静かな湖畔の…

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超促成栽培畑が起こした、あれこれ

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 伸び切った野菜類は目を離してもそれ以上の成長は見られなかった。
「収穫しちゃう?」
 ヒナギク様。種用に何本か残さないといけないのですが…その前に、この農業方法には幾つかの難点があります。
「どんな?」
 まず、収穫量に対して消費量が極端に少なくなる可能性で、次に、野菜の成長速度が速過ぎる為、備蓄向きじゃない事、皆さんの食の好みに合うか?も問題ですし、こんな超促成栽培がいつまで続くかも…
「あああ。分かったから、あんまり悩まないで‼大丈夫だから‼皆で話し合おう‼」
 話し合って、解決出来る部類と、そうでない部類に分かれますよね?
「ま、まぁ、野菜の成長に関しては、どうにもならないかも知れないけど」
 その根本部分が破綻しているから問題なんです。
「セージの所為じゃないんだけどねぇ」
 …とりあえず、備蓄向きな穀物系だけは収穫します…
「他は?」
 種用に放置します。一株あたり、どの程度の種が取れるか分からないので。
「手伝おっか?」
 いえ。お気遣いなく。皆さんと下着作りに励んでください。あ、でも、刈り取り用の鎌を作らなきゃいけないか…あああ‼どうして、こう、問題が山積みになるんだよぉ‼

「完全に許容量を超過しているな」
 マリーさん、分かっているなら、何とかしてください。
「何とかしたいのも、山々なのだよ」
 その何とかと言うのは、出来る事ですよ。セリさん。
「でもぉ、あたし達ぃ、こっちの世界で出来る事ってぇ、分かんないしぃ」
 だったら、色々と試してみて下さい。ナデシコさん。失敗は恥じゃありません。
「悩んでるっちゅうより、病んでんなぁ?」
 ははは。本格的に病気になって寝込みたいよ。レンゲちゃん。
 …こんな話をしながら、僕達は昼食を摂っていた…
「それでは、あの畑の分は、そのままで良いんですね?」
 ヨシノさん。これから種になるのに、どれだけ時間が掛かるか分からないので、食用は別に畑を広げようと思います。それでメニューの事なんですが…
「頂ける野菜で作れる料理をお作りします。なので、種類に関係なくお作りください」
 量的には?
「葉野菜なら、二・三束、根野菜なら大きいモノで一本、小さいもので三本もあれば充分でしょう。ただ、穀物系は粉にして備蓄するとして、色々と…」
 パンを膨らませる元…イーストですね?それの確保も考えないと…
「粉モンやったら、ヤマイモや‼それとタマゴも‼」
 そうだね。レンゲちゃん。その辺もどうしようか。
「でも、しばらくは、飢える事はなさそうだね?」
 むしろ、余らせる可能性もありましたから…そう考えれば、悪い事じゃありませんね。
「それにしても、野菜の異常成長は何が原因なのかな…?」
 その辺は追々調べましょう。じゃあ、午後からはムギの収穫…は、僕達、現地民でやるので、『魔王城』の皆さんは刈り取ったムギの脱穀をお願いします。
「何だ?何故、我々に収穫作業をさせない?」
 鎌は立派な刃物ですから、振り回されても困るんですよ。特に、マリーさんとセリさんは、天敵みたいな関係なんでしょ?ここで、一大決戦されてもイヤですから。
「そうだな。決戦は『魔界』で付けないと…」
「望むところ…返り討ちです‼」
 …まぁ、実際、今、持っているフォークも危ないですけどね…

 午前中の余っている時間で、僕は鎌を作っていた。王都のガラム師匠の所で、季節商品として大量発注があった時に手伝った事があるので、作り方は知っている。今回、作ったのは、死神が持っている『大鎌サイズ』ではなく、片手で持ち運べる『小鎌シックル』だ。ガラム師匠の所では、鋳造して刃の面を研ぐ程度で、鍛造はしなかった。鍛造すると切れ味は良くなるが、すぐに折れるので、農具関係の場合は鋳造と研ぎのみで良いとは、ガラム師匠の言葉。実際、使っている農夫の方々からは、長く使えると、ご好評の様だ…
「剣で刈れませんか?」
 ヨシノさん。物騒な事はしないで下さい。それに、剣は魔物や魔獣用の刃物です。こう言った細い茎の植物を斬るには向いていませんし、そんな想定で造られていません。
「それ程の量じゃないから、すぐに終わるじゃない?我慢して」
「ヒナギク様が仰るなら…」
 ヨシノさんの文句を聞きながら、僕達はムギの収穫を始める…収穫は根元から刈り取る稲刈り方式。ムギ藁は色々と使い道があるので出来るだけ長めに。
「あああぁあ‼ちょっと刈り取っただけなのに、腰が痛い‼」
 ヒナギク様の分が終了‼…って言うか、それって夜の影響ですよね?
「え?そうなの?」
 …今晩は控えて下さいね。腰、本格的に痛めますよ…?
「じゃあ、今晩はセージに頑張ってもらわないと…」
 やらないって、選択肢はないんですか?

 そのまま、ムギの脱穀に入る。手作業で毟り取るので、そう難しくもなく、一時間程で終了。羊毛ブロックから作った袋に詰め込む…一般的なズタ袋の大きさの袋を作ったら、収量がそれ程じゃないので、かなり余る…次からは小さく作ろう…
 とりあえずの備蓄倉庫になる、既存の小屋に袋を運び込もうとすると、
「…聖女様…」
 …足元から声が聞こえて来る…丸いフォルムの茶色の球体…土の精霊さんだ…
 …何だか、申し訳なさそうにしているけど、どうしたの…?
「申し訳ありません‼」
 と、短い手足を折り曲げて、必死の土下座姿勢‼え⁈土下座出来るの⁈
「我々が不甲斐ないばかりに、この様な事に…‼」
 え?何が?訳が分からないんだけど?
「聖女様が植えられた野菜類を…」
 ああ、君達が育ててくれたんだ。
「…ゆっくりと成長させる事が出来ませんでしたぁ‼」
 ………ん?

 …話を聞くと、彼らは、いわゆる僕の守護精霊で、聖女には必ず付いて来る霊的護衛らしい。彼らの役目は聖女を守る事。その守備範囲は主に二種類。一つは直接的な害意を弾き返すバリア機能。もう一つは恩恵にあずかろうと近付くモノを排除する害虫駆除…いや、害虫って言っちゃって良いのかな…?
「宜しいのです‼聖女様に迷惑を掛ける輩は害虫です‼」
 …で、今回の超促成野菜事象は、この害虫系らしく、聖女の恩恵に与かりたい勢力が、僕達の食料をすぐに調達させる代わりに、聖女の力を分けてほしいとの意図が含まれているとか…う~ん…力を貸してほしいじゃなくて、分けて欲しいとは…
「聞き届ける必要などありません‼」
 そう言う訳にもいかない。現にムギは収穫しちゃったし、他の野菜もそうだけど、捨てるのはさすがに勿体ないし…まぁ、何をしてほしくて、こんな事をしているのか?を言わないでやるのは、ちょっと迷惑ではあるけど…それとも報酬の先払い?
「連中が勝手にやった事です。捨てるのも食べるのも、お好きになさってください‼」
 いやいや、超促成栽培が、僕が気付かずにやらかした後払いの報酬って可能性も…
「さすがは聖女様‼なかなかに聡い‼」
 その声は、僕達が話し込んでいる既存の小屋の明り取りの窓から、聞こえて来た。
「失礼‼我はこの地に住まう精霊の統括者‼」
 …随分と人型で男性的ですね…背も僕より高そうだ…
「コトヨロ湖のヌシ様の第一のしもべにして、土の大精霊‼」
 …え~と…確認なんですけど…上半身は裸に見えるんですが…
「コトヨロ湖を愛し、コトヨロ湖に愛された存在‼」
 …下、穿いてますか…?
「安心しろ‼生まれてこの方、服など着た事はない‼」
 …マッパの男性が外で立っているなんて、不審者なので小屋に入って下さい…

 小屋に保管してある生地で統括者さんの服を作る。
「手間を掛けて済まんな‼」
 もの凄く手間だったのは、彼に服を着せる事。こっちが言葉で説明しても、「そうか‼」の一言で返される始末…なので、手取り足取り着せて行く…厚手のワンピースっぽい上着だけでも良いかと思ったが、今後、遭遇した時に、風でも吹かれて前がはためいたら、統括者さんが女性陣にぶち殺される可能性があったので、ズボンも穿かせる。ちなみに、僕は背後から彼にズボンを穿かせた。うん。前は間近で見たくない。
「うむ‼中々に快適‼礼に加護をやろう‼」
 あ、その前に、僕、無自覚でやらかしちゃいました?
「それは、そなたの名付けた『タンポポ』に由来する‼」
 何でも、タンポポ…元はヒュージシープと呼ばれる大型のヒツジの魔物で、コトヨロ湖周辺を歩き回っては、周囲の樹木を食い漁っていたらしい。まぁ、三日もすれば元通りだったらしいけど…それでも、この統括者さん的には許容できない存在だったらしく、幾度となく討伐を試みたらしいが、すべて羊毛に阻まれた上に鼻息一つで吹き飛ばされていたらしい…この精霊?さん、闘う事に向いていない様だ…
 それが僕の従魔になり、一般的なヒツジサイズに変貌。しかしながら、統括者さん的には、気掛かりが一つ。タンポポの食欲。放置しておけば、再び、森が食われるのではないか?と言う事。そこで、畑の野菜達を超促成栽培し、タンポポに与える事を思い付く。
「如何かな⁈我の計略は‼」
 はい。従魔になったので、タンポポは空腹とは無縁な存在になりました。魔物が従魔に転じれば、従魔は契約者の魔力で身体を維持できるので、タンポポは食べる必要は無くなったのですよ?統括者さん?
「何と‼我のした事は無駄であったか‼」
 結果的にその通りです。ちなみに、僕達の混乱を招いたので、超促成栽培の畑を元に戻して欲しいんですけど?
「無理だ‼我には戻せん‼」
 何故?
「戻し方が分からん‼」
「そうか。分からんか」
 あ、ヌシ様。いらっしゃい。

 統括者さんはヌシ様の一蹴りでコトヨロ湖の対岸まで吹き飛ばされた。
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