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失恋インスタントラーメン
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『みそラーメンをお願いします』
不思議な関係の秋野からのメッセージに、俺はまたかと顔をしかめた。
会社のビンゴ大会で貰った赤い金魚の形をした個性爆発時計を見れば、21時を過ぎていた。
「今じゃなくてもいいんじゃない……」
謎料理ばかり出てくる海外の料理番組を見ていて、次に川の主的な何かを調理するというタイミングで呼び出しをくらうとは。
「まあ、いいや。放っておこう」
寝転がっていた自分は起き上がるのも億劫で数分転がっている間にも、メッセージは送られ続ける。
『卵もお願いします』
『卵はゆで卵がいいな』
『ちくわが残ってた!!使える?』
『メンマもいいね。まだ少し残ってた』
『ザーサイってやつを昨日貰ったよ』
段々、口調が軽くなってくるのも引っかかる。
「面倒だな……」
出掛けたくない、出掛けたくないと呪文のように繰り返していても、メッセージは次々と来る。
『ネギが無かった』
『豆板醤を発見した』
既読にしなければよかったのに、真面目な俺は真面目にメッセージを読んでしまう。
『もう、だめかも………………おわりにする。ぜんぶ………………………ぜんぶ』
俺は唸りながら起き上がり、料理番組を録画してテレビを消した。
このメッセージが送られてきたら、逃げられない。
「いいように使われてるな」
買ったばかりのしっくりこないブルゾンを着て、冷蔵庫の中を眺める。
「使えそうな物がないな」
それでも、萎びた半額小松菜ともやしと千切り人参の袋を家電量販店で貰ったヒヨコ柄のエコバッグに入れた。
『だめだ……』
『だめだ……』
『だ』
「うるさいな!!」
今から行くと送ると、メッセージは止まった。
「川の主のトマトソース煮か……まあ、食べられなくもなさそうだけど……」
テレビの続きが気になりながら自転車置き場へ降り、譲って貰った真っ黄色の自転車に跨ぐと友人の家へと気合いを入れてペダルをこいだ。
俺は秋野が失恋する度にインスタントラーメンを作りに行く。
意味が分からなくても、行かなくてはならないようにされてしまった。
寒かろうが暑かろうが関係ない。
自分、僕なのか?
まだ、バイト代でも出れば気持ちも違うかもしれない。バイト代貰っても嫌だけど。
「あー、寒い」
自分が秋野と知り合ったのは、今から3年前の少し肌寒くなった頃だった。
「秋野が食欲を無くしている。どうすれば良いと思う?高山君」
大学の先輩、林さんに学食で声を掛けられ、自分は地獄のように熱い天ぷらうどんとの格闘から顔を上げた。
「あ、こんにちは。秋野って誰ですか?」
林さんは向かいの席に座り、あやしい笑みを浮かべた。
あの時、天ぷらうどんに気をとられていて逃げ時を逃した。
「今からカツ丼を奢るから、ある場所に付いてきてほしいんだ」
「いや、いらないです」
林さんは止める間もなく注文をしに行き、これまた熱々のカツ丼を運んできた。
「夕方5時、西門で待ってる」
「え?」
林さんは手を振り、テーブルにぶつかりながら去って行った。
大真面目な俺は、約束の時間5分前に待っていると、林さんは神妙な面持ちでやって来た。
「秋野は悪い奴ではないんだ。それだけは伝えておくよ」
「はぁ」
歩いて数分後、立派と言われるであろうマンションの6階の部屋。
「秋野」
心配そうな声掛けをしながら、無用心な部屋を進む林さんの後に俺はおっかなびっくりついて行くと、林さんの肩越しからは遠目からでも近寄り難い雰囲気をまといローテーブルに突っ伏した人物が見えた。
「高山君だ。きっと秋野を助けてくれる」
「へ?」
林さんは簡単な紹介を終えると菩薩様のように微笑み、俺の肩に手を置いた。
「後は任せた」
俺が呆然としている間に、林さんは消えていた。「どういう事?」
何度も頭の中で繰り返していると、秋野という人と目が合った。
相手は最高に不機嫌そうな顔をして、こちらを見ていた。
俺は何となく目をそらした。
帰ろうかなと10回位思ったけど、頼まれ事を途中で放り出すのも自分が許せなかった。
「インスタントラーメンが食べたいです。こういう時は、ラーメンを食べると元気が出るんです。作って下さい。お願いします」
なんて答えようか考えていると、秋野さんは続ける。
「塩ラーメンでお願いします」
「あの……」
「棚の2段目にインスタントラーメンが入ってます。よろしくお願いします」
シンク上の棚には、醤油、味噌、塩、豚骨、海外のラーメンまで積まれていた。
「お願いします」
何度もお願いされて断りきれず、俺は渋々使っても文句を言われなさそうな片手鍋に水を入れ、火にかけた。
「なんで、フラれるんだろう」
突然の独り言が始まっただけでなく、俺への質問も始まる。
「なんでだと思う?」
「……知りません」
この日は、沸騰するのが長く感じた。
「やっぱり、男同士って難しいのかな……」
秋野は頭を抱え込んだ。
「俺と付き合う奴、結局女と上手くいって、結婚した奴もいた」
秋野はデフォルメクジラのクッションをベッドに投げつけた。
湯が沸き、棚から取ったラーメンを入れ、3分待つ。
「俺は本気だったのに……」
俺は早く、早くと祈りながら鍋の中を混ぜた。
「俺、女っぽいのかな?」
この空気は、返事を求められている。
「さぁ……」
秋野をしっかり見たわけではないけど、おしゃれジャージに髪を乱していても整っている感じはする。
「同性同士は大変だけど、一緒に生きていこうと誓ったのに、遊びだったんだな」
ラーメンは無事出来上がったが器がなくて鍋のまま、声をかけるタイミングを伺う。
「1人で浮かれて馬鹿みたい。そんな奴らに引っかかったんだから、馬鹿だ」
項垂れて静かになったので、声をかけた。
「ラーメン、あのインスタントラーメン塩味が出来ました」
ローテーブルにタオルを敷いて、上に鍋と箸が見つからなかったのでフォークを置いた。
「学ばないよね、俺。……いただきます」
俺はシンクにもたれて、様子を伺う。
「おいしい」
さっきまでの機嫌の悪さが嘘のように、秋野は幸せそうに食べていく。
それからも秋野は飽きることなく失恋し続け、俺は林さんに呼ばれ、飛んで行くのを卒業まで続けて終わるかと思ったが甘かった。
俺は就職して、秋野が大学院で難しい研究を続けても、失恋ラーメンは作り続けた。
秋野のマンションに着き、部屋へ行くと鍵の掛かってないドアを開ければ、打ちひしがれている秋野が待っていた。
「また、だめだった」
「そうか」
俺はまず、ゆで卵を作り始めた。
「高山」
同い年だということが判明してから、お互い呼び捨てで呼ぶ間柄にはなった。
「あと、10分はかかるよ」
「高山」
「何?」
秋山が隣に来る。
「高山、俺と付き合ってくれない?」
「どういう事?」
「恋人になってよ」
「嫌だよ」
「即答過ぎない?こんな俺の相手出来るの高山だけだって気付いたんだ。お願いします」
俺は火を止めた。
「ラーメンが出来た。まずは食べてからだ」
不思議な関係の秋野からのメッセージに、俺はまたかと顔をしかめた。
会社のビンゴ大会で貰った赤い金魚の形をした個性爆発時計を見れば、21時を過ぎていた。
「今じゃなくてもいいんじゃない……」
謎料理ばかり出てくる海外の料理番組を見ていて、次に川の主的な何かを調理するというタイミングで呼び出しをくらうとは。
「まあ、いいや。放っておこう」
寝転がっていた自分は起き上がるのも億劫で数分転がっている間にも、メッセージは送られ続ける。
『卵もお願いします』
『卵はゆで卵がいいな』
『ちくわが残ってた!!使える?』
『メンマもいいね。まだ少し残ってた』
『ザーサイってやつを昨日貰ったよ』
段々、口調が軽くなってくるのも引っかかる。
「面倒だな……」
出掛けたくない、出掛けたくないと呪文のように繰り返していても、メッセージは次々と来る。
『ネギが無かった』
『豆板醤を発見した』
既読にしなければよかったのに、真面目な俺は真面目にメッセージを読んでしまう。
『もう、だめかも………………おわりにする。ぜんぶ………………………ぜんぶ』
俺は唸りながら起き上がり、料理番組を録画してテレビを消した。
このメッセージが送られてきたら、逃げられない。
「いいように使われてるな」
買ったばかりのしっくりこないブルゾンを着て、冷蔵庫の中を眺める。
「使えそうな物がないな」
それでも、萎びた半額小松菜ともやしと千切り人参の袋を家電量販店で貰ったヒヨコ柄のエコバッグに入れた。
『だめだ……』
『だめだ……』
『だ』
「うるさいな!!」
今から行くと送ると、メッセージは止まった。
「川の主のトマトソース煮か……まあ、食べられなくもなさそうだけど……」
テレビの続きが気になりながら自転車置き場へ降り、譲って貰った真っ黄色の自転車に跨ぐと友人の家へと気合いを入れてペダルをこいだ。
俺は秋野が失恋する度にインスタントラーメンを作りに行く。
意味が分からなくても、行かなくてはならないようにされてしまった。
寒かろうが暑かろうが関係ない。
自分、僕なのか?
まだ、バイト代でも出れば気持ちも違うかもしれない。バイト代貰っても嫌だけど。
「あー、寒い」
自分が秋野と知り合ったのは、今から3年前の少し肌寒くなった頃だった。
「秋野が食欲を無くしている。どうすれば良いと思う?高山君」
大学の先輩、林さんに学食で声を掛けられ、自分は地獄のように熱い天ぷらうどんとの格闘から顔を上げた。
「あ、こんにちは。秋野って誰ですか?」
林さんは向かいの席に座り、あやしい笑みを浮かべた。
あの時、天ぷらうどんに気をとられていて逃げ時を逃した。
「今からカツ丼を奢るから、ある場所に付いてきてほしいんだ」
「いや、いらないです」
林さんは止める間もなく注文をしに行き、これまた熱々のカツ丼を運んできた。
「夕方5時、西門で待ってる」
「え?」
林さんは手を振り、テーブルにぶつかりながら去って行った。
大真面目な俺は、約束の時間5分前に待っていると、林さんは神妙な面持ちでやって来た。
「秋野は悪い奴ではないんだ。それだけは伝えておくよ」
「はぁ」
歩いて数分後、立派と言われるであろうマンションの6階の部屋。
「秋野」
心配そうな声掛けをしながら、無用心な部屋を進む林さんの後に俺はおっかなびっくりついて行くと、林さんの肩越しからは遠目からでも近寄り難い雰囲気をまといローテーブルに突っ伏した人物が見えた。
「高山君だ。きっと秋野を助けてくれる」
「へ?」
林さんは簡単な紹介を終えると菩薩様のように微笑み、俺の肩に手を置いた。
「後は任せた」
俺が呆然としている間に、林さんは消えていた。「どういう事?」
何度も頭の中で繰り返していると、秋野という人と目が合った。
相手は最高に不機嫌そうな顔をして、こちらを見ていた。
俺は何となく目をそらした。
帰ろうかなと10回位思ったけど、頼まれ事を途中で放り出すのも自分が許せなかった。
「インスタントラーメンが食べたいです。こういう時は、ラーメンを食べると元気が出るんです。作って下さい。お願いします」
なんて答えようか考えていると、秋野さんは続ける。
「塩ラーメンでお願いします」
「あの……」
「棚の2段目にインスタントラーメンが入ってます。よろしくお願いします」
シンク上の棚には、醤油、味噌、塩、豚骨、海外のラーメンまで積まれていた。
「お願いします」
何度もお願いされて断りきれず、俺は渋々使っても文句を言われなさそうな片手鍋に水を入れ、火にかけた。
「なんで、フラれるんだろう」
突然の独り言が始まっただけでなく、俺への質問も始まる。
「なんでだと思う?」
「……知りません」
この日は、沸騰するのが長く感じた。
「やっぱり、男同士って難しいのかな……」
秋野は頭を抱え込んだ。
「俺と付き合う奴、結局女と上手くいって、結婚した奴もいた」
秋野はデフォルメクジラのクッションをベッドに投げつけた。
湯が沸き、棚から取ったラーメンを入れ、3分待つ。
「俺は本気だったのに……」
俺は早く、早くと祈りながら鍋の中を混ぜた。
「俺、女っぽいのかな?」
この空気は、返事を求められている。
「さぁ……」
秋野をしっかり見たわけではないけど、おしゃれジャージに髪を乱していても整っている感じはする。
「同性同士は大変だけど、一緒に生きていこうと誓ったのに、遊びだったんだな」
ラーメンは無事出来上がったが器がなくて鍋のまま、声をかけるタイミングを伺う。
「1人で浮かれて馬鹿みたい。そんな奴らに引っかかったんだから、馬鹿だ」
項垂れて静かになったので、声をかけた。
「ラーメン、あのインスタントラーメン塩味が出来ました」
ローテーブルにタオルを敷いて、上に鍋と箸が見つからなかったのでフォークを置いた。
「学ばないよね、俺。……いただきます」
俺はシンクにもたれて、様子を伺う。
「おいしい」
さっきまでの機嫌の悪さが嘘のように、秋野は幸せそうに食べていく。
それからも秋野は飽きることなく失恋し続け、俺は林さんに呼ばれ、飛んで行くのを卒業まで続けて終わるかと思ったが甘かった。
俺は就職して、秋野が大学院で難しい研究を続けても、失恋ラーメンは作り続けた。
秋野のマンションに着き、部屋へ行くと鍵の掛かってないドアを開ければ、打ちひしがれている秋野が待っていた。
「また、だめだった」
「そうか」
俺はまず、ゆで卵を作り始めた。
「高山」
同い年だということが判明してから、お互い呼び捨てで呼ぶ間柄にはなった。
「あと、10分はかかるよ」
「高山」
「何?」
秋山が隣に来る。
「高山、俺と付き合ってくれない?」
「どういう事?」
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