『青い不死鳥の物語』に関する私的考察及び考証

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16・変革の痛み

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 藍に届けられた政府からのメールは官公庁への就役勧告である。
 飛び級生制度の本来の目的である景気向上の起爆剤となる事業創生が為されていない事に対する国への補償策の一環である。もっとも、そもそもの飛び級制度の創設理念は、優秀な頭脳から創出されるアイデアを産業の発展に向ける事だったが、飛び級卒業生達から創出されるアイデアはどれも利己的なモノばかりで、大きな利益…引いては税収の大幅な増加を招く効果が得られない事態となっていた。更に、一部の飛び級卒業生の中には日本を離れ、税の安い国外に転居してしまう場合もあった。これは、政府の見積もりの甘さが招いた結果である。そもそも、多くの飛び級卒業生達は、従来の産業構造による変革が限界に来ている事を察していたし、国民全員が端から食い付けるパイの、最もおいしい中心部分が政治家や関わる企業のトップにのみしか行き渡らない事を知っていたからである。
 更に、飛び級資格者の多くが、一般学生と違った感覚を持っていた事も産業創出に至らなかった要員の一つだった。それもその筈、藍の『現在視』の千里眼の様に、この時代の多くの飛び級資格生は超能力的な感覚を多様に操った独自の感性を持っており、その感覚を言語や図式化して伝える事は当人であっても容易に表現不可能な所業なのである。
 その中でも藍の『現在視』はある種、完璧な視覚情報ではあるが、扱いが難解であり、容易に受け容れられる者は、同じ感覚の『現在視』の能力者か、聴覚などの別の感覚で立体的に周囲の状況を正確に捕らえられる者だけだろう。

 では、何故、従来の産業構造に限界が来ていたのか?それは超能力を使ったあらゆる製品の開発・販売に規制が掛けられている為である。
 …従来の工業工程による製品製造の産業遺産としての保護と、工業製品の製造に特化した超能力を持った者達の人権を守る為と銘打たれた国際条約…別名『PROPHET』法…ちなみに『PROPHET』とは条約案を提出した人物の特異能力で、『青い不死鳥の物語』の特殊疾病対策室のシーンで登場したスキンヘッドの男性である。
 条約の内容は、超能力で製造された製品の高額な最低価格の設定、個人でのみの使用を許可し、公共的な使用は一切禁止。輸出入に対する二千パーセント超えの関税を設け、既製品の超能力改造の厳格化もしくは厳罰化、製造に関しても厳格な試験を設ける事を推奨すると言った、完全に超能力製造製品の排斥・非製造を訴えた条約だったが、あっさりと可決、承認される事となった。この裏には、多くの企業からの献金が条約承認会議の任命権者に送られていた事もある。従来の工場設備を無駄にしたくない思惑があった事と、献金した企業が超能力製品を作れる人材を確保できなかった為である。これは後の時代に判明するのだが、訓練による念動力の細密化は可能で、藍の生きている時代ではマイクロ単位の精密念動が可能な人口は全人類の約六十パーセントと言われている程、一般的な超能力となっていた。この事実が知られてもなお、超能力製品の製造・使用の原則禁止化が解除されないのは、未だに企業からの献金が続いているからでもあり、その額は国連全体の活動費のおよそ七割とまで言われている
「だが、超能力製品の性能は既製品を遥かに凌駕している」
 ある少年が父からプレゼントされたデジタルの腕時計をいたずらに超能力強化してしまった為、グリニッジ標準時と変わらぬ時刻設定とセシウム時計並みの正確な性能を発揮し、電池交換なしで彼が老衰で亡くなるまで動き続け、現在も正確に時間を表示し続けていると言う話は有名である。
「多分、あのサイレンサー内蔵の拳銃も超能力製品だろうな」
 …事務所兼住居に戻った藍は、とりあえず自室に戻って、ベッドに背を倒す…
 目まぐるしかった昨日を思い起こすと、幾つかの疑問が浮かぶ。
「あの場で撃った理由はなんだ?撃つ必要があったのか?」
 白井に襲撃を阻止された段階で、襲撃は失敗していた筈なのに、銃弾を撃ち込んで来た事に藍は違和感を覚えていた。
「多分だが、あの手だけ出した状態でも、あたしを当てていた筈だ…ワザと外した理由としては警告だろうが、何処の組織の襲撃かが判明していない…いや、むしろ、その辺は不安を増長させる為に明かしていないのか?」
 その感覚に、藍は不安より苛立ちが沸き立ち、
「何故、あたしを殺さなかった?」
 ガバッと身体を起こし、仕事のメールを確認。
「あたしに死なれると困る組織か?ただのヘタレ…それはないか…」
 …依頼は入っていない…
「…ふざけるな‼」
 スマホを持ったままの手をベッドのクッションに叩き付けると、
「再考の結果、あなたの能力は国家の運営に必要なので?最後の飛び級検定修了した時の個別面談で言ったよな?あたなの能力は国家で管理できる能力ではありませんって‼個人で管理して決して悪用しないでくれって‼今後一切、あなたの能力を使い、上場企業や行政機関に関わる業務を請け負うなって‼」
 飛び級検定修了時の個別面談と言って、学校から呼び出された時の事を思い起こす。
 …それは他の飛び級生から聞いていた面談とは違い、自分が座る椅子とスピーカーが置かれた机だけの部屋で行われ、スピーカーが今後の条件を語るだけで藍自身の意見など聞き入れる余地がない一方的な通達だった。
 この時の通達者の言葉を、藍は一切、忘れていなかった…いや、その言葉も動画で聞き慣れた人工知能が作成した合成音声だったが…
「お前らが勝手に期待した能力を持ってないってだけで放り投げた挙句、自分の顔も晒せないチキン共に免じて、この国で細やかに生きて来たのに…それを阻むって事なら…」
 と、藍はスマホにメールを打ち込み、
「最後にこっちの願いを聞いてもらうぞ」
 いつ旅行に出ても良い様に準備を始めつつ、『青い不死鳥の物語』を追想する。もっとも、ここからは作者の創作範囲に入る…

「あのガキぃ‼」
 茜達の転送させられたのは、いつも葵がゆかり達と別れる丁字路付近…
「いや、まだだ‼まだ、葵を守る事が出来る‼」
 さくらが、避難指示のあった領域の範囲内である事を察知。
「あたしとしては文句の一言も言ってやりたいけどね‼」
 憤りを隠さない茜だが、
「そう言う訳にはいかん」
「葵の想いを無駄にするな」
「俺らは俺らで、葵を守るぞ」
 三博士がバンのトランクを開け放つ。
「おいおい。マジか?」
 ICの言葉と驚きは、銃器の数々がそこに積み込まれていた為で、
「お前は積み込みの手伝いをしていなかっただろう」
 アルバが手近の自動小銃とマガジン、それと火炎放射器を手に取る。
「ご老人方、どうやって、これほどの銃器を密輸したのですか?」
 などと言いつつも、さくらは手持ちのガトリング砲と専用弾倉が入った箱を背負い、
「そいつぁ、秘密だ」
「年寄りの人脈の広さの成果だな」
「まぁ、多少の無理は言ったかな?」
 三博士が自分たち用の軍用ライフル銃を手に取る。
「…ったく、俺の役割はこれか…?」
 ICが配線に繋がれた幾つかの箱を引っ張り出し、拳銃を手に取ると、
「茜。お前は葵に文句を言ってこい」
 茜に残っている自動小銃を手渡す。
「…って、あんた達…」
 …彼女を見る全員の瞳の信頼の光が宿っている様に映る…
「急げ。海兵隊の展開速度なら、そろそろ来るぞ」
 アルバがあらかじめ決めていた迎撃地点に駆け出すと、全員が準備を始める。

 まず、ICが集落への出入口を塞ぐ為、十メートル程隘路になっている場所へと、さくらと共に向かい、爆薬を仕掛ける。そこから田んぼ三区画分後方に、さくらが軽自動車で道を塞ぎつつ、ガトリング砲で迎撃。丁字路にはバンがそのまま置かれ三博士が立て籠もる。アルバはバンと家の中間地点付近の路面に家にあったゴザや近所の農家にあった稲わら、耕作放棄地に自生しているススキの束を撒き散らす。この作業は茜も手伝い、作業終了の合図とも言うべき、隘路の爆破音を合図に、茜が葵の元に駆け出す。
「何?」
 その音を耳にして、葵が呟くと、
「お~い‼」
 反対側から、Mの声。
「え?誰か居るの?」
「うわ‼さすがに眩しい‼」
 葵自身は気付いていなかった様だが、葵の放つ光は、相当な光量を持っており、半径二メートル程の領域は完全に白い世界に変わっていた。
「一応警告。向こうはあんたの家の連中が抑えてくれている。あたし達は逆側を‼」
「あ…あんた達…」
「…最後にあんたの顔、見たかったけど…いい?どんなに脅されても、力で抑えつける様な連中の言う事は聞いちゃダメだからね‼」
「…うん…ありがとう。M。それとA」
「何だ?居る事はバレていたか?」
 と、Aの声。
「名残惜しいけど、行くね‼」
 Mの声が聞こえて、二人分の足音が去って行く。
 …そこに残された葵は、最後の時を前に心を鎮める…

 戦線は、海兵隊の一部を通過させてしまっていた。最初の一撃で、相当量の土砂が道を塞ぎ、車両の通行は不可能となったが、三つの小隊が駆け込み通過。比較的登攀可能な箇所を残りの小隊が張り付いており、ICは夜陰に紛れながら不発の爆薬の調整を急いでいた。
「SHIT…配線じゃなくて、基盤か…」
 連動して起爆する予定が、一個の爆薬に仕掛けた受信装置に異常があった。それがICの手に持っている爆薬入りの箱だった。
「…世界を変える為のFIRST GOATが俺とはな…」
 …と、意を決し、拳銃の銃口を爆薬入りの箱に押し当て、
「GOOD BYE。MY SNOW WHITE」
 ICの呟きと共に、引き金が引かれ、銃弾がICの手の中の爆薬を爆破。残りの爆薬が連動して爆発し、隘路を塞ぐ…
「…ち‼自衛隊の特務も混じっているのか…」
 さくらは一つの小隊を相手にガトリング砲を撃ち付けていた。元はさくらも所属していたレンジャー部隊の中でも精鋭を集めた『特務』と呼ばれる小隊だった。
 接敵した時に水平射一閃で五人は斃したが、即座に、掘られた水田の高低差を利用して隠れられ、隊長のハンドサインで数人が展開。
「ヤバい。挟まれる」
 即座に、軽自動車を盾にして動く気配に掃射を掛けるが、足音が止まらない。
 そこから始まるさくら対『特務』の銃撃戦。さくらは先行しようとする海兵隊を十人…一小隊分斃し、『特務』も二人斃す。が、
「‼弾切れ‼」
 トリガーボタンを押しても反動がない事と周囲に散る廃薬莢の量を確認し、弾倉入れの箱を隊長に投げ付けると、ノーバウンドで隊長が避けた頭上数センチを通過。
「ち‼伝説のメスゴリラがぁ‼」
 激昂した隊長が堀から身を乗り出し、さくらに駆け寄ると、
「誰がメスゴリラだぁ‼」
 ガトリング砲の銃口側を持って、隊長を殴打。
 わらわらと出て来る『特務』を次々と殴り倒すが、一発の銃弾がさくらの右脚を直撃。
「ぐぅ‼」
 ガトリング砲を銃撃のあった方向に投げ付け、右脚を引き摺って、軽自動車の中に…
「…ってぇ…やってくれたなぁ…」
 ガトリング砲で殴られた隊長を含む数人が動かない事で『特務』の全員がボロボロの軽自動車の周囲に集まってしまう。
「…あ~あ…どうすんだ?…後は素人しかいないのに…」
 穴だらけのシートに目を委ねると、さくらは思わず一息付いてしまう。と、
「降りて来てもらえませんかぁ?雉田さぁん?」
「隊長がメスゴリラって言った事は謝りますからぁ」
 気楽な口調の『特務』達。笑っている様にも聞こえる。
「それとも、この程度の善行で天国に行けるとでも思ってますかぁ?」
「だったら、流行の異世界だろ?」
 『特務』達の軽薄な笑い声。
「…悪いな…若輩共…」
 と、サイドブレーキの掴み、グルっとレバーを回し、
「…生憎と、天国にも、異世界にも興味はない…」
 レバーを引き上げると、
「…一緒に地獄に落ちろ‼」
 先端のボタンを押し込むと、車内各所に仕掛けられた爆薬が、周囲の『特務』を巻き込み炸裂した…
 バンでは三博士が車内に籠って、海兵隊の一小隊と対峙していた。
「ちぃ‼はしっこいな‼」
「甘く見るな‼奴ら、精鋭だぞ‼」
「素人相手に本気で仕掛けるか‼」
 バンは表面上、ハチの巣状態で、ガラスは全面破られ、タイヤも全て撃ち抜かれており、とても走行できる状態ではない。
 三博士はドアに隠れながら、海兵隊の銃弾を防いでいる。窓ガラスより下のボディ内部に厚手の鋼板が仕込まれている為、車内に銃弾が入ってこない。
「やつら、コッチの弾切れを狙っているな」
「姑息な」
「だが、時間稼ぎには…」
 と語る博士の一人が、五・六人の集団が近付く影を確認し、
「させるかぁ‼」
 身を乗り出して掃射し、集団の行く手を阻むが、
「グ‼」
 海兵隊側の援護射撃の銃弾が一発、彼の右手に被弾。同じく、掃射していた博士の一人も右肩に銃弾を受ける。その衝撃でライフル銃を車外に落としてしまう。
「何をやっているんだ?」
「いてて…仕方ないだろ?」
「うううぅ…こりゃ、いてぇな…」
 咄嗟に車の隠れる二人に、文句が零れる一人。
「…まぁ、ここまで頑張れば、十分か…」
 その一人が運転席に移ると、
「さっさとしてくれ」
「ああ…いい加減疲れた…」
 今度は残り二人の文句を垂れる。
「ふん‼海兵隊共」
 と、さくらの軽自動車と同じ要領でサイドブレーキを操作。
「俺らの孫に手出しはさせん」
 ボタンを押し込み、周囲に展開している海兵隊を撒き込む爆発が起こる。
 海兵隊の残りは四人。三博士が取り零した人数である。
「…大丈夫だ…ここで阻止できる…」
 アルバは、あらかじめゴザや藁を撒いた近くの水田の堀に身を隠していた。
 …近付いて来る足音が遠慮なく響いて来る…今までのパターンから、見える形での防衛に徹していると、彼らは思い込んでいた…
「…ここだ‼」
 ゴザと藁を踏む音がした所で、アルバは火炎放射器で炎を噴射。見えている二人が炎に包まれ、のたうち回る。
「⁈」
 だが、そこに銃弾が数発、アルバの身体を貫く。
「…‼先発と分けていたのか…‼」
 噴射口に着いたままの火がアルバの足元の下草を焼くと、彼の身に炎が移る。
「…なめるな…僕だって…葵を守れる…‼」
 可燃性のタンクを背負って、アルバが撃って来た海兵隊員に突進。
「シンデレラ‼十二時は近い‼迷うなぁ‼」
 咄嗟に撃ち込まれた海兵隊員の銃弾がアルバの背後のタンクまで貫通し、一気に周囲を火の海に変えてしまう。

「…ったく‼ホントに鬱陶しい‼」
 一方、『ロシアン・トリコロール』達は四個小隊を相手に防衛し切っていた。これは初撃のMの広域の超重力化の念動力によって、先発の一小隊を圧し潰した事が効いており、以降のJの遊撃と、Aの聴覚系ジャミングが戦線を維持していた。
「…あれは、一回使うと…すぐには使えないのよねぇ…」
 農道の中央…アスファルトを捲り上げて象られたタコ壺に身を隠しているAとM…
「いや、君の判断は正しかったよ。あれを警戒して、総攻撃されないで済んでる」
「でも、意外。Aのテレパシーが攪乱に向いてるとは思わなかった」
「取って置きさ」
 そんな話をしていると、Jがタコ壺に飛び込む。
「…ったく‼こっちは外で派手に暴れているんだぞ?イチャつくなら、終ってからにしてくれよ‼」
 Jの口調は、前半は注意喚起だったが、後半は完全な冷やかし…
「ちょっと、何言ってんの?あたし達、そんなんじゃ…」
 Mが眉間に皺を寄せて、完全否定の構え…実際、彼らは、男女の境界などない環境で育てられ、ロシアの超能力研究所では、お互いの全裸も見飽きる程に見ていた。
 しかし、
「M。言いたいことがあるんだ」
 Jからテレパシーで受け取った周辺の情報をMに流しつつ、Aは真剣な目線を向ける。
「な、何?」
 Mが周囲の情報を確認すると、Aを見詰める。
「君は僕の初恋だ」
「え?」
 Mからしたら思わぬ告白。
「そして、その初恋は今でも続いている」
 テレパシーを使っていないAの言葉に、Jが冷やかしの口笛を吹きつつタコ壺の四方に開けられた覗き窓から牽制の銃撃を放ち、Mは思考が一瞬停止し、顔が真っ赤になる。
「な、何で、こんな時に?」
 慌てふためくM。
「こんな時じゃないと言えないから」
 Aが照れ笑いで、答える。
「じゃ、じゃあ、答えは…」
 とMが語り出した時、
「‼」
 轟音と共に、Aが胸部から分断。頭部と肩を含む腕が一瞬、宙を舞い、地面に落ちる。
「対戦車ライフル⁈」
 Jがタコ壺から飛び出し、長身のライフルを構える兵士に向かうと、ライフルを破壊しながらも、周囲の兵士を殴殺していく。
「いやああああぁぁあ‼」
 そんな中、Mの狂乱の声が挙がり、Jがタコ壺に戻ると、
「何で、あたしの返事も聞かないで死んじゃうのよ‼」
 地面に這いつくばり、Aの顔に語り掛けるMの姿があった。
「…あたしは…まだ…でも…」
 …涙をボロボロと流すM…
「…超重力…使えるか…?」
 周囲を察しながら、Jが問うと、
「…え?」
 状況を理解するM。彼女のその超能力の範囲に海兵隊が配置している事はAからのテレパシーで理解していた。
「これから俺が奴らを引き付ける。そうしたら、俺を中心にブチかませ‼」
「そんな事したら‼」
「お前ごときの念動力に俺が潰されると思うか?」
 ロシアの研究施設での実験でJがMの念動力に抵抗出来ている事は承知しているが、Jの疲労も相当で、対戦車ライフルを破壊した時の疲労と今まで受けて来た数発分の銃創が彼の身体では耐えられない事をMに感付かせていた。
「じゃあ、合図は俺が出す‼」
 そう言って、Jはタコ壺から飛び出し、手当たり次第に海兵隊を蹴散らしていく。
 Jは即死を避けるために、頭部と心臓を腕で守りつつ、残りの海兵隊を一か所に集めては、近くの者を殴り倒す…その様をMは覗き窓からチラチラと窺う事、数回…
「今だ‼やれええええぇぇえ‼」
 Jの声が響き渡り、Mが意を決し、超重力をJを中心とした半径二十メートルに降り注がせる。瞬間、Jの周囲の海兵隊員が地面にめり込み、次々と重力に潰されていく…
 …二十秒程、続いただろうか…
「J‼」
 タコ壺から身を乗り出し、Jの居る方向に顔を向けると、人陰が一つ佇んでいる。
「…へへ…言ったろ?…俺なら耐えられるって…」
 血の海に佇むJの言葉が、何とか、Mの元に届く。
「…なぁ?…俺以外に立っているヤツはいるか…?」
「…いないよ…JのTKOだよ…」
「…そうか…どうせだったら、テンカウントで勝ちたかったな…」
 震える声が徐々に弱り…
「…あの…スリルが…堪らねぇんだ…」
 …最後の言葉が風に消えて行く…
「…男って、どうして、こうバカに出来てるの‼」
 と、足元のAと立ったまま息絶えたJにMが罵声を浴びせる。
 …答える者の居ない静寂が数秒…彼女の頬を風が撫でる…
「…でも、みんなとバカ出来て、本当に良かった…」
 …Mがそう呟くと、彼女の額に直径十ミリ程の赤い傷が現れ、彼女の身体が崩れる様に倒れる…やがて、遠くから薄く聞こえる銃声…SATの超長距離狙撃だった…

 メールの着信音で、藍の感覚が現実に戻る。
「…三日後か…」
 藍と白井の『始まりの地』への入場許可が下りた。
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