センシティブなフェアリーの愛♡協奏曲《ラブコンツェルト》

夏愛 眠

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3話・一緒に寝てもいい?

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 しばらく滞在するというと、エルナンの両親も歓迎してくれた。

 一緒に食事をした後、エルナンに屋敷の中を案内してもらったり、彼の部屋でディーンの記憶奪還作戦を話し合ったりした。フェアリーに戻れなくなったことを打ち明けると、エルナンは「むぅ……」と唸った後、自分も調べると言ってくれた。



「ずっといてくれると嬉しいんだけどな」と無邪気な笑顔を向けてくるが、エルナンだって休暇が終わると王都にある学校に戻ってしまうのだ。それまでに方法を見つけないと、というと「そうだよな」と神妙な顔をし「軽率なこと言ってごめん」と謝ってくれた。



 ランディス夫妻はアシュリーに部屋を用意した上に、担当のメイドもつけてくれた。

 おかげで生まれて初めての入浴も手伝ってもらってなんとかできたし、なぜか手荷物ひとつも持っていないアシュリーのため、数日分の着替えを急いで用意してくれた。



 その夜、用意してもらった寝間着を着てベッドに横になったアシュリーだが、広い部屋の中、こんな風にひとりで眠るのも初めての経験で、心細くて眠れない。



「シンシアに会いたい……」



 窓の方を見やりながらひとりつぶやいても、花園まで届くわけもなく、その声がただ静かな部屋に吸い込まれていくのがなんともかなしい。アシュリーはむくりと起き上がると、部屋をそっと出た。



 屋敷の中はもうみな寝静まっているのか、物音ひとつしない。しんとした廊下をひたひたと歩いていく。同じような意匠の扉が並んでいるが、その1つの前で立ち止まった。



(たしか、ここだよね)



 昼間訪れたエルナンの部屋。少しだけ扉を開け部屋の中を覗いてみるも、薄暗くてよく見えない。仕方なくそっと体を滑り込ませる。昼間とは雰囲気が違う気もする。足音を忍ばせて奥の間にあるベッドに近づくと、サイドテーブルに小さな明かりが灯っており、読んでいたらしい本を胸の上に開いたまま眠っているエルナンの姿があった。



「エルナン……」



 ホッとしながら小さな声で呼んでみるも、エルナンはうっすら口を開けたまま気持ちよさそうに眠っていて起きそうにない。アシュリーは少し考えて、そっとシーツを上げベッドの中に入り込んだ。



 しかし、もぞもぞと動いてエルナンの隣に落ち着いた途端、パチっとエルナンの目が開いた。

「ん?」



「エルナン……」

 今度は真横から声をかけると、エルナンは驚いた顔でバッと起き上がった。



「アシュリー……! ここで何してるんだよ」

「一緒に眠ってもいい?」

「ダ……ダメに決まってるだろ……!! ……お前は今人間で、オレも人間で……それで……」

 声は抑えてはいるが、少しパニックを起こしているらしい。



「……オレ、男だぞっ」

「……?……男だとダメなの……?」



 アシュリーには人間の常識はわからない。



「ひとりだと心細いの……。どうして人間はバラバラに寝るの……?」

「……」



 そう言うとエルナンは困った顔をしていたが、無言で端の方に移動しながらアシュリーに背中を向ける。アシュリーは許してもらえたとホッとしてその背中にくっついた。



(わぁ……あったかい……)



「あんまりくっつくなよ」

 ふてくされたように言うエルナンだが、アシュリーは気にしない。

 それどころか、もっと温度を感じたくなって背中に抱きついた。

「人間ってあったかいんだね! くっつくと気持ちいい」



「お前さ……!」

 ふたたびバッと起き上がるエルナン。

 おなかに腕を回したままきょとんとして見上げると、エルナンは困惑した顔でアシュリーの前髪をめくるようにして額を手のひらで押してきた。その瞬間。



「……!!」

 触れられたところからぴりぴりと魔法を流し込まれたような刺激が走り、初めての感触に驚いて体がびくついてしまう。



「え……?」

「ねぇ、今の気持ちいい……」

「今のって……」

「人と触れるってこんな感じなんだ」



(暖かくてしっとりしていてやさしくて…)



 エルナンは不思議な顔で自分の手を眺める。

「さっきまでだって背中にくっついてただろ」

「手が当たると全然ちがったの……!」

「ええ…?でも前だって手に乗ったりしてただろ……? ……あ……? そうか……」

 そうだ、フェアリーの時は触れてるようで触れてはいなかった。

 手に乗っても感触もなかった。ただ、ふりをしてただけ。



「ねぇ、もう一度触って」



(あの感触……もういちど感じてみたい)



「さ、触ってって……ど、ど、どこを」

 なぜか動揺しているエルナンは、手を少し上げかけては自分の頭の後ろにまわしたり、膝の上に戻したり、挙動不審になっている。



「どこ……!? どこがいちばん気持ちいいのかな!?」

 目を輝かせるアシュリー。



「……! 知らないよ……!!」

 真っ赤になったエルナンはふたたび背中を向けて横になってしまった。



(寂しい……)



「エルナン……」



「エルナン……こっち向いて」

「……」

「ねぇ、寂しいよ……」



 エルナンは仕方なさそうにふりかえってくれたが、思ったより至近距離にいたことに少し驚いたようにしている。その前髪が乱れて平らな額が見えている。



「おでこ、くっつけてみてもいい……?」



 そう尋ねてみたが、エルナンは黙って動かない。ただアシュリーの顔をじっと見ている。我慢できずその額にそっと自分の額をつけてみた。すると、それだけでやはり魔法に撃たれたように感じた。

 エルナンの吐く息がくちびるにかかり、くすぐったい。



(んん……やっぱり……なんだか気持ちいい……)



 アシュリーは惹かれるように、自分の鼻や頬を場所や角度を変えながらエルナンの顔に押し当てていく。



 エルナンはされるがまま、じっとアシュリーの顔を見つめていたが、ふと目が合った瞬間、ゆっくりとくちびるを近づけてきた。



 そしてふたりのくちびるが重なった瞬間……



(あっ……)



 特別な気持ちよさがアシュリーの中をゆっくりと走った。



 これはなに。

 特別な場所?

 当たっただけでどうしてこんなに気持ちいいの。



 エルナンのくちびるは、少し乾燥しているけど柔らかくてほの温かい。じっと押し当てているとお互いの体温が流れ込んで一体になるような気がした。なんだか胸がどきどきしてくる。

 くちびるを重ねたまま、そっとエルナンの顔を見ると、長いまつげを伏せてそのままじっとしている。



 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ……



 胸が激しく音を立てて、顔に血が集まってくる。



 数秒かもしれないが永遠のようにも感じる。



 アシュリーが動けないでいると、エルナンはそっと目を開けて顔を離しかけた。しかし、思わずアシュリーがそのくちびるを追いかけると、もう一度顔を近寄せさっきより強く押し当ててきた。



 ちゅっ、ちゅっ……



 感触を楽しむように少しずつ角度を変えてくるエルナンのくちびる。

 アシュリーは腰のところにゾワゾワ、のような、ピリピリ、のような変な感じがしてくる。

 エルナンはずっと無言だが、目を見られるとなんだかドキドキする。



 引き寄せるようにあごに手を当てられると、もっと強く快感が走った。



「ぁっ……」



 そして、当てていただけだったくちびるを、だんだん挟むようにして食まれるともっと気持ち良くてアシュリーは夢中になった。



 このままずっと、離れて欲しくない……。エルナンのパジャマの胸元を握りしめると、温かな体温と向こうもドキドキしているのが伝わってきた。脇の下からエルナンの手が差し込まれ、引き上げるように体を引き寄せられた。そのまま背中に手を回して抱きしめられると、二人の体はぴったりとくっついた。

 抱き合いながら、エルナンの体温を全身に感じているとなんだかムズムズしてくる。くちびるから与えられる刺激が増幅して、頭の先から足先まで体中を走っていく。シーツの中で裸足の足先同士を絡めるともっと気持ちよくなってきた。

 お腹の下に何か硬いものが当たっている気がする……。そのせいかアシュリーのお腹もなんだかムズムズするのだ。



「ん……っ、んっ……んっ……」



 そのまま時間も忘れて、2人は無心にくちびるを求め合っていた。





 ………………。



「……?」

 夜明け前に、エルナンに肩を揺さぶられ目が覚めた。

「アシュリー、そろそろ自分の部屋に戻らないとだめだよ」

 どうやら夢中でくちびるを合わせながら、気づいたら眠ってしまっていたようだ。アシュリーが目を開けると、エルナンは目を合わせないようにそっぽを向いている。



 残念だ…もっとあの感触を堪能していたかった……。

 ベッドを出る前にもう一度最後にエルナンの首に巻きつこうとしたが、なぜか身をかわされてしまった。

 今日はずっと昨夜の出来事を反芻して思い出してしまいそう、そう思いながらアシュリーはエルナンの部屋を出たのだった。
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