鬼使神差〜無能神様が世界を変える物語〜

天楪鶴

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ー光ー 第十章 鬼使神差

第百三十九話 名前

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「ねぇ」

「どうしましたか?」


 月と星々が輝く静かな国......アタラヨ鬼神国。そこは二神の声とベタベタと歩く音しか聞こえてこない。
 天光琳は服を着たまま、浅い湖に仰向けに寝転がり目をつぶりながら言った。
 落暗は近くで子供を見守る親のように天光琳を見つめ座っている。


「本当の名前は?」

「あー......言っていませんでしたねぇ」


 落暗は苦笑いした。


「知りたいですか?」

「おしえて」


 天光琳はうつ伏せに変え、両手を立てて顎にのせた。
 とても興味あるようだ。


「本当の名は......"シュヴェルツェ"という」

「しゅ......べ......?」

「そうか。光琳様にとっては聞きなれない名前ですよね。シュ、ヴェ、ル、ツェ、です」


 落暗はそう言って一生懸命名前を呼ぼうとしてくれている天光琳を笑った。
 バカにしている訳ではないが......一生懸命な姿は実に可愛らしい。
 聞きなれない名前でとてもいいにくいし......覚えにくい。


「しゅヴぇるつぇ......んー......ヴェルって呼んでもい?」


「どうぞ。落暗のままでも良いですけどね」

「なんで名前変えたの?」


 天光琳は首を傾げた。
 別におかしな名前では無い。それなのに隠す必要はあるのだろうか。


「何となくですよ。それに、光琳様は落暗(ルオアン)の方が呼びやすいでしょう?」

「変な名前」


 天光琳はそう言ってまた仰向けになって寝転がった。
 天光琳が動いたことにより、水面に映っている星々や月が揺れた。


「そういえば光琳様はもう二十二歳ですね......あーでも、もう少しで二十三......」


 二十三歳......どこかの神と同じ歳になったようだ。
 何となく......昔、二十三歳の神がいたような気がする。ただそれだけだ。

 天光琳は年齢に興味がないようで、別の話題をふった。


「ヴェル、アイツらの名前は?」

「アイツら......」


 天光琳は寝転がりながら指を指した。
 指を指したのは......ドロドロの生物たちだ。


「あー......名前はありませんよ」

「ないの?」


 確かに名前が無いと呼びにくい。
 なぜ名前がないのだろうか。


「呼ぶ必要はないでしょう?アイツらは話せませんし、ただの道具です」

「それはそうだけど」


 天光琳は納得していないようだ。
 名前がなくては、どう呼べば良いのか分からない。
「お前たち」と呼ぶのも良いと思うが......やはり名前があった方がしっくりくる。


「では光琳様が決めてあげてください」

「また?」


 天光琳がそう言うと落暗は「ふふ」と笑い誤魔化した。
 天光琳はゆっくりと起き上がり、顎に手を抑え考え込んだ。

 ベトベト......ドロドロ.....

 (うーん......)


「べトロ」


 天光琳がそう呟くと落暗はぷっと吹き出し、くすくすと笑った。
 結構良い名前だと思ったのだが......何がおかしいのだろうか。
 天光琳は頬をぷくっとふくらませた。


「可愛らしい名前ですね、いいと思いますよ」

「......ほんとに......?」


 落暗......いや、シュヴェルツェは笑いすぎて出てきた涙を人差し指ですくいながら言った。
 良いと思っているのだろうか。天光琳は疑いの気持ちを隠せず半目でシュヴェルツェを見た。
 シュヴェルツェの肩はまだ揺れている。
 笑いを我慢しているようだが......バレバレだ。


「では......ふふ、......っ...ははは」

「そんなに笑うこと?」


 何がそんなに面白いのか分からない。
 何か言おうとしているのだが、笑いが止まらなくて話せないようだ。


「......はー......、......ごほん。...えーっと......では、伝えてあげてください。べトロになりましたよって」


 めんどくさい......と思いながらも、天光琳は立ち上がった。
 びしゃっと水がこぼれ落ちる。そして水に濡れて体が重い。
 けれど水はサラッと落ちていき、あっという間に体が乾いた。
 この湖には鬼神の力を回復する結界が張ってあるようで、湖全体に鬼神の力で溢れている。
 そのため、水もただの水では無い。

 そして天光琳はゆっくりと歩いていった。
 ぴちゃぴちゃと音を立て、水面が揺れる。

 向かっているところは、ドロドロの生物たちが数十体集まっているところだ。
 皆は湖の上で立ったり座ったり寝転がったり......落ち着きがないように見える。
 やることがなく、途方に暮れている様子だ。

 天光琳が向かってきていることに気づくと、ドロドロの生物たちは皆姿勢を正し、天光琳の前で跪いた。


「お前たちの名前は"べトロ"だ」


 遠くの方でシュヴェルツェが笑ったような気がするが......耳に入らなかったことにしよう。

 天光琳が名前を付けると、ドロドロの生物......べトロたちは顔を上げた。
 ドロドロとしているせいで顔はぐしゃぐしゃで、目がどにあるのか分からないが、驚いている様子が伝わってくる。

 するとボソッと...何か言っているように聞こえた。


「ん?」

「......王......」


 喋った......?いや、べトロたちは話せないはずだ。シュヴェルツェが言っていたし、天光琳も聞いたことがない。
 きっと気のせいだ。


「......王......王......」

「アリ......ガトウ......ゴザイマス......」


「......え?」


 どうやら気のせいではないようだ。
 カタコトで喉が潰れているような声がはっきりと聞こえた。
 しかしなぜ突然喋りだしたのだろうか。
 天光琳は首を傾げた。

 すると、遠くにいたはずのシュヴェルツェが真横に立っていた。


「名前を与えれば喋れるようになるのですよ」


 天光琳は理解した。通りで突然話せるようになったわけだ。


「それを知ってもらいたくて......わざわざ光琳様にお願いしたのです」


 いつも身の回りの事はすぐにやってくれるシュヴェルツェだが、今回は天光琳に、名前を伝えてきてくれと頼んだ。
 それはそういう事だったのか。
 おかげで名前を与えれば喋れるようになると知った。

 恐らくこれから誕生するであろう鬼神たちにも名前を付けなくては話せないかもしれない。
 大切なことを知った気がする。


「...王......ツヨイ......王......カッコイイ」

「......王...ナマエ...アリガトウゴザイマス......」

「...王......王.....」


 話せるようになったのは良いのだが......かなり騒がしくなった。

 離れたところにいたべトロたちも天光琳の方へ集まってきて、皆天光琳に礼を伝えに来ている。


「あぁもう大丈夫だから......」

「ははは」


 天光琳は囲まれてしまったため、走ってその場から逃げ出した。
 シュヴェルツェはふっと消え、少し離れたところに現れた。

 べトロたちは悲しそうな様子のものもいたり、天光琳着いてこようとする者もいる。


「ずるい、その能力僕にも欲しい」

「そのうち手に入りますよ」


 そう言ってシュヴェルツェはまた消え、また離れたところに現れる。
 まるで自慢しているように見える。


「ヴェル!!」

「すいません」


 シュヴェルツェは笑いながらそう言った。



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