カピバラとツンデレ

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メリーさんの焦り

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「どうしよう…どうしよう…!!」

私、メリー•グレースは、自室で落ち着き無く歩き回り、ついに泣き出してしまった。

「このままじゃ、ラムダが取られちゃう…やだやだぁぁ…ラムダぁ…ひっぐ…ゔえぇぇぇんんん!!!!!!」




私はリズベルク王国、グレース伯爵家のひとり娘。蝶よ花よと育てられた。自他ともに認める美少女であり、天才的な才覚を持っている。ピアノ、歌、踊り、勉強。なんでも出来た。私の願いはすべて叶えられた。私に不可能の字はなかった。そのせいで、我儘で自分勝手な性格になってしまった。でも…一つだけ思い通りにならなかった事がある。それは12歳で結ぶことになった、婚約である。

「嫌!!こんな人嫌!!」

釣書をぶん投げた私を、お父様たちは必死で宥めた。

「頼む、メリー!!この婚約が纏まれば、この領地はもっと発展できるんだ!!」

「領地のために私を売るの!?」

「違う!!彼は次期公爵だ、贅沢三昧もできるし、愛人も囲える!一生を幸せに暮らせるんだぞ!!!」

「私は愛し愛される夫婦になりたいんだもん!」

「彼となればいいじゃないか!!」

「こんなモッサイ男嫌ァァァァァァ!!!」

…と、こんな風に大混乱であった。私は三日三晩部屋に籠城したのだが、これ幸いとした両親に快諾の旨を伝えてしまったのだった…

かくして私は、綺麗にラッピングされて公爵家へと送り出された。


「はじめまして。ラムダ•ロレッタです」

公爵家に来て早々に顔を合わせた婚約者は、やはりモッサイ男であった。せめて髪型くらいなんとかしてほしい。もしかしたらイケメンかも…と微かな希望を抱いていたが、それもあっさりと砕かれた。

もっさい髪型にダサい服装。おまけに瓶底メガネがちょこんと小さな鼻に乗っかっている。

許せん。私はこんなに可愛いのに、相手がこんな奴なんて、恥ずかしくて連れて歩けない。だが、相手は公爵家である。さすがの私も弁えていた。

その後、お決まりの後は若い二人で、と二人きりにされた。

「えーっと…グレース嬢…?」

ものすっごい形相の私を前に戸惑うラムダ。

「あ、あの…」

「話しかけないでください。私は、貴方と婚約なんて絶対にお断りなんですから!」

ビシッ!と指を指す私に呆然とするラムダ。

「す、すみません…」

それから、ラムダが私に話しかける事はなかった。

私は、ラムダに対して無茶振りや我儘をたくさんふっかけた。あれが気に入らない、あれがほしい、こっちに来るな、貴方なんて嫌いだ嫌い、大嫌い……

でも、どんなに酷い事を言ってもラムダは怒らなかったし、無茶振りも全てラムダは叶えてくれた。

「困った人だな、僕のお姫様は」

そう笑いながら。いつしか私は、その微笑みに虜にされていた。でも、そんな自分を認めたくなかった。あんなモッサイ男に惹かれてるなんて、私のプライドが許さなかった。

それから5年経ち、私達は17歳になった。貴族学園に入学し、それなりに充実した生活を送っていた。ある日、私はきまぐれを起こし、ラムダのモッサイ姿にメスを入れた。髪を整え、瓶底メガネをコンタクトにし、服を選んだ。すると……

「…は?」

そこには、私の知らないラムダがいた。金髪碧眼の、美しい男がいた。

「どう?お眼鏡に適いそうかな…?」

「何よ…何よ!!!磨けば光る男じゃない!磨きなさいよ、このバカ!!!」

令嬢らしからぬ言葉で罵倒し、ポコポコ殴る私を、柔らかく笑って受け入れるラムダ。

そうして気づいてしまった。引き締まった身体と、剣だこが出来た手。この間、剣術大会で優勝したというから、相当な腕前なのだろう。いつの間にか、ラムダは私が知っている男ではなくなっていた…。

少し…いや、かなり動揺した。だって自分は、あれから何も変わってないのに。なんだか凄く寂しくて、取り残されてしまった気分だった。

「メリー?」

突然静かになった私を訝しげに見つめるラムダ。

「なんでもない…」

それから、私は静かに家へと帰宅した。ぼんやりとソファーに座り込む私を、心配そうにメイドたちが見つめる。その視線にさえ気づけなかった。

翌日学園に行くと、なぜか生徒がざわついていた。ざわめきの中心を覗いて…固まった。ラムダがいた。イケメンになったラムダが…。私はいても立ってもいられず、ラムダと私だけの秘密基地に連れ込んだ。

「ちょっと!!なんでそんな格好してるのよ…!」

「え?メリーが素敵って言ってくれたから…」

「言ってない!!」

「駄目だった…?」

「駄目じゃない!駄目じゃないけど、嫌なの…!」

「どうして?」

「…言いたくない」

そんなの決まってる。ずっと我儘を言ってばかりで、嫌い嫌いと喚く私なんかより、綺麗で性格も可愛い女の子が、ラムダを好きになったら…!取られちゃうじゃないか!

俯き、何も言わない私。ああ駄目だ、またこんな事を言ったら、もっと困らせちゃう…。前は進んで困らせようとしていたのに、今はそれがひどく怖い。

「メリーは元のモッサイ僕の方が好きだった?」

「答えたくない」

「メリー?」

「ああもう!そうよ、元のモッサイ方が好きよ!!!」

そうしたら、誰も彼の魅力には気づかないまま。ラムダのかっこよさなんて、私だけが知っていればいいの!!それに…あれはあれで、好きだったのだ。

「そっか。」

ほっとしたような声音に顔を上げると、満面の笑みを浮かべたラムダが、目の前にいた。

「でも、僕は元のモッサイ僕に戻るつもりはないよ。君のお願いでもね。でも、それ以外は何も変わらないよ。」

「え…?」

「僕の姿が変わろうとも、気持ちは変わらないってこと。ずっと傍にいて、君の可愛いおねだりも、意地悪も、全部全部叶えるよ。」

そう言って、そっと頬を撫でて、優しく微笑んでくれた。その手の温もりも、微笑みも、以前のラムダと何一つ変わらなかった。

「ずっと傍にいてくれるの…?」

「うん。」

「我儘言ってもいいの…?」

「いくらでも。」

「きらい。貴方なんてだいきらい。」

「僕は好きだよ。可愛いメリー」

大嫌いだ。こんな言葉一つで舞い上がる自分も、そんな自分の扱い方を心得たラムダも。だから、ちょっと意地悪をしたくなった。それだけ。それだけなんだから。

「じゃあキスして。今す…んぐっ…!?」

早い!早すぎる!私じゃなきゃ見逃しちゃうわ…!!て、そんな事を言っている暇じゃない…息、続かな……というかこれ、キスっていうより食べられてる気がするんですが……

「んぅっ……!」

じゅるりと音を立て、ようやく離れた。その瞬間、腰が砕けた。

「おっと…刺激強すぎたか…?」

ラムダの腕の中、酸欠ではくはく言う私…。
そっと彼を見上げると、唇の端に、私の口紅がついているのを見つけて、一気に羞恥で赤くなった。

「あっ、あなたというひとは…なんて、なんっ…!!」

「かぁわいい…ごめんね、びっくりしたね?」

妖艶に微笑む彼に、自分のプライドがひりつく。

「してないもん!!!全ッ然余裕ですけどぉ!?」

「そう?ならもうちょい味見させて」

「ちょ、それは!!ひぇっ…」

…そうしてしばらく経ち。

「も、むり、むりぃ…」

もう何もわからないくらいにドロドロに溶かされ、涙目の私の姿があった。対するラムダは余裕そうに笑っている。呼吸一つ乱れていない。

「このままじゃ授業どころじゃないね。サボっちゃおうか。」

「駄目よ!!そんな事!」

「今のメリー、すっごい可愛い顔してるから、あの中に戻したくないの。今日はここでゆっくり過ごそう。」

その日から、ずっとラムダと一緒だった。前々から私がちょっかい出してる所は多々見られていて、悪口陰口をぼこぼこ叩かれていた。だが、最近は…なんかこう、生温い視線が多い。それはそれで気持ち悪いのだが、悪意がないのでいいとする。割と平穏な日々が続いていた。


でも、あの女がやってきて一変した。
ミランダ•アリシエル。伯爵家長女だ。彼女は明るく、美しく、優しい。


「ラムダ様、こちらの本はいかがです?」

寄り添い合いながら何かを調べる二人。どうやら同じ斑になったようで、この頃はいつも二人でいる。他のメンバーはどうしたのだろうか。というか婚約者がいる身で、女と二人きりって…思わず眉を顰めた。

堪えなければ。ここで何かアクシデントを起こせば、元々悪い私の印象が更に悪くなる。それに…どうでもいいし!別に!!!ラムダが誰といようと、どうでもいいのよ!!


でも…日に日に距離が近づいていく二人、逆に離れていく私たち。そんなある日、グダグダ迷っていた私を吹っ切れさせる、決定的とも言える話が飛び込んできた。

「これはもう駄目ね。というか疲れた…」

びゃーびゃー泣いたら、冷静になれた。私には手紙一つ寄越さないくせに、ミランダとはティーパーティー、買い物デートとは笑わせる。ちなみち今日は図書館デートらしい。

「ゴタゴタ悩むのも面倒になってきたわ」

そもそも私、愛し愛される結婚がしたかったのよね。でも私、愛される努力をしなかった。愛想をつかされても全然不思議じゃない。ここらが潮時なのかもしれない…

ぼんやりそんな事を考えていた、その夜。

「メリー。婚約破棄しないか?」

「は……??なぜです…??」

突然父が、明日醤油買ってきてくれない?くらい軽く言ってきた。

「ラムダ様と上手くいってないのだろう?噂を聞きつけた隣国の第三王子が、お前を嫁に望んでいるらしい。」

「隣国の第三王子が?私の記憶が合っていれば、以前夜会でお会いした時が最初で最後でしたが…」

2年前、王家で開かれた夜会。私は自慢のピアノを披露したのだ。その時すでに、私はピアニストとして名を馳せていた。今はコンサート等はお休みにしているが、いずれは復活させるつもりだ。

「ああ。その時、お前に一目惚れしたらしい。」

「胡散臭いですね。」

「まあまあ、取り敢えず会うだけ会ってくれないか?絶対に二人きりにさせないと約束するから。」

正直嫌だった。だが…寄り添い合うラムダとミランダの姿が脳裏に浮かぶ。

「いいですよ。その代わり、ラムダとは婚約破棄して下さい。」 

「それは第三王子と婚約する、ということかい?」

「気に入ったら、ですかね。でも気に入らなくても婚約破棄で。」

いい男だったら第三王子と婚約しよう。
そうじゃなかったら、また別の男を探せばいい。

どうせラムダにはミランダがいるのだから。


ラムダとの婚約破棄の旨は、数日後にはロレッタ公爵家に届けられた。

あちらからの返答はまだだが、恐らくおじゃんになるだろう。そうしてその翌週には、第三王子と面会する事になった。


「はじめまして、メリー嬢。私はディア•フィーネシュカ。フィーネシュカ公国の第三王子です。」

そう挨拶した王子様は…金髪碧眼の、超イケメンだった。正直、揺れた。こんなに綺麗な男が、この世に存在していたのかと。優しい声、所作も洗練されていて美しい。

読者諸君。いいですか、私はこの世界でトップレベルの美しさを持つと自負している。なおかつ、多彩で頭脳明晰。そんな私でも驚愕の美しさである。かの国は美しい子が産まれやすいとは聞くが、これ程までとは…。この私の隣に並んでも遜色ない男が存在するとは…。

面会は無事に終わった。だが、我らグレース家を顔で倒した王子様の衝撃から立ち直るまで、ほんの少し時間を要したのであった。


さてさて、その翌々日。私は馬車に揺られて学園へと向かった。王子様との婚約はまだ決まっていない。だが、あちらは私を伴侶にと望んでいるらしい。

「ディア様と…」

結婚できたら、あの顔が毎日見れる。第三王子はずっと優しくて、暖かかった。でも頭に浮かぶのはラムダのモッサイ顔である。まったくあの男は…今頃どんな顔をしているやら。

「メリー。」

その答えはすぐにわかった。ぼんやり夢心地の私を、恐ろしく低い声が引き摺り落とす。

「あら、ラムダじゃない。何か?」

「今日の放課後、空いてるよね。公爵家まで来てほしい。」

「婚約破棄の事なら、お父様と後で伺うわ。」

「君と二人で話がしたい。」

「今してるじゃない」

「静かな所で話したい。」

「お断りよ。」

何でそんな事せねばならんのだ。
 
「メリー、この我儘ばかりは聞けない。」

「我儘じゃないわよ、家の決定よ。」

「僕は公爵家次期当主だ。」

「そうね。だから何?」

この国では、圧力による婚姻を許さない。だから、この脅しには屈しない。

だが結局、しつこいラムダに折れて、話す事になってしまった。ただし、場所はグレース伯爵家の私の部屋で。


「で、あなたはどうしたいのよ。言っとくけれど、婚約破棄は撤回しないわよ。」

ラムダはきっかり1分黙り込んでから口を開いた。

「君は…もう僕の事、好きじゃないの?」

「ラムダ、あなた馬鹿なの?もしかしてあなた、頭だけ別世界に住んでるの?自分の婚約者と他の女がイチャコラしてるのを黙ってみてられる女って少ないのよ。」

「イチャコラ…?他の女?」

「ミランダよ、ミランダ。あの可愛さは唯一無二よ。天性の才能よ。私が唯一持てないものよ。ずっと言われてきたの。お前は可愛げがないって。高慢ちきで頭が硬い、才能を振りかざした暴君ってね。まあその通りなんだけど。」

「ちょ、ちょっとメリー?」

「あなたとミランダが仲良くイチャコラしてる時、私がどう思っていたか。あなたはきっと知らないんでしょうね。でもそれでいい。もうお終いなんだもの。」

「お終いって…ちょっとメリーさん!?」

何故か焦り、冷や汗を流すラムダ。

「悪かったわね。今まで散々迷惑かけて。
ミランダは馬鹿だけど、どうしょうもない馬鹿ではないわ。一緒にいたら、きっと幸せになれるわ。さようなら、ラムダ。」

そう言って…待たせていたメイドに、ラムダを放り出すよう命じた。

「メリー!!待って、メリー!メリー!」

引きずられるようにラムダは部屋から退出していった。



「最後まで身勝手な女ね、私って。」

結局、ラムダに一言も弁明させず自分の気持ちだけ話して終わってしまった。言いたいことだけ言って、相手からの言葉は一切受け取らない。

「こういう所が駄目だから、直したいのに。駄目ね、本当に駄目ね…」

ラムダからの言葉が怖い。拒絶の言葉なんて聞きたくない。だから自分から離れる。嫌われたと、愛されていないと、突き付けられるのが怖いから。

「こんな捻くれた女より、素直で明るいミランダのほうが、余程いい女だわー。」

ラムダはたぶん愛着がわいているだけだ。切り替えて、もっと広い目でみれば、いい人と出会えるだろう。


「これで本当にさよならよ、ラムダ」



と、思っていたのに。

「メリー、ほら。あー、して?」

「しないわよ!なんでいるのよ!?」

現在。私の隣には満面の笑みをたたえたラムダがいた。しかも、はいあーんをしようとしている。意味がわからない。

「ちょっとラムダ、あなた一体どうしたのよ???ミランダは??」

「さぁ。知らないね。その辺にいるんじゃない?」

そのへんって…そっと視線を巡らす。

「いたわ…いちゃったわ…」

もんのすごい目で私を睨みつけるミランダが。

「ちょっと…あの可愛いミランダはどこにいったのよ。」

「さぁ?どっかに捨ててきたんじゃない?メリーってば意外と純粋だよね。あれが天然物の可愛さだと本気で思ってたんだから。」

「いや、どういうことなのよ!?あの可愛さは演技ってこと!?だったら見抜けないわよ!!しっかり可愛いし!それから、ちょっとあなた適当すぎるわよ!あんだけイチャコラしてたのに、何なのよ!?」

もしや、懐いていた気難しい獣が離れてしまったみたいな気持ちなのだろうか。

「ちょっと…あなたと私は婚約破棄したはずよ。」

「してないよ。来る前に握り潰したからね。」

「はぁーーーーーー!?」

思わずあんぐりとしてしまった。今の私は、令嬢にあるまじき顔をしているだろう。そんな私を見てラムダは、

「お、やっと口開いてくれた~」

と言って、プリンを入れてきた。いや美味しいけど!美味しいけど!!!!!今はやめろ!!!!

「んぐっ…!!ちょっと、どういう事なのよ!?」

「だーから、あの日説明しようとしたのに。」

ラムダは私の手を引き、防音ばっちりの部屋へと入った。

「ミランダ•アリシエル嬢…の本当の名は、ミラルド•ルイディエラ。次期ルイディエラ国の皇帝だよ。」

「は…?隣国の王子様…?え、でも…!!そんなのおかしいわ!だってミランダ•アリシュエルはずっとこの国にいたし、アリシュエル伯爵だって代々続く由緒正しき貴族であり、この国の人よ!?」

そんな事を言いつつ、理由がなんとなくわかっている。だって隣国っていうと。

「24年前から、ずーっと旧貴族派と皇帝派で隣国が割れているのは知っているね。現皇帝には子がおらず、旧貴族派の中で3代前に降嫁された王女殿下の血が強くでた、ロクシアーヌ侯爵が時期国王として有力な事も。」

それはよく知っていた。もしロクシアーヌ侯爵が皇帝になれば、我が国が戦火に飲まれることも。

「現皇帝、バルセイド•ルイディエラには元々4人の子供がいた。でも…尽くが旧貴族派に殺されてしまった。たった一人、末っ子のミラルド様を除いて。」

バルセイドは、ミラルドが殺されないように女装させ、隣国であり友好国…つまり我らがリズベルク王国に預けたのであった。ちなみに、アリシエル伯爵家は忠義に厚く、口が硬い。またリズベルク王家とも血が近いため、ミラルドの預け先に決まったのだ。

「ちょっと!?つまり、えっーと!!社交界に出始めるのが12だから、少なくとも5年は女装してるってこと…!?」

「うん」

あまりの事に絶句してしまった。声変わりや身体の成長で、女装はかなり難しくなるはず…いったいどうやって、あの可愛さと可憐さは出せるのか。考えると気が滅入りそうである。

「努力の上で可愛いってことなのね、あの人。ん?ということは、もしかして…天然バカも演技ってこと!?」

「そういうことだね。僕は彼の補佐兼虫除けとして、しばらく側にいたってこと。最近面倒な奴がわいてきてね…。」

「ふーん…」

なるほどねぇ…

「で、それで何よ。僕は清廉潔白なので婚約破棄なんてしませんってこと??」

「そうだよ。婚約破棄の手紙は途中で僕が握り潰したからね。届いてさえいないし、僕の親も知らない。婚約はされたままだし、このまま行ったら来年の春には僕の花嫁だよ。」

「ちょっと待ちなさいよ!来年の春!?初耳なんですけど!!!!!」

「今初めて言ったからね。ちなみに僕と僕の両親の意向で、まだそちらには伝えてないよ。あの人達が知ったら、速攻で潰しにかかるだろうからね。元々君を僕に嫁がせる気なんて、ないんだから。」


「はぁ!?うちの親はすっごく乗り気だったわよ!?」

幼い頃、お見合いを持ってきたときの強引さを思い出す。やはり乗り気だったはず。

「いや。あの時は僕より条件がいい男がいなかったからだよ。でも、今は違うだろ?元々君のご両親は、君を溺愛していた。なるべくイケメンで金持ちで権力も名声もあって性格も良くて…そういう男を君の旦那にと望んでいたんだよ。」

初耳情報がドンドコ溢れてきて、頭が痛くなる。

曰く、我らが父母は溺愛する私をラムダの嫁にすふつもりが1ミリもないと。

曰く、フィーネシュカ公国の第三王子に嫁がせたほうがメリットが大きいし、何より顔も能力も我が愛しの娘メリーにぴったりだとからと。

曰く、ラムダとラムダの父母は、そうなる前に私を早く捕獲してしまいたいと。

「我が父ながら阿呆すぎるわ…なによつまり、私はいいように踊らされたってわけ?」

「そういう事だね。娘に冴えない令息ラムダは不釣り合いだって思ってるようだよ。だから君に事の真相を伝えずに婚約破棄するように仕向けたんだ。」

父よ…母よ…貴方達って人は本当に阿呆なんですね…

「というわけで、君のお父さんとお母さんをちょっとお仕置きするから。しばらくは侯爵邸で一緒に暮らそうね。」

「は!?!?ちょっと、それは…!」

「どっちにしろ、来年の春には僕の嫁なんだから。同棲期間だよ。むしろ、お互いの生活リズムをすり合わせるのにいいんじゃない?」

とてもいい笑顔のラムダ。まずい、押し切られる!!!ささーっと逃げようとしたが、いつの間にか腰に手が回っていて動けない。

「君の部屋はもう整えてある。ドレスもメイク道具も、必要なものは全てね。ぜったい君に似合うし、気にいるよ。」

そっと抱きしめられ、髪に何度もキスを落とされる。ラムダってこんな奴だっけ?

「さぁ、行こうか。僕のお姫様。」

そのまま抱き上げられて、抵抗する間もなく侯爵邸へと連れ去られてしまった…。



「ねぇ、ラムダ。貴方って私のどこを好きになってくれたの?」

侯爵邸に連れ込まれて早3日。私はこの状況に慣れつつあり、一番気になってたことを聞いてみることにした。

「意地っ張りなところ。素直じゃないところ。すーぐ拗ねるところ。僕のことが、大好きなところ。君を構成する全て。」

「あっそ…」

スラスラ恥ずかしいこと吐きやがって。
そっとため息をつき、この3日間のことを思い返した。

まず、私の家族について。とりあえず婚約破棄はしない方向になった。フィーネシュカ公国の第三王子の件もおじゃんである。幸いにして、あちらもさっぱり諦めてくれたようである。

ミランダ•アリシュエルについて。彼については、卒業後隣国に戻ると決まっている。おそらく、これまで以上に過酷な道を歩むだろう。隣国も暫く荒れる。だが、心配はしていない。あの強かさと頭の回転があれば、皇帝になる事は容易いはず。人心掌握も上手いしね。

それから…私達は春に結婚する事になる。ドレスやティアラなどはここに来た当日から、あれやこれやのてんてこ舞いで進んでいる。

「ラムダ。」

「んー…?」

「大好きよ。」

そう言うと、思いっきりラムダが咽た。

「ちょ、ちょっと!?大丈夫!?」

「げほ、ごほ、、!?!?ちょ、ちょっとメリーさん、今さりげなく…!?聞き間違い!?もう一回言って!!!」

「嫌よ!!!減るわ!!」

「減らない!!!!」

「もーーーーーー!!!!!!」


この野郎め。きっと、こんな日々はずっと続くのだろう。……結婚後はもう少し素直になってもいいかもしれない。大好きよ、の言葉にワタワタする彼は凄く可愛いから。

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