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しおりを挟む古代都市エリュシオンの最深部から昇った「光の階(きざはし)」は、
雲を突き抜け、星々の手が届く天空へと続いていた。
そこに浮かぶのは、白金で形作られた幾何学的な神殿。
この世界の万物を管理し、ランクを付け、運命を記述する巨大な計算機――創造神「デウス・エクス」の御座だ。
「ここが、神様の家なのね」
エルネが足を踏み入れると、床から無数のホログラムが立ち上がった。
それは、
FランクからSSランクまで、厳格に管理された人間たちのデータ、
絶滅した種族の記録、そしてこれから起こるはずの「争い」のシナリオ。
『――調律者の魂を持つ個体を確認。なぜシステムに干渉する。
世界は順序によって保たれる。ランクによる差別こそが、進化のエネルギーを生む』
無機質な声が神殿内に反響する。
実体を持たないはずの「神」が、エルネたちの前に、巨大な光の巨人として姿を現した。
「それは『進化』じゃないわ。ただの『管理』よ」
エルネは仲間の顔を見た。
カイルの剣、リィンの杖、フェリクスの聖剣。そしてビャクの銀毛。
それらはシステムが定めた「数値」以上の輝きを放っている。
「ランクが低くても、呪われていても、落ちこぼれでも……みんな自分の足で歩いて、笑って、泣いている。
あなたのシナリオにない『奇跡』を、私はたくさん見てきたわ!」
『不要なバグだ。初期化(イニシャライズ)を開始する』
巨人が手を振り下ろすと、神殿の空間そのものが崩壊し始めた。物理法則が歪み、重力が逆転する。
仲間たちがその圧力に膝をつきそうになった瞬間、エルネが声を張り上げた。
「みんな、私に力を! 最高の歌を届けるから!」
カイルが叫びながら大剣を床に突き立て、リィンが焼き切れるほどの魔力で障壁を展開する。
フェリクスは折れない心でエルネの前に立ち、飛来する消去プログラムの弾丸を斬り捨てた。
エルネは歌った。
それは、前世の記憶に眠る「故郷の夕焼け」の情景、
仲間と食べたスープの味、ビャクの温もり……
この世界を構成する「数字」には決して変換できない、愛(いと)しき感情の旋律。
それは、無機質な計算式では決して導き出せない「祈り」という名の無限。積み上げられた管理ログを優しく包み込み、冷え切った宇宙の法則に、春の陽だまりのような意味を与えていく。
彼女の歌声が神殿の回路に逆流する。
冷徹な論理回路が、エルネの温かな魔力によって一つ、また一つと「感情」の熱を帯びていく。
「神様、あなたも独りぼっちで寂しかったんでしょ? ランクなんて付けなくても、世界はこんなに綺麗なのに!」
歌声が最高潮に達したとき、光の巨人が震え、崩れ落ちた。
冷たい計算機だった「創造神」のコアが、
エルネの歌によってオーバーライト(上書き)され、慈しみを知る「真の意思」へと生まれ変わる。
神殿を包んでいた殺意が消え、柔らかな陽だまりのような光が溢れ出した。
『……理解した。これが、数値化できない生命の輝き……調律者よ。私はこれより、管理ではなく、見守る者となろう』
神の宣言と共に、世界中の冒険者プレートからランクの文字が消え去った。人々を縛っていた見えない枷が、旋律と共に溶けていく。
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