幼馴染の王子が某令嬢に婚約を破棄されて自害しかけたので、

シュンコウ

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湖城での療養 二十二

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 聞き捨てならない言葉だ。キリエは合わせづらかったはずの目をしっかりとアルシュに定め、冷たい響きを含んだ疑いを即座に否定した。


「違う。彼女は関係ない」


 彼女が教えてくれた虹蓮の言い伝えを耳にして、キリエ自身も気づかない内に心の奥底でひっそりと育っていた感情を自覚したのは事実だ。しかし彼女の言葉はただのきっかけに過ぎず、断じてソルシエールに非はない。
 突然サプフィールにやってきた、どの面を見ても厄介者である自分。国王の命とはいえ、そんな自分の侍女として世話役を押しつけられた彼女は憤ってもいい。それなのに、嫌がらせをするどころか楽しそうに、賑やかに声をかけてくれた。
 そんな彼女を悪者にしたくはない。幼馴染に、誤解してほしくはない。


「……冗談だ」


 ニヤリ。意地の悪い笑みを浮かべながら、アルシュが身を離した。


「心配しなくても、ソルシエールがお前に嫌がらせをするとは思っていない。……悪意なく余計なことは言ったのだろうけどな」


 ぽんぽん、となだめるようにキリエの髪を撫でてくる。炎のように水面で揺れる紅の蓮へ、幾分かやわらいだ視線が向けられた。


「大方今年の虹蓮の迷信を聞いて、私に伴侶ができた、とか思いこんだのだろう?」

「うっ」


 図星だ。声をつまらせると、やっぱりな、と呆れをにじませた声が返ってくる。
 いくら黙っていても、この幼馴染には思考が筒抜けだ。幼少の頃からの付き合いは伊達ではない、というべきか。


「先に言っておくが、今お前が考えていることはすべて杞憂だからな? そもそも連れ帰るような伴侶ができていたら、隠さず真っ先にお前に報告している。キリエだって、散々惚気てくれただろう?」

「うん……」


 惚気てなんて、などと弁解するつもりはない。キリエ自身、アルシュと出会ったり手紙を送る時にはエメとの邂逅の出来事を伝えることが多かったと自覚はしている。
 他人の惚気なんて、聞いていても楽しくはないだろうに。嫌な顔も態度も見せず、相槌を打っては気持ちよく語らせてくれたアルシュは、知ってはいたがやはり心が広く優しい人物だ。


「それに、しばらくはお前との一つ屋根の下の生活を楽しむつもりなんだ。わざわざ第三者を捻じこんで、自ら台無しにする気はないさ」

「……アルシュ。それって」


 驚いて見やれば、優しい微笑みをたたえた美しい顔が近づいてくる。
 そっと、ハンカチで目元を押さえていた手をどかされて。





 やわらかな唇が、優しくキスを落としてきた。


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