──どんなに、どんなに。

宝ひかり

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第五章 『ゆらり揺れるタチアオイ』

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 きっと、一人になる私を気遣ってくれているのだろうが、心苦しい。

「私は一人でも」

「一人になんて、させません」

 そう言いながら、梓君は前の席を指差され、おずおずと椅子に座る。

「ごめん……せっかく中学の仲間と集まってるのに」

「またいつでも集まれるし。何味頼みました?」

「ヨーグルトとマンゴー。……梓君は?」

「俺はチョコレートと、マシュマロ」

 マシュマロ味は見たことなく、気になったものの、選ばなかったんだ。

 あぁ、美味しそう……。

「ちょっといる?」

 私の視線に気付いたのか、梓君はカップを傾けてきた。

 でも、さすがにここでは、以前されたような、あーん、はされずにホッとする。

 梓君の持つカップからアイスをスプーンで掬うと、口に入れてみる。とにかく甘いアイスが口溶けて、自然と口角も上がった。

「うん、凄く美味しい」

「俺もヨーグルト食べたいなぁ」

 自分もカップを傾けると、梓君が一口食べて、美味しいと笑う。

「学校の外で、こうやって会うのは初めてですね」

「そうなるね」

「レアな感じで嬉しい」

 私が無言でアイスを食べても、梓君は優しい瞳でこちら見つめる。

「……あのさ」

「はい?」

「私……あんまり喋らないけれど、居心地悪くないの」

 慣れれば多少話すようにはなるが、毎回それまでに、かなりの時間を費やしてしまう。だから、心を許せる友達も少ない。

「環菜先輩とだったら、無言でも平気ですよ」

 寧ろ、沈黙も心地が良い、と言ってくれる。

「本心?」

「嘘はつきませんよ」

「……そっか。アイス、美味しいね」

「好きな人と一緒だから、余計に」

 キスさえしないが、ちょいちょい触れてくるし、ハグもする、梓君は外国人のようなノリ。

 椎川君からは、たまにもっと喋ってって、言われるんだよな……。

 話さなくても、心地が良いって、内心凄く嬉しかったりする。

 アイスを食べ終わると、梓君はどこかへ行こうとする。

「なぁ、皆。俺達、ちょっと他見てくるから」

 “俺”じゃなくて、“俺達”って言った……?

「環菜先輩、行こう」

「えっ」

「あー、別にいいけど。また戻ってきてな」

「はーい」

 美知佳を見ると、美知佳も手をヒラヒラ振っており、梓君が私の空になったカップを持って行くものだから、後を追う。

「梓君、どこ行くの」

「その辺ブラブラしましょ。せっかくお店沢山あるんだし」

 梓君はアイスクリームショップの隣にある、雑貨店に入る。

 入った途端、アロマオイルのような、シトラス系の爽やかな匂いが漂う。

「俺、部屋にソファーがあるんですけど、ちょうどクッションが欲しいなって思ってた所なんです」

「どういう色で統一した部屋なの?」

「グリーンかな」

 学校以外で、こうして梓君の隣にいるのは、珍しい。

 梓君は見ただけで分かるように、嬉しそう。

「お、これいいなぁ」

 モスグリーンのクッションを手に取って、触り心地を確かめている。





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