正しい位置 ― 白線の内側 ―

あめとおと

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第四話 模範解答

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第四話 模範解答



社内アンケートは、年に一度ある。

「職場環境について、率直なご意見を」

匿名と書いてある。

私は少し考えてから、本音を書いた。

・会議が長い
・発言しづらい
・もう少し柔軟に進められないか

送信ボタンを押す。

画面に表示される。

“ご協力ありがとうございました”

翌週、集計結果が共有された。

驚くほど、きれいだった。

満足度は高く、
改善点は「特にありません」。

誰も不満を書いていない。

そんなはずはないと思う。

自分の回答履歴を確認する。

ログインし、アンケートページを開く。

そこには、私の回答が保存されている。

でも内容が違う。

・現状に満足している
・円滑なコミュニケーションが取れている
・今後も現体制を支持する

一文字も、私の文章は残っていない。

履歴には、修正の痕跡もない。

ただ、“あなたの回答”として表示されている。

翌日、同僚にそれとなく聞いてみた。

「アンケート、正直に書いた?」

彼女は少し笑った。

「もちろん。模範解答を」

その言い方が、妙に引っかかる。

「模範解答って?」

「みんな、分かるでしょ? 正しい答え」

彼女の画面を覗く。

回答欄は空白だ。

何も書いていない。

それでもステータスは、

“提出済み”

帰宅して、自分の回答をもう一度見る。

文章の最後に、見覚えのない一文が追加されている。

“今後も正しい位置で努力します”

私は、そんなこと書いていない。

カーソルを合わせる。

編集はできない。

ページの一番下に、小さく表示されている。

“あなたの回答は最適化されました”

その翌年から、私はアンケートに答えなくなった。

それでも毎年、

“ご協力ありがとうございました”

と表示される。

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