鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

文字の大きさ
27 / 184
ー光ー 第一章 無能神様

第二十六話 出発

しおりを挟む
 食事部屋に行くと皆揃っていた。
 今日は揃うのが早い。天光琳と天俊熙は早歩きで自分の席に座った。


「それが...あなたの剣なのね...?」


 天万姫は天光琳が抱えていた剣を指さしながら言った。


「あ、そうです!」


 天光琳は剣を一旦部屋に置いてから食事部屋に行こうと考えていたのだが...忘れていた。


「素敵ね...!光琳が剣を使っているところを見てみたいわ!」


 天麗華は両手を合わせながら笑顔で言った。
 天光琳はあることを思い出した。


「あ、そういえば姉上、昨日は...その......ありがとうございました......姉上は眠れましたか...?」


 (あ、しまった...)


 天光琳は今言うべきではなかったと後悔した。天麗華と天俊熙を除く天家の皆が、意味がわからないという顔で見ている。


「あはははは」


 天俊熙は一神だけ笑っている。
 天麗華も一瞬なんの事か分からなかったが、すぐに気づいた。


「ええ、眠れたわ。安心して」


 天麗華は天俊熙につられて笑いそうになったが、何とか我慢しながら言った。


「良かった...」


 天光琳はホッと息を吐いた。
 自分だけよく眠れて、天麗華は眠れなかったなんて言ったら...申し訳なさすぎる。


「ねぇ、何があったの...?」


 すると天万姫が天麗華を見ながら言った。
 みんなも気になっているようだ。

 しかし天光琳は恥ずかしくて知って欲しくないため、天麗華の目をよく見ながら全力で首を横に振った。


「ふふ、なんでもないわ。昔話をしていただけよ」


 実際は昔のように膝枕をしてもらっていた...なのだが。
 食事室の扉が開き、料理が運ばれてきた。

 料理のいい香りが部屋中に広がる。


 (これが最後のご飯になりませんように...)


 天光琳は心の中でそう思った。



 料理が揃い、食べ始めた。
 今日は何があるか分からない。しばらく帰ってこられないかもしれない。

 そう思うと緊張してきて、食事が喉を通らない。
 しかししっかり食べなければ体力は長く続かない。
 天光琳は朝食のパンを小さくちぎりながら食べた。


 皆朝食を食べ終わり、いつもなら解散なのだが、今日は皆残っている。

 料理を運んできた六名の神は食器を下げ、テーブルを拭き、一礼してから部屋を出た。

 今は天家だけだ。
 天宇軒は口を開いた。


玉桜山ぎょくおうざんという山の中で現れたそうだ。詳しい場所は聞けていない。きっと玉桜山のどこかにいるはずだ」


 昨日『連れてこい』と言ったということは、目撃された場所にいるだろう。

 玉桜山とはここからかなり離れた場所にある。歩きだと六時間ほどかかる。そのため馬車で行くのだ。馬車だと三時間ほどで着く。


「三十神護衛神をつける。中には玉桜山に行ったことがある
 神も数名いる」


 三神は玉桜山に行ったことがない。

 少しでも玉桜山のことを知っている神がいてほしかったため、三神は安心した。

 身分差を好まない天家は、『護衛』といえども大切な仲間の一神として接している。

 天光琳、天俊熙、天麗華の三神は絶対に命を落としてはいけない神なので当然、三神の身の危険を感じたらすぐに守りに行く。しかし三神も護衛のことを守ったりする。


「昨日も同じことを言ったが、誰一神命を落とさずに、生きて城に帰ることだ。怪我も許さない」


 天宇軒は力強く言った。

『誰一神』とは護衛神三十神も含めているだろう。
『怪我も許さない』という言葉はキツく感じるが、『無事で帰ってきて欲しい』という願いも込められているだろう。


「分かりました。全員、無事に帰還するわ!」


 天麗華は天宇軒の目をしっかりと見ながら言った。
 天光琳と天俊熙も強く頷いた。


「そろそろ行きましょうか」


 天麗華のその言葉を聞き、天光琳は一気に心臓の音が大きくなった。


「もう行くの...?」


 天万姫が心配そうな顔をしながら言った。



「ええ。そうでないと、今日中に帰れないわ」


 天麗華は笑顔で答えた。この笑顔はなんだか安心する。
 天光琳も天俊熙も今日中に帰りたいと思っている。心配させたくないからだ。


「そう......」


 天万姫はそう言いながら下を向いた。手に力を入れている。心配なのだろう。


「光琳、俊熙、荷物は整っている?」

「「はい」」


 天麗華が聞き、二神は大きな声で答えた。
 昨日の夜に準備をしておいたのだ。もう出発は出来る。


「ではこの後すぐに荷物を持って、馬車の前で集合......
 で大丈夫かしら?」


 二神は頷き、立ち上がった。

 そして、三神は食事部屋を出て、荷物を取りに自分の部屋へと向かった。

 荷物は動きやすいように少なくしている。
 天光琳は小さなポシェットを右腰に着け、飲み物や薬、包帯などを入れている。

 左腰には剣を差した。
 食料などは護衛が持ってくれるので持つ必要は無い。
 これで準備完了だ。

  天光琳は部屋を出て城の出入口前に止まっている馬車へと向かった。


 ✿❀✿❀✿


 もう既に全員集まっていた。
 馬車は一台六神乗りで六台止まっていた。
 そのうち一台は食料などの荷物用だろう。


「遅くなりました!」

「うんん、ちょうど今揃ったところだから大丈夫よ」


 天麗華は微笑みながら言った。
 天家の神は皆見送りに来ている。


「気をつけて......無事を祈るわ...」

「......」


 天万姫は心配そうに言った。天宇軒はいつものように黙っているが、先程から手の動きに落ち着きがない。そこから心配している様子が見られる。


「生きて帰ってこい」

「無理は絶対にしないで」

「待ってるわよ」

「...気をつけて」


 天浩然に続けて天語汐、天李偉、天李静も言った。


 三神は微笑みながら頷いた。


「それでは行ってくるわ!」

「行ってきます」

「待ってろよー!」

 三神は手を振りながら言い、馬車に乗った。

 天光琳は座った途端、さっきまでおさまっていた大きな心臓の音が再び聞こえ始めた。

 天光琳は下を向き手に力を込めた。


 (怖い...緊張してきた...)


 天光琳は首を横に振って、頬を二回叩いた。


 (大丈夫。大丈夫。絶対に大丈夫!!)


 そう思い、顔を上げた。そして馬車から見送ってくれている天家の神を見た。

 心配そうな顔をしている天万姫。
 黙ったままの天宇軒。
 無事を願い真剣な表情をしている天浩然。
 三神なら大丈夫という顔をしている天語汐。
 扇子で口を隠し、心配そうにしている天李偉。
 手を強く握りながら見つめてくる天李静。

 天光琳はこの表情をすべて笑顔に変えて見せよう...そう思った。

 そして馬車がゆっくり動き出した。

 三神は手を大きく振った。
 天家の皆が見えなくなるまで。ずーっと振り続けた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

とある中年男性の転生冒険記

うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...