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50話「疑問」(1)

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「困りましたね。森の奥から先程よりも強力な気配がしますよ」

ラインハルト様がロージュと第3騎士団を引き連れて森の奥へ進んでからまもなくして私達も後を追う事になった。

ルタ様もマーシュも全く疲れを見せておらず、新兵達の準備を簡単に整えて出発だ。



『──お前のみたいな半端者ハーフエルフが俺様に二度も指示をするな』

それにしてもラインハルト様の悪態は酷いもので、特にハーフエルフであるマーシュに対して”半端者はんぱもの”だなんて酷い事を言う。

マーシュは全く気にしていなそうだけれど、混血の事を半端者と呼ぶのはこの国においてずっと家にこもっていた私でさえ知っている差別的表現だ。これはマーシュ自身から聞いた事だが、外国には人間ヒューマン以外を差別し、酷い所だと奴隷として扱う国もあるのだとか。この国の種族は人間が大多数を占めているが人間以外の種族への差別がなく居心地がいいと聞いていた。

それでもラインハルト様の様な人もいるのだろう。私からしたら人間は数が多いだけで寧ろ他種族の方が様々な分野で特化している事が多くて羨ましいぐらいなのに。

「気配からして物凄い数だし一体一体が強力な個体だな。黒狼ブラックウルフの上位種が潜んでいるかもしれない。先程の光景を見るにロージュ嬢だけではなく、第3騎士団の兵も危ない」
「そうですね。ロージュ嬢も心配ですし、私が治癒できる限界を超えた怪我人が出るかもしれない。……依頼の脅威度が下げられての人員配置でしたが、黒狼が通常の群れよりも異様に発生してますし今のところAランク任務ってところだと思うのですが」

先程出現した魔物は黒狼ブラックウルフといい、単体であればCランクの魔物であるが大体10匹程度で一つの群れを成しているので基本的にはBランクの魔物とされる。

ルタ様とマーシュが言うには一つ、多くても二つの群れで行動する黒狼があんなに大規模な群れを成す事は大変珍しく、任務のランクは当初の予定であったAランクに近いものであるという。

「この依頼がBランクに分類されるのはおかしい」

ルタ様は自身の形のいい顎をこれまた大変美しい指先でなぞりながら呟く。


彼の言う通り、今回の一番の問題点としては本来Aランクであったこの依頼は事前の調査によりBランクへと下げられた事である。

当初の目撃情報では黒狼が通常よりも多くの群れを成しているとの情報であり脅威度はAランクに分類されていた。

しかし、第3騎士団によって直前に行われた調査で当初に報告のあった群れは黒狼の下位種に当たる青狼ブルーウルフとの見間違えであるとの報告があり脅威度が下げられたのだ。

とはいえ魔物のランクは低くとも数が多いとの事で騎士団への依頼は継続される事となり、低ランクの魔物を数多く対処するには精鋭が揃う第2騎士団ではなく人員が多く配置されている第3騎士団が最適であるとの事で直前の人員変更があったという。

因みに配置の変更が行われたのは当日の一週間ほど前で今回の依頼の総合責任者はルタ様であるのに、彼には一切何も報告が無く第3騎士団による調査の強行と配置変更が行われた。

ルタ様が念の為に調査の再調査をを申し立ててもラインハルト様が「国が管理する我々第3騎士団が信用出来ないとは如何なものか」だの「王に忠誠を誓った騎士達を疑うのは王を疑うのと同義」等と騒ぎ立て再調査を行うに行えない状況であったようだ。

「青狼と黒狼、暗いところで見れば確かに見分けにくいですが一般人ならまだしも騎士団が間違えますかねぇ……」
「考えにくいな。あのラインハルトの様子からして何か意図があってのことのようにも見える」
「うーむ。あの様にしてお互いにメリットがあるようには思えませんが。責任者であるルタの評価を下げたいとかですかねぇ」
「……それだけならいいが。今は取り敢えず前衛の兵達のフォローへ向かう。その後、ラインハルトを問い詰める」
「教えて下さるといいですけどね」

マーシュは皮肉めいた物言いをするが、私もラインハルト様が自身の意図をルタ様に教えるだなんて想像が出来ない。

ラインハルト様が手柄を独り占めしようとしたりルタ様の評価を下げようとするのは容易に想像が着くけれど、自分の婚約者(しかも妊婦)と騎士団を巻き込んでまでする事だろうか?

見当もつかないがそれ以上の何かを企んでいると思ってしまう。

ラインハルト様がただ考え無しに行動しているだけで何も無ければいいのだけれど、クラリスの街の放火だって日頃の行いから私は彼と自分の家族を疑っている。違うと信じたいが、色々とタイミングがばっちり過ぎるのだ。証拠は何一つ出ていないし考えすぎなのかもしれないが。
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