──どんなに、どんなに。

宝ひかり

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第三章 『胸を駆け巡る恵風』

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~嶌梓~

 昨日の予報では、天気が危うかったのだが、体育祭当日は無事に日が出ている。

 まずは全体行進から始まり、俺達吹奏楽部員は、仮設テントで行進曲を演奏する。

 アフリカン・シンフォニーに、BACKDRAFT。

 メロディーラインをフルートで軽やかに奏で、伴奏に乗る。

 ドドッドレー、シシシ、ドラー。

 楽器の音で最も低い、環菜先輩の吹くチューバの音は、いつもどっしりしていて安定感がある。

 続けて、栄冠は君に輝く、スポーツ行進曲。リズムに合わせて、生徒達が行進をしながらテント前を通り過ぎていく。

 俺は今まで、一人や少人数と合わせて演奏をすることはあったが、このように沢山の人数で、一つの音楽を作りあげる経験はなかった。

 皆で奏でるとは、こんなに楽しいものなのか。一人とはまるで違う、様々なハーモニーを重ねてゆく。自然と体が揺れ、口角が上がる。

 入部後、俺はすっかり、吹奏楽の楽しさに魅了されていた。

 行進が終わると、開会式が行われ、校歌や国歌を演奏すると、競技が始まった。

 楽器をケースに戻して、近くの家庭科室に一旦置きに行くと、応援スタンドへ戻る。

 既に、100メートル走に出る生徒達が場内を駆け回っており、歓声が飛んでいる。

 俺はこの後の玉入れと、学年別対抗リレーに出る予定があり、スタンドにペットボトルを置くと、すぐに入場門へ向かった。

「あ、そうか、嶌君も玉入れ出るんだったね」

「うん、そういえば長谷部もだったね」

 長谷部は普段下ろしている、肩まで伸びる髪の毛を、今日は二つに結んでおり、いつもより幼い。

「嶌君、バスケしてたなら、玉入れも得意なんじゃない?」

「え、それとこれって、一緒なのかな」

 どうだろ、と笑いながら入場すると、体育祭の雰囲気を全身で感じる。祭りのそわそわした楽しい感じ、好きだなぁ。

 笛の合図で、赤い玉をとにかく籠めがけて投げてゆく。

 しかし、調子に乗りすぎたからなのか、思いっきり投げた玉が籠にはじかれ、再び自分の顔面に勢いよくぶつかってきた。

「っ……いった」

 ……と、顔をしかめたものの、段々おかしくなってきて、一人笑ってしまった。




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