【完結】悪役令嬢ですが、断罪した側が先に壊れました

あめとおと

文字の大きさ
4 / 6

第4話 それでは、さようなら

しおりを挟む
 断罪の場は、思っていたよりも静かだった。

 大広間に集められた貴族たち。
 ひそひそと交わされる囁き声。
 そして――正面に立つ、王太子。

「アリアンナ・ヴェルディ公爵令嬢」

 名前を呼ばれて、一歩前に出る。

 背筋を伸ばし、視線を上げる。
 震えはない。
 涙も、ない。

 この日のために、私は三年を使った。

「貴女は、平民出身のリュシア嬢を虐げ、王太子殿下の名誉を傷つけ――」

 よく知っている台詞だ。
 物語通り。
 予定調和。

 私は、口を挟まない。

 弁明をすれば、
 “往生際の悪い悪役”になるだけだ。

「……以上の理由により、婚約は破棄。
 そして国外追放とする」

 一瞬、空気が張り詰めた。

 ――終わった。

「異議はありますか」

 形式的な問い。

「いいえ」

 私は、静かに答えた。

 その声に、貴族たちがざわめく。
 王太子が、わずかに目を見開いた。

 彼は、私が泣くと思っていたのだろう。
 縋ると。
 助けを求めると。

 けれど。

 私は、彼を見て微笑んだ。

「殿下」

「……な、何だ」

「どうか、国をお大事になさってくださいませ」

 それだけ言って、深く一礼する。

 忠告でも、皮肉でもない。
 本心だった。

 私はもう、この国の人間ではない。

 ***

 大広間を出るとき、
 背後で誰かが小さく声を上げた。

「……待って」

 リュシアだった。

 迷いと、不安と、
 少しの罪悪感を滲ませた瞳。

「本当に……何も言わないんですか?」

 私は立ち止まり、振り返る。

「言う必要がありませんもの」

「でも……!」

「あなたは、あなたの正しさを選びました」

 それは責めている言葉ではない。
 ただの事実。

「私は、私の正しさを選びました」

 リュシアは、何も言えなくなる。

 王太子は、こちらを見ていなかった。
 視線は、床に落ちている。

 ――逃げるように。

 それでいい。

 ***

 馬車に乗り込み、扉が閉まる。

 ガタン、と音がして、
 王都が遠ざかり始めた。

 私は、窓の外を見ながら小さく息を吐く。

「……終わりましたわね」

 役割は、果たした。

 悪役令嬢としての人生は、
 今日で終わり。

 あとは――
 誰にも縛られない、
 私自身の物語を生きるだけ。

 王都の塔が見えなくなった、そのとき。

 私は初めて、
 ほんの少しだけ、笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

侯爵家の婚約者に手を出す意味、わかってます?

碧井 汐桜香
恋愛
侯爵令嬢ジョセリアは地味な外見をしている少女だ。いつも婚約者のアランとその取り巻きの少女たちに罵倒されている。 しかし、今日はアランの取り巻きは一人しかおらず、いつも無視を決め込んでいたジョセリアが口を開いた。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

処理中です...