逸らす。その先にいたのはソルシエールだ。
「キリエ様、アルシュ様! お食事の用意がありますので、お邪魔虫はこれで失礼しますね!」
目が合うや否や、きびきびとした動作で敬礼された。
「キリエ様、ファイトですよ! 人払いは済ませておきますので、たっぷり逢瀬を楽しんでくださいね!」
「えっ。あ……っ」
こそっと耳打ちされた言葉。その真意を問う前に、では、と元気よく去っていってしまった。
ぱしゃぱしゃと水音が遠退く間もなく、アルシュの指に力がこもる。強引に己の方へ、顔ごとキリエの視線を向けさせた。
「で、理由は?」
真正面からじっと注がれる、探るような視線。
何が琴線に触れたのかはわからないが、とにかく原因を追求したいらしい。こうなったアルシュはなかなか引かない。
困った。どう答えればいい?
素直に告げるべきか、ごまかすべきか。目線を泳がせていると、ため息が聞こえてきた。
「そこまでためらうようなことを、ソルシエールに言われたか? もしくは、彼女から嫌がらせを受けたか」
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