君の歌声が世界を調律するまで ――忘却の森の少女と、ランクの消えた冒険者たち――

あめとおと

文字の大きさ
6 / 8

6

しおりを挟む

「……くっ、殺せ! 聖剣を花に変えるなど、これほどの屈辱……っ!」

膝をつき、ユリの花束を握りしめたまま震えるフェリクスに対し、エルネは小首を傾げて微笑んだ。

「殺すなんて、そんな物騒なことしませんよ。お花、とっても似合ってます」

エルネがそっと彼の手を取り、

失われた聖剣の魔力――ではなく、その根底にある「騎士の誇り」を浄化するようにハミングを重ねる。

すると、フェリクスの鎧の傷までが修復され、彼の心に巣食っていた神殿の妄信が、春の雪解けのように消えていった。

「お、おい……フェリクスの野郎、顔が真っ赤だぞ」

カイルが呆れたように鼻を鳴らす。

リィンも杖を収め、ため息をついた。

「エルネにかかったら、どんな頑固な聖騎士も、ただの迷子の子犬ね」

結局、フェリクスは「貴女のような危険(?)な存在を放っておくわけにはいかない」という、

お決まりの建前を口にしながら、エルネたちの旅に加わることになった。

神殿への報告? 「追跡中である」とだけ書いた伝書鳩を、彼は震える指で飛ばした。

一行がたどり着いたのは、北の果て、永久凍土に閉ざされた「クリスタル・バレー」。

そこには伝説に語られる古代都市『エリュシオン』が眠っているという。

「ここから先は、ただの寒さじゃないわ。魔力そのものが凍りつく、絶対零度の世界よ」

リィンが警告する通り、吹雪はもはや物理的な凶器となって一行に襲いかかる。

フェリクスは花に戻った(エルネがさらっと直した)聖剣を振るい、結界を張って風を防ぐ。

「エルネ殿、私の背後に! このフェリクス、命に代えても……っ!」

「あ、フェリクスさん、大丈夫ですよ。ビャクが温めてくれてますから」

エルネは巨大化したビャクのふかふかの毛に埋もれ、

前世の「こたつ」を思い出しながらぬくぬくとしていた。

その姿に、聖騎士としての面目を失いかけたフェリクスが少しだけ肩を落とす。

やがて吹雪の壁を抜けた先、一行の目の前に現れたのは、巨大な氷のドームに包まれた、青白く輝く都市の遺跡だった。

「……これが、古代文明。失われたはずの魔動工学の結晶……」

リィンが息を呑む。

建物はすべてクリスタルでできており、幾何学的な紋章が刻まれている。

だが、そのすべては沈黙し、都市の中心にある「巨大な歯車」も凍りついて止まっていた。

「ここ、とっても悲しい音がするわ」

エルネには聞こえていた。

凍りついた都市の底で、かつてこの街を動かしていた古代の精霊たちが、長い眠りの中で震えている声が。

彼女は都市の中央広場、ひときわ巨大な「時の歯車」の前に立った。

「みんなを、起こしてあげなきゃ」

エルネが深く息を吸い込む。

今度は、これまでの慈愛の歌ではない。

凍てついた時間を無理やり動かすような、力強く、そして情熱的な「生命の鼓動(パルス)」を刻む歌。

彼女の足元から、心臓の鼓動に似た黄金の衝撃波が幾重にも広がっていく。それは絶対零度に閉ざされた空気の粒子を激しく震わせ、凍てついた空間に「熱」という名の情報を叩き込んでいく。

振動。

共鳴。

彼女の声が氷の壁を透過し、古代の回路に火を灯していく。

歌声が最高潮に達した瞬間、エルネの瞳が七色に輝いた。

「起きて、エリュシオン! 旅人(わたし)たちのために、道を開いて!」

ゴゴゴゴゴ……!

地響きと共に、凍りついていた巨大な歯車がゆっくりと回転を始めた。

都市のあちこちから青い光がラインとなって走り、氷が蒸発していく。

凍りついていた噴水が熱を帯びたお湯となって噴き出し、

誰もいなかった街並みに、古代の防衛ゴーレムたちが「歓迎」のポーズをとって整列した。

「ありえない……神話時代の遺物を、歌一つで起動させるなんて……」

フェリクスはもはや驚く気力もなく、エルネの背中に見える「神の光」をただ見つめていた。

だがその時、都市の再起動に反応するように、空に巨大な「光の魔法陣」が展開された。

『――不法侵入者を確認。聖域の無断起動を検知。神罰を執行する』

無機質な声と共に、空から降ってきたのは、神殿が崇める「天使」の姿をした、巨大な魔動兵器だった。

「エルネ殿、下がって! 本物の『神罰』が来る!」

フェリクスが叫ぶ。

しかし、エルネは楽しげに空を見上げた。

「天使さん? ちょうどよかった。私、聞きたいことがたくさんあったんです!」

神殿が恐れる神罰すら、エルネにとっては「お喋りな友達」に過ぎない。

聖女と聖獣、騎士と魔術師と戦士。

規格外な一行の旅は、ここから世界の真実へと足を踏み入れていく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱と追放された俺、実は神の右腕でした。~気づけば王女も聖女も竜姫もなぜか俺に懐いている件~

たまごころ
ファンタジー
平凡な村人レオンは、勇者パーティから「最弱」と蔑まれ追放された。 だが、彼のスキル「真なる加護」は、神々が隠した最終権能だった。 無自覚のまま世界を救い、仲間をざまぁさせていくレオンに、王女・聖女・竜姫と次々惹かれていくヒロインたち。 気づけば、世界最強のハーレムが完成していた——。 ザマァあり、成り上がりあり、恋愛ありのド定番無自覚最強譚!

ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

966
ファンタジー
「錬金術士様だ!この村にも錬金術士様が来たぞ!」  最低ランク錬金術士エリセフィーナは錬金術士の学校、|王立錬金術学園《アカデミー》を卒業した次の日に最果ての村にある|工房《アトリエ》で一人生活することになる、Fランクという最低ランクで錬金術もまだまだ使えない、モンスター相手に戦闘もできないエリナは消えかけている前世の記憶を頼りに知り合いが一人もいない最果ての村で自分の夢『みんなを幸せにしたい』をかなえるために生活をはじめる。  この物語は、最果ての村『グリムホルン』に来てくれた若き錬金術士であるエリセフィーナを村人は一生懸命支えてサポートしていき、Fランクという最低ランクではあるものの、前世の記憶と|王立錬金術学園《アカデミー》で得た知識、離れて暮らす錬金術の師匠や村でできた新たな仲間たちと一緒に便利なアイテムを作ったり、モンスター盗伐の冒険などをしていく。 錬金術士エリセフィーナは日本からの転生者ではあるものの、記憶が消えかかっていることもあり錬金術や現代知識を使ってチート、無双するような物語ではなく、転生した世界で錬金術を使って1から成長し、仲間と冒険して成功したり、失敗したりしながらも楽しくスローライフをする話です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

辺境ギルドの受付嬢ですが、冒険者の嘘は帳簿でぜんぶバレます

蒼月よる
ファンタジー
素材の重さが申告と合わない。鑑定書の書式がおかしい。冒険者が持ち込む報告書には、いつもどこかに嘘がある。 辺境の小さなギルド支部で、受付嬢ナタリアは今日も一人、帳簿を武器に冒険者たちの嘘と向き合っている。剣も魔法も使えない。でも素材を見る目と、数字の辻褄を見抜く勘だけは、誰にも負けない。 持ち込まれた棘鱗の産地が違う。新人冒険者の目が妙に鋭い。腕のいい薬師が素性を隠している。書類を処理するだけの毎日のはずが、カウンターの向こうには不思議な人々と、小さな謎が絶えない。 一話完結の日常謎解き。辺境の受付カウンターから覗く、冒険者たちの嘘と真実の物語。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

異世界転移したので旅してみました

松石 愛弓
ファンタジー
ある日、目覚めたらそこは異世界で。勇者になってと頼まれたり、いろんな森や町を旅してみることにしました。 ゆる~い感じののんびりほんわかなんでやねん路線の地味系主人公です。 気楽に読めるものを目指しています。よろしくお願いします。毎週土曜日更新予定です。

蒼炎の公爵令嬢 〜追放された私は、最強冒険者と共に真実の力に目覚める〜

雛月 らん
ファンタジー
「お前は出来損ないだ」——家族に見捨てられた令嬢が、最強の冒険者と出会い、真の力に目覚める異世界ファンタジー! 公爵家に生まれたエリアナは、幼い頃から魔法の制御ができず、家族から冷遇されてきた。 唯一の味方は執事のポールだけ。 人前で魔法を使わなくなった彼女に、いつしか「出来損ない」の烙印が押される。 そして運命の夜会—— 婚約者レオンハルトから、容赦ない言葉を告げられる。 「魔法も使えないお前とは、婚約を続けられない」 婚約破棄され、家からも追放されたエリアナ。 だが彼女に未練はなかった。 「ようやく、自由になれる」 新天地を求め隣国へ向かう途中、魔物に襲われた乗り合い馬車。 人々を守るため、封印していた魔法を解き放つ——! だが放たれた炎は、常識を超えた威力で魔物を一掃。 その光景を目撃していたのは、フードの男。 彼の正体は、孤高のS級冒険者・レイヴン。 「お前は出来損ないなんかじゃない。ただ、正しい指導を受けなかっただけだ」 レイヴンに才能を見出されたエリアナは、彼とパーティーを組むことに。 冒険者ギルドでの魔力測定で判明した驚愕の事実。 そして迎えた、古代竜との死闘。 母の形見「蒼氷の涙」が覚醒を促し、エリアナは真の力を解放する。 隠された出生の秘密、母の遺した力、そして待ち受ける新たな試練。 追放された令嬢の、真の冒険が今、始まる!

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

処理中です...