鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第二章 悪神との戦い

第二十七話 玉桜山

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「ひぃ~なんか怖くなってきたぁ...」


 天俊熙は頬を両手で擦りながら言った。
 もうそろそろ玉桜山に着くだろう。

 天光琳は緊張しすぎで顔色が悪い。
 天麗華は何回か天光琳に『大丈夫?』と聞いている。その度小さな声で『...大丈夫です...』と答える。全然大丈夫じゃなさそうだ。

 天光琳は出入口から一番離れた奥の席に座り、その隣には天麗華が座っている。そして天光琳の目の前には天俊熙が座っている。

 あとは護衛神が座っている。
 護衛神もずっとソワソワしている者もいれば、ずっと下を向いている者もいる。護衛神でも緊張しているようだ。


「もうそろそろ到着しますよ、あちらが玉桜山です」


 護衛神の女神が指を指した。目の前に見える、大きな山が玉桜山だ。天桜山と変わらず、山は桜の木で淡い紅色で包まれている。

 天光琳は剣を握りしめた。




 玉桜山の麓に到着した。

 緊張のせいか、馬車の中では会話は少なかった。
 馬車からゆっくりと降り、辺りを見渡した。
 毎日沢山の神々が訪れる、普通の山だ。

 しかし、あの花見会の時の犯神(はんにん)らしき者が目撃されてから、訪れる者はいなくなった。
 麓には玉桜山付近に住んでいる神々が心配そうに天光琳たちを見ている。

 昨日の夜は怖くて眠れなかったのだろう。その神々の目にはクマが出来ていて、疲れが取れていない様子である。
 天麗華はその神々の近くまで行った。


「昨日、目撃されてから他に被害はありませんでしたか?」


 天麗華が優しく聞くと、一神の女神が首を横に振った。


「ありませんでした...。ですが怖くて眠れませんでした...。ですが、どうか......あの悪神を封印してくださいませんか...?」


 女神が震えながら言うと、後ろから一神の男神と一神の女神が大声で言った。


「そんなこと言っても、天麗華様達はあの悪神に呼び出された身なんだぞ!天家の神が俺たちのために命を懸けて封印だなんて...」

「そうよ!天麗華様、どうか...ご無事で...」


 女神は天麗華を見ながら言った。


「大丈夫ですよ、天家はこの国を守るための神でもあるのですから。私たちがあの悪神を見つけて、封印してみせます」


 天麗華は真剣な眼差しで言った。

 それを見て、麓にいる疲れきった神々は安心した。
 天麗華は一礼をし、天光琳達がいる方へ歩いていった。


「こちらは準備出来ました」


 食料持ちの護衛神の一神が言った。


「では、行きましょうか」

「はい...」

「うん...」


 天光琳と天俊熙は小さな声で言った。
 そしてゆっくりと玉桜山の中へ足を踏み入れた。




 普通の山だ。こんな所にいるのだろうか...。
 天光琳は辺りを見渡した。


「...?」

「どうしたんだ...?」


 天光琳はあることに気づいた。天俊熙は天光琳の様子を見て、不安そに聞いた。


「動物が...さっきから一匹も見つかりません...」


 天桜山には鳥や鹿、リスなどの動物が沢山いる。少し歩いただけでも見つかるのだ。

 しかし玉桜山には一匹も見当たらない。


「確かに...!」


 天俊熙も気づいた。


「この山には動物は居ないのですか?」


 天麗華は馬車の中で玉桜山だと教えてくれた護衛神に聞いた。


「いいえ、天桜山のように沢山いるはずです。おかしいですね......」


 やはりおかしい。山はとても静かだ。


「あの悪神のせいで隠れているか逃げたか......殺されたか...」


 護衛神の一神がそう呟いた。
 恐らく、あの悪神が原因なのだろう。
 皆は周りをよく見ながらゆっくりと歩いていった。



 三十分ほど歩いただろうか。
 食料持ちの男神が辛そうに歩いている。

 食料持ちの中でも一番大きく重そうなものを持っている。
 天光琳はそれに気づき、声をかけた。


「代わりに持ちましょうか...?」


 この中で一番体力があるのは天光琳だ。
 しかし、食料持ちの男神は首を横に振った。


「お気持ちは嬉しいのですが、大丈夫です。この中で一番狙われやすいのはあなたなのです。私の荷物を持ってくださっている時に狙われ、命を落としてしまったら...私は護衛神失格です」


 確かにそうだ。天光琳も納得した。あの悪神は花見会の事件の時に天光琳の名前を使ったのだ。天光琳自身も、自分の身には何かが起こるだろう...と分かっていたのだ。

 今、天光琳が代わりに荷物を持ってしまうと、逆に迷惑がかかってしまうだろう。


「光琳は優しいわね。どなたか、この男神の荷物を代わりに持っていただけませんか?」


 天麗華はそう言うと、後ろの方で歩いていた若い男神が手を挙げ、変わりに荷物を持った。


「ありがとうございます...」


 辛そうにしていた男神は天麗華、天光琳、そして変わってくれた男神にお礼を言った。


 一時間経過した。
 今のところ、動物が一匹も見当たらないだけで何も起こっていない。


「別の場所に行った......とかないよな」


 天俊熙は苦笑いしながら言った。
 天光琳もうんうん、と二回頷いた。

 そして天光琳が天俊熙に言おうとした...その時。


『ここから先は...天家の三神だけで来い...。護衛は麓に戻れ......』

「!?」


 どこからか声がした。

 天光琳は剣に触れ、いつでも抜けるようにした。
 他の神々も扇を取り出した。

 人間の願いを叶える訳では無いので、普通に神の力の能力を使う時は、扇なんて必要ないのだが...この悪神は只者ではない。そのため、扇を使って威力を増すのだ。

 ...しばらく経っても、悪神は現れないし、声も聞こえない。


「天様達を置いて私たちだけ戻れと!?」

「そんなの...危険すぎるぞ!」

「三神だけだと......」

「そのまま着いて行ったらどうなるんだ!?」


 護衛神は騒いでいる。

 そろそろ何かが起こる...天光琳はそう思い、手の震えが止まらなくなった。
 天俊熙も不安そうな顔をしている。


「声の通りに、ここから先は私たち三神だけで行きましょう......。もしこのまま皆で行けば、殺されてしまうかもしれないわ」


 天麗華がそう言うと、護衛神は皆小さく頷いた。

 悪神は三神だけに用があるなら、邪魔な護衛神は殺されてしまう可能性が高い。

 それなら素直に護衛神には麓に戻ってもらう方がいいだろう。


「食料はどうしますか?」


 先程変わった食料持ちの男神が言った。


「少しだけ持っていきましょうか」


 天麗華がそう言うと、食料持ちの護衛神は全員天麗華達の近くに集まった。

 荷物が重くならないように、三神はパン二つと腹持ちの良い
 クッキーを三つ取った。


「これだけで良いのですか...?」


 護衛神の女神が心配そうに聞いた。


「ええ。重くなってしまったら動きにくいもの」


 天光琳と天俊熙も頷いた。


「もし私たちが何日も戻ってこなかったら、一応、この場所に追加の食料を置いてください」


 恐らく取りに行くことは難しいが...念の為だ。


「分かりました。どうかご無事で...」

「それでは。さぁ、光琳、俊熙、行きましょう...」

「「はい...!」」


 そう言って三神は護衛神と別れ、そのまま奥へと進んで行った。

 護衛神は三神の姿が見えなくなるまで見守っていた。
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