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ー光ー 第一章 無能神様

第十八話 修行

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 三日間の花見会が終わり、街はいつも通りの雰囲気だった。

 天光琳は三日ぶりに修行と舞の稽古をするため、天桜山へ向
 かった。

 ...今日は何故か天俊熙もいる。


「俊熙は修行と稽古をわざわざしなくても良くない?」

「んー?いや、お前の舞が綺麗だったから悔しくて来た」

「本当に?」

「ホントホントー」


 この顔は嘘っぽい。理由はそれだけではないだろう。言わないってことはなにか言いたくない理由でもあるのだろうか。


 (......まさか...昨日の妹さんを殺した神ではないのかって疑ってるのでは!?)


 天光琳は嫌なことに気づいてしまった。

 いや......昨日の夜の会話からすると、疑っているとは考えられない。


 (違うと...いいんだけどなぁ)


 天光琳がそう思っていると、前から草沐阳の姿が見えた。


「あ、草老師ツァォせんせいー!」


 天俊熙は大きく手を振りながら言った。


「おぉ俊熙ではないか!久しぶりだな」


 草沐阳は驚きながら言った。

 天俊熙は現在、修行と舞の稽古をする必要が無いため、草沐阳に会うのは久しぶりだ。


「光琳の舞の稽古を見に来たのか?」

「そーでもありますねー、まぁ俺も久しぶりに草老師に教えてもらおうかなって思いまして」


 天俊熙は笑いながら言った。


「そうかそうか。では厳しーく教えてやるぞ」


 草沐阳も内心、天俊熙は修行と稽古は必要ないと思っているのだが......天光琳が近くにいるため言いにくいのだろう。気分を悪くしてしまうかもしれないからだ。


 今日は修行からやることにした。

 二神は長い髪を一つにまとめて団子結びにし、動きやすい修行用の服に着替えた。

 まずは舞などですぐに疲れないようにするための体力作りだ。これは誰もが一番最初にやる修行だ。

 天桜山の険しい道を三十分で登りきる。

 走らないと間に合わない距離だ。休憩時間などない。
 この修行をやる際は、手のひらサイズのタイマーが渡される。このタイマーで時間を確認しながら登っていくのだ。

 このタイマーは走っている時に邪魔にならないように、右腰に付けておく。


「懐かしいなー、よくお前とどっちが先に登りきれるか勝負したよな」

「あー覚えてる!結局いつも同じぐらいで決着がつかなかったけど」


 天光琳と天俊熙は必ずと言っていいほど勝負をしていた。普段は仲良く話したり遊んだりしているが、修行になるとライバルになるのだ。

 しかし毎回同じような成績で決着がつかなかった。


「久しぶりに勝負するか?」

「お、いいね、負けないぞ!」


 天俊熙はほぼ毎日修行をしている天光琳には負けると思っているが、せっかくなので昔のように勝負をしたいと思った。
 天光琳も乗り気だ。


「久しぶりにやる勝負の結果はどうなるのか...楽しみにしているぞ。負けた方は...そうだな、勝った方を背負ってもう一周するか?」


 草沐阳はニコニコしながら言った。...恐ろしい老師である。


「「絶対嫌です!!!」」

「はっはっは、冗談だ、安心しろ」


 二神は声を揃えて言った。さすがにこの歳になると背負う側も背負われる側も嫌だろう。


「それでは始めるか...」


 草沐阳が言うと、天光琳と天俊熙は真剣な顔をした。負けたくない......そうどちらも思っているのだ。


「よーい、始めっ!」


 草沐阳の合図で二神は風のように速く走り出した。二神は集中しているため、勝負中は会話をすることは無い。
 昔のように二神は同じような......いや、違った。


「!?」


 天俊熙は驚いた。なんと天光琳は、大きな岩がたくさん並ぶ道のはずなのに、まるで天狗のように軽々と飛び移り素早く走っているではないか!

 天光琳と天俊熙の距離はどんどん離れていく。


 (さすが沢山努力してるだけある...やるなぁ!)


 昔は毎回隣にいた天光琳が、今ではどんどん前へ行き、小さくなっていく。

 しかし天俊熙は諦めず、天光琳の後ろをついて行くようなかたちで走っていった。



 走り始めてから五分経った。
 どんどん岩は大きくなっていき、木々も増えてきて走りにくくなってきた。


「...っと、あっぶねぇ...」


 天俊熙は一瞬転びそうになった。

 散った桜の花びらが岩に落ちていて、滑りやすい。しかし天光琳は花弁が少ないところを踏み、滑らず走っていく。

 小さい頃、二神はよくここで転んでいた。
 時には怪我をすることもあったが、勝つためには怪我なんて気にしていられない!と言わんばかりにそのまま走って行った。

 今の天俊熙は昔ほど滑らないが、時々滑りそうになる。




 開始から十分経過。
 木々はまだまだ増えていく。
 広かった道はどんどん狭くなっていく。

 しかし大きな岩は無くならない。とても走りにくい。

 走ると言うよりは登る作業が多くなってきた。
 天光琳は忍びのように素早く登っていく。

 天俊熙も置いていかれないように頑張ってついて行った。




 開始から十五分経過。

 木々が邪魔をしてきて速く走ることが出来ない。
 一生懸命木々を避けて進むしかないのだ。

 天俊熙は疲れてきて息はだんだん荒くなっていく。
 天光琳はと言うと......最初と変わっていないように見える。

 どれだけ体力があるのだろうか...天俊熙は恐ろしい...と思った。




 目標地点が見えた。あそこに一番最初に着いた方が勝利だ。

 目標地点は周りに木が少なく、大きな岩はない。地面には色々な花が咲いていて、花畑になっているのだ。また中心部日に大きな桜の木がある。大きな桜の木には、周りの木と比べて沢山の天灯がついており、遠くからでもよく目立っている。


「よーし、とーちゃく!」


 天光琳は大きな桜の木にタッチして二回飛び跳ねた。

 天光琳は約十八分で到着した。

 そして、しばらく経ち、天俊熙も到着した。約二十五分だ。


「はぁ......はぁ...ついた......お前...なん...で......そうなに......元気なんだよ...」


 天俊熙は息を切らしながら言い、疲れて大きな桜の木の下で寝転がった。


「うーん......十三年間修行を続けてるから...?」


 天光琳は天俊熙の近くに座った。

 決して天俊熙は体力がない訳では無い。
 普通は五歳から十歳までの五年間の修行で、修行五年目でも体力作りの修行は疲れるのだ。天光琳も十歳の時は疲れて、今の天俊熙のように寝転がっていた。

 しかし天光琳の場合は十三年間も修行を続けている。体力はどの神よりもあるだろう。


「光琳......まさか毎日二周やってたりは...しないよな?」

「んー、さすがに三周目は無理だけどね」

「は!?二周やってんの!?」


 天光琳は頷いた。一周でも辛いのに、二周なんて信じられない...どれだけ修行を詰め込んできたのだろうか......そう天俊熙は思った。


「体力だけあってもね......」


 天光琳は少し暗い顔をしながら言った。
 これだけ体力があっても神の力は使えない。


「お前はすごいぞ、もっと自信を持て。舞も綺麗だったじゃないか」


 天俊熙は起き上がりながら言った。
 しかし天光琳の表情は暗いままだ。


 (あっ)


 天俊熙は自分の失敗に気づいてしまった。
 今さっき言った言葉は言わない方が良かったのかもしれない。また、一緒に修行しなければ良かったのかもしれない...と。

 天光琳は修行も舞も誰よりも上だ。
 しかし神の力を使えないのだ。

 使えるようになるまで、修行と舞の稽古を頑張るしかない天光琳にとって、神の力を使える神より上だと、これからどうすればいいのか分からなくなる。

 なぜ皆は出来て...自分は出来ないのか。
 修行と舞の稽古を頑張る必要はあるのだろうか。

 天光琳は遠くを見つめた。


「僕はどうすればいいんだろう」


 天光琳は小さな声で呟いた。

 風が吹いた。大きな桜の木は揺れ、花びらが風に運ばれていく。しかしその風は冷たかった。


「きっと詰め込みすぎて体がついていけてないんじゃない...?」

「そうなのかな」


 天俊熙は思った事を言った。

 しかし、天俊熙もどうすればいいのか分からなかった。当たり前のように神の力を使える自分にとって、神の力を使えない天光琳に何が言える。気持ちすらきちんと理解出来ていないのに。


「だって光琳、八歳ぐらいから俺より多く修行や舞の稽古をしてたじゃん?」

「あれは...王の息子としてもう少し頑張らなきゃ...って思って......」


 天光琳は将来天家の王になるのだ。天麗華は女神のため、王にはなれない。

 そのため、八歳から天光琳は周りの神よりも多く修行と舞の稽古を励んでいた。


「きっとプレッシャーを感じてるんだな...もう少し肩の力を抜いて見ると少しは変わると思う......いや...難しいよな」


 天光琳は小さい頃からプレッシャーを感じているため、集中することが出来なくて失敗しているのかもしれない...と天俊熙は思った。

 だから肩の力を抜いたら変わるかもしれない......しかし、将来桜雲天国の王になるのに神の力を使えない天光琳にとって、肩の力を抜くと言うのは簡単では無いのだろう。
 王が神の力を使えないなんて有り得ないのだ。


「姉上が王になれるんだったら良いのに...僕、王になりたくないよ」

「おっと、それは言っちゃいけないんじゃないか?」


 二神は笑った。

 天光琳は今の王であり父の天宇軒がずっと生きていて欲しい...と思った。


「さて、修行に戻りますかぁ」

「そうだね」


 大きな桜の木の下でしばらく休憩した二神はゆっくりと立ち上がった。


「休憩しすぎちゃったな、草老師に怒られるかも」


 天俊熙は苦笑いしながら言った。


「じゃあ、二十分で老師がいる小屋まで行こう!」
「はぁ?!」


 体力作りの修行は、登ってきた道から下りるまでが修行なのだ。

 登りで疲れるため、下りは時間制限はないのだが......。

 天光琳は元気よく走っていき、天俊熙は死にそうな顔で天光琳について行った。
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