目が見えない私が恋をしたのは、不器用なあなたでした

あめとおと

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第十話 名を呼ぶ、その先

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 朝の光は、柔らかかった。

 眩しすぎない日差しが、庭を包み、
 夜の余韻だけを静かに溶かしていく。

 リリアは、いつもの椅子に腰掛けていた。
 けれど、心は少しだけ、落ち着かない。

(……来る)

 足音がする。
 昨日と同じ速さ。
 それでも、胸の奥の揺れは、はっきりと違う。

 立ち止まる気配。

「……嬢」

 その呼び方に、ほんのわずかな迷い。

 リリアは、微笑んだ。

「おはようございます、レオンハルト様」

 短い沈黙。

 彼は、一歩、彼女の前に立った。

「……今日」

 声が、少し低い。

「私は、護衛としてではなく、
 一人の男として、ここに立っています」

 風が、庭を抜ける。
 精霊の気配が、そっと見守るように広がった。

「あなたを守ることは、務めでした」

 一拍。

「ですが――」

 彼は、深く息を吸う。

「あなたの隣に在りたいと願ったのは、
 私自身の意志です」

 名を呼ぶ前の、最後の間。

 リリアは、何も言わない。
 ただ、逃げない。

「……リリア」

 はっきりと。
 迷いのない声。

 その瞬間、風が、祝福するように吹いた。

「見えないあなたが、
 誰よりも私を見ていました」

 彼女の手を、両手で包む。

「名を呼べば、戻れないと知っていても」

 一歩、近づく。

「それでも、離れたくなかった」

 彼女の指先が、震える。

「身分も、立場も、責任も」

 すべてを受け止める覚悟で。

「――あなたを、愛しています」

 沈黙。

 けれど、それは空白ではなかった。

 リリアは、ゆっくりと彼の方へ顔を向ける。

「……レオンハルト」

 初めて、彼女が名を呼んだ。

 それだけで、彼の喉が鳴る。

「私も」

 小さく、でも確かな声。

「あなたの音が、
 あなたの手が、
 あなたの沈黙が……好きです」

 少しだけ、笑う。

「見えなくて、よかったとさえ思います」

「……なぜ」

「だって」

 彼女は、そっと彼の胸に手を置いた。

「私は、最初から、
 あなたの心に恋をしていましたから」

 風が、くすりと笑う。

『やっと、言った』

 彼は、彼女を抱き寄せる。
 強くはない。
 けれど、もう離さない腕。

「……これからは」

「はい」

「名を呼びます」

「何度でも」

 二人は、静かに笑った。

 ――視線のない恋は、
 誰よりも確かに、結ばれた。

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