欲望と愛

れい

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欲望と愛

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 「一瀬くん、わたし一瀬くんのこと好きなの。」誰もいない教室でわたしは同級生の一瀬翔に告白した。
「え?ぼくでいいんですか?ぼくも黒木さんのこと大好きです。おねがいします。」おもいもしなかった答えを聞いて、うれしくなった。それは暖かい日のことだった。
 春休みにはいり、わたしはすっかりうかれていた。初めて彼氏ができたからだ。今まで好きになった人はいたけれどむくわれずにいた。
 「あの黒木さん、ぼくたち恋人になっても敬語はぬけませんね。」
「じゃあ、ためぐちで話せるように頑張ります。」
「そういってるけど敬語だよ。」
「あ、ほんとだ。」たいした会話でなくても充分だった。
 翔といると時間は早くすぎ、わたしは高校3年生になった。
 学校に行くと友達の秋川愛香と出会った。
「あ、みなみ、クラスいっしょだよ。2組だってさ。」
「あ、ありがとう。あいちゃんとまたいっしょかー。うれしいな。」
「わたしもうれしい。はやく教室に行こう。担任がボスだから、早く行かなきゃね。」
「えー。あの先生?やだなー。」そんなことを話しながら愛香と校舎にはいった。
 「お前たち、今日からこのクラスの担任になった。藤村一樹だ。受験で忙しくなるが、この時期に頑張れば、きっと志望校に行ける。」この先生は藤村一樹先生。数学の先生で、かなりきびしい。生徒からは、ボスとよばれている。
 ホームルームが終わると、帰る準備をする生徒や部活に行く人が大勢いた。新学期初日は午前で終わりになる。
「みなみちゃん、わたし雨宮くんとかえるね。また明日。」いつものように愛香は彼氏である雨宮健斗と帰っていった。わたしも翔をさそうために携帯をひらいてメールをうとうとすると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「みなみちゃん、帰ろう。」ふりむくと翔が笑顔で立っていた。
「びっくりした。帰ろっか。」
「うん。お昼は近くのファミレス行こうよ。」わたしは立ち上がり翔と教室を出た。
 校舎を出ようとしたとき、藤村先生に見つかってしまった。気のせいか、翔を見るとけわしい表情になった。
「黒木、気をつけて帰れよ。」一言そういうと職員室にむかって歩いて行った。
 それからしばらくは楽しい日々がすぎていった。しかし、恋人になってから2か月たったある日、翔からしんじられない話を聞くことになるとはおもわなかった。
 ある日、わたしは翔としずかな公園に行った。
「みなみちゃん、この2か月すごくたのしかったよ。ぼく、みなみちゃんにきらわれたくないから隠してたことがあったんだ。もう、だまっていたくないからいうね。」わたしはすこしどきどきした。
「ぼく、むかし妹がいたんだ。ゆかっていう妹。それで、ある日、ちょっとしたことで喧嘩になったんだ。そして、妹を殺したんだ。最初はなぐったりだったけど、それで弱ってきたから、ナイフでさしたんだ。」それを聞いたわたしは、おどろいてついえ?と言いそうになった。
「そっか。そうだったんだね。」最初わたしはそうとしか言えなかった。
「ぼくは、ひどいことをしたよ。だから、もうわかれて。」翔から涙がこぼれた。わたしは翔の肩にそっと手をおいた。
「翔くんは、今わたしを殺したい?」すると翔はくびを横にふった。
「殺したくない。大好きだから。」
「じゃあ、わたしも大好き。翔くんがきらいにならないかぎり、わたしもきらいにならない。たとえ誰かを殺していたとしても。」わたしがそう言って肩をぽんとたたくと翔の目に涙があふれていた。
「ぼくはみなみちゃんをきずつけたくない。でも、そばにいたいよ。」涙まじりにそういう翔をわたしはだきしめた。
 「誰にも悪いことをした過去はあるよ。でも、わたしは翔くんをきらいにならないし、わかれたくない。それをくやむならつぎやらないでおこうと思った方がいい。わたしは、翔くんをしんじる。」翔は泣きながら言った。
「もうしない。ゆかのためにも。」その言葉を聞いてわたしは安心した。安心しすぎていたのかもしれない。
 それから1か月後のことだった。わたしは、翔からよくなぐられるようになった。理由はいらいらすることがあったからというものだった。
 ある日、わたしはいつものように帰ろうとすると、藤村先生によびだされ、つかわれていない教室で二人で話した。
「お前、最近なにがあった?今日もしんどそうにしてたぞ。」わたしはなんとかごまかした。
「すみません。最近ねぶそくで。」藤村先生はその言葉をしんじていないようだった。
「気を付けろよ。」そう言って帰らせてくれた。そして事件はおきた。
 わたしは翔とだれもいない海にきた。
「みなみちゃん、よくぼくの暴力にたえてきたね。ぼくは、みなみちゃんのこと好きだよ。そして、みなみちゃんを殺したくなったよ。だからさ、ぼくのために死んでよ。」翔はナイフをわたしにつきつけた。
「だれもこないところで殺してもばれないし、都合がいいんだよね。」わたしは恐怖で声が出なかった。そのとき、藤村先生が警察を数人つれてあらわれた。
「一瀬、やっぱりまた殺そうとするんだな。黒木はおれの生徒だ。しなせるわけにはいかない。」警察は翔をつれて行った。最後にしずかな海に翔の叫び声だけがひびいた。
 けっきょく藤村先生がなぜあの場所がわかったのか。それだけが疑問だったが、あのとき、先生のおかげでたすかった。その後は平和に学校生活がおくれた。
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