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他人の夢へ意図的に介入することが出来る。
それが、組織ボタニカルに所属するメンバーが有する能力。
そして、その能力を駆使して様々な案件を解決するのが組織ボタニカルである。
サクラコがこの特異な能力に目覚めたのは中学校2年生の時であった。とある日の午後の授業中、当時友人だった智美がいつものように机に突っ伏して寝ていたのをサクラコはぼんやりと眺めていた。授業を受け持っていた国語科の初老で物静かな天草先生は、その智美を叩き起こすなどということはまず有り得なかった。
そもそもが地元でもトップクラスの進学校である故に、生徒は全体的に授業への意識が高かった。そんな中、智美が眠りについていたのは、決して彼女が不真面目な生徒だからというわけではなく、彼女の実家が地元でも有名な旅館であることに関係していた。通学時間片道1時間半をかけ学校に通う。そして帰宅すれば旅館の手伝いをしなければならない。それが終わると、学校から出される山のような宿題を片付ける日々。智美が午後になると微睡んでしまうのも無理はない話であった。加えて智美は、国語科において向かうところ敵なしの、全国レベルで優秀な成績を保持していた。天草先生はそんな智美の家庭事情もよく知っていたし、いくつかの自分の授業を聞き逃したところで、智美の成績に悪影響がないこともわかっていた。だからだろう、智美は暗黙の了解で、午後の天草先生の授業で居眠りすることを赦されていた。
サクラコはそれを特別ずるいと感じていたわけではなかったが、しかし智美の気持ちよさそうに眠る様を見て、自分だって智美に劣らない成績を有しているし、家庭事情も智美より遥かに複雑なのにと思わない訳でもなかった。「良いなぁ」とそんな軽い羨望を向け、そしてふとこんなことを思った。
「智美は今どんな夢を見ているのでしょう」
そうただ何気なく思っただけ。それだけのつもりだったはずが、突如、正面からとてつもない勢いの突風を受けたかのようにブワッと身体が後方に吹き飛ばされた。正確には吹き飛ばされた「ように感じた」。教室の後ろの壁にバンと身体を叩き付けられるということはなかったからだ。そうではなく、妙な浮遊感がじわんと伝わってきていた。立っているでもない、座っているでもない、歩いているでも走っているでもない、そんな自分の身体状況がまるで読めない妙な感覚。
しかしそれに次第に慣れてくると、サクラコは瞑っていた目を恐る恐る開けた。
すると、辺り一面が教室では無くなっていた。さながら瞬間移動のように、サクラコは先ほどまで居たはずの教室とは全く異なった場所に直立していた。
しかし不思議と恐怖心はなかった。ぱっと見てサクラコはこの場所が何だか見覚えがあるようだと気づいたからだ。
「ここは……、智美の家……」
そう、何度も訪れたことのある智美の実家、すなわち、旅館、その玄関口だった。
なぜ、いきなりこんな場所まで。そう考える間もなく、サクラコの眼前には智美の姿が映った。
否、智美のはずだといった方が正しい。
先ほどまで机に突っ伏して居眠りをしていたセーラー服姿の女子生徒が、突然女将姿の成人女性に姿を変えていたとしても、サクラコは卓越した洞察力によって瞬間的に眼前の人物が智美だと断定していた。しかしそのあまりの変貌ぶり、いやむしろ、丁度今から十年ほど智美が成長すれば、こんな感じになるのだろうと思われるような出で立ち。
そして、その、成長したと思しき智美の隣には、とても背の高く顔立ちの整った男が居た。
居たというのは表現がやや手遅れかもしれない。
正確には、智美とその男はもう暫く前からそこに二人で居て、そこに遅れてサクラコがノコノコとやってきた。そう述べた方が正しいだろう。
そう。居るんじゃない。しているのだ。
そう断言するに難くなく、目の前の智美とその男は、サクラコが刹那の内に顔を赤色に染めてしまうようなディープな抱擁と口づけ等を愉しまれていた。智美のその淡い水色に染まった着物は乱れ、その美しい肩のラインが見え隠れしている。
その光景をまじまじと見つめることしかできず、立ち尽くすサクラコ。
しかし、サクラコの目など全く気にもかけないといった調子で情事はお構いなく展開される。次々と。熱く、激しく。
「あぁぁ! 智美! なんて破廉恥な!」
あまりの動揺からから、思わずサクラコは叫び声をあげてしまった。ハッと、両手で口を覆う。
しかし、智美とその男は、叫び声など全く耳に届いていないという風だった。
行為はさらに激しさを増していく。まるでサクラコどころか、この家には誰も居ないことが明らかであるかのように、完全に二人だけの世界が、遠慮無く展開されていた。
「だ、誰か。この。くんずほぐれつ! くんずほぐれつをっ!」
最早サクラコは自分の身を隠すという考えを消失していたが、しかし智美と男のお二方は相変わらず気づく様子がまるでない。サクラコは当時より頭脳明晰な方であったが、所詮は中学生。しかもこの手の営みに対して免疫がないということも相まって、尋常でないほど慌てふためき状況を精査する余裕がなかった。
だからであろうか、サクラコは、その智美の隣にいる長身の男が下半身の衣服を脱ぎ捨てようとする段階で、「だめえええええええええええええええええ」と甲高い声を吐きながら彼らに向かって飛び込んでしまった。
すると、一瞬のうちにビクリと自分の両肩が跳ね上がるのを感じ、そして辺りはいつもの教室になっていた。
サクラコは自分の両手にわずかだが大人になった智美に触れた感触があるような気がした。
「まさか、今のって私が居眠りしてしまって見た夢でしょうに」
サクラコ「あぁ、すごい夢を見てしまったわ」と自嘲気味に思い、小さいあくびをすると、丁度国語の授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。天草先生は特にサクラコが居眠りをしていたことについては何も言わず、さらりと戸を開けて職員室へと帰っていった。
「いくら智美が羨ましいからといって、授業中居眠りしてしまうなんてはしたないわ、次から気を付けよう」
サクラコはそんな風に思いながら、ちょっとお手洗いに行ってこようかと思案して立席した。
そして、本当に特に何を思ったわけでもなく、ただちょっと「智美は目を覚ましたかしら」ぐらいの何気ない気持ちで彼女の方を見ると、その当の智美が、サクラコの方を、顔面を真っ赤に染め目を丸々とさせて、まるで幽霊でも見るかのような眼差しで凝視していた。
その智美の明らかにおかしい様子に、サクラコは、先ほどの夢で成人した智美に触れた感触を想起しないわけにはいかなかった。
それが、組織ボタニカルに所属するメンバーが有する能力。
そして、その能力を駆使して様々な案件を解決するのが組織ボタニカルである。
サクラコがこの特異な能力に目覚めたのは中学校2年生の時であった。とある日の午後の授業中、当時友人だった智美がいつものように机に突っ伏して寝ていたのをサクラコはぼんやりと眺めていた。授業を受け持っていた国語科の初老で物静かな天草先生は、その智美を叩き起こすなどということはまず有り得なかった。
そもそもが地元でもトップクラスの進学校である故に、生徒は全体的に授業への意識が高かった。そんな中、智美が眠りについていたのは、決して彼女が不真面目な生徒だからというわけではなく、彼女の実家が地元でも有名な旅館であることに関係していた。通学時間片道1時間半をかけ学校に通う。そして帰宅すれば旅館の手伝いをしなければならない。それが終わると、学校から出される山のような宿題を片付ける日々。智美が午後になると微睡んでしまうのも無理はない話であった。加えて智美は、国語科において向かうところ敵なしの、全国レベルで優秀な成績を保持していた。天草先生はそんな智美の家庭事情もよく知っていたし、いくつかの自分の授業を聞き逃したところで、智美の成績に悪影響がないこともわかっていた。だからだろう、智美は暗黙の了解で、午後の天草先生の授業で居眠りすることを赦されていた。
サクラコはそれを特別ずるいと感じていたわけではなかったが、しかし智美の気持ちよさそうに眠る様を見て、自分だって智美に劣らない成績を有しているし、家庭事情も智美より遥かに複雑なのにと思わない訳でもなかった。「良いなぁ」とそんな軽い羨望を向け、そしてふとこんなことを思った。
「智美は今どんな夢を見ているのでしょう」
そうただ何気なく思っただけ。それだけのつもりだったはずが、突如、正面からとてつもない勢いの突風を受けたかのようにブワッと身体が後方に吹き飛ばされた。正確には吹き飛ばされた「ように感じた」。教室の後ろの壁にバンと身体を叩き付けられるということはなかったからだ。そうではなく、妙な浮遊感がじわんと伝わってきていた。立っているでもない、座っているでもない、歩いているでも走っているでもない、そんな自分の身体状況がまるで読めない妙な感覚。
しかしそれに次第に慣れてくると、サクラコは瞑っていた目を恐る恐る開けた。
すると、辺り一面が教室では無くなっていた。さながら瞬間移動のように、サクラコは先ほどまで居たはずの教室とは全く異なった場所に直立していた。
しかし不思議と恐怖心はなかった。ぱっと見てサクラコはこの場所が何だか見覚えがあるようだと気づいたからだ。
「ここは……、智美の家……」
そう、何度も訪れたことのある智美の実家、すなわち、旅館、その玄関口だった。
なぜ、いきなりこんな場所まで。そう考える間もなく、サクラコの眼前には智美の姿が映った。
否、智美のはずだといった方が正しい。
先ほどまで机に突っ伏して居眠りをしていたセーラー服姿の女子生徒が、突然女将姿の成人女性に姿を変えていたとしても、サクラコは卓越した洞察力によって瞬間的に眼前の人物が智美だと断定していた。しかしそのあまりの変貌ぶり、いやむしろ、丁度今から十年ほど智美が成長すれば、こんな感じになるのだろうと思われるような出で立ち。
そして、その、成長したと思しき智美の隣には、とても背の高く顔立ちの整った男が居た。
居たというのは表現がやや手遅れかもしれない。
正確には、智美とその男はもう暫く前からそこに二人で居て、そこに遅れてサクラコがノコノコとやってきた。そう述べた方が正しいだろう。
そう。居るんじゃない。しているのだ。
そう断言するに難くなく、目の前の智美とその男は、サクラコが刹那の内に顔を赤色に染めてしまうようなディープな抱擁と口づけ等を愉しまれていた。智美のその淡い水色に染まった着物は乱れ、その美しい肩のラインが見え隠れしている。
その光景をまじまじと見つめることしかできず、立ち尽くすサクラコ。
しかし、サクラコの目など全く気にもかけないといった調子で情事はお構いなく展開される。次々と。熱く、激しく。
「あぁぁ! 智美! なんて破廉恥な!」
あまりの動揺からから、思わずサクラコは叫び声をあげてしまった。ハッと、両手で口を覆う。
しかし、智美とその男は、叫び声など全く耳に届いていないという風だった。
行為はさらに激しさを増していく。まるでサクラコどころか、この家には誰も居ないことが明らかであるかのように、完全に二人だけの世界が、遠慮無く展開されていた。
「だ、誰か。この。くんずほぐれつ! くんずほぐれつをっ!」
最早サクラコは自分の身を隠すという考えを消失していたが、しかし智美と男のお二方は相変わらず気づく様子がまるでない。サクラコは当時より頭脳明晰な方であったが、所詮は中学生。しかもこの手の営みに対して免疫がないということも相まって、尋常でないほど慌てふためき状況を精査する余裕がなかった。
だからであろうか、サクラコは、その智美の隣にいる長身の男が下半身の衣服を脱ぎ捨てようとする段階で、「だめえええええええええええええええええ」と甲高い声を吐きながら彼らに向かって飛び込んでしまった。
すると、一瞬のうちにビクリと自分の両肩が跳ね上がるのを感じ、そして辺りはいつもの教室になっていた。
サクラコは自分の両手にわずかだが大人になった智美に触れた感触があるような気がした。
「まさか、今のって私が居眠りしてしまって見た夢でしょうに」
サクラコ「あぁ、すごい夢を見てしまったわ」と自嘲気味に思い、小さいあくびをすると、丁度国語の授業の終了を知らせるチャイムが鳴った。天草先生は特にサクラコが居眠りをしていたことについては何も言わず、さらりと戸を開けて職員室へと帰っていった。
「いくら智美が羨ましいからといって、授業中居眠りしてしまうなんてはしたないわ、次から気を付けよう」
サクラコはそんな風に思いながら、ちょっとお手洗いに行ってこようかと思案して立席した。
そして、本当に特に何を思ったわけでもなく、ただちょっと「智美は目を覚ましたかしら」ぐらいの何気ない気持ちで彼女の方を見ると、その当の智美が、サクラコの方を、顔面を真っ赤に染め目を丸々とさせて、まるで幽霊でも見るかのような眼差しで凝視していた。
その智美の明らかにおかしい様子に、サクラコは、先ほどの夢で成人した智美に触れた感触を想起しないわけにはいかなかった。
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