目が見えない私が恋をしたのは、不器用なあなたでした

あめとおと

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第八話 伯爵の問い

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 書斎の空気は、夜でも張りつめていた。

 重厚な机。
 壁一面の書棚。
 そして、正面に座る父。

「……楽にしていい」

 伯爵はそう言ってから、静かに娘へ視線を向けた。

 リリアは背筋を伸ばし、椅子に腰掛ける。

「最近、庭に出ることが増えたな」

「はい」

「護衛の騎士と共に、だ」

 一拍。

「……レオンハルト様は、とても丁寧な方です」

 言葉を選びながら答えると、伯爵は小さく息を吐いた。

「見えなくても、わかるのだろう」

 核心を突かれ、リリアは一瞬、言葉に詰まる。

「……はい」

 伯爵は、ゆっくりと立ち上がり、窓辺へ歩いた。

「私は、お前が目を失った日から、ずっと見てきた」

 夜の外気が、わずかに流れ込む。

「誰が本当に、お前を人として扱っているか」

 振り返ることなく、伯爵は言った。

「最近は……足音が違う」

 リリアの胸が、きゅっと鳴る。

「……お父さま」

「否定はせん」

 即答だった。

「ただし、聞く」

 伯爵は、ようやく彼女を見た。

「お前は、幸せか」

 答えは、迷わなかった。

「はい」

 静かで、でも確かな声。

 伯爵は、しばらく黙っていたが、やがて頷いた。

「ならば、それでいい」

 そして、もう一つ。

「だが――」

 低く、重い声。

「彼には、覚悟が要る」

 扉を叩く音。

「入れ」

 入ってきたのは、鎧姿のままのレオンハルトだった。

 空気が、一段、張りつめる。

「……呼ばれて、参上しました」

 伯爵は、騎士を真っ直ぐ見据える。

「お前だな」

「は」

「娘の足音を、変えたのは」

 レオンハルトは、一瞬だけ、息を呑んだ。

「……否定は、できません」

 伯爵は、短く笑った。

「正直でよろしい」

 そして、告げる。

「守るだけでは、足りん」

 視線が、鋭くなる。

「名を呼んだのなら、
 最後まで責任を持て」

 沈黙。

 リリアの手が、膝の上で、ぎゅっと握られる。

「……リリア様を」

 レオンハルトは、深く一礼した。

「命に代えても、守ります」

 伯爵は、首を横に振った。

「違う」

 低く、しかし穏やかに。

「生きて、共にあれ」

 その言葉に、
 リリアの胸が、じんわりと温かくなった。

 ――父は、すべてを見抜いていた。

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