22 / 24
スピンオフ
番外編:彼の終わり(完全崩壊ルート)
思い出してから、世界は壊れた。
いや。
正確には――
“まともに見えていたものが、全部嘘になった”。
「……」
書類に目を落とす。
文字は読める。
意味も理解できる。
けれど。
何ひとつ、頭に入ってこない。
意味がない。
全部、意味がない。
あの選択のあとでは。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
自分で選んだ。
自分で、彼女を消した。
だから。
これは当然の結果だ。
「……会いたい」
口に出して、理解する。
それが、もう叶わない願いだと。
彼女はいる。
確かに、生きている。
同じ世界にいる。
それなのに。
――自分の知っている彼女は、どこにもいない。
「……っ」
机を叩く。
初めてだった。
感情を抑えきれなかったのは。
「……返せよ」
誰に向けた言葉かも分からない。
神か。
運命か。
それとも――
あの時の、自分自身か。
「……返せ」
答えはない。
当然だ。
これは“失った”んじゃない。
“手放した”のだから。
「……」
立ち上がる。
向かう先は、決まっている。
止める理由なんて、もうない。
壊れるなら、最後まで壊れればいい。
扉を開ける。
何度目かも分からない。
あの店。
あの場所。
あの人。
「いらっしゃいませ」
笑っている。
何も知らない顔で。
何も失っていない顔で。
――それが、救いであり。
――同時に、地獄だった。
「……」
何も言えない。
何もできない。
ただ、そこに立っているだけ。
それでも。
彼女は、いつも通りに接する。
「今日は何をお探しですか?」
その言葉が。
かつての距離を、完全に否定する。
「……何も」
かすれた声で返す。
違う。
本当は。
欲しいものなんて、ひとつしかないのに。
それだけが、もう手に入らない。
「……そうですか」
彼女は、少しだけ微笑む。
それだけで。
胸が、壊れる。
何度でも。
何度でも。
繰り返し。
壊れていく。
――それでも、来てしまう。
やめられない。
やめる理由が、もうない。
失うものなんて、とっくに全部失っている。
「……」
今日もまた、何も買わずに店を出る。
意味のない訪問。
意味のない時間。
意味のない存在。
それでも。
それしか、残っていない。
外に出る。
空は、やけに遠い。
「……終わってるな」
自嘲する。
もう、分かっている。
これは、終わりじゃない。
終われない。
ずっと続く。
このまま。
壊れたまま。
何も取り戻せないまま。
――彼は、生きていく。
それが。
彼に与えられた、唯一の罰だった。
あなたにおすすめの小説
私は不要とされた~一番近くにいたのは、誰だったのか~
ゆめ@マンドラゴラ
恋愛
彼の幼馴染は、いつも当然のように隣にいた。
「私が一番、彼のことを分かっている」
そう言い切る彼女の隣で、婚約者は何も言わない。
その沈黙が、すべての答えのように思えた。
だから私は、身を引いた。
――はずだった。
一番近くにいたのは、本当に彼女だったのか。
「不要とされた」シリーズ第三弾。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
魅了魔法にかかって婚約者を死なせた俺の後悔と聖夜の夢
鍋
恋愛
『スカーレット、貴様のような悪女を王太子妃にするわけにはいかん!今日をもって、婚約を破棄するっ!!』
王太子スティーヴンは宮中舞踏会で婚約者であるスカーレット・ランドルーフに婚約の破棄を宣言した。
この、お話は魅了魔法に掛かって大好きな婚約者との婚約を破棄した王太子のその後のお話。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※魔法のある異世界ですが、クリスマスはあります。
※ご都合主義でゆるい設定です。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
【第19回恋愛小説大賞】で奨励賞を頂きました。投票して下さった皆様、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました(^^)
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
王家の賠償金請求
章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。
解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。
そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。
しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。
身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。