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ー光ー 第三章 旅の後

第三十五話 悪夢

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 夜遅くに目が覚めた天光琳は、ベッドから起き上がった。


 (寝過ぎちゃった...)


 時計の針は午前二時を指している。
 当たり前だが、夕食の時間は過ぎている。


 (また怒られるなぁ...)


 天光琳はため息をついた。

 また夕食の時間に現れなかったと、天宇軒に怒られる...そう思った。

 外が明るくなるまで寝ようにも、全然眠れないのでとりあえず城の中で静かに散歩をすることにした。



 部屋を出て右へ曲がり、そのまま真っ直ぐ歩いていく。すると、ある神の部屋の前が明るいことに気づいた。扉は少し開いていて、扉の隙間から光が漏れている。

 ...この部屋は天麗華の部屋だ。


 (姉上は起きているのかな?)


 天麗華の部屋へ歩いていくと話し声が聞こえてきた。


 (姉上だけじゃないな...誰だろう...)


 近づくと、どんどん会話がしっかりと聞こえてくる。


『母上はどう思いますか?』

『そうね...私は......』


 (姉上と母上...!)


 天麗華と天万姫の声がしっかりと聞こえる。

 ...しかしなぜこの時間に二神は話しているのだろうか...。


 (大事な話でもしてるのかな?)


 天光琳は扉の前に立ち、二神の会話を少し聞くことにした。...これは盗み聞きをしているわけではない。会話内容を確かめているだけだ。

 もし大事な話をしていたら割り込む訳にはいかない。聞かれたらまずそうな話をしていると感じたら直ぐに離れるつもりだ。

 しかし、なんともないただの日常的な会話だったら、扉をノックして仲間に入れて貰いたい。



『使えない子...だと思うわ』

『やっぱり母上もそう思いますよね』



 (...?)


 なんの話をしているのだろう。...使えない子とは...天光琳にとってはよく聞く言葉だが......。


『光琳はいつになったら神の力が使えるようになるのかしらね...天家の恥だわ』

『もうこれ以上足引っ張らないでほしいわ...』


 (...え?)


 天光琳の心臓がドクンとなった。
 まさか自分のことを言われているとは......。


『光琳さえいなければね...貴方も少しは楽できるのに』

『本当にそうよ...。あの子の前では迷惑かかってない振りをしているけど、本当はすごく迷惑なの......』


 (母上と姉上は...そんなこと思ってたの...?)


『...消えちゃえばいいのに......』

『そうよね母上。...光琳なんていなくなれば......』


「......っ!」


 天光琳は、二神がそう思っているなんて信じられず、耳を塞いだ。


 (きっと...聞き間違えだ......)


 手足が震える。この場から離れようと一歩後ろにさがった......その時。


 カタ...


「...!?」


 大きな音がして、天光琳は振り返った。

 なんと後ろにさがった時に、下に置いてある大きな花瓶を倒してしまったのだ。
 花は散らかり、水はこぼれてしまった。


『なんの音?』

『廊下からだわ...』


 (やばい!)


 天光琳は焦り、直す暇がなく、走って逃げ出した。......しかし。


『光琳!?』


 (バレた...!!)


 天光琳は心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。


『待ちなさい、光琳!』


 いつもおしとやかな天万姫だが、今の天万姫は違った。とても怖い。

 天光琳は逃げる訳にはいかず、立ち止まった。
 後ろから走ってくる天万姫と天麗華の足音がどんどん大きくなっていく。

 天光琳は目を閉じた。


『盗み聞きしていたの!?』

『そんなことをするなんて......!』

「ごめんなさい...ごめんなさい......」


 天光琳は目を閉じたまま必死に謝った。
 しかし。


『光琳、貴方にはお仕置をしないといけないわね!!』

『そうよ、どうしますか母上?』

「...ごめんなさい...!!」


 天光琳は謝ることしか出来なかった。


『それでは......こうしましょう!!』

「!?」








 トントントン


「...!!」


 扉を叩く音が聞こえ、天光琳は目が覚めた。
 汗だくだった。


 (......夢......か......)


 天光琳はゆっくり起き上がり一度深呼吸をした。


 (良かった......)


 今でもまだ手が震えている。


 (...?...桜......?)


 手にはシワシワになった桜の花びらががついていた。


 (窓開けっ放しで寝ちゃったから、風で入ってきたんだ......)


 そう思い窓を見た。外はまだ明るい。
 時計を見ると、午後三時半を指していた。


 (大丈夫。夕食の時間は過ぎていない...)


 天光琳は安心した。
 それにしてもこのような夢を見たのは初めてだ。
 天麗華と天万姫が自分の悪口を言っている夢だなんて...
 出来ればもう見たくないものだ。



「おーい、生きてるー?」

「あっ!」
  

 天光琳は誰が扉をノックしていたことを忘れていた。この声は天俊熙だろう。


「ちょっと待って...」


 そう言って傷が痛まないようにゆっくりと歩きながら扉を開けた。


「あ...寝てた?起こしてごめん...」


 目を擦りながら扉を開けたため、天俊熙は先程まで寝ていたのだと気づいた。


「全然大丈夫だよ」

「なら良いけど...」


 天光琳は微笑んだ。


「...ところでどうしたの?」


 天俊熙は大きな袋を持っていた。
 何か用事があるのかと天光琳は気になった。


「いや、暇だし遊びに来た。お菓子買ってきたし、夕食の時間までゆっくり話そうぜ」

「おぉー!」


 袋の中身はお菓子だったのか!

 天光琳は喜び、天俊熙を部屋に入れた。
 そして二神は椅子に座り、テーブルにお菓子を広げた。


「わぁ~いっぱいある!」 

「これ、俺だけが買った訳じゃないんだ」

「あ、やっぱり!この量は一神では無理だもんね」

 お菓子はチョコレート、クッキー、飴などたくさんあった。
 これを全て食べたら夕食が入らなくなるだろう...。

 そのため、天俊熙一神でこの量を買ったとは思えない。



「麗華様が女子会のお菓子を買いに市場に来ていたから、一緒に買い物してたんだけど、帰りに二神で食べてってくださったんだ......そしたらこの量に...」


「そうだったんだ、へへ、俊熙、姉上ありがとう!」


 天光琳は天麗華の名前が出た瞬間先程見た夢で天麗華が言っていたことを思い出したが、話を聞いて、そんなこと言うはずがない...と心の中で思った。


 ちなみに女子会とは、天麗華の部屋で、天万姫、天麗華、天李偉、天李静の四神が集まって、お茶を飲みながらお話をするのだ。

 一ヶ月に三、四回はやっている。
 今日女子会をするのは、長い旅から帰ってきて、久しぶりに沢山話したかったのだろう。





「お茶入れるね」


 天光琳は立ち上がった。


「怪我治りきってないんだし、大丈夫だよ」

「うんん、これぐらい平気だよ」


 天光琳はそう言って部屋にあるティーカップを二つ用意し、紅茶を入れた。

 そして天俊熙の前と自分の前に置いた。


「ありがとう」


 天光琳は座り、二神は早速お菓子を食べ始めた。
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