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15・解かれた謎
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…部屋に招かれた白井はベッドの足側に座った…
「まだ食ってなかったか?」
「夕飯は摂らない主義でな。さっき買ったのは全部、朝食分だ」
話しながら、藍はベッドの左側から中央部に寝転がる。
「…じゃあ…」
徐に、白井は缶ビールを取り出すと、タブを開ける。
「『部長』の冥福を祈って」
その場で乾杯の仕草。
「待て」
藍の言葉に、白井の手が止まると、
「一杯だけ付き合う」
冷蔵庫に向かい、上のコップを取り出す。
「飲まないんじゃないのか?」
「お前一人で飲んだら、『部長』が寂しがるだろ?」
「そうだな」
持ってきたコップに八分目程注ぎ…
「乾杯‼」
コップと缶を合わせる。
「『部長』達と飲んだ事はあるのか」
「女子会に男が入ったら、マズいだろ?」
「『部長』は気にしないが…良くそんな所に入って来たな‼勇者だぞ‼」
「身辺警護だからな…上からの命令でもあるし…あ、でも一回だけ、『ブルふぇに』同好会の解散式って事で、一杯だけあったな」
「四年連続新入会員の勧誘に失敗したからな…ってか、何であたしが呼ばれてない?」
「卒業旅行の最終日にやったんだよ。その時、お前、疲れて早寝しただろ?…」
「起こしてくれれば良かっただろ?皆とは、あれでお別れだったんだから‼」
…藍の表情が少し明るく感じる…
「そうだ。枝野さんは最近元気か?」
「いや。連絡も取ってない」
「え?あの人も何処かの省庁から派遣された身辺警護じゃなかったのか?」
「どうして、そうなるんだよ?」
「だって、お前としょっちゅう、二人きりで話していたし…」
「あ~…それなぁ…実は付き合ってくれって…」
「え?そっち?」
「仲間に調べてもらったけど、省庁や民間のスパイじゃないって知れた時はホッとしたが、同時に、どう扱って良いか分からなくてな…仲間には冷やかされるし…」
「付き合っちまえば良かったのに。美人だったのに…」
「だから玉の輿に乗れただろ?『ブルふぇに』同好会初の既婚者なんだし」
「うわ~‼まさか、あの人が家庭に入って、子供の面倒見てるなんてぇ…‼」
「ん?千里眼使って、視たのか?」
「いや、この時間は避けている」
「あ、ああ…子供は寝る時間か…」
「そう言う事だ」
…にやけ顔の藍に対して、白井はビールを一呷りする…
「お前も大人になったな」
「そりゃ、人目も憚らず、酒も飲める年齢になったからな」
…藍も残りのビールを一口…
「…苦いな…炭酸のせいで、余計苦く感じる…」
「次は酎ハイが良いか?」
「そこはお前のセレクトに任せるよ」
…憂いのある瞳は白井も、残っているビールも見ていない…見ようとしても見えない藍自身の未来を見ている様に、白井は感じていた…
藍には『現在視』の千里眼がある代償としてか、予知能力が備わっていない。ただ大抵の予知で最初に視る未来は、その人の死の直前の光景である事もあり、予知能力はあまり人気がない。だが、藍には羨望の能力だった。見える未来に対処出来るし、備える事も出来るから。それに予知は変えられる事も知っている…だが、実際は彼女の目は未来を視る事が出来ない…これからの世界経済や軍事バランスの変遷、物価・金利・為替の推移や政権の変動、曲がり角から出て来る人の存在やそれがどんな人物か?や、商店街のクジの当たり外れまで…藍の自殺願望はテロ事件の衝撃もあったが、予知能力の欠如に由来する部分も多分にあった…
「なぁ、お前の意見を聞きたいんだが」
と、藍が今までとは違う、学者的雰囲気を纏う。
「何だ?」
白井が構える。この雰囲気の時は『青い不死鳥の物語』に関係する事だと知っている。
「緑の死後六日目の葵が学校に行った後の家でのシーンだ」
藍の言葉に、白井がそのシーンを思い浮べる。
「あのシーンは葵の視点が完全に抜けている…つまり、完全な作者の創作箇所だ」
「ああ。そうなるな」
白井が身を乗り出す。
「『白雪姫』と『シンデレラ』、この段階からの伏線だと思うか?」
「…そこは作者のみぞ知る…だな」
「…お前は今も、『作者単独創作』説派か?」
「お前こそ、『陰謀的改竄』説を信じているのか?」
二人の間に一瞬、バチッと火花が散る。
この論戦は『ブルふぇに』同好会時代から二人の間で続けられ、未だに両者共譲らない議題となっている。だからこそ、白井も余裕を見せず、徹底抗戦の構えを取る。
二人が話題としている説は、葵の目線がないシーンは作者である岳石南花こと竹内橙子の純然たる創作か?それとも一切関係のない者によるでっち上げか?である。
この話題は、ある程度の『ブルふぇに』マニアの間では常に論争となっており、幾つかの説が浮かんではバッシングの集中砲火を受け消えてしまう、『ブルふぇに』マニアにとっては避けては通れないが、誰も通りたくない議題でもあった。そんな議論の中で根強く生き残っているのが『作者単独創作』説と『陰謀的改竄』説である。
『陰謀的改竄』説の理由としては、不都合な何かが書き込まれていた為や当時の政府批判が強過ぎる為と言った政治的圧力説や、売り出す為のインパクトが足りないと言った出版社の売り上げ向上説があるが、そのどちらにも決定的な論拠が示せないまま論争は続けられていた。ちなみに、話からも分かると思われるが、藍は『改竄』派で、白井は『作者』派である。
「良いか?そもそも、政府は発効前の書物の検閲は実施していないし、出版社お抱えの作家陣にあの作風の人物はいなかっただろう?」
「確かにそうだな。だが、お前の例もある。出版社に検閲系のスパイが紛れ込んでいて、不都合な真実を消していた可能性だってあるし、『青い不死鳥の物語』の売り上げが伸びないまでも、『改竄』の話題が上がれば、改竄部分を書き込んだ作家が誰なのか?を調べる名目で、他の作家の検索数を上げる可能性だってあるだろ?」
「わざわざ自分達の不名誉を餌に読者層を広げるヤツらがいるか?確かに、『改竄』説が世の中に広まった時、あの出版社の株価が急激に落ちたって聞いたが」
「その後、持ち直しただろ?それもあの会社の作家の誰が岳石南花のゴーストか?が話題になって、世界中でゴーストハントが流行したって」
得意げな藍は絶好調で、憎らしくも見える。
「じゃあ、お前は誰をゴーストと見ている?」
片や、追い込まれ気味の白井は、この場における最強の疑問をぶつける。
…数秒の沈黙…藍が勿体付けて貯めると、
「編集者だよ」
不敵な笑みを見せる藍。
「え?」
意表を突かれた白井が、声を挙げてしまう。
「少し考えれば分かるだろう?故人を悪く言うつもりはないが、相当怪しいぞ?」
「あ、いや…そこは…そうか…」
白井は思わず納得してしまう。
それは作者である橙子と出版社とのやり取りにも現れている。
「作者である橙子は校正上の修正は受けても、加筆には応じなかった。どんなに出版社や世間が期待しても…それは何を意味すると思う?」
「出版社で勝手に加筆しろって事か?」
「そう言う事だ」
藍がビールの最後の一口を呷る。
「それに、明らかに出版社の改竄の跡が残っている箇所があるだろ?」
「表題の事か?」
「投稿時、作者が付けた表題…何なのか、覚えているだろ?」
「『BLUE PHOENIX REPORT』」
「そうだ。『REPORT』だ。『STORY』でも『TALE』でも『LEGEND』でもない」
と、枕元にコップを置き、
「…当時、超能力が顕現した理由に様々な憶測が流れていた…そんな状況を、作者は辟易していたんだろう…だから、決定的な証拠を叩き付けて鳳葵を実在させた。葵自身の望まなかった方向だが、真実を託された者としては黙ってはいられなかったんだろう…」
「…だから『STORY』ではなく、『REPORT』だったのか…」
「出版社側としては、『物語』にしないと売れないからな…作者側としては最大限の譲歩案のつもりだったんだろう」
「ところが、蓋を開けたら、相当な改竄…いや、改変が行われていた」
「それこそ、作者の思う所を無視した…いや、鳳葵の意思を無視した作りにされた…いや、作りにされたと思ったんだろう…」
「結果的に売れたモンなぁ」
「もちろん、作者の想像力を全開にして、書き込んだ可能性も捨て難いが」
「それだけの文才があったと?」
「三人寄れば…って、諺もあるだろ?有名私立出身の編集者程度なら勝てない事もない程度の秀逸な文章は書き込めたんじゃないか?」
「編集者は四人目にはなれなかったか」
「三人だけの秘密の花園に男は無粋だろ?」
「それは俺への当て付けか?」
…白井の言葉に藍が笑い、二人で笑い合う…
「…ん?」
と、白井が缶ビールの残りを呷ろうとした時、
「………」
出入り口に目線を向けて、缶ビールを口から離す彼が纏う雰囲気が変わる。
「…?」
藍がその変化に気付き、千里眼で廊下を確認すると、
「マズい…」
ドアを破壊する筒状の尖状槌を構える黒ずくめの集団の姿が映ったかと思うと、破壊音と共に、ドアが吹き飛ばされる。
「‼このタイミングで来たか‼」
黒ずくめの二人が部屋に侵入しようとするが、白井が向けている右掌の先で抑えている念動力で先に進めない。
「こいつら…」
「お前は隠れていろ‼」
白井の払った左手の念動力に、藍がベッドの隙間に転がり落ちる。
「おい‼どう言う…」
文句を言う間に、藍の足元に四つの銃弾が撃ち込まれる。
「…音がしない…サイレンサー付きの銃?」
腕だけ伸ばして撃ち込まれた銃弾が更に四発、藍が背にしている壁に穴を開ける。
「そこを動くな‼」
黒ずくめが向けている銃の手から銃が離れ、逃げる足音を白井が追う。
「…三人はいた…」
藍は、その場で身体を丸め、出来る限りの防御姿勢を取る…非常階段を駆け下りる足音が開け放たれた出入口から聞こえて来る…千里眼では白井しか認識できない…
「…逃げられたな…」
車の急発進のタイヤの摩擦音が、外から聞こえて来る…白井は念動力で車を停めようとしていたが、振り切られた様だ…
「………」
…静寂の中に藍が一人…
…その目線の先に、黒ずくめが置いて行った拳銃…
…四つん這いで、拳銃に近付き、手を伸ばす…
「ダメですよ」
しかし、少女の声と共に、先に持って行かれる。
「あ、あなた…」
髪型は違うが、見覚えのある少女はグレーのスーツ姿で、オーストラリアで感じた大人びた雰囲気をそのまま纏っていた。
「…修理に二人…マルタイはナンバーエイトのセーフハウスに送る…そうだ。身代わりもだ…白井はマルタイに張り付け…報道統制はコードⅭ4…いや、Ⅾ3で…」
少女が、淡々とテレパシーで指示を出す。
「今夜の事は忘れろ…とは言いませんが、自分の立ち位置を理解しましたか?」
「あんた達の演出?」
「まさか。どこの組織か知りませんが、手慣れた連中ですよ」
拾い上げた拳銃を眺める少女。
「サイレンサー内蔵型とは…技術力を誇示したいのか」
「…どこの組織かは見当が付いているの…?」
「ノーコメントで」
と、白井が部屋に戻る。
「車は回す。マルタイと離れるな」
少女が白井に語り掛ける。
「バックアップを信用している」
「あまり信用し過ぎるな。結果がこのザマだ」
「…了解した…」
白井の言葉に退室する少女…だが、
「…そうだ…」
踵を返すと、
「メールでも郵送でも届いていると思いますが、今回の招集は強制です。勤務先の希望があるなら、書き込んだ方が身の為ですよ?」
「‼あたしの探偵事務所は黒字だ‼他の連中の尻拭いは…」
「…国の連中が欲しいのは、国民全員が端から食い付けるパイなんですよねぇ…一人が美味しく頂ける定食なんかじゃなくて…」
「…あたしの能力を平和的に使う機関なんてあるのか…?」
「教師なんてどうです?無難で良いと思いますよ?」
「止めてくれ。優秀でも取柄のない連中の墓場じゃないか」
「それは偏見ですねぇ…配信動画の影響ですか?」
「国民全員が端から食い付けるパイを作る人物が欲しいなら、飛び級生から選ぶんじゃなくて一般学生枠から選ぶべきなんだよ」
「そう言った陳情は入省して立場が上になってからにしてください」
と、数人の仲間が部屋の外に駆け付けて来た事を察し、少女は藍との会話を切り上げ、
「申し訳ないが、車中では運転手の指示に従ってください」
部屋に入って来た四人の内の二人に、壊れたドアの修繕を、もう二人の男女ペアに藍と白井の身代わりを指示する。
「白井の言う事ではなく?」
「あいつの役割はあなたの身辺警護ですから」
少女の言葉と共に、白井が藍の隣に付く。
「急げ。従業員や客には催眠暗示を掛けているが、軽度の暗示だから何かの拍子に解ける可能性もあるからな」
「了解」
応じると、白井は藍の腕を引っ張る。
「あ、おい‼着替え‼それと、部屋着のまま…」
「着替えは向こうで用意している。部屋着はお前役が着ているだろ?」
バタバタと二人が退室する…
「なるほど。枝野嬢を振るワケだ」
クスッと笑みを見せる藍役の身代わり女性。
「みんな言うなよ。マルタイは勘が鋭いから、白井が自分の気持ちに気付いたらマルタイの方が離れかねないからな。それに楽しみがなくなる」
少女が面白がっている声で周囲に告げると、
「うわ。何だよ。ノンアルか。」
ビニール袋の残っている缶に白井役の男性がぼやく。
「…なぁ、あたし相手に目隠しって必要か…?」
…車に乗せられて三十分程…五分置き程にグルグル曲がっている様だが、一定の方向に向かっている事は曲がる回数と方向で分かっていた。
「だからって千里眼は使うなよ」
…そんな事をぼやく藍の隣には、白井が座っている…
「たまに使わせてくれ」
「何で?」
「酔うんだよ。こうもグルグル回されると」
「…良いか?」
白井が運転手に問うと、
「十分置きだ」
運転手の回答。
「聞いたな?」
「…つまり、もうしばらく揺られ続けるのか…」
藍の口から溜め息が零れ、
「運転手さん。タイミングを教えてください」
「分かりました」
…そんな会話があって一時間後、目的地に到着…
…一般的日本家屋の様で、玄関で靴を脱がされた…部屋が幾つかある様で歩いた距離的に玄関から二部屋先…入室すると部屋の中心部まで歩かされ、
「アイマスクを外してください」
白井とも運転手とも違う声に従い、藍は目隠しを取る。
広さは六畳程で窓側に折り畳み式の机と椅子だけ…椅子の上には小さな鏡とポシェット…中味は化粧品である事は千里眼で調査済み…一言で言えば簡素な室内…元は下宿屋だった様で、かつて押し入れがあった部分をベッドスペースにしている。
「朝食は朝八時、トイレとシャワーは都度、白井に申し付けて下さい。嗜好品…まぁ、お茶やコーヒーはポットを持ってきますのでお好きな様に…ただ、インスタントになりますので、その辺はご了承下さい」
男性職員の丁寧な説明に、思わず引きそうになるが、
「わ、分かりました。外の情報が欲しいんですが…テレビで構わないので…」
藍は、一応の要望を伝えると、
「そうでしたね?失念していました」
にこやかに対応。
「では、用意して参りますので、お寛ぎ下さい」
その言葉を残し、去って行く…
「お前は残るのか?」
…しかし、白井は残ったまま…
「俺だって、お前と二人っきりじゃ気が引ける」
「そう思うなら、出て行く位の気遣いはないのか?」
「…お前の自殺を止められる者が傍にいないと…」
「…気付いてたか…」
と、藍がベッドに歩を向けて、腰を降ろすと、
「あそこにワザとらしく、拳銃を捨てて行くんだ。そのつもりもあったんだろ?」
白井が椅子に向かう。
「お前はさっきの襲撃が、あたしの殺害を目的としていると思ったのか?」
「状況的には」
「脅しとは考え付かないか?」
「結果的に生きているからって、撃たれたんだぞ?」
「撃ったのは白井が居たからだろ?もし、お前が居なければ、穏便な交渉で済ませたかも知れないぞ?」
「希望的観測だな。銃を持っている段階で殺す気マンマンだと思わないか?しかも、サイレンサーが内蔵された銃だぞ?暗殺者にとっては垂涎の一品だぞ?」
「つまり、お前はお前が居なくとも、彼らがあたしを殺そうとしていたと?」
「そうだよ」
「置き去りにした銃のチェンバーに一発、残っていたのか?」
「それを知っていたから、お前は拾おうとしたんだろ?」
「知らないから聞いているんだよ‼」
突然の藍の激昂。
「何でもかんでも、千里眼で見えると思うな‼そこまで便利な能力じゃないんだ‼しかも『現在視』限定なら見たモノを記憶しなきゃ伝えられない‼その時点で既に伝えている時間分の過去なんだよ‼あたしが見えているのは『現在』だが、他人に伝える時には『過去』に成り下がっているんだよ‼」
と、一気に捲し立て、
「それにあたしの視る『現在視』は特殊だって事は経験済みだよな?」
怒気を含んだままの静かな語りを白井に向け、
「あ、ああ。自分の周りだって分かっていても、立っていられなかった」
白井もその時の事を思い起こし、頷く。
彼の言葉にある通り、藍の千里眼は、二つの目で見る立体視などではなく、前後左右上下の映像が視覚情報として一遍に流れ込むモノで、意識を一定方向に定めておかないと方向感覚が狂ってしまう程、扱いの難しい視覚情報だった。ちなみに、藍でさえ、この能力を使いながら走り回るには、二年の月日を要する程だった。
「世間では予知能力を千里眼の一種とか言うヤツもいるが、あたしにとっては、近くはあるが違う能力だと思うぞ?」
…怒りを鎮めた、藍の口調…
「何故、そう思う?」
「予知って言うのは死ぬ直前の光景を視るんだろ?それは生命の危機に備える為の能力じゃないか。それに比べて千里眼は見たいと言う衝動…いや、欲望が強く反映している」
語りながら、ベッドに仰向けに倒れ、
「…命の危険と知的好奇心…どっちがより人間的かな…?」
身体全体をベッドに乗せ、
「悪い。寝る。疲れた。」
白井に背を見せて、横向きの就寝体制に入る。
「テレビはどうすんだ?」
「あしたの朝」
藍は瞼を閉じる。
…藍達がセーフハウスを離れたのは翌日の午前十時頃…更に、最寄りの駅に到着したのは昼の十二時頃…
「これ、澤地さんの服とスマホです」
藍役の女性から、藍の着ていた臙脂色のスーツとスマホを紙袋入りで手渡される。
「ご迷惑をお掛けしたお詫びに、帰りのチケットはこちらで持ちます」
一礼して、藍役と白井役の二人が、その場から立ち去る。
「しっかし、すげぇ組織だな?ホテルの事件、一切報道なかったぞ?」
「あの部屋であったのは、俺とお前の痴話げんかだってよ‼」
「うわ~‼ありえねぇ~‼」
改札に向かいつつ、藍は紙袋からスマホを取り出す。
…白井とは特に話す事もないので、帰りの列車の中で、藍は『青い不死鳥の物語』の追想に入る…
授業を難なくこなし、その日の授業は終わり。
「じゃあ、また明日~‼」
ゆかりとれもんが手を振って、自分達の家に向かう。
「…ありがと…二人共…」
そんな二人に葵は小さく手を振って返す。
「さて…帰るか」
トコトコと、葵も家の方向に歩を向ける…
「…お?」
と、前から見覚えのある軽自動車…
「ヘイ‼彼女‼乗ってく‼」
軽いクラクションとウィンドゥが開いて、聞こえる茜の声。
「え~?そんな軽薄なヒトの車には乗れませ~ん‼」
「良いから乗りなさい‼温泉行くんだから‼」
「あ、そうだった‼」
葵が後部座席のドアを開けるが、
「助手席‼ナビお願い‼」
茜の声にドアを閉めて、助手席側に回り込むと、
「いい加減、ナビの使い方覚えて下さいよ」
葵が助手席に乗り込むと、車は発進する。
「あ‼」
…しばらく、進んで繁華街に入ると、茜が声を挙げる。
「ど、どうしました?忘れ物ですか?」
突然の奇声に葵が目を丸くしていると、
「お赤飯‼お赤飯、食べたい‼」
「え?急に何ですか?」
「もう、この際、葵の手作りには拘らないから、お赤飯‼」
「分かりましたから、そこのスーパーで降ろしてください」
普段、使っていないスーパーに寄り道する。
葵達が到着したのは地元で有名な温泉街にある老舗の温泉宿…改修が繰り返され、外観は温泉宿と言うより完全にホテルである。
「お待たせ~‼」
ロビーで待っている他のメンバーに葵が手を振ると、
「遅いぞ‼」
ICの憎まれ口が飛び出す。
「仕方ないでしょ?学校なんだから‼それに寄り道もしたし‼」
スーパーのレジ袋を掲げる葵。
「何、入ってんだ?」
「お赤飯。急に茜さんが食べたいって」
「何だよ?ホテルに頼めば用意するだろ?」
「お赤飯作るのって、手間掛かるんだよ?」
そんな話をしながら、葵達はチェックインの手続きを済ませる。
このホテルは、葵達が新年会や葵以外の誰かの誕生日の時に使う特別なホテルだった。選ばれた理由は「温泉に行きたい‼」と駄々を捏ねた茜とICの要望に応える為で、三博士やさくら、緑も気に入った事で特別な日の定宿として宿泊していた。
「急に予約淹れて、申し訳ありませんでした」
さくらが案内の従業員に謝罪の言葉を述べると、
「いえいえ。繁忙期も過ぎておりますから」
と、返される。実際、宿泊客もまばらで、廊下ですれ違うのは宿の和装制服を着た従業員が三人程で、他の客とは遭遇していない。
「こちらのお部屋です。お食事は六時から一階の中広間ですので」
部屋まで案内されると、従業員のお姉さんが一礼して、退室…部屋は二部屋、男性組と女性組に別れて取られている。
「さ~て、ひとっ風呂、行くかぁ‼」
早速、茜が着ている服を脱ぎ始め、
「…まだ、日が高い内に温泉に入れるなんて、贅沢ですねぇ…」
同じ様に、さくらも脱ぎ始める。
「あ、あたしは宿題やってから…」
葵は座卓に筆記用具と参考書を広げようとするが、
「そんなの良いから、一緒に入りなさい‼」
「そうですよ‼裸の付き合い‼」
エラく強引な二人に、
「え?でも…どうして?」
思わず、たじろぐ葵…
「そもそも、あんた、ホントに女か疑わしいのよ‼」
桜がビシッと葵の胸を指差す。
「し、仕方ないでしょ⁈そう言う体質なんだから‼」
その指摘に、葵は胸を押さえながら恥じらいの仕草を見せる。
「いや、一応、遺伝子的にはFEMALEなんだけどね…」
…そこに申し訳なさげに、茜がフォローを入れる…
「だったら、女性なんですよ‼国際医師免許持っている人の判定なんですから‼」
「見せてよ~…これっきりになるかも知れないんだから~」
「絡んで来るなぁ…さくらさん、飲んでます?」
「素面だよぉ…普段は隠していたんだよぉ」
「…最後まで、隠していてほしかったです…」
…葵は諦めて、温泉に向かう事になった…
「葵‼食べなさい‼あんた、ガリガリなんだから‼」
温泉から上がって、午後六時の食事と共に始まった大人達の飲み会は三十分程が経過…その頃には葵達の一団は、宴会場の他の客を置き去りにしながら、弾けまくっていた。
「HEY‼AOI‼LET‘S DANCE WITH US‼」
「おお‼三人寄ればラインダンスだぁ‼」
茜とさくらの定番が始まる。
緑が居た頃は彼女も巻き込まれていたが、今回は三人編成。単純に『天国と地獄』の有名なフレーズを『チャンチャカ』口演奏しながら、足を挙げるだけの酔っぱらいの奇行で、ICの指笛と三博士の煽りで、さくらと茜がヒートアップ。挟まれた葵は、男性陣や他のお客様に自分達のパンツが見えない様に浴衣の動きを調節する役割を自主的にやらされる事となっていた…その奇行は従業員さんに注意されるまで続けられた…
「ほら‼葵‼食べなさい‼そんなガリガリじゃ、嫁にいけないぞ‼」
さくらが全員の食事を葵の膳に置くと、
「AOI~‼I LOVE YOU~‼」
茜が葵の頬にキスをする。男性陣はおのおの徳利やビール瓶で互いが飲んでいるお酒を酌み交わし、昔話から始まる愚痴と笑い声を発している。
「UN~…AOI~…」
そんな中、葵は、茜のウザ絡みを受けていた。
「AOI~…YOU ARE NOT ME…NO MORE MY COPY…」
葵にもたれ掛かって、茜が呟くと、
「葵~‼あたしは結婚諦めてるけど、あんたは結婚しなさいよ~‼」
さくらが思いっきり抱き着いて、泣き出す。締め上げる勢いだ。
「モテモテだな‼葵‼羨ましいぜ‼(英語)」
そんな彼女の姿に、ICの指笛と冷やかしが入るが、
「だったら、どっちか貰ってくれる?」
辟易気味なイヤ味返し。
「僕は茜を諦めてないぞ~‼(英語)」
そこにアルバが乱入し、囃し立てる三博士…
…こんなカンジの夜は更けて行く…
「ほら‼布団で寝て下さい‼」
食事の間に敷かれた布団に二人を投げ飛ばす葵。
「AU‼」
「んにゃ‼」
投げ飛ばされた二人が奇声を挙げて転がると、そのまま絡み付き…
「OH‼AOI~…TOO HARD MUSCLE…」
「えへへ…葵~…急に太ったけど、どうしたのぉ…?」
何を勘違いしたのか、お互いを葵と認識して抱き合う二人…
「…ま、良いか…」
そんな二人を眺めつつ、葵は浴衣を脱ぎ、セーラー服に着替える。
「今まで、ありがとうございました」
着替え終えると、二人に一礼して部屋を去る…
その後は、人目を避けてホテルを抜け、温泉街を家に向かい歩き出す…
「え?地盤沈下?」
ゆかりの家に設置されている防災無線の警報に声を挙げる。彼女は風呂に入ろうと服を脱ぎ始めていた。
「しかも、結構、広域じゃん」
れもんは宿題を終えて、配信動画を見始めて二分後…
「避難場所は…中学校って遠くない?」
それから二人は家族と共に合流し、学校に向かう。
「あれ?何か忘れていない?」
「そうだ‼…でも、何だっけ?」
…顔を見合わせる二人…
「ま、いっか。」
「そだね」
行き慣れている中学校の体育館の一角に腰を降ろし、二人は呟く。
…二人の記憶から、葵の記憶が消えていた…葵の仕業だった…
…地盤沈下と避難指示も、葵が流した情報だった…それだけ離れれば、人的被害はないと、葵は知っていたから…
葵が予知で視た、最後の瞬間の為の、彼女なりの最大限の配慮だった。
「この辺で、大丈夫か」
民家が無くなり、周囲は田畑の広がる領域に辿り着くと、葵は駆け出した…始めは普通に中学生女子のスピードだったが、徐々に加速し、人目のない月明かりの農道を、人類では到底発揮できない領域の速度で疾走する。
「…ん?」
そこに緊急通行止めの標識と道を塞ぐ形で停められている車両。その光景に葵は思わず脚を止めてしまう…距離は二百メートル程だろうか…
「…緊急配備、早いなぁ…さすが、日本の地方自治体…」
…大きく息を吐くと、少しの思案…そこに、
「ヘイ‼彼女‼」
背後からのクラクションの音。
「乗ってく⁈」
容赦のないクラクションの音に混じり、聞こえて来るのは茜の声。
「ちょ…どうしてここに⁈」
バンと軽自動車の二台があるが、葵は茜の乗っている軽自動車に駆け寄る。
「居なくなったら、心配するでしょ?」
助手席に乗っているのは、へべれけなままの茜で、運転席のさくらも目が虚ろ…バンの男性陣はギャーギャーと喧しく、喚いている…
「何?忘れ物?…ってか、何?あの看板?車もジャマ‼」
…さくらが思った事をそのまま口に出している…
「と、とりあえず‼落ち着いてくださああああぁぁあい‼」
葵の一声で、周囲の大人達の酒気が一気に抜け、
「うぶ‼」
全員が車から下車し、その場で嘔吐。
「葵…やるなら、中途半端は止めて…」
茜が悶えながら懇願するが、
「反省してください‼酔っぱらい運転‼」
葵は彼らの乗って来た車内の空気を入れ替えている。酒の匂いが充満していたからだ。
「…ってか、何で皆で来ているんですか?」
今度は全員の二日酔い状態を回復させる。まともな話が出来そうにないからだ。
「居なくなったら、心配するでしょ?」
さくらが最初に口を開く。
「いくらお前が、MONSTAR並みの超能力者でも、外見はただの少女だぞ?」
今度はIC。
「家に用があるならTAXIを使えば良かっただろう?何で、一人で戻ろうとした?」
アルバの言葉。
「前から言っているだろう?お前の悪いクセだ」
「周りにいる大人をもっと信用しろ」
「一緒に住んでいるなら、尚更な」
三博士の言葉。
「何があるの?相談くらいしか出来ないけど、言ってみなさい」
最後の茜の言葉…
…沈黙が数秒…周囲に秋の虫の音…
「…家に戻る車中で話します…協力してください…」
…葵が呟き出す…
「え?詳しい地質調査ですか?」
車を停めている町役場の職員にバンの男性陣が説明している。
「沈下が起こるのは予定では未明ですが、地下水の変動状況次第では変わるかも知れませんので…こっちも上からの指示でして…」
…説明はアルバが担当…
「で?そちらは?」
今度はさくらの運転する軽自動車。
「妹達が、家に忘れ物を…」
「明日中に提出しないといけないレポートが…」
「あたしも宿題、置いてきちゃって…」
…困惑気味のさくらに、葵と茜が瞳を潤ませて懇願…
「分かりました‼通って構いません‼」
バリケード代わりの車が道を開ける。
「助かりました‼」
「サンキュ~‼」
二台の車両が通過する。
「…はぁ、上手くいったぁ…」
さくらが安堵の吐息を漏らすと、
「良かったね‼さくらお姉ちゃん‼」
すかさず茶化す葵。
「お芝居は充分ですよ」
諫めるが、言われて満更でもないらしく、口許に笑みが見える。
「…それでぇ…何で、お姉ちゃん達に黙って家に戻ろうとしたの?」
茜がスマホを葵に渡す。相手はアルバで、バンの方では全員で葵の話を聞く体制…
「あたしの身体は今夜零時ちょうど頃に消滅します」
「え?」
声が出たのは茜だけで、他は息を飲んだ。
「これは、あたしの予知で真っ先に知った事です。そして、あたしの消滅と共に世界にあたし由来の超能力が伝播します。」
「え?ど、どうして?」
さくらの質問。
「世界の物理因果律の上昇を下げる為…と言うより、世界が若返る為です。世界にはこんなカンジの自己再生能力があって、ある決まった時間に世界が摂取しないと、世界の老化の進行が加速するみたいなんです」
「AH~…WAIT‼お前も世界の一部だろ?お前自身が存在し続けるじゃダメか?」
ICの疑問。
「効力的に作用するのが時空なんですよ。だから一個の存在のままじゃ効力がないんです。ちなみに、あたしの超能力は世界を変える為のエネルギーの余剰分です」
「じゃあ、東京をTRANCEPORTした時のCRACKはENERGYが無くなるから?」
アルバの質問。
「あれは効きました。ただでさえ、テレポーテーションは苦手なのに、あの領域を一気に入れ替えたんですから。でも、あの罅は世界があたしの摂取を急いでいたんです。あたし的には『つまみ食い』って言ってましたけど」
「そこまで世界の老化は進んでいるのか?」
「世界は体内で老化抑制剤を生成できるのか?」
「代用するにはどれ程の対価がいる?」
三博士の問い掛け。
「老化は進んでいますが、今は待ってくれています。時間が近いですから。それと老化抑制剤じゃなくて、どちらかと言うと細胞活性剤に近いでしょうか?その後の世界の変遷によって世界が若返るので。あと、替えはないと思います。今回の若返りにはあたしと言う特殊な物質が必要なんです。それに若返りには毎回違った物質が使われるはずです。この世界が何度若返りの薬剤投与を繰り返したか知りませんが…」
「あんたが『不死鳥の血』を処分して回った理由は?」
茜の言葉。
「今から使う超能力…いや、エネルギーの開放は下手をすると世界の軍事バランスを崩壊させます。それどころか、世界の物理法則を根幹から変えてしまう可能性もあります。そうなれば人類どころか世界も消滅する可能性もあります。あたしが超能力を使えるのは、そう言った物理法則の変化を抑える為ですが、誰かの管理下に置かれたクローンが使えば、どんな事象が起こるか分かりません。後に残る憂いは出来るだけ取り除かないと、誰かに恨まれそうで…」
「そうよ‼あんたを恨むなんて筋違いだ‼」
と、茜の叫びが車内の響き、
「そんなの核以上の脅威じゃないですか⁈世界を人質にするなんて‼」
さくらも憤りに声を荒げる。
スマホのマイク越しの男性陣も非難の声が聞かれる。
「問題は、あたしが世界を変えるまでの時間です」
だが、制する様に葵が話を切り出す。
「アメリカの軍事施設は潰しましたが、世界そのものを観測する施設は軍事施設じゃありません。世界のざわつきをアメリカも観測しています」
「⁈まさか⁈」
「…国家の威信の為に、お礼参りに来るかも知れませんね…近くの自衛隊の基地から強奪紛いの武器供与がされているみたいですし…」
葵の千里眼に浮かぶのは、近くの自衛隊駐屯地の司令官を脅している米軍海兵隊の司令官らしき人物の姿…その外では自衛隊の車両の部隊章を強引に外し、自分達の部隊のワッペンを張って、出撃する海兵隊員…
「そんな訳で、皆さん。あたしを家に置いたら逃げてください」
家が見えて来た所で、葵がスマホを閉じるにスライドさせる。
「葵…あんたねぇ」
バンが停まり、ぞろぞろと降りては、こちらに向かって来る。
「そんな薄情なマネ、出来ると思っているの⁈」
助手席の茜の一喝とダッシュボードに振り下ろされた拳で、車が揺れる。
「ここまで一緒に来たんです。最後まで一緒です」
さくらがバンの後方に付けて一言。
「装備頼みのARMYなんて、コワくねぇぜ‼」
「奴らの戦術も熟知しています‼行けます‼」
「今更、コワいモンなどないわ‼」
「年寄りの力、見せてやるぞ‼」
「今夜の花火は派手に上がるぞ‼」
皆が口々に、己を奮い立たせる為に…いや、葵の不安を払拭する為に声を挙げる。
「…みんな…」
…車から降りて、周囲を見渡す…見慣れた皆の顔…力強い笑顔…
「ごめんなさい」
葵の言葉と共に、仲間達と車が消える。
「…あ~あ、ちょっとは残せると思ったんだけどなぁ…」
転送に使った超能力で、葵はエネルギー調整以外の能力が使えなくなった。
…そんな彼女の身体から、仄かに光が放たれている…
「…了解…」
白井の言葉に、藍の意識が戻る。
「あのロリ上司からか?」
「本人の前で言うなよ?それと上司じゃない。同僚だ」
「そうか」
藍が肩の力を抜いて、一息…
「『始まりの地』にはいつ行ける?」
「申請すればいつでも…さすがに今日中はむりだが」
「お前の都合のいい日にしろ」
「何故?」
「礼だ。お前の照会が無ければ機会がなかったからな」
「…何だよ?妙にしおらしいな…?」
「?礼になっていなかったか?」
「いや‼そんな事は…」
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
藍は笑顔を見せた…先程まで追想していた『青い不死鳥の物語』の影響だろうか…その笑顔にはいつもの精彩が欠けて見えていた…
「まだ食ってなかったか?」
「夕飯は摂らない主義でな。さっき買ったのは全部、朝食分だ」
話しながら、藍はベッドの左側から中央部に寝転がる。
「…じゃあ…」
徐に、白井は缶ビールを取り出すと、タブを開ける。
「『部長』の冥福を祈って」
その場で乾杯の仕草。
「待て」
藍の言葉に、白井の手が止まると、
「一杯だけ付き合う」
冷蔵庫に向かい、上のコップを取り出す。
「飲まないんじゃないのか?」
「お前一人で飲んだら、『部長』が寂しがるだろ?」
「そうだな」
持ってきたコップに八分目程注ぎ…
「乾杯‼」
コップと缶を合わせる。
「『部長』達と飲んだ事はあるのか」
「女子会に男が入ったら、マズいだろ?」
「『部長』は気にしないが…良くそんな所に入って来たな‼勇者だぞ‼」
「身辺警護だからな…上からの命令でもあるし…あ、でも一回だけ、『ブルふぇに』同好会の解散式って事で、一杯だけあったな」
「四年連続新入会員の勧誘に失敗したからな…ってか、何であたしが呼ばれてない?」
「卒業旅行の最終日にやったんだよ。その時、お前、疲れて早寝しただろ?…」
「起こしてくれれば良かっただろ?皆とは、あれでお別れだったんだから‼」
…藍の表情が少し明るく感じる…
「そうだ。枝野さんは最近元気か?」
「いや。連絡も取ってない」
「え?あの人も何処かの省庁から派遣された身辺警護じゃなかったのか?」
「どうして、そうなるんだよ?」
「だって、お前としょっちゅう、二人きりで話していたし…」
「あ~…それなぁ…実は付き合ってくれって…」
「え?そっち?」
「仲間に調べてもらったけど、省庁や民間のスパイじゃないって知れた時はホッとしたが、同時に、どう扱って良いか分からなくてな…仲間には冷やかされるし…」
「付き合っちまえば良かったのに。美人だったのに…」
「だから玉の輿に乗れただろ?『ブルふぇに』同好会初の既婚者なんだし」
「うわ~‼まさか、あの人が家庭に入って、子供の面倒見てるなんてぇ…‼」
「ん?千里眼使って、視たのか?」
「いや、この時間は避けている」
「あ、ああ…子供は寝る時間か…」
「そう言う事だ」
…にやけ顔の藍に対して、白井はビールを一呷りする…
「お前も大人になったな」
「そりゃ、人目も憚らず、酒も飲める年齢になったからな」
…藍も残りのビールを一口…
「…苦いな…炭酸のせいで、余計苦く感じる…」
「次は酎ハイが良いか?」
「そこはお前のセレクトに任せるよ」
…憂いのある瞳は白井も、残っているビールも見ていない…見ようとしても見えない藍自身の未来を見ている様に、白井は感じていた…
藍には『現在視』の千里眼がある代償としてか、予知能力が備わっていない。ただ大抵の予知で最初に視る未来は、その人の死の直前の光景である事もあり、予知能力はあまり人気がない。だが、藍には羨望の能力だった。見える未来に対処出来るし、備える事も出来るから。それに予知は変えられる事も知っている…だが、実際は彼女の目は未来を視る事が出来ない…これからの世界経済や軍事バランスの変遷、物価・金利・為替の推移や政権の変動、曲がり角から出て来る人の存在やそれがどんな人物か?や、商店街のクジの当たり外れまで…藍の自殺願望はテロ事件の衝撃もあったが、予知能力の欠如に由来する部分も多分にあった…
「なぁ、お前の意見を聞きたいんだが」
と、藍が今までとは違う、学者的雰囲気を纏う。
「何だ?」
白井が構える。この雰囲気の時は『青い不死鳥の物語』に関係する事だと知っている。
「緑の死後六日目の葵が学校に行った後の家でのシーンだ」
藍の言葉に、白井がそのシーンを思い浮べる。
「あのシーンは葵の視点が完全に抜けている…つまり、完全な作者の創作箇所だ」
「ああ。そうなるな」
白井が身を乗り出す。
「『白雪姫』と『シンデレラ』、この段階からの伏線だと思うか?」
「…そこは作者のみぞ知る…だな」
「…お前は今も、『作者単独創作』説派か?」
「お前こそ、『陰謀的改竄』説を信じているのか?」
二人の間に一瞬、バチッと火花が散る。
この論戦は『ブルふぇに』同好会時代から二人の間で続けられ、未だに両者共譲らない議題となっている。だからこそ、白井も余裕を見せず、徹底抗戦の構えを取る。
二人が話題としている説は、葵の目線がないシーンは作者である岳石南花こと竹内橙子の純然たる創作か?それとも一切関係のない者によるでっち上げか?である。
この話題は、ある程度の『ブルふぇに』マニアの間では常に論争となっており、幾つかの説が浮かんではバッシングの集中砲火を受け消えてしまう、『ブルふぇに』マニアにとっては避けては通れないが、誰も通りたくない議題でもあった。そんな議論の中で根強く生き残っているのが『作者単独創作』説と『陰謀的改竄』説である。
『陰謀的改竄』説の理由としては、不都合な何かが書き込まれていた為や当時の政府批判が強過ぎる為と言った政治的圧力説や、売り出す為のインパクトが足りないと言った出版社の売り上げ向上説があるが、そのどちらにも決定的な論拠が示せないまま論争は続けられていた。ちなみに、話からも分かると思われるが、藍は『改竄』派で、白井は『作者』派である。
「良いか?そもそも、政府は発効前の書物の検閲は実施していないし、出版社お抱えの作家陣にあの作風の人物はいなかっただろう?」
「確かにそうだな。だが、お前の例もある。出版社に検閲系のスパイが紛れ込んでいて、不都合な真実を消していた可能性だってあるし、『青い不死鳥の物語』の売り上げが伸びないまでも、『改竄』の話題が上がれば、改竄部分を書き込んだ作家が誰なのか?を調べる名目で、他の作家の検索数を上げる可能性だってあるだろ?」
「わざわざ自分達の不名誉を餌に読者層を広げるヤツらがいるか?確かに、『改竄』説が世の中に広まった時、あの出版社の株価が急激に落ちたって聞いたが」
「その後、持ち直しただろ?それもあの会社の作家の誰が岳石南花のゴーストか?が話題になって、世界中でゴーストハントが流行したって」
得意げな藍は絶好調で、憎らしくも見える。
「じゃあ、お前は誰をゴーストと見ている?」
片や、追い込まれ気味の白井は、この場における最強の疑問をぶつける。
…数秒の沈黙…藍が勿体付けて貯めると、
「編集者だよ」
不敵な笑みを見せる藍。
「え?」
意表を突かれた白井が、声を挙げてしまう。
「少し考えれば分かるだろう?故人を悪く言うつもりはないが、相当怪しいぞ?」
「あ、いや…そこは…そうか…」
白井は思わず納得してしまう。
それは作者である橙子と出版社とのやり取りにも現れている。
「作者である橙子は校正上の修正は受けても、加筆には応じなかった。どんなに出版社や世間が期待しても…それは何を意味すると思う?」
「出版社で勝手に加筆しろって事か?」
「そう言う事だ」
藍がビールの最後の一口を呷る。
「それに、明らかに出版社の改竄の跡が残っている箇所があるだろ?」
「表題の事か?」
「投稿時、作者が付けた表題…何なのか、覚えているだろ?」
「『BLUE PHOENIX REPORT』」
「そうだ。『REPORT』だ。『STORY』でも『TALE』でも『LEGEND』でもない」
と、枕元にコップを置き、
「…当時、超能力が顕現した理由に様々な憶測が流れていた…そんな状況を、作者は辟易していたんだろう…だから、決定的な証拠を叩き付けて鳳葵を実在させた。葵自身の望まなかった方向だが、真実を託された者としては黙ってはいられなかったんだろう…」
「…だから『STORY』ではなく、『REPORT』だったのか…」
「出版社側としては、『物語』にしないと売れないからな…作者側としては最大限の譲歩案のつもりだったんだろう」
「ところが、蓋を開けたら、相当な改竄…いや、改変が行われていた」
「それこそ、作者の思う所を無視した…いや、鳳葵の意思を無視した作りにされた…いや、作りにされたと思ったんだろう…」
「結果的に売れたモンなぁ」
「もちろん、作者の想像力を全開にして、書き込んだ可能性も捨て難いが」
「それだけの文才があったと?」
「三人寄れば…って、諺もあるだろ?有名私立出身の編集者程度なら勝てない事もない程度の秀逸な文章は書き込めたんじゃないか?」
「編集者は四人目にはなれなかったか」
「三人だけの秘密の花園に男は無粋だろ?」
「それは俺への当て付けか?」
…白井の言葉に藍が笑い、二人で笑い合う…
「…ん?」
と、白井が缶ビールの残りを呷ろうとした時、
「………」
出入り口に目線を向けて、缶ビールを口から離す彼が纏う雰囲気が変わる。
「…?」
藍がその変化に気付き、千里眼で廊下を確認すると、
「マズい…」
ドアを破壊する筒状の尖状槌を構える黒ずくめの集団の姿が映ったかと思うと、破壊音と共に、ドアが吹き飛ばされる。
「‼このタイミングで来たか‼」
黒ずくめの二人が部屋に侵入しようとするが、白井が向けている右掌の先で抑えている念動力で先に進めない。
「こいつら…」
「お前は隠れていろ‼」
白井の払った左手の念動力に、藍がベッドの隙間に転がり落ちる。
「おい‼どう言う…」
文句を言う間に、藍の足元に四つの銃弾が撃ち込まれる。
「…音がしない…サイレンサー付きの銃?」
腕だけ伸ばして撃ち込まれた銃弾が更に四発、藍が背にしている壁に穴を開ける。
「そこを動くな‼」
黒ずくめが向けている銃の手から銃が離れ、逃げる足音を白井が追う。
「…三人はいた…」
藍は、その場で身体を丸め、出来る限りの防御姿勢を取る…非常階段を駆け下りる足音が開け放たれた出入口から聞こえて来る…千里眼では白井しか認識できない…
「…逃げられたな…」
車の急発進のタイヤの摩擦音が、外から聞こえて来る…白井は念動力で車を停めようとしていたが、振り切られた様だ…
「………」
…静寂の中に藍が一人…
…その目線の先に、黒ずくめが置いて行った拳銃…
…四つん這いで、拳銃に近付き、手を伸ばす…
「ダメですよ」
しかし、少女の声と共に、先に持って行かれる。
「あ、あなた…」
髪型は違うが、見覚えのある少女はグレーのスーツ姿で、オーストラリアで感じた大人びた雰囲気をそのまま纏っていた。
「…修理に二人…マルタイはナンバーエイトのセーフハウスに送る…そうだ。身代わりもだ…白井はマルタイに張り付け…報道統制はコードⅭ4…いや、Ⅾ3で…」
少女が、淡々とテレパシーで指示を出す。
「今夜の事は忘れろ…とは言いませんが、自分の立ち位置を理解しましたか?」
「あんた達の演出?」
「まさか。どこの組織か知りませんが、手慣れた連中ですよ」
拾い上げた拳銃を眺める少女。
「サイレンサー内蔵型とは…技術力を誇示したいのか」
「…どこの組織かは見当が付いているの…?」
「ノーコメントで」
と、白井が部屋に戻る。
「車は回す。マルタイと離れるな」
少女が白井に語り掛ける。
「バックアップを信用している」
「あまり信用し過ぎるな。結果がこのザマだ」
「…了解した…」
白井の言葉に退室する少女…だが、
「…そうだ…」
踵を返すと、
「メールでも郵送でも届いていると思いますが、今回の招集は強制です。勤務先の希望があるなら、書き込んだ方が身の為ですよ?」
「‼あたしの探偵事務所は黒字だ‼他の連中の尻拭いは…」
「…国の連中が欲しいのは、国民全員が端から食い付けるパイなんですよねぇ…一人が美味しく頂ける定食なんかじゃなくて…」
「…あたしの能力を平和的に使う機関なんてあるのか…?」
「教師なんてどうです?無難で良いと思いますよ?」
「止めてくれ。優秀でも取柄のない連中の墓場じゃないか」
「それは偏見ですねぇ…配信動画の影響ですか?」
「国民全員が端から食い付けるパイを作る人物が欲しいなら、飛び級生から選ぶんじゃなくて一般学生枠から選ぶべきなんだよ」
「そう言った陳情は入省して立場が上になってからにしてください」
と、数人の仲間が部屋の外に駆け付けて来た事を察し、少女は藍との会話を切り上げ、
「申し訳ないが、車中では運転手の指示に従ってください」
部屋に入って来た四人の内の二人に、壊れたドアの修繕を、もう二人の男女ペアに藍と白井の身代わりを指示する。
「白井の言う事ではなく?」
「あいつの役割はあなたの身辺警護ですから」
少女の言葉と共に、白井が藍の隣に付く。
「急げ。従業員や客には催眠暗示を掛けているが、軽度の暗示だから何かの拍子に解ける可能性もあるからな」
「了解」
応じると、白井は藍の腕を引っ張る。
「あ、おい‼着替え‼それと、部屋着のまま…」
「着替えは向こうで用意している。部屋着はお前役が着ているだろ?」
バタバタと二人が退室する…
「なるほど。枝野嬢を振るワケだ」
クスッと笑みを見せる藍役の身代わり女性。
「みんな言うなよ。マルタイは勘が鋭いから、白井が自分の気持ちに気付いたらマルタイの方が離れかねないからな。それに楽しみがなくなる」
少女が面白がっている声で周囲に告げると、
「うわ。何だよ。ノンアルか。」
ビニール袋の残っている缶に白井役の男性がぼやく。
「…なぁ、あたし相手に目隠しって必要か…?」
…車に乗せられて三十分程…五分置き程にグルグル曲がっている様だが、一定の方向に向かっている事は曲がる回数と方向で分かっていた。
「だからって千里眼は使うなよ」
…そんな事をぼやく藍の隣には、白井が座っている…
「たまに使わせてくれ」
「何で?」
「酔うんだよ。こうもグルグル回されると」
「…良いか?」
白井が運転手に問うと、
「十分置きだ」
運転手の回答。
「聞いたな?」
「…つまり、もうしばらく揺られ続けるのか…」
藍の口から溜め息が零れ、
「運転手さん。タイミングを教えてください」
「分かりました」
…そんな会話があって一時間後、目的地に到着…
…一般的日本家屋の様で、玄関で靴を脱がされた…部屋が幾つかある様で歩いた距離的に玄関から二部屋先…入室すると部屋の中心部まで歩かされ、
「アイマスクを外してください」
白井とも運転手とも違う声に従い、藍は目隠しを取る。
広さは六畳程で窓側に折り畳み式の机と椅子だけ…椅子の上には小さな鏡とポシェット…中味は化粧品である事は千里眼で調査済み…一言で言えば簡素な室内…元は下宿屋だった様で、かつて押し入れがあった部分をベッドスペースにしている。
「朝食は朝八時、トイレとシャワーは都度、白井に申し付けて下さい。嗜好品…まぁ、お茶やコーヒーはポットを持ってきますのでお好きな様に…ただ、インスタントになりますので、その辺はご了承下さい」
男性職員の丁寧な説明に、思わず引きそうになるが、
「わ、分かりました。外の情報が欲しいんですが…テレビで構わないので…」
藍は、一応の要望を伝えると、
「そうでしたね?失念していました」
にこやかに対応。
「では、用意して参りますので、お寛ぎ下さい」
その言葉を残し、去って行く…
「お前は残るのか?」
…しかし、白井は残ったまま…
「俺だって、お前と二人っきりじゃ気が引ける」
「そう思うなら、出て行く位の気遣いはないのか?」
「…お前の自殺を止められる者が傍にいないと…」
「…気付いてたか…」
と、藍がベッドに歩を向けて、腰を降ろすと、
「あそこにワザとらしく、拳銃を捨てて行くんだ。そのつもりもあったんだろ?」
白井が椅子に向かう。
「お前はさっきの襲撃が、あたしの殺害を目的としていると思ったのか?」
「状況的には」
「脅しとは考え付かないか?」
「結果的に生きているからって、撃たれたんだぞ?」
「撃ったのは白井が居たからだろ?もし、お前が居なければ、穏便な交渉で済ませたかも知れないぞ?」
「希望的観測だな。銃を持っている段階で殺す気マンマンだと思わないか?しかも、サイレンサーが内蔵された銃だぞ?暗殺者にとっては垂涎の一品だぞ?」
「つまり、お前はお前が居なくとも、彼らがあたしを殺そうとしていたと?」
「そうだよ」
「置き去りにした銃のチェンバーに一発、残っていたのか?」
「それを知っていたから、お前は拾おうとしたんだろ?」
「知らないから聞いているんだよ‼」
突然の藍の激昂。
「何でもかんでも、千里眼で見えると思うな‼そこまで便利な能力じゃないんだ‼しかも『現在視』限定なら見たモノを記憶しなきゃ伝えられない‼その時点で既に伝えている時間分の過去なんだよ‼あたしが見えているのは『現在』だが、他人に伝える時には『過去』に成り下がっているんだよ‼」
と、一気に捲し立て、
「それにあたしの視る『現在視』は特殊だって事は経験済みだよな?」
怒気を含んだままの静かな語りを白井に向け、
「あ、ああ。自分の周りだって分かっていても、立っていられなかった」
白井もその時の事を思い起こし、頷く。
彼の言葉にある通り、藍の千里眼は、二つの目で見る立体視などではなく、前後左右上下の映像が視覚情報として一遍に流れ込むモノで、意識を一定方向に定めておかないと方向感覚が狂ってしまう程、扱いの難しい視覚情報だった。ちなみに、藍でさえ、この能力を使いながら走り回るには、二年の月日を要する程だった。
「世間では予知能力を千里眼の一種とか言うヤツもいるが、あたしにとっては、近くはあるが違う能力だと思うぞ?」
…怒りを鎮めた、藍の口調…
「何故、そう思う?」
「予知って言うのは死ぬ直前の光景を視るんだろ?それは生命の危機に備える為の能力じゃないか。それに比べて千里眼は見たいと言う衝動…いや、欲望が強く反映している」
語りながら、ベッドに仰向けに倒れ、
「…命の危険と知的好奇心…どっちがより人間的かな…?」
身体全体をベッドに乗せ、
「悪い。寝る。疲れた。」
白井に背を見せて、横向きの就寝体制に入る。
「テレビはどうすんだ?」
「あしたの朝」
藍は瞼を閉じる。
…藍達がセーフハウスを離れたのは翌日の午前十時頃…更に、最寄りの駅に到着したのは昼の十二時頃…
「これ、澤地さんの服とスマホです」
藍役の女性から、藍の着ていた臙脂色のスーツとスマホを紙袋入りで手渡される。
「ご迷惑をお掛けしたお詫びに、帰りのチケットはこちらで持ちます」
一礼して、藍役と白井役の二人が、その場から立ち去る。
「しっかし、すげぇ組織だな?ホテルの事件、一切報道なかったぞ?」
「あの部屋であったのは、俺とお前の痴話げんかだってよ‼」
「うわ~‼ありえねぇ~‼」
改札に向かいつつ、藍は紙袋からスマホを取り出す。
…白井とは特に話す事もないので、帰りの列車の中で、藍は『青い不死鳥の物語』の追想に入る…
授業を難なくこなし、その日の授業は終わり。
「じゃあ、また明日~‼」
ゆかりとれもんが手を振って、自分達の家に向かう。
「…ありがと…二人共…」
そんな二人に葵は小さく手を振って返す。
「さて…帰るか」
トコトコと、葵も家の方向に歩を向ける…
「…お?」
と、前から見覚えのある軽自動車…
「ヘイ‼彼女‼乗ってく‼」
軽いクラクションとウィンドゥが開いて、聞こえる茜の声。
「え~?そんな軽薄なヒトの車には乗れませ~ん‼」
「良いから乗りなさい‼温泉行くんだから‼」
「あ、そうだった‼」
葵が後部座席のドアを開けるが、
「助手席‼ナビお願い‼」
茜の声にドアを閉めて、助手席側に回り込むと、
「いい加減、ナビの使い方覚えて下さいよ」
葵が助手席に乗り込むと、車は発進する。
「あ‼」
…しばらく、進んで繁華街に入ると、茜が声を挙げる。
「ど、どうしました?忘れ物ですか?」
突然の奇声に葵が目を丸くしていると、
「お赤飯‼お赤飯、食べたい‼」
「え?急に何ですか?」
「もう、この際、葵の手作りには拘らないから、お赤飯‼」
「分かりましたから、そこのスーパーで降ろしてください」
普段、使っていないスーパーに寄り道する。
葵達が到着したのは地元で有名な温泉街にある老舗の温泉宿…改修が繰り返され、外観は温泉宿と言うより完全にホテルである。
「お待たせ~‼」
ロビーで待っている他のメンバーに葵が手を振ると、
「遅いぞ‼」
ICの憎まれ口が飛び出す。
「仕方ないでしょ?学校なんだから‼それに寄り道もしたし‼」
スーパーのレジ袋を掲げる葵。
「何、入ってんだ?」
「お赤飯。急に茜さんが食べたいって」
「何だよ?ホテルに頼めば用意するだろ?」
「お赤飯作るのって、手間掛かるんだよ?」
そんな話をしながら、葵達はチェックインの手続きを済ませる。
このホテルは、葵達が新年会や葵以外の誰かの誕生日の時に使う特別なホテルだった。選ばれた理由は「温泉に行きたい‼」と駄々を捏ねた茜とICの要望に応える為で、三博士やさくら、緑も気に入った事で特別な日の定宿として宿泊していた。
「急に予約淹れて、申し訳ありませんでした」
さくらが案内の従業員に謝罪の言葉を述べると、
「いえいえ。繁忙期も過ぎておりますから」
と、返される。実際、宿泊客もまばらで、廊下ですれ違うのは宿の和装制服を着た従業員が三人程で、他の客とは遭遇していない。
「こちらのお部屋です。お食事は六時から一階の中広間ですので」
部屋まで案内されると、従業員のお姉さんが一礼して、退室…部屋は二部屋、男性組と女性組に別れて取られている。
「さ~て、ひとっ風呂、行くかぁ‼」
早速、茜が着ている服を脱ぎ始め、
「…まだ、日が高い内に温泉に入れるなんて、贅沢ですねぇ…」
同じ様に、さくらも脱ぎ始める。
「あ、あたしは宿題やってから…」
葵は座卓に筆記用具と参考書を広げようとするが、
「そんなの良いから、一緒に入りなさい‼」
「そうですよ‼裸の付き合い‼」
エラく強引な二人に、
「え?でも…どうして?」
思わず、たじろぐ葵…
「そもそも、あんた、ホントに女か疑わしいのよ‼」
桜がビシッと葵の胸を指差す。
「し、仕方ないでしょ⁈そう言う体質なんだから‼」
その指摘に、葵は胸を押さえながら恥じらいの仕草を見せる。
「いや、一応、遺伝子的にはFEMALEなんだけどね…」
…そこに申し訳なさげに、茜がフォローを入れる…
「だったら、女性なんですよ‼国際医師免許持っている人の判定なんですから‼」
「見せてよ~…これっきりになるかも知れないんだから~」
「絡んで来るなぁ…さくらさん、飲んでます?」
「素面だよぉ…普段は隠していたんだよぉ」
「…最後まで、隠していてほしかったです…」
…葵は諦めて、温泉に向かう事になった…
「葵‼食べなさい‼あんた、ガリガリなんだから‼」
温泉から上がって、午後六時の食事と共に始まった大人達の飲み会は三十分程が経過…その頃には葵達の一団は、宴会場の他の客を置き去りにしながら、弾けまくっていた。
「HEY‼AOI‼LET‘S DANCE WITH US‼」
「おお‼三人寄ればラインダンスだぁ‼」
茜とさくらの定番が始まる。
緑が居た頃は彼女も巻き込まれていたが、今回は三人編成。単純に『天国と地獄』の有名なフレーズを『チャンチャカ』口演奏しながら、足を挙げるだけの酔っぱらいの奇行で、ICの指笛と三博士の煽りで、さくらと茜がヒートアップ。挟まれた葵は、男性陣や他のお客様に自分達のパンツが見えない様に浴衣の動きを調節する役割を自主的にやらされる事となっていた…その奇行は従業員さんに注意されるまで続けられた…
「ほら‼葵‼食べなさい‼そんなガリガリじゃ、嫁にいけないぞ‼」
さくらが全員の食事を葵の膳に置くと、
「AOI~‼I LOVE YOU~‼」
茜が葵の頬にキスをする。男性陣はおのおの徳利やビール瓶で互いが飲んでいるお酒を酌み交わし、昔話から始まる愚痴と笑い声を発している。
「UN~…AOI~…」
そんな中、葵は、茜のウザ絡みを受けていた。
「AOI~…YOU ARE NOT ME…NO MORE MY COPY…」
葵にもたれ掛かって、茜が呟くと、
「葵~‼あたしは結婚諦めてるけど、あんたは結婚しなさいよ~‼」
さくらが思いっきり抱き着いて、泣き出す。締め上げる勢いだ。
「モテモテだな‼葵‼羨ましいぜ‼(英語)」
そんな彼女の姿に、ICの指笛と冷やかしが入るが、
「だったら、どっちか貰ってくれる?」
辟易気味なイヤ味返し。
「僕は茜を諦めてないぞ~‼(英語)」
そこにアルバが乱入し、囃し立てる三博士…
…こんなカンジの夜は更けて行く…
「ほら‼布団で寝て下さい‼」
食事の間に敷かれた布団に二人を投げ飛ばす葵。
「AU‼」
「んにゃ‼」
投げ飛ばされた二人が奇声を挙げて転がると、そのまま絡み付き…
「OH‼AOI~…TOO HARD MUSCLE…」
「えへへ…葵~…急に太ったけど、どうしたのぉ…?」
何を勘違いしたのか、お互いを葵と認識して抱き合う二人…
「…ま、良いか…」
そんな二人を眺めつつ、葵は浴衣を脱ぎ、セーラー服に着替える。
「今まで、ありがとうございました」
着替え終えると、二人に一礼して部屋を去る…
その後は、人目を避けてホテルを抜け、温泉街を家に向かい歩き出す…
「え?地盤沈下?」
ゆかりの家に設置されている防災無線の警報に声を挙げる。彼女は風呂に入ろうと服を脱ぎ始めていた。
「しかも、結構、広域じゃん」
れもんは宿題を終えて、配信動画を見始めて二分後…
「避難場所は…中学校って遠くない?」
それから二人は家族と共に合流し、学校に向かう。
「あれ?何か忘れていない?」
「そうだ‼…でも、何だっけ?」
…顔を見合わせる二人…
「ま、いっか。」
「そだね」
行き慣れている中学校の体育館の一角に腰を降ろし、二人は呟く。
…二人の記憶から、葵の記憶が消えていた…葵の仕業だった…
…地盤沈下と避難指示も、葵が流した情報だった…それだけ離れれば、人的被害はないと、葵は知っていたから…
葵が予知で視た、最後の瞬間の為の、彼女なりの最大限の配慮だった。
「この辺で、大丈夫か」
民家が無くなり、周囲は田畑の広がる領域に辿り着くと、葵は駆け出した…始めは普通に中学生女子のスピードだったが、徐々に加速し、人目のない月明かりの農道を、人類では到底発揮できない領域の速度で疾走する。
「…ん?」
そこに緊急通行止めの標識と道を塞ぐ形で停められている車両。その光景に葵は思わず脚を止めてしまう…距離は二百メートル程だろうか…
「…緊急配備、早いなぁ…さすが、日本の地方自治体…」
…大きく息を吐くと、少しの思案…そこに、
「ヘイ‼彼女‼」
背後からのクラクションの音。
「乗ってく⁈」
容赦のないクラクションの音に混じり、聞こえて来るのは茜の声。
「ちょ…どうしてここに⁈」
バンと軽自動車の二台があるが、葵は茜の乗っている軽自動車に駆け寄る。
「居なくなったら、心配するでしょ?」
助手席に乗っているのは、へべれけなままの茜で、運転席のさくらも目が虚ろ…バンの男性陣はギャーギャーと喧しく、喚いている…
「何?忘れ物?…ってか、何?あの看板?車もジャマ‼」
…さくらが思った事をそのまま口に出している…
「と、とりあえず‼落ち着いてくださああああぁぁあい‼」
葵の一声で、周囲の大人達の酒気が一気に抜け、
「うぶ‼」
全員が車から下車し、その場で嘔吐。
「葵…やるなら、中途半端は止めて…」
茜が悶えながら懇願するが、
「反省してください‼酔っぱらい運転‼」
葵は彼らの乗って来た車内の空気を入れ替えている。酒の匂いが充満していたからだ。
「…ってか、何で皆で来ているんですか?」
今度は全員の二日酔い状態を回復させる。まともな話が出来そうにないからだ。
「居なくなったら、心配するでしょ?」
さくらが最初に口を開く。
「いくらお前が、MONSTAR並みの超能力者でも、外見はただの少女だぞ?」
今度はIC。
「家に用があるならTAXIを使えば良かっただろう?何で、一人で戻ろうとした?」
アルバの言葉。
「前から言っているだろう?お前の悪いクセだ」
「周りにいる大人をもっと信用しろ」
「一緒に住んでいるなら、尚更な」
三博士の言葉。
「何があるの?相談くらいしか出来ないけど、言ってみなさい」
最後の茜の言葉…
…沈黙が数秒…周囲に秋の虫の音…
「…家に戻る車中で話します…協力してください…」
…葵が呟き出す…
「え?詳しい地質調査ですか?」
車を停めている町役場の職員にバンの男性陣が説明している。
「沈下が起こるのは予定では未明ですが、地下水の変動状況次第では変わるかも知れませんので…こっちも上からの指示でして…」
…説明はアルバが担当…
「で?そちらは?」
今度はさくらの運転する軽自動車。
「妹達が、家に忘れ物を…」
「明日中に提出しないといけないレポートが…」
「あたしも宿題、置いてきちゃって…」
…困惑気味のさくらに、葵と茜が瞳を潤ませて懇願…
「分かりました‼通って構いません‼」
バリケード代わりの車が道を開ける。
「助かりました‼」
「サンキュ~‼」
二台の車両が通過する。
「…はぁ、上手くいったぁ…」
さくらが安堵の吐息を漏らすと、
「良かったね‼さくらお姉ちゃん‼」
すかさず茶化す葵。
「お芝居は充分ですよ」
諫めるが、言われて満更でもないらしく、口許に笑みが見える。
「…それでぇ…何で、お姉ちゃん達に黙って家に戻ろうとしたの?」
茜がスマホを葵に渡す。相手はアルバで、バンの方では全員で葵の話を聞く体制…
「あたしの身体は今夜零時ちょうど頃に消滅します」
「え?」
声が出たのは茜だけで、他は息を飲んだ。
「これは、あたしの予知で真っ先に知った事です。そして、あたしの消滅と共に世界にあたし由来の超能力が伝播します。」
「え?ど、どうして?」
さくらの質問。
「世界の物理因果律の上昇を下げる為…と言うより、世界が若返る為です。世界にはこんなカンジの自己再生能力があって、ある決まった時間に世界が摂取しないと、世界の老化の進行が加速するみたいなんです」
「AH~…WAIT‼お前も世界の一部だろ?お前自身が存在し続けるじゃダメか?」
ICの疑問。
「効力的に作用するのが時空なんですよ。だから一個の存在のままじゃ効力がないんです。ちなみに、あたしの超能力は世界を変える為のエネルギーの余剰分です」
「じゃあ、東京をTRANCEPORTした時のCRACKはENERGYが無くなるから?」
アルバの質問。
「あれは効きました。ただでさえ、テレポーテーションは苦手なのに、あの領域を一気に入れ替えたんですから。でも、あの罅は世界があたしの摂取を急いでいたんです。あたし的には『つまみ食い』って言ってましたけど」
「そこまで世界の老化は進んでいるのか?」
「世界は体内で老化抑制剤を生成できるのか?」
「代用するにはどれ程の対価がいる?」
三博士の問い掛け。
「老化は進んでいますが、今は待ってくれています。時間が近いですから。それと老化抑制剤じゃなくて、どちらかと言うと細胞活性剤に近いでしょうか?その後の世界の変遷によって世界が若返るので。あと、替えはないと思います。今回の若返りにはあたしと言う特殊な物質が必要なんです。それに若返りには毎回違った物質が使われるはずです。この世界が何度若返りの薬剤投与を繰り返したか知りませんが…」
「あんたが『不死鳥の血』を処分して回った理由は?」
茜の言葉。
「今から使う超能力…いや、エネルギーの開放は下手をすると世界の軍事バランスを崩壊させます。それどころか、世界の物理法則を根幹から変えてしまう可能性もあります。そうなれば人類どころか世界も消滅する可能性もあります。あたしが超能力を使えるのは、そう言った物理法則の変化を抑える為ですが、誰かの管理下に置かれたクローンが使えば、どんな事象が起こるか分かりません。後に残る憂いは出来るだけ取り除かないと、誰かに恨まれそうで…」
「そうよ‼あんたを恨むなんて筋違いだ‼」
と、茜の叫びが車内の響き、
「そんなの核以上の脅威じゃないですか⁈世界を人質にするなんて‼」
さくらも憤りに声を荒げる。
スマホのマイク越しの男性陣も非難の声が聞かれる。
「問題は、あたしが世界を変えるまでの時間です」
だが、制する様に葵が話を切り出す。
「アメリカの軍事施設は潰しましたが、世界そのものを観測する施設は軍事施設じゃありません。世界のざわつきをアメリカも観測しています」
「⁈まさか⁈」
「…国家の威信の為に、お礼参りに来るかも知れませんね…近くの自衛隊の基地から強奪紛いの武器供与がされているみたいですし…」
葵の千里眼に浮かぶのは、近くの自衛隊駐屯地の司令官を脅している米軍海兵隊の司令官らしき人物の姿…その外では自衛隊の車両の部隊章を強引に外し、自分達の部隊のワッペンを張って、出撃する海兵隊員…
「そんな訳で、皆さん。あたしを家に置いたら逃げてください」
家が見えて来た所で、葵がスマホを閉じるにスライドさせる。
「葵…あんたねぇ」
バンが停まり、ぞろぞろと降りては、こちらに向かって来る。
「そんな薄情なマネ、出来ると思っているの⁈」
助手席の茜の一喝とダッシュボードに振り下ろされた拳で、車が揺れる。
「ここまで一緒に来たんです。最後まで一緒です」
さくらがバンの後方に付けて一言。
「装備頼みのARMYなんて、コワくねぇぜ‼」
「奴らの戦術も熟知しています‼行けます‼」
「今更、コワいモンなどないわ‼」
「年寄りの力、見せてやるぞ‼」
「今夜の花火は派手に上がるぞ‼」
皆が口々に、己を奮い立たせる為に…いや、葵の不安を払拭する為に声を挙げる。
「…みんな…」
…車から降りて、周囲を見渡す…見慣れた皆の顔…力強い笑顔…
「ごめんなさい」
葵の言葉と共に、仲間達と車が消える。
「…あ~あ、ちょっとは残せると思ったんだけどなぁ…」
転送に使った超能力で、葵はエネルギー調整以外の能力が使えなくなった。
…そんな彼女の身体から、仄かに光が放たれている…
「…了解…」
白井の言葉に、藍の意識が戻る。
「あのロリ上司からか?」
「本人の前で言うなよ?それと上司じゃない。同僚だ」
「そうか」
藍が肩の力を抜いて、一息…
「『始まりの地』にはいつ行ける?」
「申請すればいつでも…さすがに今日中はむりだが」
「お前の都合のいい日にしろ」
「何故?」
「礼だ。お前の照会が無ければ機会がなかったからな」
「…何だよ?妙にしおらしいな…?」
「?礼になっていなかったか?」
「いや‼そんな事は…」
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
藍は笑顔を見せた…先程まで追想していた『青い不死鳥の物語』の影響だろうか…その笑顔にはいつもの精彩が欠けて見えていた…
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