鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

文字の大きさ
13 / 184
ー光ー 第一章 無能神様

第十二話 舞

しおりを挟む
 天光琳は目が覚めた。


「痛っ」


 右手が痛む。右手を見ると、包帯が巻かれてた。


 (そういや昨日手を切っちゃったんだ......あれ?)


 天光琳は勢いよく起き上がった。自分の部屋のベッドで寝ていた。恐らくあの後、倒れてしまったのだろう。

 服はそのままだが、服や髪...そしてベッドは濡れていない。恐らく誰かが乾かしてくれたのだろう。

 時計を見た。時刻は朝食の時間の十分前だった。


 (そろそろ行くか...)


 天光琳はベットから下り、服を着替え、髪を整えてから食事部屋へ向かった。


 ✿❀✿❀✿


 食事部屋には、天宇軒と天麗華がいた。


「おはよう、光琳」

「......」


 天麗華は昨日と違い、いつも通り笑顔で挨拶をしてくれた。天宇軒もいつも通り黙ったままだ。


「おはようございます」


 天光琳は挨拶をした後、自分の席に座った。


 (気まずい......)


 昨日のことがあり、天光琳は居心地が悪かった。チラッと天宇軒の方を見ると、天宇軒は手に頭を乗せて窓の外を見ている。これもいつも通り。天光琳はホッとした。いつも通りにしていればいい。


 (あー...今日は舞をしなければ......)


 天光琳は人間の願いを叶えることを思いだし、一気に気が重くなった。
 そのせいで朝食は喉を通らなかった。



 朝食の時間が終わった。


「光琳、どうしたのその手......」

「しかも利き手...食べにくそうだったわ」


 天万姫と天麗華が天光琳の右手を見て心配そうに言った。
 天光琳は包帯を巻いてくれたのは母の天万姫か姉の天麗華のどちらかだと思っていたが......違うそうだ。

 右手は動かすとズキっと電気がはしったかのように痛み、利き手を怪我したため、食事の時は食べにくかった。


「昨日の夜滑って怪我しちゃった、大丈夫だよ」


 天光琳は苦笑いしながら言った。何があって怪我したのか、はっきりとは言わなかった。しかし言っていることは間違いでは無い。


「本当に...痛そうだわ」

「お大事に......それじゃあ私はこれで」


 そう言って天麗華は手を振りながら部屋を出た。今食事部屋にいるのは天万姫と天光琳だけだ。


「光琳......今日、人間の願いを叶えに行くのよね」

「はい」


 天万姫は心配そうに言った。


「失敗してもあまり落ち込まないこと。周りから何を言われようと、貴方は頑張っているのだから、堂々としていてもいいのよ」


 天万姫は天光琳の肩に手を置きながら話した。


「頑張って、成功することを祈るわ」

「はい、頑張ります。ありがとうございます」


 天光琳は真剣な顔をしながら言った。
 天万姫はニコッと微笑み、天光琳の肩から手を離し、部屋を出た。

 部屋に残された天光琳は手に力を込め、前を向いた。


 (大丈夫。きっと上手くいく......)


 ✿❀✿❀✿


 城を出て、一分ほど真っ直ぐ歩くと、大きな塔にたどり着く。桜雲天国の神々はこの塔で舞をし、人間の願いを叶えるのだ。

 この塔には部屋が沢山あり、一部屋に一神しか入れない。
 塔の中に入ると、真ん中に神術でしかれた大きな丸の陣がある。

 その上に立つと陣がひかり桜の花びらに包まれ、塔の空いている部屋の前まで移動する。

 天光琳は部屋の扉の前で深呼吸をした。
 緊張する。扇を抱きしめ、大きく息を吸って吐く。そして部屋に入った。


 部屋はそこそこ大きく、舞を舞っても手足が壁に当たる心配はない。

 部屋の奥には鏡がある。その前に神が立つと、神社にお願いごとをしている人間の姿が現れる。




 天光琳の鏡には二十代ぐらいの女性が現れた。


『旦那に頂いた髪飾りが無事に見つかりますように』


 その願いを聞いた天光琳はもう一度深呼吸をして、早速舞を始めた。

 舞をする時、曲に合わせて舞うのだが、この塔では不思議なことにこの塔では口に出さなくても、どの舞を舞うのか想像しただけで、その舞の曲が流れる。

 曲が流れ始め、大きな扇子をバサッと開き、全身を使って美しく舞い踊る。


 ......しかし、神の力は出てこなかった。


 (まだまだ...)


 諦めずに続ける。昨日の怪我をした右手が痛むが、そんな痛みは気にしない......が。


『...これ......私の旦那が私のために作ってくださった髪飾りなんです...』

『お嬢ちゃん。そうやって誤魔化してもダメだよ?欲しいならお金を払えばいいんだ』

『こんな高いの買えません......返してください!』

『返さねぇよ!』

『きゃあっ!』


 女性は商人の太ったおじさんに飛ばされ、そのまま泥水に顔から転んでしまった。

 女性の髪飾りはこのおじさんに盗まれ、売られてしまったのだ。

 女性の夫が作ったものなので、この髪飾りは女性のもので間違いない。
 結局この髪飾りは別の女性に買われてしまった。

 女性は泥水の中、手を強く握りしめ、大粒の涙を流しながら泣き続けた。

 周りの人間は泥だらけで泣いている女性の姿を見て、汚い女...と嫌な目で見るだけだった。


 ......失敗だ。

 人間界と神界では時空が違うため、結果はすぐに分かる。


「ごめんなさい......」


 神の声は人間に届かない。それでも天光琳は謝った。許されるはずがないのだが......。

 天光琳は胸が苦しくなった。しかし、あと二回やらなければいけはい。気を取り直してもう一度鏡の前に立った。




 次は七十代の男性だった。


『頼む!神様!!雪子の病気を治してくれ!!』


 雪子とはこの男性の妻のことだろう。
 天光琳は息を飲んだ。


 (これは人間の命に関わることだ...失敗する訳にはいかない......。)


 どの願いも失敗してはいけない。しかし今回は命に関わるのだ。

 手足が震える。けれどやらなければいけない。
 天光琳は気持ちを落ち着かせて、再び扇を開き舞い始めた。


『雪子......きっと大丈夫だ..』

『ゲホゲホ......えぇ。神様が......神様が助けてくれるわ...ゲホッ...』


 天光琳はだんだん不安になってきた。


 (どうして...!)


 全然神の力が出てこない。


『ゲホゲホッ......うぅ......』

『しっかりしろ!!』


 (やばい......!)


 息が荒くなる。そろそろ体力が限界だ。そして右手は傷口が開いて血が滲んできている。


『.........あなた...』

『雪子!!』


 雪子の体は完全に弱っている。

 天光琳は汗だくになりながらも舞を続けている。.........しかし。


『.........。』

『雪子......雪子ぉ.........いやだ...雪子!!』


「...っ!」


 天光琳は崩れ落ちた。失敗だ。
 雪子と言う女性は亡くなってしまった。


「はぁ......はあ......」


 天光琳は疲れきっていた。右手から流れている血も気にしていなかった。汗と涙が一緒に零れ落ちる。


 (また...ダメだった......!)


 この後しばらく休憩をし、残り一回を終わらせるために舞をしたが......これも失敗だった...。


 今日も成功することが出来なかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...