セーラーキャプチャー

o2ca

文字の大きさ
46 / 48

隊商(キャラバン)の護衛依頼

しおりを挟む
 拠点にしている街の冒険者ギルドからは一定以上の貢献があるクランに定期的な指名依頼が入る。現在進行形のマッピング調査の様なモノで、この依頼はご褒美と言うよりは信頼が持てると言う意味での割り振りだ。なので、定期指名依頼には、各クランの精鋭が向けられる事が多い。我々『セーラーキャプチャー』もその規定に合致するだけの貢献をして来たのだが、定期指名依頼はマッピング調査以外に受けていないし、お呼びも掛かった事がない。理由は単純。この国の出身ではないから。もっと言えば、この街の出身ではないからだ。自国、もしくは地元民と言う条件は、こう言った定期依頼を受ける際には大事な要素となる。依頼を遂行する者が、何かの都合で急に生まれ故郷に帰らなければならないと言ったリスクも減らせるし、他国に情報を流す危険も減らせる。この規定によって『冒険者ギルド』は武装組織の纏め役でありながら、各々の国や地域での活動制限を掛けられていないのだ。そのお陰で、国を跨いでの護衛依頼は受けていないのだが…
「臨時編成になった隊商キャラバンの護衛依頼?」
 あたし『マネージャー』が『ギルドマスター』から受けた依頼は、本来、定期指名依頼に分類される依頼で、外国人、まして、異世界人の我々が受けられない依頼だった。
「だって、お前、この国の貴族になったんだろ?」
 『ギルドマスター』の理屈も単純。貴族になると言う事は、国に帰属すると言う事。つまり、あたしか、貴族になった『プレジデント』さん・『会計』さんでこの依頼を受けて欲しいと言う事なのだろう…
 いや、確かに金額的には魅力的な依頼ですけど…現状では無理ですよ?貴族になった二人…あたしも含めて三人は予定キツキツなんですから‼
「バカな連中相手に真面目に向き合るからだ。ヒトを選べ‼」
 そこまでの審美眼を持っていませんよ。あたし、まだ、十六歳なんですよ?それに『執事』さんの選別があっても、最終的にはあたしの判断が要るんですから。
「年齢を言い訳にするな。勘を働かせろ」
 ダンジョンじゃないんですから、危機感知の闘気は放てませんよ。それで、貴族の息子以下何人かを失禁させたんですから。
 と、あたしが捲し立てると、『ギルドマスター』は大きく溜め息…
「…実際の所、お前らの実力を知りたいって、クランが多くてな…」
 本音を白状してくれた。
 敵情視察ですか?依頼の最中に?
「奴らにとっては、慣れた依頼なんだ。今回みたいな隊商の護衛も何度も受けている」
 うわ~…ズブズブってことですねぇ…
「ホントはあたしだって、こんなつまらん依頼をお前に振りたくないんだよ。それにお前らは秘密主義が過ぎるんだ」
 …さすがにこれ以上仲良くなるのは、あたし達としては危険なんですが…
「…警戒線をこれ以上は下げられんか…?」
 …その辺の判断は『ギルドマスター』に任せたい所ですが…
「ああ。あの時の事か」
 それで、ウチの連中が必要以上に『ギルドマスター』を警戒しちゃっているんです。何とか、悪い人じゃないって、言い聞かせてはいるんですかど…
「『冒険者ギルド』を辞めて、深い山の中で隠遁生活を送るんだ‼とか、喚いてたな」
 昔の話…でもないのかな?…とりあえず、今回は受けますよ。どうせ、『セーラーキャプチャー』が一緒じゃなければ、今後の護衛依頼は受けないとか言っているんでしょ?
「まぁな。まるでガキの我が儘だ」
 じゃあ、今回は貸しにします?
「いや、何かで返すさ。それに貸しにされると、返す時に利子が付きそうだしな」
 ははは。その時は低金利でお貸ししますよ。

 それで、あたしは今、拠点の街から西に向かっている。目的地は半島の突端にある港町だ。現在は三日目の出発時間、位置は大体五十キロ程歩いたのかな…隊商用の休憩小屋が十棟程ある場所で休ませてもらっていた。待遇的には、これが普通なのだろう。何しろ、一日目の夜に寝ずの番を言い渡されたのだから。もちろん、これは持ち回り制だが、夜番を言い渡された先輩ヅラした数人の冒険者が後輩冒険者を休憩小屋から追い出して、グースカ寝ていたらしいから、世の中は、そう甘くないのかも知れないな…
 自分の荷物を持って出発。隊商の横…長く伸びた幌馬車の列…その中央部分にある一台の幌馬車があたしの担当だ。本来なら三・四台の片側を一人が担当するらしいが、重要な荷物でも運んでいるのか?はたまた、重要人物でも乗せているのか?この馬車には四人が張り付いている。ちなみに、『冒険者ギルド』から派遣された人員は基本、全員が徒歩での移動。傷病者や体調の悪い者は、後部にある救護用の幌馬車に乗せられるが、出発前から満員御礼…女性を連れ込んで、やりたい放題らしい…
「盗賊だー‼」
 前の方から声が掛かる。が、
「行く必要はない」
 前を歩くリーダーが止める。何でも、この隊商のルールでは見付けた者に討伐権があり、横取りするとペナルティが課せられ、依頼料から幾ばくか差し引かれるらしい。
じゃあ、手に余る相手がいたらどうするんですか?
「その時はペナルティ覚悟で加勢するが…ったく、盗賊如き放って置きゃ良いのに…あいつら、どうするつもりだ?」
 …基本、盗賊などの襲撃犯は次の休憩地、もしくは目的地まで連れて行き、騎士団に引き渡されるのだが、今の隊商における護衛用の食料は五人分の余裕しかないらしい。つまり、五人以上の捕縛は推奨していない…

 …目的の港町に到着した…外洋向けの大型帆船が遠くに何隻か見える…貨物船かな?
 今回のルートは内陸部を通っていたので、海を見た事での安心感が、隊商の面々に広がって行く…『ここで気を抜くのが素人』とは幌馬車専属護衛のリーダーの言葉だが、実際、街の外より遮蔽物が多い事もあって気は抜けない。こう言った場で注意すべきは全体が襲われる事ではなく、個別に馬車が襲われる事らしい。この隊商も、海産物や海路経由の交易品を内陸方面に運ぶのが目的で来ている訳ではない。内陸の交易品を輸送する任務もある。空荷のまま来るなど儲けが半分、減ってしまうから。
「よ~し‼護衛はここまで‼出発は三日後だ‼各自、羽目を外さない程度にな‼」
 予定の倉庫前に到着して、隊商のリーダーが声を上げる。つまり、我々はここで一旦解散となる。ここから先の護衛は港町の傭兵団が受け持つらしい。お互いの領分を犯さないのも一つのルールだが、どうやら、幌馬車専属護衛のリーダーは傭兵団の下請けらしく、そのまま護衛に付くそうだ。
 あたしは隊商から離れて市場に向かう。拠点の皆へのお土産購入の為…と見せ掛けて、あたしが護衛していた幌馬車の行方を追っていた。あの幌馬車は中を覗かせない為に前後に目隠し用の扉付きの板が張られていた。幌自体に防音の魔法が施されていたが、内部から外を見る機能は無い様だ。その辺は、魔力の質が違っていると、『魔術師』コンビが教えてくれた。ただ、護衛中、扉の覗き窓から視線を感じる事はあった。どうにも、イヤらしくも、嘲笑気味の目線…大した実績もないのに敏腕と謳っていた元の世界のテレビ局付きのプロデューサーを思い出す…
「あの幌馬車?」
 市場の中で、変装した『スカウト』ちゃんと合流して、見張りを交代。受け取ったメモに書かれている他の仲間がいる場所を目指す。

 そもそも、今回の依頼はおかしな点が多過ぎるので、拠点に残っているメンバーと協力して街に到着した隊商の依頼元を探っていたのだ。
 隊商は一般的には、運搬系のギルドの領分だが、今回は一つの商会が受け持っていた。いや、隊商の面々は、ちゃんとした旅のプロだったけど、何処も運搬系ギルドからの引き抜きだったらしい。と言うより、臨時便だった事もあり、急遽、集められたメンバーで、幌馬車専属護衛のリーダーも困惑していたらしい。家族サービスそっちのけで受けたので、戻った時に奥さんに叱られるのがコワいとか…それに運行ルートもおかしい。一般的に隊商は緊急で運行を停止しなければならない事態を想定して、出来る限り人の多い領域を進行するモノらしいが、今回は内陸のあまり使われていないルートを通っていたと、休憩小屋で仲良くなった女性冒険者達から聞いている。ちなみに、今回の規模なら、南の海岸線を通るのが一般的で、無理を言えば、泥の海で生計を立てている集落に泊めてもらえるとか…まぁ、そう言った集落の中には、規模の大きな村があり、国が管理官を派遣している場合もあるとか…そこの管理官がイケメンで会うのを楽しみにしていたのに、このルート選択はないだろ⁈と、二十代後半のベテランさんが喚いていて、隣の休憩小屋の男性陣が怒鳴り込んで来たな…まぁ、『夜這いよぉ~‼』と叫んで、全員で攻撃系の魔法を放って追い払ったが…翌日、隊商のリーダーに怒られたけど…

「…我々だけで、やるしかないか…?」
 『スカウト』ちゃんが持って来た情報の元、仮拠点に集まった数人を前に、あたしは決を下す…ただし、こちらの杞憂になる可能性もあったので、地元の騎士団に密告だけはしておいた。賄賂で腰が重くなる連中でない事を祈ろう…

 結果だけ言えば、地元の騎士団の大手柄にする事が出来た。あの幌馬車に乗っていたのは麻薬関係の大元である『伯爵』だった。いや、あの時は既に元『伯爵』か…
 『魔術師』コンビは、幾らかのお金を支払って、隊商への同行をお願いした。目的は港町に住む両親の元への里帰り。もちろん、そんな人はいないが、美少女二人の懇願に押されて、隊商のリーダーは折れてくれた。いや、病気がちの両親が心配とか、その手の設定を盛り込んだ『作家』の手並を褒めるべきか…?
 今回の隊商で、最も怪しい幌馬車の護衛を受けられたのも良かった。警戒なく近付けて防火系の障壁をある程度、解除できたのだから。決行の夜、『スカウト』ちゃんが警戒して降りてこない元『伯爵』を燻り出す為に、防火障壁を解除した部分に火を放つ。この火は煙を出す為の火。延焼を抑えるために馬車の木枠部分のみをじっくりと焼いて行く。外側からは派手に煙が上がるが、内部は少しずつ煙を充満させなければならない為、騎士団が到着するまで、火の番をしなければならないが、『スカウト』ちゃんの手並に掛かれば誰かに見られる事もなく遂行可能。内部のきな臭さに跳び起きた元『伯爵』と騎士団がばったり遭遇し、幌馬車の所有確認を取っている所を、指名手配中の元『伯爵』ではないか?と集まった群衆の中で囁けば逃げ場などない。そのまま騎士団の詰め所に連行され、貴族登録局の審問を受けて身元が判明。待ち受けていた外国行の貨物船ではなく、王都行の護送船に乗せられた。ちなみに、あたしを自分の護衛に置いたのは優越感に浸りたい為…『セーラーキャプチャー』の所為で麻薬売買の儲けを潰された事への意趣返しのつもりだった様だ…随分と幼稚な意趣返しだな…まぁ、元『伯爵』が懇意にしていた商会を使っての国外逃亡が見え透いていて、皆で苦笑してしまったが…
「出発するぞー‼」
 隊商のリーダーの声に幌馬車隊が動き出す。帰りは海岸線沿いを行くらしい。もちろんあたしも『魔術師』コンビも同行する。今回、元『伯爵』と懇意にしていた商会には指名手配犯の逃亡幇助と言う事で罰は与えられるが、それ程の痛手ではないらしい。隊商も行きの商会が面倒を見て、上手く稼ぎが出れば、隊商方面の事業を始めるとか…
 拠点の街に到着すると、仲良くなった女性冒険者達とはお別れ。数人に泣かれてしまった。『また、どこかで‼』とあたしは去り行く幌馬車隊に手を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!

サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。 「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」 飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう―― ※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

まさか私が王族の一員であることを知らずに、侮辱していた訳ではありませんよね?

木山楽斗
恋愛
王城の使用人であるメルフィナには、ある秘密があった。 彼女は国王の隠し子なのである。 その事実は、半ば公然の秘密となっていた。公にされたことは一度もないが、嗅覚に優れた者達はそれを察知していたのだ。 しかし中には、そうではない者達もいた。 その者達は、メルフィナを一介の使用人として考えて、彼らなりの扱い方をした。 それは許されるものではなかった。知らぬうちに王家に牙を向けた者達は、その行為の報いを受けることになったのだ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

処理中です...