婚約者を腹違いの妹に寝取られ婚約破棄されましたが、何故か騎士様に求婚されたので幸せです!〜むしろ溺愛されすぎて困惑しています〜

るん。

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30話「復興と魔法の練習」

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「──ケイ、よかったら一緒にクラリスの街に来ないかい?」



火災発生から1週間後、ルタ様はクラリスの街の復興の様子を見に来ないかという。

街の様子は気になっていたが、火災当日から3日間は寝込んでしまっていたし、体調の回復を待つために大事をとって目覚めてからの4日間は自室からあまり出ないような生活をしていた為、現在街がどのようになっているかは分からない。

私は暖かい布団の中で寝ているだけであったが、あんなに酷い火災の後であるし復興作業と精神的負担で街の人々は疲弊しきっている事だろう。

治癒魔法ヒールには傷を癒すだけではなく疲労回復の効果もあるので、疲れきった人々を癒す手助けをしたい。


「街の様子は気になっていましたし、疲れている街の人々へヒールを施してあげたいなと思っていました。是非ご一緒させて頂きたいです」
「そうしたら今日の午後に行こうか。街の皆も喜ぶと思う。無理して魔力は使いすぎないように」




***



「えっ……!」

一週間ぶりにクラリスの街を訪れると、そこは大きな火災が発生したとは思えない程に綺麗な街並みをしていた。

クラリスの街へは火災が発生してから初めて足を運んだので元の街並みは分からないが、石畳の広場を中心として区画分けされた道にそって建ち並ぶ建物は火災が生じた事など見る影もない程に綺麗であった。


ルタ様によると、この国の魔法技術は素晴らしい物で、浮遊魔法や接合魔法を組み合わせる事で火災から1週間程度しか経過していないのにも関わらずここまで復興が出来たという。



「短い期間で凄い……。この街で火災があったとは思えないです」
「魔法技術は日々発展していて非常に有用だ。死者が出なかったとはいえ、街の者は未だ混乱している。早くこの街の日常が取り戻せるといいんだが……」





「──ルタ様!ルタ様ではないですか!」

復興作業の進む街をルタ様と歩いていると、街の町長と思われる男性に声をかけられた。


「足を運んで頂きありがとうございます。ルタ様の速やかな消火のお陰で移住区まで被害が出ずに済みました。皆の命を救って下さり感謝を申し上げます」


町長の話によると、火災の火元は街の中央区で複数発生しており、ルタ様の速やかな消火によってすぐ隣にある居住区まで炎が至らなかった為、怪我人を最小限に抑えることが出来たとの事だった。


「それに、クラレンス家の私財を用いて復興支援をしてくださり本当に感謝しています。街の税金だけではとてもまかなえませんでした。どうお礼を申し上げたらいいものか……」
「いえ、クラレンス家の財産は街とその街に住まう人々ですのでお気になさらず」
「ああ、なんと……。本当にありがとうございます」


そして町長曰く、復興に必要な資金はクラレンス家が私財から全額負担しているとの事だった。

私の家族やラインハルト様もそうだが、この国の貴族で私財を民の為に存分なく振るうことが出来る者はきっとそう多くはいないだろう。

速やかに消火を行い、復興支援も私財を投じて行うルタ=クラレンスという人物は魅力的な外見だけではなく精神的なところまで兼ね揃えた完璧な男性だと改めて思った。

……完璧過ぎて少し抜けたところのある彼を見てみたいところだ。



「……ルタ様、お隣にいらっしゃるのは聖女様ですか?」
「……へっ?」

クラリス市長はルタ様との会話がひと段落着くと私へと目を向けた。

「ふふ、ご紹介が遅れました。彼女は私の婚約者のケイ=ロレーヌです。以後お見知り置きを」
「け、ケイ=ロレーヌです。よろしくお願いします」
「なんと聖女様はルタ様の婚約者でられましたか!! この度は本当にありがとうございました。ルタ様と聖女様がいなければ死者も出ていたでしょう。それ程にこの火災は酷いものでした」
「聖女だなんてそんな……。たまたま魔法が発動して成功しただけですので……」
「あんなに酷く焼けただれた者を一瞬で焼け焦げた髪まで再生してみせた。あそこまでの治癒魔法を使える方はそうはいません。クラリスの街一番の治癒魔術師にこの話をしたところ大変驚かれておりました。是非いずれお会いしたいと」


ギルドに所属しているという冒険者の治癒魔術師。医師の話によるとあの時のリン怪我もその治癒魔術師なら癒せると言っていた。

この大きなクラリスの街で一番の治癒魔法の使い手が会いたいだなんて、どういった目的なのだろう。聖女と呼ぶに相応しいのか評価をされて、この実力で聖女と呼ぶなんておかしい!とでも言われてしまうのだろうか。

それとも同じ治癒魔法を使う者として実際に会って私の魔力を調べたり、どのような魔法を使うのかを見てみたいだけなのだろうか……。

「お言葉は嬉しいのですが、本当にたまたまですのでガッカリさせてしまうかもしれません。期待を裏切ってしまうかもしれませんので、私の能力の過大な評価は控えていただけると有難いです……」
「ジャック、褒めていただき嬉しいのですがケイが困っていますのでここまでにしてください。それにの話は……」
「ははは…失礼致しました。改めましてケイ様、クラリスの街の民を代表して感謝を申し上げます。民を救っていただき、本当にありがとうございました」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。……町長。その、宜しければ復興で疲れている方々に初級治癒魔法をほどこさせて頂けませんか?」


──その後ルタ様は所用があり私にアンを付けて先に帰ったが、私はクラリスの街の人々に初級治癒魔法ヒールを施して回る事にした。

治癒魔法ヒールを使うのは久しぶりだったけれど、魔力を自分の体内から抽出し対象へ向けるこの感覚は使ってみると案外直ぐに思い出せたし身体にも馴染んできた。

皆さんに魔法をおかけします!だなんて言っておいて突如使えなくなったら……との不安が無かった訳では無いが、上級治癒魔法ヒーリングストが使えたのだから初級治癒魔法ヒールが使えないはずがないと自分に言い聞かせ魔力の調節を意識しながら大体50人ぐらいにヒールを施した。

恐れを克服し、久しぶりに使う魔法はその魔法によって人々が癒される様子を見ることが出来るのを含めてとても心地のいいものであった。

 



「──本日はありがとうございました!皆さんお疲れ様でした!」

日が落ち、復興作業も本日は一段落ついた所で私の魔法を施す作業も終えることにした。


「聖女様、ありがとう。疲れが取れたよ」
「聖女様の魔法はなんて言うか、暖かいね。ヒールなら何度も受けた事があるけどお日様の光のように暖かい」
「聖女はルタ様の婚約者だったんですね。ルタ様もとてもお優しい方ですし、お似合いですわ」


街の人々が皆私を聖女といい、暖かい言葉を贈ってくれる。

魔力量も上手く調節が出来たし、久しぶりに魔法を使用しているのにも関わらずまだ余力が残せている。

人々との交流や魔法の練習など、今日はとても有意義な時間を過ごすことが出来た。

もう少し残って作業で疲れた人達に魔法をかけてもいいが、そろそろ日も落ちてきたしクラレンス邸に帰ろうかと思っていた時、


「──貴女様がケイ=ロレーヌ様ですね?」


と銀色の束ね上げた美しい長髪を持つ男に声をかけられた。









*更新遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
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