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〈ヒーロー〉と〈悪役令嬢〉編
【63】猫耳娼妓と縛られ騎士、と彼の想い ★
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そして部屋に戻ったシシリーは、うっかり魔法陣を踏んでしまった。
「あっ、待って、ごめんなさい」
「ちょっ、おい」
反射的にユースタスを投げ、抱っこのために施した身体強化魔法のおかげで想像以上に遠くに飛ばせ、
「あら、ナイスシュートね、私」
「俺、今日、なんか厄日なの?」
ぼすん、と。ユースタスはベッドにダイブさせられた。
「ごめんね、兄様、描きかけの魔法陣が――」
ぼすん、と。今度はシシリーの方から音がする。ダイブ音とはちょっと違う、わざとらしい、魔術の発動の音が。
「んにゃあっ!?」
「なんだよ、それ……。大丈夫か?」
縛られてベッドに転がったまま、ユースタスはシシリーを凝視する。
「――猫?」
なぜか。もふもふと。
シシリーの頭には猫耳が、尻には尻尾が生えていた。
「猫耳と猫しっぽイベントをしようかと考案中で……どうやら失敗はしなかったけど、発動条件の設定がまだ……」
「なるほど、魔獣の陣の応用か? タフだな??」
猫カフェや猫耳メイドさんといった前世知識から考えたものである。
「萌える?」
にゃあ、とシシリーは猫っぽいポーズをとってみる。ユースタスはにっこり答えた。
「まあまあ」
「……そう」
なんだろう、なんとなく怒られているような気がする。
「……えっちすると、人間に戻る仕組みのはず、なんだけど……」
「なんだ、誘っているのか? ん?」
「…………」
水揚げの儀から、かれこれ一ヶ月ほど。
ユウ様と娼妓シエラは、あれ以来、実は一度もセックスをしていなかった。
「なあ、おまえ――」
「へ、変な誘い方をしたから怒っているの? お声が怖いわ、兄様ったら!」
「そういうわけじゃない」
「だってね……、兄様、寝るためのお金を払ってるのに、本当にすやすやと寝るだけなんだもの。専属代もあるのに、申し訳なくて」
「……もしかして、そのせいで俺は縛られたのだろうか」
「どういうこと?」
「いや、こっちの話だ」
フィリップとアリシアが何やら茶々を入れてきたのは、夜の独占料を払ってまで買っているくせに抱いていないせいかもしれないな、と。バレているのかと。ユースタスはふたりの顔を思い出した。
まあ、あの悪戯っ子たちのことは置いておいて。
「でも、その、追加項目は入れたりしているし、困りはしないだろう」
「添い寝するだけで許されるなんて、おかしいわ。追加項目のおもちゃも使ってないし。あのね、兄様、これは労役なの。私は働くべきなの。本当は、ユウ様以外とも、」
「それ以上は、言うな。……わかってるよ」
「じゃあ、今日は抱く?」
「とりあえず解いてくれよ、これ」
「わかったわ」
魔法で生えた尻尾をゆらゆらさせながら、シシリーはベッドの上に乗る。亀甲縛りのユースタスの縄に触れ、
「……これ、ふつうに解けるのかしら。なんだか嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな。俺も、おまえに触られたら、なんか嫌な予感がしてきたよ」
何かを察した。
「フィルの魔法だものね…………」
普段はアリシアをとろとろに愛する、快楽責めが得意な彼である。ただ縛るだけではない、いやらしい魔法である可能性が現実味を帯びてきた。
「動きだしたわ」
「すまない、巻き込まれてくれ」
「とっくに逃げられないわよ」
ぬるぬると蔓が蠢き、シシリーの方へと伸びていく。絡みつく。
「にゃ――」
ふたりがさらに特殊性癖めいた恰好になるのは、あっという間のことだった。
「ユウ様、私……っ、あぁ、あの子たちに、教育が必要だと思うわ、んにゃぁ」
「同意見だ。っぐ、あれは姫さまの性癖であって、その、俺らは、そういうわけじゃない……」
「まあ、私、兄様に突っ込んだことはあるけど」
「言うな、黒歴史だ」
花街で、富豪エスト様を演じたフィリップに、アリシアが宝石の薔薇を挿入されたような。一般的には物を入れたりしない箇所を魔法の蔓に犯され、ふたりは喘ぎ悶えていた。
乱れた着衣と半端な拘束のまま、互いにしがみつき、ベッドをギシギシと言わせている。
服の上から彼らを縛る、あるいは隙間から中を責める蔓から逃れようと藻掻いている。なかなかカオスだ。
「ところで、シエラ、しっぽは、おとなしくできないのか……」
「ごめんなさい、自分じゃ、動かせな……無理っ」
「そうか…………」
シシリーの尻に生えた猫の尻尾は、ユースタスの竿の下、子種をつくりだす膨らみをさわさわと撫でていた。
蔓と尻尾に責められて、ユースタスは息も絶え絶えだ。これはもう絶対に厄日である。
「シエラ、耳」
「っ、みみ?」
「猫耳、触ってい?」
「~~! だから、なぜ、いちいち聞くの! 馬鹿!」
「ん」
まるでカチューシャのように生えた彼女の猫耳へと、ユースタスは手を伸ばす。ふわりと優しく丁重に触れる。
「ふゃあ、にゃ、あぁ」
「すごい、あったかい……」
「ま、待って、ユウ様、そこ、駄目、かも」
「そっちは尻尾で俺を責めてるんだ、俺にも、責めさせろ」
「なぁんっ、うぁ、それ、不可抗力……!」
猫耳をユースタスに愛でられはじめて、シシリーの感じる快楽も大きくなってしまった。返事を間違えたかもしれない。
「ユウさま、兄様……」
「……シシリー」
「もっ、無理、挿れてぇ」
「……この状況で?」
「だって、このままじゃ、勝算、ないぃ……っ」
どうすれば蔓がおとなしくなるのか、最適解は、わからない。けれどフィリップの変態紳士な性格を考えると、挿入や絶頂が契機になるのかもしれない。
そうでなくとも、ユースタスに中で射精してもらえれば、猫耳と尻尾の術は解ける。そういう設定だ。
「にいさま……おねがい……」
「本当に、おまえは」
「――っ! はぁぁ」
蔓に犯されたままの雄茎を挿れられ、魔界や初夜とは違った感覚をおぼえる。だらしない声が出る。
「あっ、あぁ」
「これ、やられたまま、射精なんてできるのか……?」
「わかんない、けど、あぁ、気持ちいい……兄様ぁ、気持ちい……」
「シシリー、しっかりしろ、飛ぶな」
「にゃ、にゃあ……?」
「この快楽地獄に、置いていくな、寂しい」
「ん、むゃ」
ユースタスはシシリーに口づけ、深いため息をつく。
「にいしゃま……」
彼の青紫の瞳は、今日も綺麗だった。
その宝石の瞳の中、映るシシリーは涎を垂らしてふにゃふにゃしている。
「シシリー、ごめん、頑張って……」
「にゃ、んにゃあっ」
蕩けていく猫耳な妹の顔を見ながら、彼は、彼女とのこれまでに想いを馳せた。
***
ユースタス・セルナサスとシシリー・セルナサスは、二歳差の兄妹。
妹シシリーは、彼にとって、ずっと可愛い変わり者だった。
小さい頃からやけにお姉さんぶって、兄を見下す生意気な言動が目についた。
それでいて、妹らしく甘えたワガママもしょっちゅう言って、ユースタスを困らせたり喜ばせたりした。
彼女に前世の記憶があると知ったのは、まだ幼い時のこと。
かわいこぶって叔父に媚びを売るシシリーを後で叱った時に、中身はもう大人なのだと告げられた。べつに守らなくていいのよと突き放されて、腹が立った。
――前世が何歳だろうと、何者だろうと、シシリーは俺の妹だ。
何かとても大きなものを背負った様子の彼女に、俺も背負ってやるから自分を蔑ろにするなよ馬鹿と啖呵を切った。
彼女が花街と繋がりを持とうとした時も、ならば自分がと矢面に立った。妹を守るのは兄の使命だと信じてきた。
だから娼館に顔を出すのは自分だけにして、シシリーのことは謎の貴婦人シエラとして正体を隠させた。
遊女たちを気遣う姿を見て、前世の彼女がそうだったのかと邪推したこともあった。
けれど、違った。
彼女を脅かしていたのは、前世でも、あの男ひとりだった。
『いいのよ、ユウ兄様。これが初めてじゃない』
『……は?』
『前世から、因縁の相手なの。でも、助けてくれて、ありがとう――』
悪役令嬢として生まれ、断罪からの死という過酷な運命から逃れようとする妹は、未だに前世の悪縁に縛られていた。
【バグ】によりヒロインの能力を身に宿し、アリシアを守ることと遊女の待遇改善とばかりに注力し、自分を雑に扱う馬鹿だった。
――なあ、シシリー。
どうしたら、おまえは、もっと自分を大切にしてくれるのだろう。おまえは、どうしたら幸せなのだろう。
シシリーは、ずっと、ユースタスから逃げようとしている。
あの時も、あの時も、今夜も。体は差し出して繋がっていても、心はずっと逃げている。逆に拒絶されているように感じる。肌を重ねることで躱されていると。
ただ語らい、茶を飲み、眠る時もそうだ。彼女は心を見せてくれない。ユースタスに向きあってくれない。
――でも。
ユースタスも、実は、彼女への想いに答えを出せていなかった。
――ずっと可愛い、俺の妹。幸せになってほしい。かわいい。愛している。
その想いは、確かだ。
だが、現実的な関係性は、その先は。
――俺らは、どうやったって、結婚できる間柄ではない。実の兄妹なのだから。
他の男が信じられなくて、準備もできなくて、初夜は自分で奪った。解呪のための交わりもした。それでも、ユースタスは、妹を抱くことを当然としたくなかった。
――叶うなら、誰かと幸せになってほしい。
何度も自分に言い聞かせている気がするこれは、はたして本心だろうか。自分でもわからない。
「シシリー……シシリー」
「にゃ、にゃあぁ、あぁっ」
「ん、おなか苦しい? あの植物魔法、おまえの方にめちゃくちゃ入って……」
ぬるついた蔓は、現在、彼女の小さくやわな穴をずるずると出入りして責めている。ユースタスには触れられない、彼女の内側まで触れ、満たしている。
薄っすらと膨れた下腹部を見てどうしようもない妄想が頭を巡り、自分を殴りたくなった。
フィリップとアリシアくらいの仲ならマンネリ解消にこんな行為も一興なのかもしれないが、気に食わない。
「あの方のことは、今度、殴っておこう。さすがに一発くらい許される」
「ふにゃ、うにゃ……」
「……ふっ、う。中に、出すよ」
「――!」
性感帯になるらしい猫耳を撫で、掻き、キスをしながら。妹の中に熱を放った。
「あっ、あー……シシリー……」
穴をにゅるにゅると擦る蔓のせいか、いつもと違う射精感だった。でも、ちゃんと出た。
彼女のもふもふの耳は、ひゅるると縮む。しっぽもひゅるると勢いをなくし、消えていく。
もふもふ耳は温かく可愛くもあったので、ちょっと名残惜しい。
「あっ、シシリー、俺の方は、抜けたっぽい……射精で……出た……」
「わ、私の、は、まだ……にゃあ、あ……猫、おわったけど……あうっ、とってえ、兄様」
「ああ、ちょっと待ってな」
シシリーの蜜窟から自身を引き抜くと、白濁まみれになった蔓もぬるんと出てきた。
ユースタスを亀甲縛りにしていた蔓だ、伸縮性はもちろん、相当の長さがある。
行為のうちに解けたその大部分は今や彼女の中に詰め込まれており、なんだか泣きたくなった。違う穴だが、まるでフィリップに犯されているみたいだ。
「シシリー、力抜いて、楽にして」
「んぁ……ぁ?」
「痛かったりしたら、すぐに言うんだ」
「!? あっぐ――」
ぬるぬるの蔓を指に絡ませ、ゆっくりと引っぱる。それに伴ってシシリーの太腿は可哀想なほどに震え、腰も大きく持ち上がった。
「らぁ? やぁっ?」
「大丈夫か? 痛い?」
「痛く、にゃい、けれぇ、やあぁぁ――!」
「ん、怖いな、ごめんな……。優しく、すぐに終わらせるから」
彼女の背を撫で、キスをして、事を進める。彼女を苦しませないように。つらくないように。
「――兄様、にいさま……っ、なんでぇ……」
「何がだ、どうした」
「……もうやらぁ……きらい……」
「……きらい?」
「だいっきらい……っ!」
気づけばシシリーはぼろぼろと泣き、あの凛々しい紫色の瞳を濡らしてユースタスを睨みつけていた。
不意打ちの展開に、ゾクッと彼の背筋を悪寒が走る。
「もうやだの……来ないで……放っておいて……」
「……どうしたんだ、シシリー、いきなり」
「兄様なんて、嫌い! きらい!」
植物魔法での行為がよほど堪えたのか、それとも猫耳責めが実はつらかったのか。シシリーは機嫌を損ねていた。やだやだしていた。
(――ああ、これが、契機かもしれない)
久しぶりに聞く『嫌い』に、心の中で何かが倒れる。嫌な音がする。
これを言い訳にしてはいけないと、わかっているのに。歪な関係性にどこか疲れていた。大好きなのに、一緒にいるのが苦しかった。ユースタスも逃げたくなった。
シシリーの唇をやわく食み、にっこり笑って言う。
「俺のことが、嫌いで、もう来てほしくないんだな? ――じゃあ、しばらく距離を置こうか、シシリー」
最悪の手をとった。
「あっ、待って、ごめんなさい」
「ちょっ、おい」
反射的にユースタスを投げ、抱っこのために施した身体強化魔法のおかげで想像以上に遠くに飛ばせ、
「あら、ナイスシュートね、私」
「俺、今日、なんか厄日なの?」
ぼすん、と。ユースタスはベッドにダイブさせられた。
「ごめんね、兄様、描きかけの魔法陣が――」
ぼすん、と。今度はシシリーの方から音がする。ダイブ音とはちょっと違う、わざとらしい、魔術の発動の音が。
「んにゃあっ!?」
「なんだよ、それ……。大丈夫か?」
縛られてベッドに転がったまま、ユースタスはシシリーを凝視する。
「――猫?」
なぜか。もふもふと。
シシリーの頭には猫耳が、尻には尻尾が生えていた。
「猫耳と猫しっぽイベントをしようかと考案中で……どうやら失敗はしなかったけど、発動条件の設定がまだ……」
「なるほど、魔獣の陣の応用か? タフだな??」
猫カフェや猫耳メイドさんといった前世知識から考えたものである。
「萌える?」
にゃあ、とシシリーは猫っぽいポーズをとってみる。ユースタスはにっこり答えた。
「まあまあ」
「……そう」
なんだろう、なんとなく怒られているような気がする。
「……えっちすると、人間に戻る仕組みのはず、なんだけど……」
「なんだ、誘っているのか? ん?」
「…………」
水揚げの儀から、かれこれ一ヶ月ほど。
ユウ様と娼妓シエラは、あれ以来、実は一度もセックスをしていなかった。
「なあ、おまえ――」
「へ、変な誘い方をしたから怒っているの? お声が怖いわ、兄様ったら!」
「そういうわけじゃない」
「だってね……、兄様、寝るためのお金を払ってるのに、本当にすやすやと寝るだけなんだもの。専属代もあるのに、申し訳なくて」
「……もしかして、そのせいで俺は縛られたのだろうか」
「どういうこと?」
「いや、こっちの話だ」
フィリップとアリシアが何やら茶々を入れてきたのは、夜の独占料を払ってまで買っているくせに抱いていないせいかもしれないな、と。バレているのかと。ユースタスはふたりの顔を思い出した。
まあ、あの悪戯っ子たちのことは置いておいて。
「でも、その、追加項目は入れたりしているし、困りはしないだろう」
「添い寝するだけで許されるなんて、おかしいわ。追加項目のおもちゃも使ってないし。あのね、兄様、これは労役なの。私は働くべきなの。本当は、ユウ様以外とも、」
「それ以上は、言うな。……わかってるよ」
「じゃあ、今日は抱く?」
「とりあえず解いてくれよ、これ」
「わかったわ」
魔法で生えた尻尾をゆらゆらさせながら、シシリーはベッドの上に乗る。亀甲縛りのユースタスの縄に触れ、
「……これ、ふつうに解けるのかしら。なんだか嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな。俺も、おまえに触られたら、なんか嫌な予感がしてきたよ」
何かを察した。
「フィルの魔法だものね…………」
普段はアリシアをとろとろに愛する、快楽責めが得意な彼である。ただ縛るだけではない、いやらしい魔法である可能性が現実味を帯びてきた。
「動きだしたわ」
「すまない、巻き込まれてくれ」
「とっくに逃げられないわよ」
ぬるぬると蔓が蠢き、シシリーの方へと伸びていく。絡みつく。
「にゃ――」
ふたりがさらに特殊性癖めいた恰好になるのは、あっという間のことだった。
「ユウ様、私……っ、あぁ、あの子たちに、教育が必要だと思うわ、んにゃぁ」
「同意見だ。っぐ、あれは姫さまの性癖であって、その、俺らは、そういうわけじゃない……」
「まあ、私、兄様に突っ込んだことはあるけど」
「言うな、黒歴史だ」
花街で、富豪エスト様を演じたフィリップに、アリシアが宝石の薔薇を挿入されたような。一般的には物を入れたりしない箇所を魔法の蔓に犯され、ふたりは喘ぎ悶えていた。
乱れた着衣と半端な拘束のまま、互いにしがみつき、ベッドをギシギシと言わせている。
服の上から彼らを縛る、あるいは隙間から中を責める蔓から逃れようと藻掻いている。なかなかカオスだ。
「ところで、シエラ、しっぽは、おとなしくできないのか……」
「ごめんなさい、自分じゃ、動かせな……無理っ」
「そうか…………」
シシリーの尻に生えた猫の尻尾は、ユースタスの竿の下、子種をつくりだす膨らみをさわさわと撫でていた。
蔓と尻尾に責められて、ユースタスは息も絶え絶えだ。これはもう絶対に厄日である。
「シエラ、耳」
「っ、みみ?」
「猫耳、触ってい?」
「~~! だから、なぜ、いちいち聞くの! 馬鹿!」
「ん」
まるでカチューシャのように生えた彼女の猫耳へと、ユースタスは手を伸ばす。ふわりと優しく丁重に触れる。
「ふゃあ、にゃ、あぁ」
「すごい、あったかい……」
「ま、待って、ユウ様、そこ、駄目、かも」
「そっちは尻尾で俺を責めてるんだ、俺にも、責めさせろ」
「なぁんっ、うぁ、それ、不可抗力……!」
猫耳をユースタスに愛でられはじめて、シシリーの感じる快楽も大きくなってしまった。返事を間違えたかもしれない。
「ユウさま、兄様……」
「……シシリー」
「もっ、無理、挿れてぇ」
「……この状況で?」
「だって、このままじゃ、勝算、ないぃ……っ」
どうすれば蔓がおとなしくなるのか、最適解は、わからない。けれどフィリップの変態紳士な性格を考えると、挿入や絶頂が契機になるのかもしれない。
そうでなくとも、ユースタスに中で射精してもらえれば、猫耳と尻尾の術は解ける。そういう設定だ。
「にいさま……おねがい……」
「本当に、おまえは」
「――っ! はぁぁ」
蔓に犯されたままの雄茎を挿れられ、魔界や初夜とは違った感覚をおぼえる。だらしない声が出る。
「あっ、あぁ」
「これ、やられたまま、射精なんてできるのか……?」
「わかんない、けど、あぁ、気持ちいい……兄様ぁ、気持ちい……」
「シシリー、しっかりしろ、飛ぶな」
「にゃ、にゃあ……?」
「この快楽地獄に、置いていくな、寂しい」
「ん、むゃ」
ユースタスはシシリーに口づけ、深いため息をつく。
「にいしゃま……」
彼の青紫の瞳は、今日も綺麗だった。
その宝石の瞳の中、映るシシリーは涎を垂らしてふにゃふにゃしている。
「シシリー、ごめん、頑張って……」
「にゃ、んにゃあっ」
蕩けていく猫耳な妹の顔を見ながら、彼は、彼女とのこれまでに想いを馳せた。
***
ユースタス・セルナサスとシシリー・セルナサスは、二歳差の兄妹。
妹シシリーは、彼にとって、ずっと可愛い変わり者だった。
小さい頃からやけにお姉さんぶって、兄を見下す生意気な言動が目についた。
それでいて、妹らしく甘えたワガママもしょっちゅう言って、ユースタスを困らせたり喜ばせたりした。
彼女に前世の記憶があると知ったのは、まだ幼い時のこと。
かわいこぶって叔父に媚びを売るシシリーを後で叱った時に、中身はもう大人なのだと告げられた。べつに守らなくていいのよと突き放されて、腹が立った。
――前世が何歳だろうと、何者だろうと、シシリーは俺の妹だ。
何かとても大きなものを背負った様子の彼女に、俺も背負ってやるから自分を蔑ろにするなよ馬鹿と啖呵を切った。
彼女が花街と繋がりを持とうとした時も、ならば自分がと矢面に立った。妹を守るのは兄の使命だと信じてきた。
だから娼館に顔を出すのは自分だけにして、シシリーのことは謎の貴婦人シエラとして正体を隠させた。
遊女たちを気遣う姿を見て、前世の彼女がそうだったのかと邪推したこともあった。
けれど、違った。
彼女を脅かしていたのは、前世でも、あの男ひとりだった。
『いいのよ、ユウ兄様。これが初めてじゃない』
『……は?』
『前世から、因縁の相手なの。でも、助けてくれて、ありがとう――』
悪役令嬢として生まれ、断罪からの死という過酷な運命から逃れようとする妹は、未だに前世の悪縁に縛られていた。
【バグ】によりヒロインの能力を身に宿し、アリシアを守ることと遊女の待遇改善とばかりに注力し、自分を雑に扱う馬鹿だった。
――なあ、シシリー。
どうしたら、おまえは、もっと自分を大切にしてくれるのだろう。おまえは、どうしたら幸せなのだろう。
シシリーは、ずっと、ユースタスから逃げようとしている。
あの時も、あの時も、今夜も。体は差し出して繋がっていても、心はずっと逃げている。逆に拒絶されているように感じる。肌を重ねることで躱されていると。
ただ語らい、茶を飲み、眠る時もそうだ。彼女は心を見せてくれない。ユースタスに向きあってくれない。
――でも。
ユースタスも、実は、彼女への想いに答えを出せていなかった。
――ずっと可愛い、俺の妹。幸せになってほしい。かわいい。愛している。
その想いは、確かだ。
だが、現実的な関係性は、その先は。
――俺らは、どうやったって、結婚できる間柄ではない。実の兄妹なのだから。
他の男が信じられなくて、準備もできなくて、初夜は自分で奪った。解呪のための交わりもした。それでも、ユースタスは、妹を抱くことを当然としたくなかった。
――叶うなら、誰かと幸せになってほしい。
何度も自分に言い聞かせている気がするこれは、はたして本心だろうか。自分でもわからない。
「シシリー……シシリー」
「にゃ、にゃあぁ、あぁっ」
「ん、おなか苦しい? あの植物魔法、おまえの方にめちゃくちゃ入って……」
ぬるついた蔓は、現在、彼女の小さくやわな穴をずるずると出入りして責めている。ユースタスには触れられない、彼女の内側まで触れ、満たしている。
薄っすらと膨れた下腹部を見てどうしようもない妄想が頭を巡り、自分を殴りたくなった。
フィリップとアリシアくらいの仲ならマンネリ解消にこんな行為も一興なのかもしれないが、気に食わない。
「あの方のことは、今度、殴っておこう。さすがに一発くらい許される」
「ふにゃ、うにゃ……」
「……ふっ、う。中に、出すよ」
「――!」
性感帯になるらしい猫耳を撫で、掻き、キスをしながら。妹の中に熱を放った。
「あっ、あー……シシリー……」
穴をにゅるにゅると擦る蔓のせいか、いつもと違う射精感だった。でも、ちゃんと出た。
彼女のもふもふの耳は、ひゅるると縮む。しっぽもひゅるると勢いをなくし、消えていく。
もふもふ耳は温かく可愛くもあったので、ちょっと名残惜しい。
「あっ、シシリー、俺の方は、抜けたっぽい……射精で……出た……」
「わ、私の、は、まだ……にゃあ、あ……猫、おわったけど……あうっ、とってえ、兄様」
「ああ、ちょっと待ってな」
シシリーの蜜窟から自身を引き抜くと、白濁まみれになった蔓もぬるんと出てきた。
ユースタスを亀甲縛りにしていた蔓だ、伸縮性はもちろん、相当の長さがある。
行為のうちに解けたその大部分は今や彼女の中に詰め込まれており、なんだか泣きたくなった。違う穴だが、まるでフィリップに犯されているみたいだ。
「シシリー、力抜いて、楽にして」
「んぁ……ぁ?」
「痛かったりしたら、すぐに言うんだ」
「!? あっぐ――」
ぬるぬるの蔓を指に絡ませ、ゆっくりと引っぱる。それに伴ってシシリーの太腿は可哀想なほどに震え、腰も大きく持ち上がった。
「らぁ? やぁっ?」
「大丈夫か? 痛い?」
「痛く、にゃい、けれぇ、やあぁぁ――!」
「ん、怖いな、ごめんな……。優しく、すぐに終わらせるから」
彼女の背を撫で、キスをして、事を進める。彼女を苦しませないように。つらくないように。
「――兄様、にいさま……っ、なんでぇ……」
「何がだ、どうした」
「……もうやらぁ……きらい……」
「……きらい?」
「だいっきらい……っ!」
気づけばシシリーはぼろぼろと泣き、あの凛々しい紫色の瞳を濡らしてユースタスを睨みつけていた。
不意打ちの展開に、ゾクッと彼の背筋を悪寒が走る。
「もうやだの……来ないで……放っておいて……」
「……どうしたんだ、シシリー、いきなり」
「兄様なんて、嫌い! きらい!」
植物魔法での行為がよほど堪えたのか、それとも猫耳責めが実はつらかったのか。シシリーは機嫌を損ねていた。やだやだしていた。
(――ああ、これが、契機かもしれない)
久しぶりに聞く『嫌い』に、心の中で何かが倒れる。嫌な音がする。
これを言い訳にしてはいけないと、わかっているのに。歪な関係性にどこか疲れていた。大好きなのに、一緒にいるのが苦しかった。ユースタスも逃げたくなった。
シシリーの唇をやわく食み、にっこり笑って言う。
「俺のことが、嫌いで、もう来てほしくないんだな? ――じゃあ、しばらく距離を置こうか、シシリー」
最悪の手をとった。
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ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
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